漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 




 国立新美術館で行われている、「文化庁メディア芸術祭」の受賞作品展へ妻と娘を連れて出かけた。
 国立新美術館に行くのは、実はこれが初めて。建物のインパクトはあるが、印象としては、美術館というよりも、イベント会場。
会場は、かなりの人出だった。
 いちばん印象に残ったのは、「rain town」という、京都精華大学の学生が作った卒業制作作品。こういうのには、手もなくやられてしまう。
 同時開催で、日芸、多摩美、武蔵美、造形大、女子美の卒業制作展もやっていて、こちらもなかなか面白かった。みんな上手だなあと、感心しながら見てきた。「これから」のエネルギーというのは、やはりいいですね。


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「図書館の神様」 瀬尾まいこ著
ちくま文庫 筑摩書房刊

を読む。

 ほとんど読書なんてしない、もともとバレーボールに打ち込んでいた国語教師が、小さな町の海の見える高校にある、部員がたったひとりしかいない文芸部の顧問にされて・・・という話。不倫とか自殺とか、そうしたことも物語の中には含まれているけれども、さらりとしていて、全体としてとても爽やかな小説。舞台が図書室であることも、懐かしくて、あっと言う間に読み終えてしまった。高校の頃、僕は図書委員をやっていたのと、司書の先生と仲がよかったこととで、柔道部をやめた高ニの頃からは毎日のように放課後には司書室に遅くまで入り浸っていた。その頃の事を思い出した。
 この小説を読む前に読んでいた本が、森絵都の「つきのふね」という、やはりヤングアダルト向けの小説だったが、それもなんだか清々しく読んだ。どちらの小説も、もしかしたら「軽くて都合のよい小説」と言われそうな作品かもしれないけれども、不思議な魅力があって、僕は結構好きだった。並んだ図書館の書架から、ついこういう小説をこの年で手に取るというのは、もしかしたら、ちょっと疲れているのかもしれないとも思うけれども、清々しい希望が感じられる小説は、時々読みたくなる。

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 ある日、一連の出来事はクライマックスに達した。八点鐘時(正午)のすぐ後(鐘は打たれなかったが)、いきなり寝室の後ろの方のドアにノックの音がして、一等航海士の声が聞こえた。
 「いいかげんにして、ともかくみんな出てこい!」彼は言った。少年たちはみんな(ブラードと寝台の中の三人を除いて)、興奮して航海士が話をしている船尾の方のドアに群がった。
 「大丈夫なんですか、サー?」エドワーズが他のみんなを代表して尋ねた。「船長はぼくたちをちゃんと扱ってくれると約束してくれましたか?ぼくたちは半殺しになるために出てゆくつもりはありません。ジェンキンズさんに生意気な口をきくつもりはありませんが、ぼくは船長と二等航海士が狂っていると思います。あいつら、僕達を殺すことなんて屁とも思ってないんです――」
 「そうだろうな、エドワーズ!」ジェンキンズは言った。「きみたちが何の危害も受けないということは、約束してあげるよ」彼はしばらく口をつぐみ、それから続けた。「ビーストン船長は肩に銃弾を受けて寝台で寝ているんだ」
 「船長は生きてるんですね、サー?」ほとんど叫ぶような声で、ブラードが言った。「命に別状はないんですか、サー?」
 「ああ」航海士は答えた。「ただし」彼は顔を歪めて付け加えた。「あいつは酒の飲み過ぎで死ぬな。ついにはっきりした。わたしも君と同じで、異議を唱えないわけにはいられない。こうなる運命だったんだ。船長は罰を受けた。わたしはこの不愉快な仕事にうんざりした」
 「二等航海士はどうしました、サー?」コンノートが無感動な声で尋ねた。彼は二等航海士の監視下にあったからだ。
 「二等航海士は寝台の中で、石のように目を閉じてる。また見張りに立つことはないだろうな」一等航海士は吐き捨てるように言った。
 「甲板長は?サー」ブラードがまた言った。
 「言えることは」航海士が怒っているような声で言った。「君が誰にも傷つけられたりはしないということだ。君は甲板長には近づかない。そして甲板長も君には近づかない。さもなけりゃ、あいつに足枷をはめてやる。ともかく、彼はさしあたっては怪我をして寝ている。そこから出てこい。こんなところで延々と話をさせ続けないでくれ。ブラード、聞こえるか?すぐにドアを開けるんだ」
 「わかりました、サー」ブラードはそう言うと、すぐにドアをさっと開いた。そのようにして、航海の専門家がふたたびレディ・モーガン号の乗組員たちの中断されていた統制を掌握した。
 「怪我をした二人の様子はどうだ?」航海士はそう言うと、寝室の中に足を踏み入れた。「誰か他にも怪我をしたやつは?」
 少年たちは航海士が寝台のカーテンを引いたとき、彼に話をした。彼は少年たちを見つめ、次から次へと命令を出し始めた。
 「他の舷窓のカバーも外して、開けろ。前のドアも開くんだ。誰でもいいから、バケツと箒を持ってきて、この場所を掃除しろ。キニックス、船尾のスチュアードのところに行って、わたしがすぐにここに来て欲しいと言ってると言え。さっさと動くんだ、さもないとわたしは、船尾にいる二人の阿呆と同じように、この仕事を成し遂げるための切符をなくしてしまうことになる」その言葉の最後の方は、小さな呟きだった。だが少年たちはその言葉を耳にして、そしていかに彼らが正気を保っているということが「船の所有者」へのアピールとなる状況であるかということを理解した。また、彼らが慕っている一等航海士は、プレンティスたちと船員たちの両方にとって、目の前に横たわる様々な問題の後片付けをすることに、心底大変な思いをすることになりそうだった。
 さて、こうした状況以外にも、二等航海士の失明と負傷、そしてさらには船長の幸運と言える怪我(偶然だが、ブラードがビーストン船長への怒りに我を忘れて上に向けて発砲した弾は、思っていたよりも都合の良い場所に命中していたからだ)が加わって、和解が成立した。航海中ずっとひどい酩酊状態にあった船長は、受けた銃創にすっかりと怯えてしまい、航海士が予想していたよりもずっと真面目に確約をしてくれたが、それはあるいは彼の飲酒癖のせいだったかもしれない。その結果、彼はまもなく精神を立て直した――それには、船に積んでいた酒をみんな、それが生まれた恐ろしい混乱の外へと、こっそりと投げ捨てるという、航海士の強制的で厳しい禁酒の助けが必要だった。プレンティスたちは、それぞれの役割をもって、物事を収縮させることに一様に熱心だった。彼らには、もし刑事裁判所に出頭することになったとしても、どうすればよいのか見当もつかなかったからだ。二等航海士は単純に、事情が事情であるだけに、物の数ではなかった。そして水夫たちに関して言えば、誰も深刻な被害を受けてはいなかった。ただしジョックだけは、砲撃によって指が砕けてしまったが、それは大工が信号砲を据え付けるために回していた木材の一部によるものであった。ジョックはタバコを気前のよい贈り物として受け取った。そして指が以前の形と機能をある程度取り戻すと、彼は船を下りた――水夫らしいと私は思う――この出来事で、色々と思うところがあったのだ。
 オランダ人とのハーフの二等航海士、ジャン・ヘンリックセンの右目の視力は回復し、それ以来とてもおとなしい男になった。そしてビーストン船長や航海士と話し合った後、喜ばしいことに、アガグのように繊細に行動するようになった。彼は死ぬまで目立つ跛をひき、ちゃんと回復することはないだろうと思う。私は彼にあまり同情はしない。彼は紛れもなく虐待者だったからだ。カール・スキーフス、甲板長は、この物語の中で最悪の結運命を辿った。ブラードが発砲したとき、屈みこんだ姿勢をとっていたため、弾は彼の右手の中指を吹き飛ばし、右足の内側の脛の骨に傷をつけたのだ。彼が長い間苦痛に喘いだのは間違いない。彼らがデッキの上に聞いたドサリという音は、彼の脚だった。それから、ビーストン船長が大砲を撃ったとき、銃尾の一部が吹き飛んで細かい破片が舞ったが、ちょうどその背後のデッキの上に横になっていた甲板長は、顔と喉の周りにひどい怪我をした。普通では考えられないことだが、信号砲の銃尾が破裂することはなかったし、トミーのピストルからの一握りのBB弾がビーストン船長に届きもしなかったにも関わらず、三人の乗員は、ちょっとした砲撃からつまらない傷を受けた。
 ジャンボは適切な処置のもと十日から二十日ほどで、そしてペータースはそれよりもかなり前に回復した。けれどもダーキンズは、元に戻るまでには数週間を要した。彼がこの出来事で一番の貧乏くじをひいた可能性がある。私には、少年が甲板長から受けた一撃と、彼が帰郷するまでにあと一週間を切ったという時にマストから転落し、スキッドで身体を強打したという出来事との間につながりがあるということについて、証明することはできない。私は、彼が受けた打撃の結果として目眩を起こし、そして死を招く結果となったのではないかと常々考えてきた。
 甲板長は回復した。そして私はそれからしばらく経った頃に、彼がサンフランシスコの中華街にある地下組織の地下室の一室で殺されたということを耳にした。私は驚かなかった。
 物語の細部にまで興味を持つ読者の中には、この一連の出来事の中で、プレンティスたちの寝室の中に新鮮な水を汲むためのポンプを確保したということが何の不都合も引き起こさなかったということについて知りたいと思うかもしれないが、船にはもうひとつ予備があったということが判明したのだ。
 これで私はすべてを読者に提示したと考える。確かにあらゆることが命に関わる問題だ。そんなことは昨今の海ではありえないよ、そう言う人びとに出会うと、私は微笑むことを禁じえない。あるいはこれは、大半に人びとにとってちょっと知っているといった程度の海上生活だけに存在することであり、本当に関係があるのは、客船の「飼い猫」たちの人生にとってなのかもしれない。だが海は広大な場所であり、孤独な場所であり、わたしはこの目で、様々な異常な事態をはらんでいるのを目にしてきたのだ。


+++++++++++++++++++

It was as if everything was to culminate on that one day; for, suddenly, just after eight bells (midday), though no bell had been struck, there came a knock on the after door of the berth and the First Mate's voice speaking.
"For goodness' sakes, lads, come out of it!" he said; and they all (except Bullard and the three in the bunks) crowded excitedly aft to speak to the Mate.
"Is it all right, Sir?" asked Edwards, speaking for the others. "Will the Captain promise to treat us properly, sir? We're not coming out to be half killed. I don't mean to be cheeky to you, Mr. Jenkins, but I think the Old Man and the Second Mate have gone mad. They wouldn't mind if they killed us ―― "
"That'll do, Edwards!" said Mr. Jenkins. "I can promise you that you will none of you come to any harm." He paused a moment, then continued: "Captain Beeston is in his bunk with a bullet in his shoulder."
"Will he live, Sir?" almost shouted Bullard's voice at this instant. "Will he live, Sir?"
"Yes," replied the Mate. "Unless," he added, grimly, "he drinks himself to death. Come out now. I can't stop arguing with you. For Heaven's sake come out of it; and he smart. I'm sick to death of this awful business!"
"The Second Mate, Sir?" asked Connaught, with a kind of stolid fierceness in his voice; for he was in the Second Mate's watch.
"The Second Mate's in his berth, stone blind, and it's odds he'll never take another watch!" rapped out the First Mate, tersely.
"The Bo'sun, Sir?" said Bullard, in a new voice.
"I tell you," said the Mate, almost angrily, "that you will none of you come to harm. You keep clear of the Bo'sun, and he'll keep clear of you, or I'll have him into irons in two shakes. Anyway, he's laid up at present. Come out of that, and don't keep me here talking. Do you hear me, Bullard? Open the door at once."
"Yes, Sir," said Bullard, instantly, and opened the door forthwith. And thus it was, and exactly in this fashion, that authority once more resumed her interrupted sway aboard the Lady Morgan.
"How are those two that were hurt?" the Mate said, and stepped into the berth. 'Anyone else hurt?"
They told him as he drew back the bunk curtains. He looked at the lads, one after another, and proceeded to issue orders: ――
"Get those other ports uncovered and opened. Open that for'ard door. Whoever's turn it is, get a bucket and broom and clean the place out. Kinniks, go aft to the Steward and tell him I want him here at once. Move now, or I shall be losing my ticket over this job, along with those two fools aft there!" This latter was gritted out in an undertone; but the lads heard, and comprehended how the situation might appear to the "Afterguard" in their sane moments. Also that the First Mate, whom they all liked, might suffer seriously in the general clearing up that lay ahead of them all, both the 'prentices and the officers.
Now it was out of these conditions ―― plus the Second Mate's blindness and damages, and the Master's still more fortunate wound (for, as it chanced, Bullard had shot better than he knew when he fired aloft in such blind anger at Captain Beeston) ―― that an amicable settlement eventually came about. The Master, who had been drinking heavily all the voyage, was thoroughly frightened by his bullet-wound, which certainly proved more serious than the Mate had anticipated, possibly on account of his drunken habits. As a result, he grew presently to a frame of mind ―― aided thereto by an enforced and strict sobriety due to the Mate's dumping all the liquor aboard ―― quiet way out of the dreadful muddle which had arisen. The 'prentices, on their part, were equally eager to have the matter hushed up, for they could not conceive how they might fare if ever the business entered a criminal court. The Second Mate simply did not count, in the circumstances; and as for the men, none of them had been seriously damaged, except Jock, whose fingers had been crushed by the cannon-shot, which had been a piece of timber rounded by the carpenter to fit the signal-gun. Jock received a handsome present of tobacco; and as his fingers eventually regained something of their previous shape and usage, he ceased ―― sailor-like, I suppose ―― to think overmuch about the matter.
Jan Henricksen, the half-Dutch Second Mate, recovered the sight of his right eye, and was thereafter a very much quieter man, and well pleased, after a certain talk with Captain Beeston and the Mate, to go delicately, like Agag. I suppose, until he dies, a limp of a very pronounced type will remain a much untreasured possession. I have little pity for him; he was an unmitigated bully.
It was Carl Schieffs, the Bo'sun, who came worst off in the whole transaction. Bullard's shot cut away his right middle finger and nicked the bone of his shin on the inside of the right leg, for he was in a stooping position when the 'prentice fired. The man was undoubtedly in agony for a little while; it was his feet they had heard drumming on the deck. Then, when Captain Beeston fired the cannon, part of the breech blew clean away in tiny fragments, cutting the Bo'sun frightfully about the face and neck, as he lay there on the deck just behind it. Extraordinarily enough, neither the bursting of the breech of the signal gun nor the handful of bb's from Tommy's pistol touched Captain Beeston, though three of the crew received trifling flesh wounds from the small shot.
Jumbo, under proper treatment, was about in ten or twelve days, and Peters considerably before this time. Darkins, however, was several weeks before he became anything like himself; and it is possible that his share of the business was the worst. I say possible because I cannot pretend to prove a connection between the blow he had from the Bo'sun and the fact that within a week of reaching home the lad fell from aloft and smashed up on the skids. I have often wondered whether he turned giddy and thus met his death as an indirect result of the blow.
The Bo'sun recovered; and I heard some time later that he was killed in one of those cellars which formed underground Chinatown in San Francisco. I am not surprised.
It may interest readers who like the last ounce of detail, in an account of facts, to learn that the securing of the fresh water pump in the 'prentices berth caused no inconvenience, as the ship proved to possess a spare one.
And now I think, I have told you everything; certainly every- thing vital. I cannot help something of a smile, as I think of people I have met who will tell you that nothing ever happens at sea nowadays. Possibly this is true concerning the "tame-cat" life of the liners, which is the only sea-life that most of them have any acquaintance with; but the sea is a wide place, and a lonesome place, and I have seen it, in my time, breed some extraordinary conditions.

END


"Prentices Mutiny"
Written by William Hope Hodgson
(ウィリアム・ホープ・ホジスン)
Translated by shigeyuki



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 ご想像の通り、寝室にいる少年たちはひどく憤慨し、いきり立った。少年たちの寝室に対して武力を行使することは、船の乗員たちの生命を危険に晒すリスクを増やす結果になるというのに、船長はそんなことになど無関心で、冷淡であるということがわかったからだ。
 ライフルにはジャンボが衣装ケースの中に蓄えていた二十二口径弾が再充填され、ラリーのばかでかいピストルは、たっぷりの火薬と、船の滑車のブロックから外した真鍮のローラーを詰めた。用意していたBB弾は使い切っていたからだ。それから舷窓のカバーが用心深く少し開かれ、あちこちで、時々部屋の周囲と、それからデッキの上の見張りが絶えず続けられた。だが変わった兆候はその辺りには見られなかった。ただひとつ、エドワーズには気になることがあった。メインデッキのどこにも、人の姿が見えなかったのだ。
 彼らはやみくもに見張りを続けて来たが、そのことはさすがに、全くの予想外だった。ラリーが右舷の前の舷窓の鉄のカバーを開き、デッキを覗くと同時に驚いて飛び退き、叫んだ。「やられた!気をつけろ」彼は荒々しくカバーを閉じ、力いっぱいネジ止めをしながら叫んだ。「あいつら砲弾を上から下に持ってきやがった。ドアのちょうど前で燃えてる!その――」凄まじい衝撃音と風圧が押し寄せたかと思うと、間髪をおかず前のドアの隙間から寝室に入り込んだ煙の匂いが充満し、目が眩んだ。少年たちは恐怖とショックに大声で喚きあい、小さな部屋の隅の方へとドッと押し寄せ、そこでしばらくは為す術もなく身を寄せ合っていた。
 やがてブラードは前部の別のドアへと向かい、そしてラリーは飛んで逃げた寝台から出てきた。他の者たちがそれに続き、どんな被害を受けたのかを見るために、部屋の前の部分を調べてみた。彼らはその爆発で、とても興味深い力が作用したのだということを知った。コーミング(縁材)、あるいは小屋の基部と呼ばれる部分には亀裂が入り、左舷のドアの下の角からデッキへときれいに貫通しており、同時に鉄あるいは鋼鉄の下部は、まるで巨人のハンマーで殴られたかのように、数インチ反り返っていたのだ。この二つの痕跡以外には、その爆発による被害は見られなかった――部屋の中からは。けれどもその後で少年たちは、極めて深刻な被害は外のデッキの上で起こったのだということを知った。スキッドのサポートの一つが吹き飛ばされ、右舷の救命艇の船首が持ち上がって車輪止めのから飛び出し、下の厚板の二枚を突き破っていた。それに加えて、ブルワークの鉄のハッチに一つに穴が開いて、海が丸見えになっており、ブルワークにはとても厄介な隙間ができていた。部屋の前の部分の、羊小屋の中の二匹の羊は死んでおり、小屋自体はメチャクチャに壊れていた。さらに、最も深刻なことには、ドアからメインデッキにかけての一部がひどく損傷し、裂けていた。
 少年たちはみんなドアの内側に立ち、黙り込んでそれを見つめながら、その状態に怯え、そしてこの一連の出来事が、彼らが最初に意図していたこと、そして漠然と想像していたことから、何とも遙か遠いところにまで来てしまったと感じていたが、そこでブラードがいきなり行動を起こした。彼はドアの方へと大きく脚を踏み出すと、ドアの下半分を閉じる役割をしている、下部の閂のねじれを直そうと試みた(そのドアは、ほとんどのガリー船のドアと同じように、半分より少し上で、二つの部分に分かれていた)。しかし彼には、爆発で曲がってしまったドアの下半分の壊れた閂を動かすことはできなかった。それで彼は上の閂をひいて、ドアの上半分を殴って完全に押し開いた。彼は曲がった半分のドアの上に充分に身を乗り出すと、上を見上げた。すぐに彼は飛び退いて、一足飛びにジャンボのサロンライフルがいつでも撃てる状態で置かれているテーブルの方へと走った。彼はライフルを取り上げると、ドアの方へと急いで取って返し、後ろ向きに身を乗り出して、上の方に向けてライフルの狙いを定めた。寝室の中では、少年たちは誰もが黙り込んで佇み、神経を尖らせながら、息を呑んでいた。彼らにはブラードが何に狙いを定めているのかは見えなかった。彼らは不意にブラードの指が引き金を引いて、小さなライフルが鋭い音を響かせるのを見た。次の瞬間、上の方で大きな苦痛の悲鳴が上がり、そして素人めいた火薬爆弾がひどく揺れながら、ドアの前に落ちてくるのを見た。
 「撃ってやったぞ!」ブラードは言うと、また寝室の中に戻ってきたが、とても青ざめていて、険しい顔つきだった。「船長が俺たちを一人残らずこの場で殺すつもりだと言うなら、自分たちで身を守らないと」
 彼はそれ以上何も言うつもりはないようだった。そしてすぐにドアを閉めて、不機嫌な様子で自分の衣装ケースの上に座り、緊張した様子のままで数時間黙りこんでいた。だがプレンティスたちはみんな、彼が上にいたビーストン船長を撃ったのだと知っていた。もう一度、メインマストの近くで声が聞こえたので、ブラードはライフルを取り上げて、またドアの方へと部屋を横切っていった。だがエドワーズが彼の前に立ちはだかった。
 「だめだよ。ねえ、ブラード、そんなことをするのは良くないよ。ねえ、ぼくたちはひどく混乱しているんだ!あいつらがまたぼくたちを攻撃しようとしてこない限り、やっちゃだめだよ。ブラード、やめてよ、お願いだから!」
 ブラードはしばらくその若いプレンティスを訝しげに見ていたが、突然踵を返して、テーブルの上にライフルを置いた。そしてまた衣装ケースの上に座ると、ピリピリとした不機嫌な様子に戻った。
 入れ替わり立ち代り、少年たちは様々な役割を持って寝室内の世話をした。キニックスは、その日は料理当番をしていたが、ビスケットとコンビーフでクラッカー・ハッシュのようなものを作った――ビスケットは、キャンバスバックの中で粉々に砕いた。だが誰も食べようとはせず、エドワーズとコンノートは時間があると、熱でうわ言を言っているジャンボに付き添っていた。その日彼らは、二三時間はダーキンズとペータースを看ていた。彼らを心底喜ばせたことに――そして実際それは、ブラードを除く寝室の中の皆をとても元気づけた――ペータースは夜が近づくにつれて、目を開いて静かに横たわっているようになったが、驚くほど弱々しかった。それで彼らはペータースに水と茹でたコンビーフで作った薄いスープを飲ませた。それでも彼は一言も声を出さなかった。単にさじ一杯のスープを口にして、自然なものに思える眠りの中に静かに落ちていった。だがダーキンズには二人が良くなっているようには思えなかった。しかし同時に、悪くなってもいないと確信した。そのせいで、前述のように、比較的明るい雰囲気が一時的に寝室の中にそっと忍び込んだかのように思われた。けれどもそれは長くは長くは続かなかった。彼らは自分たちの反逆の結果として起こったことに恐怖し、完全に途方に暮れてしまっていると感じていたからだ。

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As may be thought, the lads in the berth were tremendously excited, and grew sullenly fierce, as they realised how indifferent and callous the Master had grown as to the risk to their lives and limbs, in his attempts to force the berth.
The rifle was reloaded from a box of .22's, which Jumbo had in his chest, and Larry's monstrosity of a pistol was heavily charged with powder and several brass rollers out of patent sheave-blocks; for he had fired away his supply of bb's. Then the port-covers were cautiously opened a little, here and there, from time to time around the house, and a constant watch kept about the decks. Yet never a sign could the lads see of anything unusual on hand. One thing only at last struck Edwards as being curious: there was not a man in sight anywhere about the main-decks.
The thing for which they were watching so blindly came, as might be thought, all unexpected. Larry had just opened the iron cover of the starboard for'ard port, and peeped out along the decks, when he started back, crying: "Great Scot! Look out!" He slammed the cover fiercely and screwed it home with might and main, shouting, "They've lowered a shell thing from aloft. It's burning just outside the door! The ---" There came a tremendous stunning thud of sound and force, just without, and a blinding reek of smoke poured into the berth through the interstices about the for'ard door. Many of the lads shouted aloud with fright and shock, and there was a stampede to the after end of the little house, where they clustered for a few moments, waiting, unreasoning.
Eventually Bullard walked for'ard to the other door, and Larry came out from the bunk into which he had jumped. The others followed, and they examined the fore part of the house, to see what damage had been done. They found that the explosion had applied its force most curiously. What I might call the coaming or bottom of the house had been cracked clean through, from the port bottom corner of the door right down to the deck, while the bottom section of the iron or steel had been bowed in several inches, as if it had been hit by a gigantic hammer. Beyond these two evidences there was nothing more to show for the explosion――that is, from the inside of the house; though afterwards the boys learned that quite considerable damage had been done out on deck, one of the skid- supports having been blown away, and the bows of the starboard lifeboat lifted bodily out of the chocks, ripping through two of the lower planks. In addition, one of the iron water-doors in the bulwarks had been punched right out into the sea, leaving a very ugly gap in the bulwarks. Two of the sheep in the sheep-pen, foreside of the house, had been killed, and the pen itself wrecked badly; whilst, most serious of all, a portion of the main-deck in from of the door had been severely crushed and shaken.
It was as the lads all stood about the inside of the door, staring in a dumb, frightened sort of way, and feeling that things had indeed got far beyond anything they had ever intended or dreamed of, that Bullard took sudden action. He stepped to the door and tried to wrench back the lower bolt, which held the lower half of the door shut (the door was in two pieces, divided across halfway up, like most galley doors). However, the explosion had so bent the lower half of the door that he could not move the jammed bolt. He then pulled back the upper bolt, and swung the upper half of the door boldly open. He leant well out over the bent half-door and stared up aloft. The next instant he drew back and made one jump to the table, where Jumbo's saloon rifle lay ready loaded. He caught up the rifle, sprang back to the door, and leant himself out backwards over the edge, aiming upwards with the rifle. In the berth all the lads stood silent, nervous and excited; they could not see what Bullard was aiming at. They saw his finger crook suddenly upon the trigger, and the little rifle cracked sharply. On the instant there was a loud scream of pain aloft, and the rope with which the amateur powder-bomb had been lowered before the door shook violently.
"Got him!" said Bullard, coming forward again into the berth, very white and grim-looking. "If the Skipper's going to murder us all in here, we've got to save ourselves."
He would say nothing more; and immediately closed the door and sat down and was silent for some hours in a tense, moody way on his sea-chest; but all the 'prentices knew that he had shot Captain Beeston aloft. Once, as voices were heard near the main-mast, Bullard picked up the rifle and walked across to the door again; but Edwards ran before him.
"Don't; oh, don't Bullard! It'll do no good; and oh, we're in such a mess! Don't unless they attack us again. Don't, Bullard, don't!"
Bullard looked at the young apprentice for a little, in a strange way, then turned abruptly and laid the rifle on the table; and so went back again to his tense moodiness on his sea-chest.
From time to time the other lads attended to various matters about the berth. Kinniks, who was acting as cook for the day, made a sort of cracker-hash of biscuits and corned beef――the biscuits pounded fine in a canvas bag. But no one seemed to want any, Edwards and Connaught spent part of their time attending on Jumbo, who was muttering feverishly; and two or three times during the day they had a look at Darkins and Peters. To their utter delight――and, indeed, it quite heartened all of them in the berth, except Bullard ―― Peters was found towards evening, lying quietly with his eyes open, but most extraordinarily weak; so that they fed him with a thick soup which they made with water and boiled corned beef. Yet he never said a word to them; but merely took a few spoonfuls of the soup, and went gently off into a natural-seeming sleep. Darkins, however, seemed to the lads to be no better; but, again, he certainly seemed no worse; so that, as I have said, an atmosphere of comparative brightness seemed to steal into the berth for a time. It did not last, however, for they felt utterly lost and frightened as to what the outcome of their defiance was going to be.

"Prentices Mutiny"
Written by William Hope Hodgson
(ウィリアム・ホープ・ホジスン)
Translated by shigeyuki



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 先週の水曜日の夜に、なんだか熱っぽいと思って体温を測ると37.5度。これは早めに寝ないとと、早目に床に着いたのだが、翌日には38度を超えた。とりあえず仕事を休んで、朝一で初めて行く近所の病院で診てもらったが、軽い吐き気があるというところで「今年のインフルエンザは胃腸には来ないんです。今まで、あなたのように光熱で胃腸が悪いっていって来た人は15人ほどいるけれど、一人も陽性反応が出ていません」と言われた。とりあえず、「今はまだ38度を超えてからそれほど経っていないみたいだから、検査しても出ないかもしれないので、夕方の6時ころにまた来てくれないか」とのこと。だるかったけれど、言われたとおりに一度帰って、夕方検査をしてもらったところ、陰性だという。「ほら、やっぱり」みたいな顔をされたが、じゃあ何が原因なんでしょうかと聞くと、「ウィルス性胃腸炎」だとのこと。そこまでは胃腸を悪くしていないとは言ったけれども、とり合ってもらえず、まあノロならそんなに長い時間高熱が続くことはないのでという言葉に、まあじゃあそうなんだろうということで、とりあえずは帰宅して、寝ることにした。夜中もずっと高熱が続いていたが、明け方になってようやく37.2度にまで下がったので、頑張って仕事に出かけた。ところが、時間と共に明らかに体調が悪くなり、午後から帰宅。夜になってまた同じ医者へ。そこで再びインフルエンザの検査。結果はまた陰性。翌日の土曜日もその繰り返しで、余りにおかしいと思い、会社の近くの医者で昼休みに検査してもらうと、インフルエンザのB型であることが判明した。薬は吸引したが、発症してから随分たつので、もう全くきかない。午後から帰宅して、それからはずっと38度よりは熱が下がらず、寝ているのか起きているのか、わからない状態に。
 熱は昨日の朝にようやく下がったが、まだどうも体調は悪い。医者には熱が下がってから48時間は外に出るなと釘を刺された。忙しいので、それを破って今日は朝からマスクをして仕事に出たが、やはりあまり良くなかったかもしれない。自分にも、周囲にも。インフルエンザなんて、16年ぶりくらいにかかったが、本当に辛くて嫌なものだった。おかしな医者の見立てのせいで、大変な目にあった。ついそう思ってしまう。インフルエンザに漢方薬なんて、効かないよ。
 寝ている間は、そういうわけでずっと苦しかったのだが、時々ちょっと楽な気分になる瞬間もあって、その時には読みかけだった辺見庸の「もの食う人びと」(集英社文庫)をちょっとづつ読んでいた。熱のある、なにも食べる気がしないときには最悪の読書だったかもしれないけれども、力強いルポタージュ。とてもいい本だった。この中で、チェルノブイリ村で食事をする章がある。様々な格差の問題も、食の問題から浮き彫りにされている。それから、さまざまな意味での、戦争の悲劇も。かなり前の本だけれども、今でも十分に読むに値する一冊。また、もう少し落ち着いたら読み返してみようと思った。

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