漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 



 いよいよ2013年もあとわずか。
 今年も色々と本を読んだが、傾向として、比較的軽めの、日本のミステリーが多かったように思う。
 図書館を主に利用しているからそうなるというところもあるが、何となくそんな気分だったからという気もする。
 今年読んで、印象に残った小説本のベスト3を挙げてみる。

「オリガ・モリソヴナの反語法」 米原万里著
「オーダーメイド殺人クラブ」 辻村深月著
「向日葵の咲かない夏」 道尾秀介著 

次点は

「大地への下降」 ロバート・シルヴァーバーグ著
「東京プリズン」 赤坂真理著
「アサイラム・ピース」 アンナ・カヴァン著
「七つの海を照らす星」 七河迦南著
「名前探しの放課後」(上下) 辻村深月著
「GENE MAPPER -full build-」 藤井大洋著
「極北」 マーセル・セロー著

あたり。これで、だいたいのベスト10。

 今年は、何と言っても辻村深月の作品をたくさん読んだ。ここに挙げた「オーダーメイド殺人クラブ」がとても気に入ったからだが、結局はそれが一番印象に残った作品だった。だけど、辻村さんの作品は、どれを読んでも結構楽しめた気がする。
 年々、じっくりと本を読めなくなっている気がする。つい軽めの本に手が伸びる。来年は、もう少しじっくりと読む本を読みたいと思う。


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「からくりからくさ」 梨木香歩著 新潮社刊

を読む。

 祖母が亡くなり、残された古い家に住むことを決めた主人公、蓉子。広い家なので、友人たち三人と、それから蓉子と話ができる、「りかさん」という古い市松人形とともに、自然と寄り添った生活を始める。けれども、蓉子たち四人は、「りかさん」を中心として、不思議な縁で繋がれていることが明らかになってゆく……というような物語。
 これはとてもいい小説。大傑作、というのとは違うのだろうけれど、佳品、という言葉は似合う。最近は意識的にエンターテイメント小説を読むことが多いのだけれど、こういう本を読むと、なんだかほっとする気がする。何百万部売れた、とか、そういう基準とは違うところにある、まるで紡ぎだされたかのような小説は、なくなってはいけない。こういう小説は、女性にしか描けないのだろうなと思う。



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「黙の部屋」 折原一著
文春文庫 文藝春秋刊

を読む。

 偶然銀座の路地の古道具屋に入った主人公の水島は、その店の中に無造作に置かれていた一枚の絵に魅せられて、購入する。画家の名前は石田黙。無名の画家だが、実力があることは、水島が美術雑誌の編集者であることもあり、ひと目でわかる。やがて彼はネットオークションで石田黙の絵が出品されていることに気付き、買い漁るようになる。しかし、この石田黙という画家は何者なのだろう。その謎を探るうちに、不思議な出来事に巻き込まれてゆく……という話。
 途中までは面白いのだけれど、ややがっかりするような結末。いくつかの謎も放りっぱなし。でもまあ、別に腹も立たない。この小説はつまり、作者の折原一が、実在の画家である石田黙にふたたび光を当てたかったからという衝動だけで書いた小説なのだろうと、素直に思えたからだ。本には、何枚もの石田黙の絵が挿入されている。名前の通り、静かで、それでいて黙示録的な不穏さに満ちた絵である。70年代特有の暗さを持った絵、という印象も受けた。



「さよならの代わりに」 貫井徳郎著
幻冬舎文庫 幻冬舎刊

を読む。

 ミステリー作家の書いた、タイムトラベルもののSFジュブナイル小説、という印象。本当は「ライトノベル」と言いたいような内容だけど、キャラ立てや文体がそこまで突き抜けていない分、逆になんだか読んでいてこそばゆくなってくる。慣れてないものを少し照れながら頑張って書いてる感じがする、という感じか。それも含めて、いろいろと中途半端で、小説としてはちょっといただけないかなとは思うが、ストーリー的にはわかりやすいし、爽やかで切ない余韻もあるので、もしかしたらアニメ映画の原作なんかには向いているかもしれないとは思った。


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「そこへ届くのは僕たちの声」 小路幸也著
 新潮文庫 新潮社刊

を読む。

 作中では「遠話」と呼ばれている、一種のテレパシーのような特殊な能力を持った子供たちの物語。けれども、その能力はテレパシーとはやや異なっていて、時空を歪ませて言葉を伝えるだけで、相手の心の中を読んだりできるわけではない。あくまでも語りかける能力である。ただし、物理的に空間を歪ませるその能力が暴走すると、この世界にあるものを実際の時空から切り離してしまうことさえもできてしまう。
 解説にもあったけれど、確かに、昔懐かしいSFジュブナイルのようで、ノスタルジックな気分になった。小学校の高学年とか、中学一年生くらいの頃に読んでいたら、強い印象に残ったかもしれないとも思った。最近は萌え要素の強い、ややひねくれたライトノベルが全盛のようだけれど、こうした健全でストレートなヤングアダルト向けの小説も悪くないと思う。

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「ダブルトーン」 梶尾真治著 平凡社刊

を読む。

 目覚めると、自分が田村裕美であったり、中野由巳であったりする女性が主人公。二重人格ではない。けれども、自分の記憶の中に、他者の記憶が混在している。ただの夢にしては、余りにもリアルな記憶。田村裕美は夫と一人の娘を持つ、平凡な毎日にやや退屈している主婦。反対に中野由巳は、広告代理店でバリバリ働いている独身の女性。「自分」という存在が、実際に存在する、二人の異なった女性を生きているようなのだ。どうしてそのようなことが起こるのだろう。やがて、二人はその記憶に二年の隔たりがあることに気付く……。という物語。
 アイデアが面白く、読ませるけれども、謎解きに入ってからはありがちで、さらには叙述がややアンフェアな分、多少無理もある気がする。もっと面白くなった可能性がある作品という印象だった。


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「スロウハイツの神様」(上・下) 辻村深月著 講談社刊

を読む。

 スロウハイツというのは、時代の寵児である脚本家の赤羽環がオーナーをつとめる、西武池袋線椎名町にある古い下宿の名前である。その下宿は驚くほど格安だが、入るためには環の審査を通過しなければならない。結果、スロウハイツに住んでいるのは、超売れっ子の作家である「チヨダ・コーキ」を除いて、才能豊かなアーティストの卵ばかりである。
 この設定で、分かる人にはすぐにピンとくるはず。つまりスロウハイツとは、現代版の「トキワ荘」なのだ。トキワ荘というのは、言うまでもなく、「漫画の神様」手塚治虫を中心に、のちの漫画界に大きな影響を与えた、石ノ森章太郎、赤塚不二雄、つのだじろう、それからもちろん藤子不二雄らが、一つ屋根の下で生活をしていた下宿館の名前である。ちなみに、トキワ荘も椎名町にあった(過去形なのは、現在はもうなくなってしまったからだ)。
 トキワ荘の神様が手塚治虫であったように、スロウハイツの神様というのはチヨダ・コーキのことなのだが、それが単に下宿館の中で最も名前が知られたカリスマ作家であるからという意味だけではないのは、読んでゆくうちに判明する。湯水のように金を使える身分の彼がなぜその古い下宿に住んでいるのかという理由も含めて。
 正直、上巻はあまり面白くない。群像劇として描かれているようなのだが、それぞれのキャラクターにさほど魅力を感じない上に、物語の着地点がさっぱり読めない。群像劇にしては、随分と中途半端な印象しか受けないのだ。けれども、下巻に入ると物語が次第に張り詰めた感じになる。そして、丹念に用意された伏線を急速に回収しながら、この小説の本当の姿が現れる。なんと、この小説は長い時間に育まれた、ピュアなラブストーリーだったのだ。
 正直、かなり無理のあるストーリーだし、薄っぺらなのは否定しがたい。素敵なラブストーリーだと思う人もいるだろう反面、白ける人もいると思う。ただ、この小説の本当のテーマは、「一般にはB級とされているようなもの、くだらないもの、ささやかなものが、人を癒したり救ったりすることもある」というようなことなんじゃないかと思う。
 そして、ぼくはその意見には、全面的に賛成である。

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「怪物」 福田和代著 集英社刊

を読む。

 ミステリーとSFの境界線上にある作品。途中までは、まあそこそこ面白かったのだけれど、経験豊富な、退職を目前に控えた刑事、香西が、かつて迷宮入りした幼女誘拐殺人事件の犯人を追い詰めるために、その重要参考人をホテルの一室で対峙させるという場面で、一気に醒めた。いくらなんでもそれはないでしょうよ。そこから先は、なんとなく読む気をそがれて、ざっと読みきった。

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「ぬるい毒」 本谷有希子著 新潮社刊

を読む。

 「劇団 本谷有希子」主催者による、芥川賞候補作品。
 演劇に関わっている人が書きそうな小説、と言ってしまったら身も蓋もないが、まあ、一種の「だめんず」もの。もっとちゃんとした物語の中にこの小説の内容が落とし込まれていればよかったのだろうけど、と思うのは、最近辻村深月の小説をたくさん読んでいるせいか。

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「誘拐児」 翔田寛著 講談社刊

を読む。

 戦後まもなくの頃に起こった誘拐事件が、十五年後に起こった殺人事件と繋がっていた……という小説。第四回江戸川乱歩賞受賞作。
 結構面白く読めるし、いいのだけれど、これといった魅力もない印象。登場人物に魅力がないせいだろうか。
 ただ、後味が悪くないのは、いいと思った。

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