「夜毎に石の橋の下で」 レオ・ペルッツ著 垂野創一郎訳 国書刊行会刊
を読む。
最近人気のレオ・ペルッツ。最近、ちくま文庫にも短編集が収録され、日本で、時ならぬブームの兆しである。もともとは、世界幻想文学大系の第三期に「第三の魔弾」が収録されたのが最初の紹介だと思うが、それが1986年。それ以来、ずっとたいして話題にも登らなかった作家だと思うが、このところ急に人気が出てきた印象。訳者の垂野創一郎さんが地道に紹介を続けてきたのが、実を結んだのかもしれない。
とか、偉そうに書いてはみたけれど、ぼくはペレッツを読むのは、これが初めて。「第三の魔弾」は、綺羅星のような世界幻想文学大系のラインナップの中では、作者の名前にまったく馴染みがないこともあって、紹介文を読んだ限りでは、当時はいまひとつ魅力を感じなかった。ところが不思議なもので、あれから三十年以上経った今、こういうことになっている。優れた作家というものは、かくも息の長いものなのだと、改めて感心する。
「夜毎に石の橋の下で」は、良い小説だった。非常に不思議な魅力の作品で、「面白かった」と単純に言ってしまうことにはやや二の足を踏む。
これは、読書家のための小説だと言っていいと思う。解説にもあるように、いわゆる枠物語で、たくさんの短編が積み重ねられて、最後にはひとつの物語として完成するという小説であり、それだけに、それぞれのエピソードは非常に美しいものの、それがいったいどういう意味を担うものなのかは、曖昧なまま読み進めなければならない。この時点で、読書を趣味としていない人は振り落とされてゆくだろう。しかしある程度の忍耐を持って最後まで読み終えたとしたら、その直後、もう一度最初に戻って読み直したくなるだろうと思う。一度目の通読では、まさに編まれ続けているタペストリを眺めているような感覚だろうが、二度目の通読では、完成された美しいタペストリを上からじっくりと眺めるような、そんな感覚を味わえるのではないだろうか。