漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 




 日曜日は奥多摩の方へ出かけた。
 今年は紅葉を見に行っていないと思ったからだが、さすがにやや時期を逃したようで、そろそろ終りのようだった。だがそれでもまだ色づいている樹も多く、滑り込みといったところ。明日からはいよいよ師走。本当に早い。

 「墓に唾をかけろ」 ボリス・ヴィアン(ヴァーノン・サリヴァン)著  伊東守男訳
 ボリス・ヴィアン全集10 早川書房刊

 を読む。
 
 ヴィアンがサリヴァンというアメリカの三文作家の作品を翻訳したという触れ込みで出版された本。実は完全にヴィアンの創作。出版後に発禁となり、裁判にまでなったといういわくつきの作品。ある殺人事件で、死体の傍らにこの本が置かれていたということもあり、この作品のスキャンダラスな名声をさらに高めた。映画化もされている。
 僕は、実はこの作品は読むのが初めてだった。ヴィアンの作品は好きで、結構読んでいるのだが、サリヴァン名義の本は読んでいなかったのだ。
 ストーリー的には、一見しただけでは白人に見えるが、黒人の血が「八分の一以上混ざっている」という主人公が、白人の女性と仲良くなった弟が人種差別のためにリンチを受けて殺されたということに腹を立て、「一人やられたのだから、二人をやってやる」とスノッブの白人の姉妹を殺すというもので、非常に分かりやすい。ヴィアン名義の作品と比べると、パルプ風味が非常に濃いが、所々でさすがヴィアンと思える描写もある。


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 明りを灯した小さなランプを持ってビルディングに戻ると、ぼくはすぐにテーブルの上にあるファイルを目で捉えたが、その場所には死体が山ほどあったので、一人になりたいと思い、紙の束を左の脇の下に抱え、右手でランプを持った。そしてカウンターの後ろを通った。すると右手の方にとても大きなビルディングに続く階段があり、じっと目を凝らして見詰めると、複雑な木製の階段と回廊が見えたが、ここにも死者がいたせいで、ランプが見た目にもはっきりと分かるほど、手の中で震えた。
 最終的には、ぼくはカーペットが敷かれた、部屋の中央にベーズのカバーを掛けたテーブルと、大きく滑らかな椅子のある大きな部屋に入ったが、テーブルの上には山のような文書が紫色の塵を被って乗っており、周りの棚には本が並んでいた。この部屋には、背が高くフロックコートを着た、先の尖った灰色の顎鬚を生やした男が一人閉じこもっていたが、最後の瞬間にはそこから逃げようと決めていたらしく、敷居に横たわっており、明らかにドアを開いた瞬間に息絶えたようだった。男の足を脇に退け、ぼくはドアに鍵をかけて、埃だらけのファイルの前にあるテーブルにつき、小さなランプを近づけて、読み始めた。
 ぼくは真夜中を遥かに過ぎても読みふけった。だが、神様はご存知だ、神様だけは……
 ランプの油壺は小さかったし、油を満たしてもいなかったから、明け方の三時ごろには火はすっかりと細くなり、火花を出して、ガラスが灰色に曇った。冷え切った心の奥底でぼくは考えていた。「もし朝の光が射す前にランプの光が消えてしまったら……」
 ぼくは北極を、その冷たさを、充分に知っていた。だが、今は恐怖に凍りついていた!ぼくは読むことを止めたりはしなかった。だが、その夜ぼくはかつて誰も想像したこともないような恐怖に苦しめられながら読み進んだ。ぼくの肉体はブルブルと、そこかしこでそよ風が小波を立てている湖のように波打った。二つ、三つ、四つと読み進む中には、時々深く興味の湧く、心にしっくりとくることがあって、そんな時にはぼくは一つの単語の意味するところを意識するのではなく、記事全体を一度、あるいは二度、熟読したが、思考は周りを取り巻いている数え切れないほどの青ざめた死者たちの方へと自然と向かってゆき、彼らを驚かせたりしないように、起き上がって、ぼくを非難したりしないようにと、恐怖に震えた。世界は墓と虫のためのものだった。経帷子と埋葬布が、うんざりするほどに溢れていた。幽霊たちの青ざめた非物質的な色彩の味わいは喉に、ぞっとするような墓所の微かな香りは鼻腔に、沈鐘の深いトーンは耳に、影響を及ぼしているかのように思えた。いよいよランプの炎が燻り、小さくなってしまうと、死体安置所の空想は、棺をしっかりと打ち付ける音、屋根つきの墓地門と墓堀り人夫、それから死者を下ろすロープの軋む音、狭く憂鬱な死の家の蓋にかけられる土の最初の音などに及んだ。死の淵にある冷たく動かない指、味覚の消えた唇、膨れ上がった水死者、唇の端に溜った泡、そうしたものがぼくの目の前に見えるようで、肉体は死体保管所と霊安室の淀んだ洗い水で湿り、流れる汗は死体の汗のようで、吐き気を催すような水滴が死んだ男の頬に流れているのだった。一人の哀れなつまらない生身の人間が、いったいどうやって、実体のない世界すべてと対峙できるというのか、しかもたった一人で、どこにも、そう、どこにも他に生きた人間がいないというのに?ぼくは読み耽った。だが神さまは、神様はご存知だ……もし紙を一枚づつゆっくりと用心してそっとめくり、僅かな音さえも立てないように気をつけたとしたら、どれほどぼくの哀れな心臓の慄く音が、この虚ろで憑かれた部屋の中を貫いて響いただろう!咳が出そうだったが、胸の奥から血液によって悪寒の波が押し寄せ、唇から溢れ出すまで、我慢するつもりだった。ぼくが読む言葉と共に、霊柩車のゆっくりとした進み、慟哭、痛ましいクレープの喪章、奇妙な土の天井の中の狂気の叫び、黒い「死の谷」の全体の服喪、そして腐敗の悲劇の光景が溶け合ったからだ。その幽霊の夜の間に二度、絶対に打ち消しがたいほど確かに――最も深い沈黙の存在として――何かがぼくの右肘の側に立ち、ぞっとしたぼくはそれに対して拳を握り締めて対峙しようと飛び上がったが、髪は恐怖と狂乱のために逆立っていた。二度目の後には、気を失ってしまったに違いない。明るくなった時、ぼくは書類の束の上にうなだれていて、腕で頭を支えていた。それからは、どんな家であれ、日暮れの後には決して再び居残るまいと誓った。ああいった夜は馬の息の根でさえ止めるだろう。しかもここは呪われた惑星なのだ。
 
 *****

****************


When I returned to the building with a little lighted lamp, I at once saw a file on a table, and since there were a number of dead there, and I wished to be alone, I took the heavy mass of paper between my left arm and side, and the lamp in my right hand; passed then behind a counter; and then, to the right, up a stair which led me into a very great building and complexity of wooden steps and corridors, where I went peering, the lamp visibly trembling in my hand, for here also were the dead. Finally, I entered a good-sized carpeted room with a baize-covered table in the middle, and large smooth chairs, and on the table many manuscripts impregnated with purple dust, and around were books in shelves. This room had been locked upon a single man, a tall man in a frock-coat, with a pointed grey beard, who at the last moment had decided to fly from it, for he lay at the threshold, apparently fallen dead the moment he opened the door. Him, by drawing his feet aside, I removed, locked the door upon myself, sat at the table before the dusty file, and, with the little lamp near, began to search.
I searched and read till far into the morning. But God knows, He alone....
I had not properly filled the little reservoir with oil, and at about three in the fore-day, it began to burn sullenly lower, letting sparks, and turning the glass grey: and in my deepest chilly heart was the question: 'Suppose the lamp goes out before the daylight....'
I knew the Pole, and cold, I knew them well: but to be frozen by panic, my God! I read, I say, I searched, I would not stop: but I read that night racked by terrors such as have never yet entered into the heart of man to conceive. My flesh moved and crawled like a lake which, here and there, the breeze ruffles. Sometimes for two, three, four minutes, the profound interest of what I read would fix my mind, and then I would peruse an entire column, or two, without consciousness of the meaning of one single word, my brain all drawn away to the innumerable host of the wan dead that camped about me, pierced with horror lest they should start, and stand, and accuse me: for the grave and the worm was the world; and in the air a sickening stirring of cerements and shrouds; and the taste of the pale and insubstantial grey of ghosts seemed to infect my throat, and faint odours of the loathsome tomb my nostrils, and the toll of deep-toned passing-bells my ears; finally the lamp smouldered very low, and my charnel fancy teemed with the screwing-down of coffins, lych-gates and sextons, and the grating of ropes that lower down the dead, and the first sound of the earth upon the lid of that strait and gloomy home of the mortal; that lethal look of cold dead fingers I seemed to see before me, the insipidness of dead tongues, the pout of the drowned, and the vapid froths that ridge their lips, till my flesh was moist as with the stale washing-waters of morgues and mortuaries, and with such sweats as corpses sweat, and the mawkish tear that lies on dead men's cheeks; for what is one poor insignificant man in his flesh against a whole world of the disembodied, he alone with them, and nowhere, nowhere another of his kind, to whom to appeal against them? I read, and I searched: but God, God knows ... If a leaf of the paper, which I slowly, warily, stealingly turned, made but one faintest rustle, how did that reveille boom in echoes through the vacant and haunted chambers of my poor aching heart, my God! and there was a cough in my throat which for a cruelly long time I would not cough, till it burst in horrid clamour from my lips, sending crinkles of cold through my inmost blood. For with the words which I read were all mixed up visions of crawling hearses, wails, and lugubrious crapes, and piercing shrieks of madness in strange earthy vaults, and all the mournfulness of the black Vale of Death, and the tragedy of corruption. Twice during the ghostly hours of that night the absolute and undeniable certainty that some presence--some most gashly silent being--stood at my right elbow, so thrilled me, that I leapt to my feet to confront it with clenched fists, and hairs that bristled stiff in horror and frenzy. After that second time I must have fainted; for when it was broad day, I found my dropped head over the file of papers, supported on my arms. And I resolved then never again after sunset to remain in any house: for that night was enough to kill a horse, my good God; and that this is a haunted planet I know.

* * * * *

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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 海へと向かう道は細く、なだらかな起伏があって、進むにつれて視界に海が見え隠れする。街から海へは別の道があるため、ここは歩く人などほとんどいないが、不思議と植物に道が埋もれてしまうということはない。時折、思い出したように人が通るせいだろう。僕たちがそうであるように。
 やがて、海に臨む岬に辿り着いた。岬とはいっても、小さな、海抜の低い岬だ。見下ろすと、海は青白く光っていた。その光は、波打ち際が特に鮮やかで、ほとんど白色と言っていいくらいに強い光を発し、ざわざわと揺れていた。僕たちは岬の脇から海岸へと降りていった。海辺には沢山の赤い花が咲いており、海の中にまでその複雑な細い根を這わせていた。これらの花は《網藻花》と呼ばれる種類の草で、海水と、海中のプランクトンの発光する光を利用する。波間にちらちらと見える黒く平たいものが受光器で、時には波打ち際をびっしりと覆うこともある。
 穏やかな海岸を、《網藻花》を踏みながら歩いた。プランクトンの発する光で、辺りがぼんやりと明るかった。波が砕けると、光も束の間、弾けるように舞った。波の音が聞こえていた。それは、誰かが僕たちを呼んでいるかのようにも聞こえた。だが僕たちは、注意深く海からは離れて進んだ。海が怖かったためだ。海の中には、僕たちの窺い知れない様々な生物がいる。その恐ろしさは、漁師たちの話として幾つも伝わっている。一説には、海の中は僕たちが想像するよりも、ずっと光に満ちた、カラフルな世界だという。様々な光を発する生物が、深い海の底に存在するというのだ。だが、そのことについては単なる噂の範囲を超えず、信頼できるだけの証拠も存在しない。だから、ただそういう話がどこからともなく伝わっているというだけなのだ。
 海辺には、どこか生臭い潮の香りが満ちていた。そしてその香りは、肌に深くまとわりついて、僕には少し不快だった。だが、カムリルにはあまり気にならないようだった。
 「この海の色彩は、いつ見てもとても不思議だわ。輝きの中にも波があるみたい」
 「水の中だから、そう見えるんだろう」
 「そうかもしれないけれど、そう見えるというのが大切なのよ」そう言ってカムリルは少し波打ち際に近づいた。
 「危ないよ。突然《銛魚》が飛び出してきて、体を貫くこともあるんだよ」
 「平気よ。あなた、ひとりで《青の丘》には行く癖に。そんな危険な魚は、こんなに浅いところにまでやって来ないわ。触手に毒を持った生物だって、きっとこんな砂浜にはいないわ」
 カムリルはバックから小さな壜を取り出し、それを前にかざしながら、そろそろと波に近づき、腰をかがめた。そして、さっと水を掬うと後ろに下がり、壜の中を見詰めた。どうやらプランクトンを採集しようとしているらしい。それを数回繰り返した後、満足したのか、壜の蓋を閉めた。それから、それを僕に見せた。覗き込むと、ほんの微かだが、確かに青い輝きが壜の中で揺れている。
 「光絵に使うつもり?」僕が訊くと、彼女は頷いた。「まあね。でも、量も少ないし、とりあえずちょっとだけ持って帰って、考えるの。使うとしても、もっと沢山必要ね」
 「じゃあ、また採りに来るのかい?」
 「必要ならね。……あら……?」
 ふとカムリルは足元を見た。僕も彼女につられて足元を見た。すると、薄暗さのせいでそれまで気がつかなかったが、砂の上に誰かが歩いた跡のようなものがあった。自然に出来たとはとても思えない。僕たちは顔を見合わせ、辺りを見回した。すぐにずっと先の方の砂浜の上に、何か人のような影が横たわっていることに気がついた。一瞬体を固くして身構えたが、その影は全く動く気配を見せなかった。死んでいるのかもしれないと推測したが、もしかしたらまだ生きていて、動くこともできないほどに衰弱しているという可能性もあったから、放っておくわけにも行かないと思った。それで、多少用心しながら、ぼくたちはその影に近づいていった。
 近づくにつれて、それが人であることははっきりと分かるようになった。最初は漁師だろうかとも思ったが、遠目にもそんなにしっかりとした体格には見えない。どちらかと言うと、子供に近いように見えた。さらに近づいたところ、どうやらその印象は間違ってはいなかったということがはっきりとした。砂浜に仰向けになって倒れているのは、しっかりと黒い外套を着込んだ、十代の半ばから後半くらいの少年だった

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 ずっとぼくは乗り物に乗ろうとは考えなかったが、それは周辺にあった乗り物はどれも、事実上単なる四角い箱にすぎなかったからだ。だが公園の近くで、身を屈めて車の中に入り込むと、非道の一歩を踏み出すことを選び、ダイムラー社製の自動車をオーバーホールしたが、その中に二巻のガソリンがあるのを見つけ、イグニッション・ランプを点灯し、忌々しい三体の遺体を避けて車を動かし、走らせて、死体の奏でる静寂を打ち破った。死体のない通りはどこにもなく、ぼくは東へと、ガタガタと揺れ、跳ねる車をせきたてた。
 これほどの痛みを払い、この際限のない巨大な墓所にやってくることにこだわったことは、今では奇矯なことに思えた。この時にはまだ、地球上にぼくと同じく生残っている人を見つけるという期待が虚しいものだとはどうしても思えず、希望を失ってはいなかったけれども、同時に、どこかに犬、あるいは猫、馬、そうしたものが生残っているのを発見できるのではないかという不合理な希望も抱いており、やがて、ぼくがこの手で撃ち殺した北極犬のラインハートのことを苦々しく思い出した。実を言えば、何が起こったのかその真実を知りたいという狂おしいほどの好奇心は常に持っていて、これまでに分かったこと、あるいは推測した限りでは、神はあらゆるドラマにほくそ笑み、カップを揺らして怒りの水瓶を溢れさせ、「時」の終わりの実際の再臨に先んじたのに違いなかった。この知りたいという気持ちが、訪れたあらゆる街で、より詳しい新聞を求めさせた。だが残念なことに、これまでにたった四誌しか見つけることは出来ず、しかもどれもが既にドーバーで読んだものよりも以前のものであり、その日付は印刷が停止したであろう時についてある程度の推測を与えてくれたが、それはつまり七月十七日の直後――ぼくが極点に到着したほぼ三ヵ月後――であるということで、その日付よりも後のものは見つからなかったからだ。これには科学的な根拠があるわけではなく、祈りや絶望さえなかった。ロンドンに到着すると、ぼくはまっすぐに「タイムズ」のオフィスに向かったが、途中で少しオックスフォード・ストリートにある科学者の所に立ち寄って、消毒薬の壜を鼻の近くに塗るために手に入れたが、これはパディントンの近くを去って以来、ほとんど必要とはしていなかった。
 ぼくは新聞の発行された広場に向かい、目にしたのは、こんな場所にさえ、カルパック、ターバン、黒いアバヤとフリンジのついた祈祷用ショール、靴底の鋲、サンダル、模様のある腰布と縞模様の絹織物などが地面にびっしりと乱雑に撒き散らされた光景だった。暗い広場を通りぬけ、さらに暗いビルディングに入ると、広告事務所のドアが一つ開いているのを見つけた。だがマッチを擦ってみると、電気で明りを取っていたのだということが分かり、その結果、近くの小路のランプ店ににまで躓きながら引き返したが、歩いている間ずっと、誰にも傷つけられやしないかと、びくびくしていた――というのは、この近辺でぼくは奇妙な震えを感じ始めたからで、マッチを擦り続けたが、それでもまだ辺りの暗さはそのまま、ほとんど瞬きもしなかった。

****************


I could not get into any vehicle for some time, for all thereabouts was practically a mere block; but near the Park, which I attained by stooping among wheels, and selecting my foul steps, I overhauled a Daimler car, found in it two cylinders of petrol, lit the ignition-lamp, removed with averted abhorrence three bodies, mounted, and broke that populous stillness. And through streets nowhere empty of bodies I went urging eastward my jolting, and spattered, and humming way.
That I should have persisted, with so much pains, to come to this unbounded catacomb, seems now singular to me: for by that time I could not have been sufficiently daft to expect to find another being like myself on the earth, though I cherished, I remember, the irrational hope of yet somewhere finding dog, or cat, or horse, to be with me, and would anon think bitterly of Reinhardt, my Arctic dog, which my own hand had shot. But, in reality, a morbid curiosity must have been within me all the time to read the real truth of what had happened, so far as it was known, or guessed, and to gloat upon all that drama, and cup of trembling, and pouring out of the vials of the wrath of God, which must have preceded the actual advent of the end of Time. This inquisitiveness had, at every town which I reached, made the search for newspapers uppermost in my mind; but, by bad luck, I had found only four, all of them ante-dated to the one which I had read at Dover, though their dates gave me some idea of the period when printing must have ceased, viz. soon after the 17th July--about three months subsequent to my arrival at the Pole--for none I found later than this date; and these contained nothing scientific, but only orisons and despairings. On arriving, therefore, at London, I made straight for the office of the Times, only stopping at a chemist's in Oxford Street for a bottle of antiseptic to hold near my nose, though, having once left the neighbourhood of Paddington, I had hardly much need of this.
I made my way to the square where the paper was printed, to find that, even there, the ground was closely strewn with calpac and pugaree, black abayeh and fringed praying-shawl, hob-nail and sandal, figured lungi and striped silk, all very muddled and mauled. Through the dark square to the twice-dark building I passed, and found open the door of an advertisement-office; but on striking a match, saw that it had been lighted by electricity, and had therefore to retrace my stumbling steps, till I came to a shop of lamps in a near alley, walking meantime with timid cares that I might hurt no one--for in this enclosed neighbourhood I began to feel strange tremors, and kept striking matches, which, so still was the black air, hardly flickered.

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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 マイケル・ジャクソンのリハーサル映像をまとめた映画、「This is it」を観る。

 さすがに凄い人気で、一番前の席しか空いていないということで、ちょっとどうしようかなあと思ったが、次の回まで待つ余裕も無かったから、観ることにした。かなり面白かったのだが、これで一番前でなければもっとよかったとは、やっぱり思った。娘も連れて行ったのだが、最初は興味がないようなことを言っていたけれど、面白かったみたいで、まあ、よかったと思う。
 しかし、ここまで完成していながら(つぎ込まれた予算の額は、ちょっと想像がつかないほどだ)、そしてあらゆる関係者の期待が高まっていながら、こうした結果になったのは、皮肉な運命というべきか。みんな、本当にあせっただろう。天を仰いだだろう。
 同時に、ものすごい作家がいたとして、「晩年はやや作品の精彩が欠けていることは否めなかったが、最後に心血を注いでいたその未完の大作の断片が死後に発見された」という感じも、この映画からは受ける。マイケル・ジャクソンという一つの伝説を補完する、記念碑的作品。そういう意図によって作られた映画だった。


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「鳥類学者のファンタジア」 奥泉光著 集英社刊

を読む。

 来月、文学フリマで日本ジュール・ヴェルヌ研究会主催のトークイベントがある奥泉さんの、「新地底旅行」、「『吾輩は猫である』殺人事件」と三部作を成す長編小説。
 ケプラーの「宇宙の音楽」(ちょっと面白いサイトがあった)がアイデアのベースになっている小説。だけど、それ以上に、ジャズに対する愛情がベースにある小説。タイトルにある「鳥」とは、バード、つまりチャーリー・パーカーのことだろうから、つまり「ジャズ愛好家の夢想」というタイトルに近い。
 かなりの饒舌体で、最初はちょっとイラっとしたが、慣れてしまうと結構面白くなってくる。ストーリーも、よく考えると破綻も多いのだろうけれども、そんなことはどうでもよくなるくらい、読んでいて楽しい。でも、著者はきっと最後の「ニューヨーク・オプショナル・ツアー」が書きたくて、この長い作品を最後まで演奏(執筆)をしたんだろうな、と思った。


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 レディングからほんの少し離れた辺りで、ぼくは大きな花畑を目にしたが、幾つかの区画は枯れ果て、残りはすっかりと雑草に覆われていた。そしてここでもまた、機関車のすぐ近くに、ひっそりとした黄昏の大気の中、二輪の小さなオーレリアンの花が咲いていた。ぼくは先へと進み、下りの線路上に機関車が連なっている光景を横目で見たが、そのうちの二つは衝突して大破しており、片方の機関車は爆発していた。野原、そして線路の片側に、より沢山の人々が密集しているように見えた。それはまるで人々が、列車や乗り物が使い物にならなくなった時に、西に向かってぞろぞろと歩いていったかのようだった。スラウの近くにある長いトンネルにまで辿り着いた時、その入り口の周りに夥しい量の木の破片があるのを目にし、ぼくは出来る限り徐行してトンネルを通り抜けたのだが、それは列車が絶えず何かに衝突しているということに恐れを感じたためで、ぼくは自分が死体の上を走行しているのだということが分かっていた。トンネルの出口にはさらに沢山の木片があった。そうしたことから、自暴自棄になった人々の一群がトンネルの両側を塞いで密閉し、そこに閉じこもり、運命の日が過ぎ去るまでその場所で命を保つ望みをつないだのだということが容易に推測できた。バリケードは、上り列車が衝突したため彼ら自身で破壊したか、さもなくば、その避難窟に自分たちも入れろとわめきたてる狂乱した人々が強襲し、破壊したに違いなかった。後になって分かったことだが、これはあちらこちらで普通に行われたことであった。
 もはやロンドンに到着するのは時間の問題だと思われたが、運の悪いことに、誰一人乗っていない長い上り列車が、線路上に居座っているところに出くわした。こうなっては乗り換えるより仕方がなく、相手の機関車は石炭も水も充分備えた良い状態であるということが分かったので、始動のために気の進まない労働にとりかかった。ぼくはすぐに頭の先から足のつま先まで煤で真っ黒になった。けれども十時半になる頃には、どうせ線路の上の機関車など海の上の波や森の中の小枝と同じくらいありふれたどうということもないものなのだから、パディントンからたった四分の一マイルしかないというのに列車を乗り換えるなどということは止めて、動かない列車などどちらもそのまま放置し、残りを歩くことにした。きっと、興奮した群集は動いている列車を歩いて追跡していったのか、あるいは前を走っていた人々が彼らを止めようと狂った望みを抱いたのだろう。
 巨大なガラスと鉄の梁で作られた駅舎に辿り着いたのは十一時頃だったが、全く音のない夜で、月もなく、星も見えなかった。
 後になって、全ての発電所、少なくともぼくが訪れた全ての発電所は、そのまま放置されているということを知った。これはつまり、最後の時がやってくる前に停止されたということに違いなかった。またガスに関しても、ほぼ間違いなくその少し前に打ち捨てられていた。この漆黒の夜に包まれた都市には、「沈黙」が支配したその瞬間、少なくとも四千万から六千万を下らないだけの人々が集中し、蠢き合い、ぼくの想像を遥かに凌ぐ、タンタロスや地獄を思わせる汚らわしさだったに違いない。
 プラットフォームに近づいてゆくと、数台の列車の姿が目に入ったが、何とか動かそうと試みて人々の群れを後ろから押し潰したらしく、線路の上にこんもりとした塊を作っていた。これでぼくは人々が移動していった理由が分かった。もし歩いて移動する決心をしなければ、ぼくもここまでやってくることは出来なかっただろう。死体は、例えば列車の屋根の上に、車体の間に、プラットフォームの上に、吹き付けられたかのように柱に跳ねて、あるいはトラックやダンプカーの上に積み上げられた肉体の泥土のように、あらゆる所に転がっていた。そして駅の外でも、ロンドンの周囲に溢れかえった乗り物の間の空間を埋め尽くしていた。ここでは花の咲くような香りは、汚い一艘の船を除いて、消え失せ、完全に別の香りにとって替わられていた。ぼくは、もし人の魂というものがあのような芳香となって天国に上ってゆくのだとしたら、それもそれほど不思議ではないと、ふと思った。
 ぼくは駅を出ると耳を欹て、相変わらずこの呪われた街の音を捉えようとしていたが、今ではもうすっかりと押し黙った「無音」という空虚さに慣らされてしまっていた。ぼくは新たなる畏怖に圧倒され、凄まじい悲嘆に行き場を失ったが、それは活気のある日常の光景の代わりに、バビロンの長い退廃よりもなお暗く垂れ込めた延々と続く通りを目にしたからで、その古代の響きの代わりに聞こえてくるものは、神よ、沈黙の戦慄であり、それはこれまでに耳にしたことのある何にも増して高く響き、虚ろな沈黙、そして天国の永遠の星々と、溶け合った。
 
 *****

****************


Well, some little distance from Reading I saw a big flower-seed farm, looking dead in some plots, and in others quite rank: and here again, fluttering quite near the engine, two little winged aurelians in the quiet evening air. I went on, passing a great number of crowded trains on the down-line, two of them in collision, and very broken up, and one exploded engine; even the fields and cuttings on either hand of the line had a rather populous look, as if people, when trains and vehicles failed, had set to trudging westward in caravans and streams. When I came to a long tunnel near Slough, I saw round the foot of the arch an extraordinary quantity of wooden débris, and as I went very slowly through, was alarmed by the continuous bumping of the train, which, I knew, was passing over bodies; at the other end were more débris; and I easily guessed that a company of desperate people had made the tunnel air-tight at the two arches, and provisioned themselves, with the hope to live there till the day of destiny was passed; whereupon their barricades must have been crashed through by some up-train and themselves crushed, or else, other crowds, mad to share their cave of refuge, had stormed the boardings. This latter, as I afterwards found, was a very usual event.
I should very soon have got to London now, but, as my bad luck would have it, I met a long up-train on the metals, with not one creature in any part of it. There was nothing to do but to tranship, with all my things, to its engine, which I found in good condition with plenty of coal and water, and to set it going, a hateful labour: I being already jet-black from hair to toes. However, by half-past ten I found myself stopped by another train only a quarter of a mile from Paddington, and walked the rest of the way among trains in which the standing dead still stood, propped by their neighbours, and over metals where bodies were as ordinary and cheap as waves on the sea, or twigs in a forest. I believe that wild crowds had given chase on foot to moving trains, or fore-run them in the frenzied hope of inducing them to stop.
I came to the great shed of glass and girders which is the station, the night being perfectly soundless, moonless, starless, and the hour about eleven.
I found later that all the electric generating-stations, or all that I visited, were intact; that is to say, must have been shut down before the arrival of the doom; also that the gas-works had almost certainly been abandoned some time previously: so that this city of dreadful night, in which, at the moment when Silence choked it, not less than forty to sixty millions swarmed and droned, must have more resembled Tartarus and the foul shades of Hell than aught to which my fancy can liken it.
For, coming nearer the platforms, I saw that trains, in order to move at all, must have moved through a slough of bodies pushed from behind, and forming a packed homogeneous mass on the metals: and I knew that they had moved. Nor could I now move, unless I decided to wade: for flesh was everywhere, on the roofs of trains, cramming the interval between them, on the platforms, splashing the pillars like spray, piled on trucks and lorries, a carnal quagmire; and outside, it filled the space between a great host of vehicles, carpeting all that region of London. And all here that odour of blossoms, which nowhere yet, save on one vile ship, had failed, was now wholly overcome by another: and the thought was in my head, my God, that if the soul of man had sent up to Heaven the odour which his body gave to me, then it was not so strange that things were as they were.
I got out from the station, with ears, God knows, that still awaited the accustomed noising of this accursed town, habituated as I now was to all the dumb and absent void of Soundlessness; and I was overwhelmed in a new awe, and lost in a wilder woesomeness, when, instead of lights and business, I saw the long street which I knew brood darker than Babylons long desolate, and in place of its ancient noising, heard, my God, a shocking silence, rising higher than I had ever heard it, and blending with the silence of the inane, eternal stars in heaven.

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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 《青の丘》へ行かないか。そう誘ったのは僕の方だった。明らかに煮詰まっているカムリルの様子を見かねて、ちょっとした気分転換にでもなればと思ったのだ。カムリルは喜び、わたしも行きたいと思っていたところなのよ、と言った。さすがに一人では街を離れる気にはなれないらしい。だから僕の誘いは渡りに船だったようだ。
 二人で揃って《青の丘》へ行くのは久しぶりのことだった。図書館での仕事が忙しくてなかなか時間を割く余裕がなかったせいもあるが、もともと僕は彼女を《青の丘》に連れて行くことに余り積極的ではなかったというのも大きな理由の一つだった。どうしたところで人里から離れた場所に行くというのは多少のリスクを伴うし、それが女性と一緒だということになればなおさらだった。もちろん《青の丘》に行く時にはいつでも武器を携帯するようにはしていたが、それで安全だとはとても言えない。確かにこれまでは一度も危険な目にあったことはないものの、それが僥倖であったという保障は何もないのだ。それでもいざ二人で《青の丘》に向かうということになると、気持ちが高揚した。ゆったりとした時間を過ごすつもりで飲み物や食べ物を用意し、それなりの支度を整えているうちに、すっかりとピクニック気分が盛り上がってきた。
 出発してから街を抜けるまでには一時間ほどかかった。街はいつの間にか旧市街へと様相を変えていった。灯りが次第になくなり、人の姿もなくなった。辺りには建物が沢山並んでいるが、どれも色彩を失くした廃墟ばかりで、生命の気配は感じない。どんな生物もいないというわけではないのだろうが、気配ばかりが漂うだけで、実際には姿は見えなかった。だが、僕たちは常に言葉を交わしながら歩いていたが、その微かに感じる気配のせいで、自然と声のトーンは落ちた。不必要な注目は浴びたくないという気持ちが我知らず働くためだろう。
 旧市街を一時間ほど歩くと、建物が次第に疎らになり、やがて道は《いにしえの道》と合流し、平原の中へと導かれる。そこから《青の丘》の麓までの三十分ほどの道のりを、暗い世界の底辺を這う《緑繊毛》を踏みしめながら、仄かに青く浮かび上がる《青の丘》を目指していった。
 「久しぶりに来たけれど、ここからの光景は、いつ見ても素敵ね」カムリルは丘の上に立つと、辺りをぐるりと見渡しながら、言った。彼女の顔が、《夜鳴草》の明りに照らされて、青ざめて見えた。
 「こんなに遠くなければ、毎日でも来たいくらいだよ」と僕は言った。「でも、たまに来るからこそいつも新鮮な気持ちで眺めることができるんだろうな」
 僕たちは乾杯をし、持ってきた軽食を食べた。それから二人並んで丘に寝そべり、《ミッドナイトランド》に仄かに灯る明かりを見詰め、虫の音を聞きながら、色々な話をした。一度だけ、どこかで何かが騒いでいるような音がした。僕は、もしかしたら《夜の獣》かもしれないと思い、身構えたが、音はそれきり止んで、何も起こらなかった。それで、おそらくは風のせいだろうと思った。
 「もしこの世界が、全て光の下に晒されたとしたら、いったいどう見えるのかしら」カムリルは、ふとそう呟いた。
 「そうだね。どう見えるだろう。想像もつかないな。何もかも、全然違って見えるのは間違いないだろうけれど」
 「綺麗かしらね?」
 「うん……きっと綺麗だと思う」僕はそう言ってから、世界が光で満たされている状態について考えた。だが、上手く想像できなかった。夢の中では確かにそんな光景を見た。心が奪われる光景だった。だが、いざカムリルにそう訊かれて目の前の光景を見詰めるとき、実感としてそれを感じるのは困難だった。
 丘では随分と長い時間を過ごした。その間に、随分と疲れていたのか、カムリルは少し眠った。僕は彼女をそっとしたまま、しばらくは一人で《青の丘》の柔らかい光景の中に身を浸した。穏やかな時間だった。カムリルの寝顔を見ているのも愉しかった。カムリルが目醒めた後、僕たちはもう少しその場所で語らい、それから帰路を辿ろうと立ち上がった。だがカムリルは、少しだけ《静寂の海》の方へ歩いてから帰りましょう、と提案した。僕は頷き、草を掻き分けるようにして丘を下っていった。そして《いにしえの道》を少し歩き、そこから分かれる、海へと続く細い坂道を下って行った。

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 *****

 翌朝、ぼくが急勾配のハイ・ストリートを下ってゆくと、その坂道の下に一人の若い修道女が倒れているのを見つけたが、それは前日の夕方、通りの半ばにあるギルドホール美術館の向かいで目にした、僧服を着た女性の一群の中の一人だった。西に向かって吹く風に煽られ、回転しながら転がり落ちてきたらしく、きちんと身に付けていたはずのベールやネックレスは完全にどこかへ行ってしまい、ボロボロの布だけを纏った、ほとんど裸同然の姿だった。木の枝、廃屋、それに枯葉の吹き溜まりが、その荒れた朝の風景のそこかしこにあった。
 このギルフォードという街は鉄道の大分岐点となっているようで、午後に再び出発する前に、風が小康状態になっているのを見計らって、ABCガイド(訳注:イギリスのABC旅行社が月刊で出している時刻表)と鉄道地図を手に入れ、これから行く路線を決め、新しい機関車に乗り換えて、たった三十マイルしか離れていないロンドンへと到着できることを、今度こそはっきりと確信した。そうして出発し、ちょうど五時になる頃には、僕の目的地に近いサービトンに到着した。ぼくは大都市が眼前に見えてくるはずだと少しも疑わず、かなりのリスクを払いながら、自らが信じる前方に向かって、さらに進んでいった。だが、行く手にロンドンなどなかった。ぼくは、実際には環状線の中にいて、サービトンでまた間違ってしまったのだった。次の日の夕方にぼくがいたのは、さらにロンドンから離れた場所にある、ウォーキンガムだった。
 ぼくは「ザ・ローズ」という名前の宿屋の廊下に敷かれたラグの上で眠ったが、それは、そこにはワイルドなロシア人と思われる男が歯をむき出しにしてその家のベッドの上で眠っており、その有様が気に入らなかったものの、時間も遅かったし、さらにはとても疲れていてもう一歩も歩けなかったからだった。翌朝、ぼくは朝早く出発して、午前十時にはレディングに到着した。
 陸地でのナビゲーションの概念が、つまりは海でのそれと同じであるという、言ってみれば余りにも当たり前のことに、ぼくは全く気が付かないでいた。だが、初めて偶然にレディングの川の近くの小さな店の窓にコンパスがあるのを見た時、世界のどこであろうとも、行きたい場所に辿り着くための困難というものは、それを最後に完全に消滅した。よい海図や地図、コンパス、製図用のコンパス、それから、長い距離の場合のための、四分儀、六分儀、あるいは経緯儀、紙切れと鉛筆、機関車を陸の船と捉えるならば、そうしたものが必要なものの全てであり、最短距離の路線を選ぼうとすると、上手くゆかないのだ。
 準備を終えると、ぼくはレディングからの旅を夕方の七時頃に終え、まだいくらか明るかったが、そこで九時間ほどを過ごした。この街で、ぼくが後にロンドンより西のあらゆる大都市で出会うこととなる、人間性が徹底的に破壊された光景に、初めて直面した。ここでは、イギリス人の数は外国人の数と全く同じだけいた、というべきだろう。どちらの数もとても多かった。ロンドンを目指して人々がなだれ込んだのだ。ここにある家のあらゆる部屋、そして階段にまでも、死者がまさに折り重なるようにして倒れており、そして家の前の通りでは、死者の上か馬車の下以外には、足の踏みどころさえなかった。州立刑務所に行ったところ、新聞では二週間前に囚人たちは釈放されたということだったが、同じように混乱した状態で、監房には十人から十二人の人がおり、通路は人々の顔、頭、古くなった衣服などで、ぎっしりと敷き詰められていた。練兵場の中は、壁に取り付いた人々の群れが、灰色の粘土の無骨な塊のようになっていて、圧死した人がいるのだろう、黒い血の流れた跡があった。門と、その隣にあるこの街のビスケット工場の壁の間の隅の方に、一人の少年がいるのを目にしたが、行き場を無くして立ち尽くしているかのようで、その手首にはチェーン・リングがあり、そのチェーンの先には一匹の犬がいた。彼の不自然な姿勢から、ぼくは彼もチェーンも犬も、七日にあった嵐で通りからこの場所に飛ばされてきたのだと推測した。興味深いことに、彼の右腕は犬のちょうど頭上でちょっと外側を指していて、そのせいで最初彼を見た時、ぼくに向かって犬をけしかけようとしている酔っ払いのように見えたのだった。実際、ぼくが目にしたあらゆる死者は傷だらけで、衣服は剥ぎ取られ、乱雑に積まれたようになっていた。まるで地球が通りを掃き清めるという虚しい努力をしたかのようだった。.

****************


*****

'Well, the next morning I went down the steep High Street, and found a young nun at the bottom whom I had left the previous evening with a number of girls in uniform opposite the Guildhall―half-way up the street. She must have been spun down, arm over arm, for the wind was westerly, and whereas I had left her completely dressed to her wimple and beads, she was now nearly stripped, and her little flock scattered. And branches of trees, and wrecked houses, and reeling clouds of dead leaves were everywhere that wild morning.
This town of Guildford appeared to be the junction of an extraordinary number of railway-lines, and before again setting out in the afternoon, when the wind had lulled, having got an A B C guide, and a railway-map, I decided upon my line, and upon a new engine, feeling pretty sure now of making London, only thirty miles away. I then set out, and about five o'clock was at Surbiton, near my aim; I kept on, expecting every few minutes to see the great city, till darkness fell, and still, at considerable risk, I went, as I thought, forward: but no London was there. I had, in fact, been on a loop-line, and at Surbiton gone wrong again; for the next evening I found myself at Wokingham, farther away than ever.
I slept on a rug in the passage of an inn called The Rose, for there was a wild, Russian-looking man, with projecting top-teeth, on a bed in the house, whose appearance I did not like, and it was late, and I too tired to walk further; and the next morning pretty early I set out again, and at 10 A.M. was at Reading.
The notion of navigating the land by precisely the same means as the sea, simple and natural as it was, had not at all occurred to me: but at the first accidental sight of a compass in a little shop-window near the river at Reading, my difficulties as to getting to any desired place in the world vanished once and for all: for a good chart or map, the compass, a pair of compasses, and, in the case of longer distances, a quadrant, sextant or theodolite, with a piece of paper and pencil, were all that were necessary to turn an engine into a land-ship, one choosing the lines that ran nearest the direction of one's course, whenever they did not run precisely.
Thus provided, I ran out from Reading about seven in the evening, while there was still some light, having spent there some nine hours. This was the town where I first observed that shocking crush of humanity, which I afterwards met in every large town west of London. Here, I should say, the English were quite equal in number to the foreigners: and there were enough of both, God knows: for London must have poured many here. There were houses, in every room of which, and on the stairs, the dead actually overlay each other, and in the streets before them were points where only on flesh, or under carriages, was it possible to walk. I went into the great County Gaol, from which, as I had read, the prisoners had been released two weeks before-hand, and there I found the same pressed condition, cells occupied by ten or twelve, the galleries continuously rough-paved with faces, heads, and old-clothes-shops of robes; and in the parade-ground, against one wall, a mass of human stuff, like tough grey clay mixed with rags and trickling black gore, where a crush as of hydraulic power must have acted. At a corner between a gate and a wall near the biscuit-factory of this town I saw a boy, whom I believe to have been blind, standing jammed, at his wrist a chain-ring, and, at the end of the chain, a dog; from his hap-hazard posture I conjectured that he, and chain, and dog had been lifted from the street, and placed so, by the storm of the 7th of the month; and what made it very curious was that his right arm pointed a little outward just over the dog, so that, at the moment when I first sighted him, he seemed a drunken fellow setting his dog at me. In fact, all the dead I found much mauled and stripped and huddled: and the earth seemed to be making an abortive effort to sweep her streets.

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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「ロリータ」 ウラジミール・ナボコフ著 大久保康雄訳
新潮文庫 新潮社

を読む。

 昔から、読もうと思いつつ読まずに来ていた小説のひとつ。
 主人公の一人であるロリータと同じ年頃の娘がいるという現在の立場では、読み始めてしばらくは、正直なところ精神的にかなり抵抗があったのは事実。そのせいか、最初の三分の一ほどは余り面白くなくて、飽きがくるほどだった。だが、さっさとストーリーを追うという読み方から、細部を「観る」という視点にシフトすると、これが突然面白くなった。つまりこの小説は、ストーリーだけを追って急いで読もうとすると面白さをかなり失ってしまう小説のようだと思った。多分、読者にも主人公ハンバートのフェティッシュな視点の共有を要求する作品なのだ。
 若島正さんによる新訳が話題となっていたのは知っていて、そちらを読むべきかとも思ったものの、たまたまこの本がうちにあったので、とりあえずこれを読んでみようと思ったのだが、読みながら一つ気になったのは、日本語の文章がちょっとイメージに合わないのではないかということだった。同じ大久保康雄訳のヘミングウェイは僕は大好きなのだが、ナボコフには(特にこの小説には)ちょっとしっくりと来ない気がしたのだ。何といっても、まあ身も蓋もない言い方をすれば、変態の語る文章なのだから、そんな感じが多少あるほうがいい。それで、ちょっと書店で若島さんの「ロリータ」をぱらぱらと覗いてみたところ、地の文はともかく、会話文では、そちらの方が格段にいいような印象を受けた。特にロリータの話し言葉はそちらのほうがしっくりくると思った。再読することがあるなら、そちらを読んでみるのが面白そうだ

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 三週間ほど先の、12月6日(日)の話ですが、「第九回文学フリマ」に於いて、僕も参加している「日本ジュール・ヴェルヌ研究会」の主催で、作家・奥泉光氏を迎えたトークイベントが行われます。




ジュール・ヴェルヌ活用法――奥泉光氏を迎えて

ゲスト:奥泉光氏(作家)
パネリスト:新島進(慶應義塾大学准教授)、石橋正孝(日本学術振興会特別研究員)

ヴェルヌ研究者が奥泉光氏に問う、現代作家にとっての二次創作という問題

人は読んだから書く――文学の歴史とは、絶えざる温故知新の運動である。中世以来のアーサー王物語群、あるいは近代のロビンソナードを参照するまでもなく、二次創作こそ、文学の王道なのだ。奥泉氏は、『「吾輩は猫である」殺人事件』や『新・地底旅行』といった実作によって、この逆説の正しさを証明してきた数少ない現代作家のひとりである。誰もが知っている(と思っている)古典をいかにして現代に生かすか、という課題に対する奥泉氏の解答が上記の二作品にほかならない。そこで共通してパスティッシュの対象となっているのは漱石であるが、今回は特に『新・地底旅行』に注目し、なぜヴェルヌが選ばれたのか、ヴェルヌ作品のどこが現代作家としての奥泉氏を誘惑し、また、「リライト」に向かわせたのか、といった点を、とりわけヴェルヌ研究の視点から本人に直接問い質す。

■日時:2009年12月6日(日) 14:30 ~16:00
■会場:大田区産業プラザPiO 3F 特別会議室
■主催:日本ジュール・ヴェルヌ研究会
■協力:文学フリマ事務局
■入場料:無料(定員120名)

 整理券には限りがあります。詳しくは、特設サイトをご覧ください。




 文学フリマは、年々大きくなっているイベントで、ちょっと見に来るだけでも楽しめると思います。今回は大田区産業プラザでの開催です。
 トークイベントは無料ですが、奥泉光氏は『神器』で野間文芸賞受賞を受賞されたばかりということで、どんな話が出るのか、愉しみですね。
 興味のある方は、ぜひご来場ください。僕もお手伝いに行きます。

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「敵」 筒井康隆著
新潮文庫 新潮社刊

を読む。

 「七瀬三部作」を久々に読んで、もっと筒井康隆を読んでみようと思った。
 筒井康隆の小説を一生懸命に読んでいたのは中学校から高校にかけての頃だった。家が割と近かったせいもあって、いつも行っていた「文進堂」という書店には、刊行が開始された新潮社の全集が、署名本として置いていた。それをせっせと買っていたのだ。だが、次第に読書の傾向が海外の小説に移って行くにつれて、いつのまにか読まなくなってしまっていた。
 数日前に「ヘル」という長編を読んだ。表紙が横尾忠則の絵で、ぴったりの内容だった。多少書き飛ばしている感じもしたが、面白かった。それで、その勢いでこの「敵」を読んだ。
 「老いる」ということを、正面から書いた作品。ひたすら具体的で詳細な記述が異様な迫力を持つ。やっぱり筒井康隆は、異様な才能のある人だと改めて思った。読みながら、何度も悲しくなったし、読んだあと、がっくりとした。引き伸ばされた終末。「敵」は「滴」でもあり、ぽたりぽたりと滴り、雨音と共にはじけて消えてゆく。

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 ロンドンへ行きたいという気持ちが芽生えて以来、そこへの道がはっきりとするまでの間、ぼくの頭はそんな感じだった。機関車は南部地方の複雑な鉄道網を彷徨いながら、ぼくは二度、貯水タンクから石炭用のバケツで水を補給したが、それは噴霧装置が石炭の下のタンクから水を送ることができず、さらには、どこに送水装置があるのかもわからなかったからだ。五日目の夕方、ロンドンではなく、ギルフォードに到着した。
 
 *****
 
 その夜、十一時から翌日にかけて、大きな嵐がイギリスを襲った。それを書き留めておこう。それから十日後、月内の十七日に、別の嵐が来た。そして二十三日にも。それからも夥しい数の嵐がやってきた。一連の嵐はイギリスの嵐というよりは北極の嵐に似ていて、明らかに何かとても個人的なものを示唆しているようだったが、それが悪意のある狂乱か、それともタンタロスの淵なのか、ぼくにははっきりと述べることはできない。ギルフォードでの夜、彷徨った挙句に疲れ果て、東側に二つの後陣を持つ、聖メアリー教会と呼ばれる古いノルマン教会の信者席に身体を投げ出したが、夜間灯にと小さなスズのランプの灯を小さくし、そこから少し離れて、柔らかい聖書を枕にした。幸い、ぼくはあらゆることを遮断するように心を配ったため、天井が闇の彼方に紛れてしまったかのように感じた。さっと見たところ、ぼくの他には老女が一人、教会の北側で死んでいただけだった。ぼくは耳を澄ましながら横たわっていた。表では猛烈な嵐が吹き荒れ、実際のところ一睡も出来なかった。そしてひとりでずっと考えていた。「ぼくは哀れな男だ、この無限ともいえる人々の群れを失い、世界のうねりを失い、神よ、ぼくに何が起こるというのか?闇は、確固とした地面から荒れ果てた虚空へとぼくを突き落とし、それで今では百万ファザムもの深さへと落ちながら、その場所でキリキリと舞っているのだ。死者であったほうがよかった、そうすれば言語に絶する混乱や神の怒りを目にすることなかっただろうし、ぞっとするような寒々しい《永遠》の風の声など聞くこともなかった、思い焦がれた時には長くシクシクと泣き、大声で話す時には冒涜し、諭す時には企みとともに哀願し、絶望した時には死を選ぶ、人はそんな声に耳を貸すべきではないのだ。なぜならそれがぼくを平らげようとしていることを、タイタニック号の暗闇のことを、ぼくは知っているからだ。まもなくぼくは淡い香りのようにこの世から去り、そして世界にはただ風が吹くのだろう」翌朝までぼくは塞ぎ込んだ気持ちで横たわり、震えながら身を縮めていた。吹き荒れる嵐の中では、鍵のかかった教会は安心感があった。だがその夜、雷が鳴り響き、それがまるで神の宣告と哄笑、それに嘲笑が、地獄の中の丘の頂の間を響きあっているかのようだった。

****************


My brain was in such a way, that it was several days before the perfectly obvious means of finding my way to London, since I wished to go there, at all occurred to me; and the engine went wandering the intricate railway-system of the south country, I having twice to water her with a coal-bucket from a pool, for the injector was giving no water from the tank under the coals, and I did not know where to find any near tank-sheds. On the fifth evening, instead of into London, I ran into Guildford.

*****

That night, from eleven till the next day, there was a great storm over England: let me note it down. And ten days later, on the 17th of the month came another; and on the 23rd another; and I should be put to it to count the great number since. And they do not resemble English storms, but rather Arctic ones, in a certain very suggestive something of personalness, and a carousing malice, and a Tartarus gloom, which I cannot quite describe. That night at Guildford, after wandering about, and becoming very weary, I threw myself upon a cushioned pew in an old Norman church with two east apses, called St. Mary's, using a Bible-cushion for pillow, and placing some distance away a little tin lamp turned low, whose ray served me for veilleuse through the night. Happily I had taken care to close up everything, or, I feel sure, the roof must have gone. Only one dead, an old lady in a chapel on the north side of the chancel, whom I rather mistrusted, was there with me: and there I lay listening: for, after all, I could not sleep a wink, while outside vogued the immense tempest. And I communed with myself, thinking: 'I, poor man, lost in this conflux of infinitudes and vortex of the world, what can become of me, my God? For dark, ah dark, is the waste void into which from solid ground I am now plunged a million fathoms deep, the sport of all the whirlwinds: and it were better for me to have died with the dead, and never to have seen the wrath and turbulence of the Ineffable, nor to have heard the thrilling bleakness of the winds of Eternity, when they pine, and long, and whimper, and when they vociferate and blaspheme, and when they expostulate and intrigue and implore, and when they despair and die, which ear of man should never hear. For they mean to eat me up, I know, these Titanic darknesses: and soon like a whiff I shall pass away, and leave the world to them.' So till next morning I lay mumping, with shivers and cowerings: for the shocks of the storm pervaded the locked church to my very heart; and there were thunders that night, my God, like callings and laughs and banterings, exchanged between distant hill-tops in Hell.

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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 小川の上に身を乗り出し、横になっているうちに、ふとある思いが頭の中に浮かんだ。ぼくは自分に問いかけていた。「もしもぼくがたったひとり、ひとり、ひとり……ひとり、ひとり……、この世界にたったひとりなら……二万五千マイルもの広がりがぼくだけのものだったなら……ぼくの精神はどうなってしまうだろう?苦悩と変貌の果てに、どんな生き物になってしまうのか?ぼくは二年くらい生きるかもしれない!その時には、何が起こっているだろう?もしかしたら五年――十年生きるかもしれない!五年後は?十年後は?もしかしたら、二十年、三十年、四十年……」
 既に、既に、自分の中でその芽が顔を出しつつあるのだ……!
 
 *****
 
 ぼくは食べ物と新鮮な飲み水を求め、機関車から離れ、肩の辺りまで伸びたルーサンがすっかりと覆い隠している道を通り抜け、半マイル歩いた。丘の端を回りこむと、公園に辿り着き、死んだ鹿が数頭と三人の人々の脇を通り過ぎると、広い段々になった芝生が現れ、その突き当たりに、笠石、柱礎、石灰岩の蛇腹層、それに大理石を彫った三角小間を持った、褪せたレンガ造りのアーリー・イングリッシュの家が建っていた。玄関からいくらか離れたところに、長いテーブル、あるいはテーブルを重ねたものが、戸外にあって、まだクロスが広げられ、葬式からひと月が過ぎた埋葬布のようだった。テーブルには古い食べ物と明りが乗っていた。そのテーブルの周りの芝生の上には、死んだ農夫たちが沢山いた。ぼくはその家を、多分どこかで印刷物で見たことがあると思ったが、その紋章の入った盾が分からず、けれどもその簡素な形から、それがとても古いものであるに違いないということは分かった。その正面にはいくつかの手紙が広げられており、朽ちることのない言葉が記されていた。「今日の良き日が何度も巡ってきますように」。そう、誰かが誕生日を迎えたか、さもなくば何か、内輪のお祝いがあったのだろうが、これらの人々が、もちろん前もって知っていたであろう運命を、受け入れようとはしなかったことははっきりとしていた。ふかふかとしたカーペットの敷かれたホール、大理石、有名な油絵、枝角とアラス織りの壁掛け、そして金メッキで装飾されたラウンジ・バーと落ち着いた寝室、広々とした邸宅のほとんどの場所を、ぼくは歩いて回った。それには一時間かかった。邸宅には、少なくとも八十人から百人の人々がいた。三つの広いレセプションルームのうち最初の部屋には、沢山のカドリールパーティーをしている人々だけが横たわっていたが、coup d'oeilのために着飾り、宝石とイブニングドレスで張り合っていた。この邸宅を探索するには勇気がいったが、というのは、ここにいる人々がぼくが背を向けた途端にこちらをじっと見詰めているのではないか、という気がしたからだ。一度、大急ぎで巨大な中央階段を上っていた時、枯葉がちょうど一階の真上にある回廊の窓ガラスに強く打ちつけ、内心震え上がった。だが一度逃げてしまったら、彼らの視線が一斉にぼくの背中に張り付いてしまい、外のホールに慌てて飛び出して行きながら、狂ったように訳の分からないことを叫び続ける羽目になるだろうと思ったから、平然を装い、挑発するかのように前へと進んだ。二階の北翼にある、暗く小さな寝室――それは言わば家の最上部に位置している――に、ぼくは背の高い若い女性と花婿(あるいは、服装から判断するなら、木こり)が長椅子の上でしっかりと抱擁を交わしている姿を目にしたが、胸元の開いたドレスに身を包んだ女性の頭には小さな宝冠が載り、二人の唇のない歯はまだしっかりと重ね合わせられていた。ぼくはバックの中に、この家の下の階から持ってきたご馳走、つまりリヨンソーセージ、サラミ、ボローニャソーセージ、林檎、魚卵、レーズン、アーティチョーク、ビスケット、ワインを少し、ハム、壜詰めのフルーツ、ピクルス、コーヒー、などを、金のプレート、小さなオープナー、コルク抜き、フォークなどとともに詰め、引きずるようにして機関車までの長い帰路を辿り、ようやく食事にありついた。
 
 *****
 

****************


It was while I was lying there, poring upon that streamlet, that a thought came into my head: for I said to myself: 'If now I be here alone, alone, alone... alone, alone... one on the earth... and my girth have a spread of 25,000 miles... what will happen to my mind? Into what kind of creature shall I writhe and change? I may live two years so! What will have happened then? I may live five years―ten! What will have happened after the five? the ten? I may live twenty, thirty, forty...'
Already, already, there are things that peep and sprout within me...!

*****

I wanted food and fresh running water, and walked from the engine half a mile through fields of lucerne whose luxuriance quite hid the foot-paths, and reached my shoulder. After turning the brow of a hill, I came to a park, passing through which I saw some dead deer and three persons, and emerged upon a terraced lawn, at the end of which stood an Early English house of pale brick with copings, plinths, stringcourses of limestone, and spandrels of carved marble; and some distance from the porch a long table, or series of tables, in the open air, still spread with cloths that were like shrouds after a month of burial; and the table had old foods on it, and some lamps; and all around it, and all on the lawn, were dead peasants. I seemed to know the house, probably from some print which I may have seen, but I could not make out the escutcheon, though I saw from its simplicity that it must be very ancient. Right across the façade spread still some of the letters in evergreens of the motto: 'Many happy returns of the day,' so that someone must have come of age, or something, for inside all was gala, and it was clear that these people had defied a fate which they, of course, foreknew. I went nearly throughout the whole spacious place of thick-carpeted halls, marbles, and famous oils, antlers and arras, and gilt saloons, and placid large bed-chambers: and it took me an hour. There were here not less than a hundred and eighty people. In the first of a vista of three large reception-rooms lay what could only have been a number of quadrille parties, for to the coup d'oeil they presented a two-and-two appearance, made very repulsive by their jewels and evening-dress. I had to steel my heart to go through this house, for I did not know if these people were looking at me as soon as my back was turned. Once I was on the very point of flying, for I was going up the great central stairway, and there came a pelt of dead leaves against a window-pane in a corridor just above on the first floor, which thrilled me to the inmost soul. But I thought that if I once fled, they would all be at me from behind, and I should be gibbering mad long, long before I reached the outer hall, and so stood my ground, even defiantly advancing. In a small dark bedroom in the north wing on the second floor―that is to say, at the top of the house―I saw a tall young lady and a groom, or wood-man, to judge by his clothes, horribly riveted in an embrace on a settee, she with a light coronet on her head in low-necked dress, and their lipless teeth still fiercely pressed together. I collected in a bag a few delicacies from the under-regions of this house, Lyons sausages, salami, mortadel, apples, roes, raisins, artichokes, biscuits, a few wines, a ham, bottled fruit, pickles, coffee, and so on, with a gold plate, tin-opener, cork-screw, fork, &c., and dragged them all the long way back to the engine before I could eat.

*****


"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki








 全体の三分の一を過ぎたのですが、ここまでで原稿用紙に換算して236枚、文庫本換算で161ページ。まだ先が長い。でも、これ、誰か読んでるのかな?だんだん面倒になってきました。


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