漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 




 政権が民主党に移ってしばらく経つが、鳩山首相はなかなか精力的に動いているように見える。どれだけのことが出来るのかはまだ分からないが、少しでも良い方向へ向かうように頑張って欲しいと思う。
 ただ、今朝のニュースで、予算案の見直しの流れの中で改めて「アニメの殿堂」の建設中止ということが大きく取り上げられていてるのを見て、これはかなり残念だと思った。しかも、なぜ「国立メディア芸術総合センター(仮称)」と言わないで、「アニメの殿堂」なんて言い方をするのだろう。別にアニメに偏った施設にするわけでもないだろうに、これは言い方が変だ。僕は、これはぜひ実現すべきだと思う。コレクションを持たず、従って重要な美術品の保存にも全く貢献しない「国立新美術館」なんてものを作るくらいなら、こちらの方がどれだけ意味があるか知れない。新しいハコを作るカネがないなら、いっそ今の国立新美術館を国立メディア芸術総合センターに変えてしまったらどうか。あるいは、都内の閉鎖した学校を使うとか。色々と考えようはあるだろう。別に無理に新しいハコを作る必要はなく、要するにこれまでないがしろにされていたメディア、サブカルチャーを保存、収集、評価する場所があればいいのだから。
 いろいろと調べていても、サブカルチャーに関する資料を集めるのは本当に大変で、とても一人の力できるものではないといつも無力感に襲われる。さらには、こうしたサブカルチャーはずっと今に至るまで不当なほど軽く扱われすぎていたから(昔は、平気でマンガの原稿を一コマずつ切り取って、読者プレゼントにしていたりした)、散逸の度合いも半端ではなく、一部の個人の収集家の努力によってかろうじてある程度保存されているといった有様のようだ。こうした個人の収集家も、これは想像だけれど、自分のコレクションを見ながら、「こうして集めたけれど、大抵の人には多分ゴミにしか映らないんだろうな。もし自分が死んだら、これはどうなってしまうのだろう」と感じているのではないかと思う。昔の雑誌などは、下手をすれば「この一冊がなくなれば、この世からこの本は一冊もなくなってしまう」という状況すれすれにあるはずだ。こうしたものが間違って捨てられてしまうことは、とても残念だ。ついでに言うと、こうしたサブカルチャーは、同時代の人間にしか本当には理解できないのだから、そうした同時代の人間が生きているうちに、ちゃんと時代的な位置づけを確立させておくべきだ。何と言っても、サブカルチャーは多岐に渡りすぎていて、迷宮のようで、案内人がいないことには悪戯に迷うだけだ。こうした作業は、中枢となる施設があるほうが、絶対に上手くはかどるはずだ。個人の収集家にしても、自分のコレクションに行き場があると思うと、随分気が楽になるんじゃないか。これは、先日訪れた弥生美術館のSF画の展覧会でつくづく感じたことだ。
 念のために書くと、僕はアニメは殆ど観ない。正直言って、余り好きでもない。でも、こうして花開いている以上、意味はあると思う。最近、中野のブロードウェイに行くことがあったけれども、外国人の余りの多さに驚いた。これだけ海外から注目されているメディアを(あるいは一部の人だけかもしれないが)、放置しておいていいとは思えない。勿体無い。ここから何かが生まれることはあるだろう。そう思う。それに、アニメといっても、いろいろあることくらいは、わかるはずだ。僕は子供の頃にNHKの「みんなのうた」が大好きだったが、あれもアニメの力が大きかった。アニメはつまり「動く絵」であり、秋葉系、萌え文化というのはその一形態にすぎず、可能性は無限に秘めていると思う。普通の映画の俳優は「セレブ」なんて言い方をされて、もてはやされるのに、同じ映像メディアであるアニメとなると、とたんに軽く扱われるのは、おかしな話だ。こちらのほうが、多分「アート」に近いはずなのに。実際に原画を見ると、その繊細さに驚くはずだ。
 「国立マンガ喫茶」なんて言い方もあるようだが、これはさらに変だ。こんなもの、いくらでもクリアできる問題ではないか?別にマンガを開架する必要はないし、図書館的な機能を持たせるにしても、一度に数冊までと決めて、申し込むことによってのみ読めるようにすればいいわけだし、成人向けのものは年齢を証明する身分証を必要とすればいいだけだ。飲食、喫煙ができるわけでもなし、マンガ喫茶になどなりようがない。基本的には「メディア」に絞った博物館、もしくは美術館を作ろうとしているのだろうから。
 サブカルチャーは、言い方は悪いが、ある意味で確かに「ゴミの山」かもしれない。それは確かにそう思う。だが、一般にカルチャーと呼ばれるものは、そうしたサブカルチャーというゴミの山の中から、滋養を得て、生まれてくる花のようなものだ。江戸時代の浮世絵だって、言葉どおり、もともと単なる風俗画だ。それがフランスの美術界に影響を与えたりした。だから、上澄みだけを観ているだけでは、その奥にある深みは見えてこないだろう。この辺りで、一度ちゃんとそうした「堆肥の山」にスポットライトを当ててみてもいいのではないかと思う。いや、この機会を逃すと、鬼籍に入るクリエイターもどんどん増えるだろうし、どんどん難しくなるだろう。他のもっと無駄に思える予算案を問題にせず、これだけを無駄遣いの代表として「潰そう」という意図が見えると、例えば、サブカルチャーのクリエイターの地位が上がることによって安く使えなくなるということを恐れている勢力でもあるのかなとか、いろいろと余計なことを勘ぐりたくもなるではないか。

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 小雨に目を醒まされて飛び起き、皮のベルトに結びつけてズボンのポケットに入れ、持ち歩いている銀のクロノメーターに目をやって、午前十時だと知った。空は暗く、風がうなりをあげて――今では新しいことと言えた――吹いてきた。
 ぼくはペミカンを少し食べたが、余り気が進まなかったのは、そんなものを食べる必要などないのだと気がついたからだった――ここには贅沢な食料がいくらでもあって、しかも間違いなく町には、ドーバーがそうであったように、ぼく一人しかいないのだから、もしそれだけ寿命があるとしたなら、五百年でも六百年でも食いはぐれる心配はなかったのだ。食事を終えてしまうとぼくは《シャフト》を後にして、雨と風の中、終日辺りを歩き回った。海に浮かんでいる船の数から、ぼくは死者で溢れた町を見ることになるだろうと覚悟していた。だがそれは間違いだった。ぼくが実際に目にしたのは、千人の英国人ではなく、一万五千人の外国人たちだった。西に向かおうとする狂ったような大移動の波はこの町をも襲い、空っぽになってしまった町に、他の場所からやってきた人々が入り込んだのだ。
 まずは開いている食料雑貨店に入ったが、そこは逓信局を兼ねており、ぼくはそこからロンドンへとメッセージを送るつもりだった。店の中では窓の近くの隅の方でガス燈が二本だけ燃えていた。かなり不気味な光景で、炎は青く透き通っていて、まるで夜のチカチカとした煌きが、日中のギラギラとした輝きに負けて、恥じ入っているかのようだった。多分何ヶ月も、もしかしたら何年も、そうして灯り続けていたのだろう。今では炎は細くなっていて、光も弱々しく、風前の灯火といった状態で、もしこの二つだけしか灯がなかったなら、仕事をするのにも随分と骨が折れただろう。カウンターの手前には着飾った黒人が、紐でまとめた小包をたくさん周りにばら撒いて倒れており、カウンターの上には空っぽの現金箱が、そしてカウンターの向こうには背の高い痩せた女性が、顔を脇のレジの中に突っ込み、指はカウンターの外側の縁を握り締め、息絶えていたが、ぼくはこれほどまでに恐怖に取り乱した人の姿を見た事がなかった。ぼくはカウンターを乗り越え、ワイヤーゲージの後ろのテーブルに向かい、そしてまるで阿呆のように、送信ボタンに触れながら、頭に浮かんだモールス信号を打ち出したが、暗語を知らなかったので、いくら大きくABCを記したダイヤルがあっても、帰って来たメッセージを解読する術がなかった。信じたくないという気持ちがまだ心のどこかに根強く残っていて、これまでに目にしたもの、目にしていないもの、そこから導かれる理由を受け入れることが出来ないでいた。キーに触れた瞬間から、ぼくは右手にある検流計の針をじっと見詰めていたが、全く反応がなかった。いたたまれなくなって立ち上がり、跳ねるようにして店から飛び出したが、部屋には夥しい数の電報が受信機の側にあったから、もし気が確かだったら、きっと立ち止まって読んだことだろう。
 次の通りの角を回ると、ドアが大きく開け放たれた立派な構えの大きな家があって、ぼくはその中に入った。家の中には一人のイギリス人の少女のほかには誰もおらず、彼女はバランシエンヌの青いサテンのカーテンのかかったスケッチ用の部屋の簡易椅子にもたれて座っていた。娘は最下層民のようで、黒いボロをかろうじて身に纏い、顎を掛けて横になり、ねじくれた不自然な格好で、オーバーコートを足に、左手には紙幣の束を、膝には三つの腕時計をつけていた。実際、ぼくがこの町で見た死体は、概して、新参の外国人か貧者、年寄り、さもなくば幼児のいずれかであった。
 だがこの家のことが印象に残っているのは、この場所でソファーの上に置かれた新聞を見つけからだ。『ケント・エクスプレス』。ぼくはソファーに座り、すぐ側にある死体を気にも留めず、長い時間をかけて、書かれてあることを熟読した。


****************


I was awakened by drizzle, leapt up, looked at a silver chronometer which, attached by a leather to my belt, I carried in my breeches-pocket, and saw that it was 10 A.M. The sky was dark, and a moaning wind--almost a new thing now to me--had arisen.
I ate some pemmican, for I had a reluctance--needless as it turned out--to touch any of the thousand luxuries here, sufficient no doubt, in a town like Dover alone, to last me five or six hundred years, if I could live so long; and, having eaten, I descended The Shaft, and spent the whole day, though it rained and blustered continually, in wandering about. Reasoning, in my numb way, from the number of ships on the sea, I expected to find the town over-crowded with dead: but this was not so; and I should say, at a venture, that not a thousand English, nor fifteen thousand foreigners, were in it: for that westward rage and stampede must have operated here also, leaving the town empty but for the ever new-coming hosts.
The first thing which I did was to go into an open grocer's shop, which was also a post and telegraph office, with the notion, I suppose, to get a message through to London. In the shop a single gas-light was burning its last, and this, with that near the pier, were the only two that I saw: and ghastly enough they looked, transparently wannish, and as it were ashamed, like blinking night-things overtaken by the glare of day. I conjectured that they had so burned and watched during months, or years: for they were now blazing diminished, with streaks and rays in the flame, as if by effort, and if these were the only two, they must have needed time to all-but exhaust the works. Before the counter lay a fashionably-dressed negro with a number of tied parcels scattered about him, and on the counter an empty till, and behind it a tall thin woman with her face resting sideways in the till, fingers clutching the outer counter-rim, and such an expression of frantic terror as I never saw. I got over the counter to a table behind a wire-gauze, and, like a numb fool, went over the Morse alphabet in my mind before touching the transmitting key, though I knew no code-words, and there, big enough to be seen, was the ABC dial, and who was to answer my message I did not ask myself: for habit was still strong upon me, and my mind refused to reason from what I saw to what I did not see; but the moment I touched the key, and peered greedily at the galvanometer-needle at my right, I saw that it did not move, for no current was passing; and with a kind of fright, I was up, leapt, and got away from the place, though there was a great number of telegrams about the receiver which, if I had been in my senses, I would have stopped and read.
Turning the corner of the next street, I saw wide-open the door of a substantial large house, and went in. From bottom to top there was no one there, except one English girl, sitting back in an easy-chair in the drawing-room, which was richly furnished with Valenciennes curtains and azure-satin things. She was a girl of the lowest class, hardly clad in black rags, and there she lay with hanging jaw, in a very crooked and awkward pose, a jemmy at her feet, in her left hand a roll of bank-notes, and in her lap three watches. In fact, the bodies which I saw here were, in general, either those of new-come foreigners, or else of the very poor, the very old, or the very young.
But what made me remember this house was that I found here on one of the sofas a newspaper: The Kent Express; and sitting unconscious of my dead neighbour, I pored a long while over what was written there.


"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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 最近読書録の投稿をあまりしていない。でも、別に本を読んでいないわけではなくて、特に書いていないだけだ。もっとも、確かに小説本は余り読んでいないかもしれないけれども。

「虚構機関―年刊日本SF傑作選」 大森 望、日下 三蔵、編
創元SF文庫 東京創元社刊

 を少し前に読んだ。マンガが含まれている辺りからも、なんだか、昔の筒井康隆の編集による「SFベスト集成」シリーズを彷彿とさせる。収録されている作品は、岸本佐知子さんのエッセイ以外は初読。岸本佐知子さんのエッセイが含まれているあたりからして、このアンソロジーの独自性が伺えると思う。かなりマニアックな編集方針のようだ。
 収録作品が全部面白かったのかといえば、それは何ともいえないけれども、こうして「年間ベスト」という形を取るアンソロジーは、貴重かもしれない。オールタイムベストになると、いつでも入る作品は大体固定されてしまうからだ。ただ、せっかくSFのアンソロジーなのだから、もう少しSFならではの表現に特化した作品も多く入れてもよかった気がした。まあ、こうしたアンソロジーは、読者投票的にせずに、識者が独断でやるほうが面白いのも確かなので、これはこれでいいのかもしれない。

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 「失われたものを取り戻す?」
 「いや、本当は『失われたもの』というのとは、違うんだろう。僕は太陽のある時代に生きていたというわけじゃないからね。でも、どうしてだろう、そんな気がすることがある。きっと、子供の頃に見た夢のせいだろうね。君には何度も話したけど、鮮烈だった。世界が光に包まれているんだ。暖かくて、瑞々しくて、何もかもが明るく鮮やかな色彩を持っている。世界は闇に溶け込むこともなく、遥かな彼方まで見通せる。とてもよい香りもしていた。信じられるかな、夢なのに、香りまで感じたんだ。今この世界に太陽がないということが、信じられなくなるほどだった」僕はそこで口をつぐんだ。そしてしばらく部屋の天井辺りの暗闇を見詰めてから、言った。「きっと僕は、本当はあの世界にいたいんだろう。夢から醒めたくなかったんだ」
 「わたしはあなたの夢の重力に引き寄せられているわ」カムリルは言った。「いつの間にか、あなたの語る『太陽』が、わたしにとってもひどく現実味を帯びてきているの。あなたの中に入ってゆけば、わたしにも太陽が見えるんじゃないかと思えてくるほどよ。わたしがずっと子供の頃から感じている、現実の自分に欠けている『何か』も、その世界では見つかるのかもしれない。例えば、そんな気がしてくる……」
 カムリルは口をつぐんだ。僕も黙って虚空を見詰めていた。部屋の片隅の中空に、《提灯鬼灯》の淡いオレンジの実が、闇の中にぽっといくつも浮かんでいた。そして樹液の仄かな甘い香りが漂っていた。
 「あなたの夢がわたしを侵したように」随分して、カムリルは言った。「わたしはこの部屋を太陽の夢で満たして、そしてこの部屋が世界を侵して行けばいいと思う。この《ミッドナイトランド》が、太陽の夢を見続ける微睡みに満たされると素敵だわ……」
 僕は彼女の言葉を黙って聞いていた。『僕が抱えている病』であるはずの太陽への憧憬が、いつのまにかカムリルのものになっているような気がした。そこには、何か僕を不安にさせるようなものがあった。だが僕は深くは考えなかった。理解者が出来た、僕とカムリルを結び付ける絆となった、ただそんな風に捉えようと思った。だがその『病』は、実は僕の想像以上にカムリルの中に深く根を下ろして浸透し、膨らんでいたのだ。
 
 数ヶ月経っても、カムリルの『太陽の箱庭』は進展を見なかった。『光絵』の芸術である以上、闇は不可欠で、従ってそもそも部屋を明るく照らし出すという点に致命的な弱点があるのだから、それも仕方がないことだった。もちろんそれはカムリルにしても最初から充分に分かっていたことだった。だが、カムリルにはひとつのアイデアがあった。
 「巨大な球体を作って、中に太陽を閉じ込めるの」とカムリルは言った。「球体は、様々な蛍光植物で編みこんだ球体にするわ。そしてその球体は一層だけじゃなくて、何層にもするの。そしてその一番内側には、太陽に照らされた草の輝きが表現できるようにする。そして何層にも重ねられた植物の編みこみの隙間から、闇が少し見えるようにするの。球体の外から見ると、蛍光植物の向こうに太陽の輝きが見えて、そして内側からは、闇がその彼方に存在するということが分かるようになっている。今のところ、大体は、そんなイメージ」
 「大きなものになりそうだね」
 「そうね。かなり大きなものになるかもしれない。でも、そうした大体のイメージはあっても、正直言うと、太陽に照らされた世界というものがまだ掴めないの。だから、まだ一番最初の、アイデアを練っている状態からさほど踏み出せてはいないわ。今のアイデアは全部捨てて、そっくり考え直すことになるかもしれない。だけど、それはとりあえず考えないことにするわ。進まなくなるから。とりあえずはこのアイデアを膨らませるとして、球体の内側に入ったとき、自分が太陽に灼かれているという感覚を味わえるようにするにはどうすればいいのか、それが大きな問題。わたしは夢でさえ太陽を見たことがないから、想像に頼るしかないんだけど、普段なら自分の想像力に疑問なんて持たないのに、どうしてかしら、このことに関してはどうしても強い気持ちになれないのよ。だから、夢で太陽を感じたことのあるあなたが、本当にうらやましいわ」
 「想像で充分なんじゃないかな」と僕は言った。「だって、誰も太陽なんて見たことないんだし、君が作る『箱庭』の素晴らしさにきっと納得すると思うよ」
 「形にするのはきっとできると思うわ。それがわたしの仕事でもあるし、人を納得させるものを作るだけなら、自信がある。でも、わたしはそれじゃ嫌なのよ。わたしは多分、本当にこの《ミッドナイトランド》に太陽を蘇らせるという、奇跡を演じてみたいの」

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 左手の崖面に開いた穴がひとつあって、《シャフト(矢柄)》と呼ばれている場所だろうと思ったが、僕はここに入り、とても長い階段を上りながら、途中で息切れをしてしまった。この階段の段数を数え始めたが、息切れをした時に止めてしまい、それきりとなった。ついに頂上に辿り着くと、そこは城郭よりもさらに高いと思われる、砂利の歩道が横切る広い開けた場所になっていて、防御設備や兵舎、砦などがあった。ぼくはこの町を通り過ぎたことがあるくらいで、よくは知らなかったが、その壮観な光景には驚かされた。ぼくと城郭を結ぶ道の東の方角には、レンガやスレートで出来た沢山の家が密集していて、遠くの方では曖昧とした青色の霞に溶け込んでいた。右手の方には港があって、海と、そこに浮かぶ船が見えた。この高所では、七人か八人の死体がぼくの周りにあって、砂塵を被っていた。太陽は高く暖かくなっていて、空にはほとんど雲もなかった。彼方には、フランスの海岸線が霞んで見えていた。
 一人ぼっちの哀れな男には、その光景は雄大すぎた。
 ぼくはうなだれた。そして黒く固いベンチに座ったが、シートと背もたれの間が広かった。ぼくはそれを見て、力なく頭を落とした。これはぼくには大きすぎるんだ。ぼくはうなだれたまま、左手で額を支え、ペミカンの塊を右手に持っていたが、どういうわけか、頭の中に子供の頃の古い流行歌が浮かんだ。ぼくはまるで弔歌か葬送歌、あるいは哀歌のような、眠たげなこえでそれを口ずさんだ。その間、右手に持ったペミカンの塊をリズムに合わせて上下させ、調子をとった。
 
 指輪を買ってあげよう、きみが子供を育ててくれるなら。召使たちが待っているよ、ぼくたちの鳴らす呼び鈴の音を、チリン、チリン、チリン……チリンチリン、幸せじゃないか?チリン、チリン、そうさ。ぼくは指輪を買ってあげるよ、きみが子供を育ててくれるなら。召使たちが控えてるよ、チリン、チリン……
 
 ゆっくりとぼくは背中を丸め、それからの二十三時間、死者の中に溶け込んで、眠った。
 
 *****

****************


On the left I came to an opening in the land, called, I believe, 'The Shaft,' and into this I turned, climbing a very great number of steps, almost covered at one point with dead: the steps I began to count, but left off, then the dead, and left off. Finally, at the top, which must be even higher than the Castle, I came to a great open space laid out with gravel-walks, and saw fortifications, barracks, a citadel. I did not know the town, except by passings-through, and was surprised at the breadth of view. Between me and the Castle to the east lay the district of crowding houses, brick and ragstone, mixed in the distance with vague azure haze; and to the right the harbour, the sea, with their ships; and visible around me on the heights seven or eight dead, biting the dust; the sun now high and warm, with hardly a cloud in the sky; and yonder a mist, which was the coast of France.
It seemed too big for one poor man.
My head nodded. I sat on a bench, black-painted and hard, the seat and back of horizontal boards, with intervals; and as I looked, I nodded, heavy-headed and weary: for it was too big for me. And as I nodded, with forehead propped on my left hand, and the packet of pemmican cakes in my right, there was in my head, somehow, an old street-song of my childhood: and I groaned it sleepily, like coronachs and drear funereal nenias, dirging; and the packet beat time in my right hand, falling and raising, falling heavily and rising, in time.

I'll buy the ring, You'll rear the kids: Servants to wait on our ting, ting, ting. . . . . . . . . . . Ting, ting, Won't we be happy? Ting, ting, That shall be it: I'll buy the ring, You'll rear the kids: Servants to wait on our ting, ting, ting. . . . . . . . . . .

So maundering, I fell forward upon my face, and for twenty-three hours, the living undistinguished from the dead, I slept there.

* * * * *

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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 その夜は眠れなかった。心も体も凍り付いてしまったかのように思えた。ぼくは機械的にまた船の針路を西へと取った。太陽が昇った時、ぼくはドーバーの断崖から二マイルも離れていない所にまでやって来ていた。城塞の小鈍鋸歯状の頂上部に、ユニオン・ジャックがはためきもせずに垂れ下がっていた。
 八時、そして九時を告げる鐘の音をキャビンの中で聞いたが、まだ海の上から動けずにいた。だが、半ばヤケクソのように、思い切る気持ちが沸き起こってきた。それで九月二日の十時三十分、税関の隔壁のちょうど反対側にボレアル号のアンカーチェーン(錨鎖)を、三年二ヶ月と十五日の航海の果てに、下ろしたが、錨鎖は右舷の錨鎖孔から、けたたましい音を立てて滑っていった。
 神よ!ぼくは錨を下ろしたことで完全に気が狂ってしまったに違いない!その耳を劈くような騒音は神聖な朝の共同墓地の空気を引き裂いて鳴り響き、その長さは一年にも思えるほどで、心の底からぞっとした。その突然の騒音にぼくは動揺し、膝が震え、怯えた。まるで最後のトランペットが高らかに鳴り響く音にも負けないほどの凄まじい音に思えたからで(訳注:ヨハネ黙示録に出てくる世界の終りを告げるトランペットの音を暗示していると思われる)、十億もの死者たちをさえ揺り動かし、起き上がらせて、一体何事なのかと、ぼくに疑問の目を投げかけるのではないかと思えたからだ……
 
 *****
 
 隔壁のてっぺんの辺りに、怯えもせずにのろのろと這う灰色のカニを見た。通りの始まるその終点に、ガス燈が明るい昼間に青白く灯っているのを目にしたが、その真下にはシャツとブーツを片方だけ身につけた黒人が一人、仰向けになって倒れていた。港にはありとあらゆる種類の船が集まっており、ボレアル号の船尾から八ヤード離れたところに停泊している、カレーから乗客を詰め込んで出航したと思しきドーバー連絡船の上には、腐敗した死者たちが折り重なって倒れていたが、船は錨を上げていたから、係留されている緑のブリッグ船を絶えずこついていた。
 それを見た時、ぼくはキャプスタンに膝をがっくりと落として、すすり泣いた。「おお、神様、どうしてあなたは自らの手によって創造されたものを破壊してしまわれたのですか……」
 
 *****

****************


I could not sleep that night: for all the operations of my mind and body seemed in abeyance. Mechanically I turned the ship westward again; and when the sun came up, there, hardly two miles from me, were the cliffs of Dover; and on the crenulated summit of the Castle I spied the Union Jack hang motionless.
I heard eight, nine o'clock strike in the cabin, and I was still at sea. But some mad, audacious whisper was at my brain: and at 10.30, the 2nd September, immediately opposite the Cross Wall Custom House, the Boreal's anchor-chain, after a voyage of three years, two months, and fourteen days, ran thundering, thundering, through the starboard hawse-hole.
Ah heaven! but I must have been stark mad to let the anchor go! for the effect upon me of that shocking obstreperous hubbub, breaking in upon all that cemetery repose that blessed morning, and lasting it seemed a year, was most appalling; and at the sudden racket I stood excruciated, with shivering knees and flinching heart, God knows: for not less terrifically uproarious than the clatter of the last Trump it raged and raged, and I thought that all the billion dead could not fail to start, and rise, at alarum so excessive, and question me with their eyes....

* * * * *

On the top of the Cross Wall near I saw a grey crab fearlessly crawl; at the end where the street begins, I saw a single gas-light palely burn that broad day, and at its foot a black man lay on his face, clad only in a shirt and one boot; the harbour was almost packed with every sort of craft, and on a Calais-Dover boat, eight yards from my stern, which must have left Calais crowded to suffocation, I saw the rotted dead lie heaped, she being unmoored, and continually grinding against an anchored green brig.
And when I saw that, I dropped down upon my knees at the capstan, and my poor heart sobbed out the frail cry: 'Well, Lord God, Thou hast destroyed the work of Thy hand...'

* * * * *

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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連休  



 昨日は朝から海の方へ向かった。
 最初は伊豆の方面へ行くつもりだったのだが、家を出るのがやや遅れた上に、車で出かけてしまったものだから、思ったとおりというかなんというか、渋滞に巻き込まれ、根府川でダウン。まあ、台風の影響で海には入れないかもしれないとは思っていたから、仕方がないと諦めはついた。今年は本当に海に入らない年。でも、この辺りの海にはさんざん入ってきたから、大体分かっているし、こんな年があってもいいのかな。

 ところで、先日は弥生美術館に初めて出かけ、「昭和少年SF大図鑑展」というのを見てきた。内容的にはかなり力が入っていたのだが、正直に言うと、原画の少なさはやや残念。博物館の展示としてなら充分なのだろうが、美術館の展示なので、基本は原画の展示にして欲しいというのが本音。複製を額に入れられても……という感じは否めない。時代的に言って、原画はかなり散逸してしまっているのかもしれないけれども、展示されていた原画がどれも良かっただけに、もっと色々と見たかった。雑誌に掲載されたものよりも、原画は繊細で、細部にまで気が配られていて、色も美しかった。これを見てしまうと、三階に展示されていた常設の高畠華宵はとてもつまらない絵に見えてしまう。高畠華宵も複製が多かったし、僕の中で、かなり華宵の株は下がってしまった。複製を展示するくらいなら、名前がさほどメジャーではない人であっても、ちゃんとした原画を展示して欲しい気がする。複製なら、本で見てもいいのだから。

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 八月二十六日の朝、ぼくはホーンシー近くの沿岸が見える辺りにまで達したが、どこにも町は見当たらず、取り舵を取ってさらに南に向かったが、もはや計器類には頼らずに、ひたすら陸地に沿って海を進んでいった。ゆっくりと道草を食うようなつもりは全くなかったが、未来の大きな変化を恐れてそこから目を逸らし、直感的に現在の中に逃げ込んでいた。ぼくはワッシュを通り過ぎ、ヤーマスとフィーリックストウをを通り過ぎた。今では海上にじっと浮かんでいる船の数は数え切れず、顔を十分と伏せていられなかった。それゆえ日が暮れると、朝が来るまではその場所でじっとしているしかなかった。というのも、暗闇の中に横たわっている船は、既に難破して好き勝手に彷徨っているからだ。
 そうしてテムズ河の河口に辿り着き、そろそろ夜の八時になろうという頃になって河口テラスと砂州の中に停泊したが、そこからはシェピーとノース・ケントの沿岸まで七マイルもなかった。だがノーアの灯もガードラーの灯も見えなかった。沿岸のどこにも光は全く見当たらなかった。だがその時頭に浮かんだことを心が知ることも、また心が推し量ったことを頭が理解することも、ぼくには受け入れることが出来ず、言葉にならなかった。ぼくは疑い深い眼差しで真っ暗な大地を見詰め、これほどまでに打ちひしがれた男に向かって悪ふざけをしているのではないかという、センチメンタルな想いを捨て切れなかったのだ。
 翌朝、再び船を進めた時、目の隅で、イギリス海峡の灯台船とタング川の船があるのを捉えた。だがぼくは船を見ようとも近寄ろうともしなかった。ぼくの理解の範囲を超える出来事が起こるかもしれないということはどんなことでも望まなかったし、きちんと調べる前に、何も見なかったことにして、納得してしまった。
 次の夕方、ぼくは沖合いの、ノース岬のやや南東にいた。そこには灯台の光はなかったし、サンドヘッドの村にも明りはなかった。だが海上には巨大な難破船が、そして海岸には古い難破した船の残骸が、ごろごろとしていた。ぼくは南東に舵を取り、ゆっくりと移動していったが――この直径十マイルほどの海域には、夥しい数の沈船が横たわっているのだ――この二日間というもの、フレンチ・クリフの良く見える場所をうろうろしていた。ぼくは呟いた。「毎夜、ドーバー海峡を半ばまでも照らし出す、カレー埠頭の巨大な回転灯器の灯光を見に行こう」暁の月は南の空にくっきりと輝いていたが、それはまるで死に臨んだ年老いた偉大なる女王のようで、宮廷には沢山の人々が集まり、彼女を遠巻きにしながら、青ざめて慄き、そっと親しげな呼びかけを口にしているかのようだった。ぼくには彼女のシミだらけの顔の上にある山の影とその朧な光輪が見えたが、その光が海上に照る様は、まるで眠りの王国にそっと口付けているかのようだった。そしてその光景の中で静かな船が描くミステリアスな白い航跡と光の飛沫は、まるでどこかの見捨てられた妖精郷の宮殿の廊下のようで、そこは最後の抱擁のこと、王女の逃亡のこと、死の床にある王のことなどについての、ひそひそとした囁きと噂話に満ちていて、誰もが目配せをしながら行きつ戻りつを繰り返しているかのようだった。北西の水平線の上には、茶色がかった雲の連なりが、世界とは全く関わりがないかのように広がっていた。そして彼方の、それほど遠くはない所には、白い崖の海岸線が、カレーの近くほど低くはないにせよ、草地の谷によって途切れている場所があったが、難破船はあったものの、回転灯器の光は全く見えなかった。

*****

****************


I came in sight of the coast on the morning of the 26th August, somewhere about Hornsea, but did not see any town, for I put the helm to port, and went on further south, no longer bothering with the instruments, but coasting at hap-hazard, now in sight of land, and now in the centre of a circle of sea; not admitting to myself the motive of this loitering slowness, nor thinking at all, but ignoring the deep-buried fear of the to-morrow which I shirked, and instinctively hiding myself in to-day. I passed the Wash, I passed Yarmouth, Felixstowe. By now the things that floated motionless on the sea were beyond numbering, for I could hardly lower my eyes ten minutes and lift them, without seeing yet another there: so that soon after dusk I, too, had to lie still among them all, till morning: for they lay dark, and to move at any pace would have been to drown the already dead.
Well, I came to the Thames-mouth, and lay pretty well in among the Flats and Pan Sands towards eight one evening, not seven miles from Sheppey and the North Kent coast: and I did not see any Nore Light, nor Girdler Light: and all along the coast I had seen no light: but as to that I said not one word to myself, not admitting it, nor letting my heart know what my brain thought, nor my brain know what my heart surmised; but with a daft and mock-mistrustful under-look I would regard the darkling land, holding it a sentient thing that would be playing a prank upon a poor man like me.
And the next morning, when I moved again, my furtive eye-corners were very well aware of the Prince's Channel light-ship, and also the Tongue ship, for there they were: but I would not look at them at all, nor go near them: for I did not wish to have anything to do with whatever might have happened beyond my own ken, and it was better to look straight before, seeing nothing, and concerning one's-self with one's-self.
The next evening, after having gone out to sea again, I was in a little to the E. by S. of the North Foreland: and I saw no light there, nor any Sandhead light; but over the sea vast signs of wreckage, and the coasts were strewn with old wrecked fleets. I turned about S.E., very slowly moving--for anywhere hereabouts hundreds upon hundreds of craft lay dead within a ten-mile circle of sea--and by two in the fore-day had wandered up well in sight of the French cliffs: for I had said: 'I will go and see the light-beam of the great revolving-drum on Calais pier that nightly beams half-way over-sea to England.' And the moon shone clear in the southern heaven that morning, like a great old dying queen whose Court swarms distantly from around her, diffident, pale, and tremulous, the paler the nearer; and I could see the mountain-shadows on her spotty full-face, and her misty aureole, and her lights on the sea, as it were kisses stolen in the kingdom of sleep; and all among the quiet ships mysterious white trails and powderings of light, like palace-corridors in some fairy-land forlorn, full of breathless wan whispers, scandals, and runnings-to-and-fro, with leers, and agitated last embraces, and flight of the princess, and death-bed of the king; and on the N.E. horizon a bank of brown cloud that seemed to have no relation with the world; and yonder, not far, the white coast-cliffs, not so low as at Calais near, but arranged in masses separated by vales of sward, each with its wreck: but no light of any revolving-drum I saw.

* * * * *

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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 気候はとても温暖で、空と海は航海の間ずっと目に快かった。そして日没には、抱えている重荷にも関わらず、驚くほど美しい感覚が呼び覚まされ、興奮させられた。ぼくはこれほどの夕焼けを見たことなどなかったし、こうして燃え上がるような、圧倒的に魅惑的なものを想像したこともなかった。
 天空全体が、宇宙を賭けた階級闘争の闘技場に変わってしまったかのようで、戦いに破れた神が敵から受けた傷によって血にまみれ飛んでいる時の、その狂乱した相貌を思わせた。もちろんぼくは、これまではずっと畏怖の念とは無縁のままで黄昏を見てきたから、それが全能の神の抜き放たれた剣の予兆であるなどとは思ったわけではない。だがある朝、十九世紀末の鮮烈な黄昏の記憶がぼくを剣のように貫いたのだが、それはヨーロッパでもアメリカでも観測されたもので、クラカトア火山の噴火の影響が世界を覆ったものに違いなかった
 ぼくは以前、ふと想ったことがあった。「もしも今、《深海》から波が押し寄せ、この地上の船を残らず洗い流してしまったとしたら……」だが今ではこう想っていた。「波は……《深海》からやってくるのではない。むしろ、母的とはいえない地球自身の内臓にずっと蓄えられていたものが噴出したのだ、と言うべきなのだ……」
 
 *****
 
 ぼくにはモールス信号、それにティッカー、電信機、そして通常の無線とコヒーラーの操作など、科学者の興味の範疇にあるものについては、基本的な知識がそれなりにあった。かつてぼくはスタニストリート教授と共同で、「科学技術の応用」と題した専門書を著したことがあったが、それはあまり良い評価を受けなかった。だが近代技術の細部の知識は、まだぼくの記憶の中に鮮明に残っていた。それゆえ、ベルゲンからでもスタバンゲルからでも、もしバッテリーがあれば、どこかに向けて電信を使うことは出来た。だが、しなかった。ぼくは恐れていた。どこからも何の反応も返ってこないということ、それが怖かったのだ……
 
 *****
 
 ちょっと頑張れば、ハルに上陸することが出来た。だが、しなかった。ぼくはそれも怖かった。氷の静寂には慣れていた。海の静寂にも慣れていた。だが、英国の静寂は恐ろしかった。
 
 *****

****************


Very benign, I say, and pleasant to see, was sky and sea during all that voyage: but it was at sun-set that my sense of the wondrously beautiful was roused and excited, in spite of that great burden which I carried. Certainly, I never saw sun-sets resembling those, nor could have conceived of aught so flamboyant, extravagant, and bewitched: for the whole heaven seemed turned into an arena for warring Hierarchies, warring for the universe, or it was like the wild countenance of God defeated, and flying marred and bloody from His enemies. But many evenings I watched with unintelligent awe, believing it but a portent of the un-sheathed sword of the Almighty; till, one morning, a thought pricked me like a sword, for I suddenly remembered the great sun-sets of the later nineteenth century, witnessed in Europe, America, and, I believe, over the world, after the eruption of the volcano of Krakatoa.
And whereas I had before said to myself: 'If now a wave from the Deep has washed over this planetary ship of earth...,' I said now: 'A wave--but not from the Deep: a wave rather which she had reserved, and has spouted, from her own un-motherly entrails...'

* * * * *

I had some knowledge of Morse telegraphy, and of the manipulation of tape-machines, telegraphic typing-machines, and the ordinary wireless transmitter and coherer, as of most little things of that sort which came within the outskirts of the interest of a man of science; I had collaborated with Professor Stanistreet in the production of a text-book called 'Applications of Science to the Arts,' which had brought us some notoriety; and, on the whole, the minutiae of modern things were still pretty fresh in my memory. I could therefore have wired from Bergen or Stavanger, supposing the batteries not run down, to somewhere: but I would not: I was so afraid; afraid lest for ever from nowhere should come one answering click, or flash, or stirring....

* * * * *

I could have made short work, and landed at Hull: but I would not: I was so afraid. For I was used to the silence of the ice: and I was used to the silence of the sea: but I was afraid of the silence of England.

* * * * *

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




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 カムリルは黙り込んだ。遥かな地中に眠っている書物の山に想像を巡らしているようだった。
 「さらに大きな問題は言語だ」と僕は言った。「全く読めない言語で書かれている本も、少なくないんだ。例えば、単なる別の国の言語ではなくて、既に失われて久しい言語。そういうのは、ほとんどがもうどうしようもない。言語学者の領域だね。そこでその本の整理は完全にストップしてしまう。読めない本として、分類するしかないんだ。でもそうした本の中には、実は重要な本もきっと沢山あるんだろう。そう思うと、とてもやりきれなくなるね。図表なんかがあって、それがいかにも意味ありげだったりすると、なおさらだ。なんとか読めないか、手がかりだけでもないか、そう思っているうちに時間が過ぎてしまったりする。そんなことをしても、仕方ないのにね。でも僕の場合は、自分のためという個人的な事情もあるから、いちいち引っかかってしまうんだ。もっとも、司書のオルラさんによると、それは僕だけではなくて、こんな地下深くの穴倉のような場所で書物の整理をしようというような人は、何かしらの趣味の領域というか、古い本に対する愛着を持っているので、多かれ少なかれそういう傾向はあるということだったけれど」
 ふと、目の前を光が横切った。仄かな、緑色の小さな光だ。そしてその光を追うように、同じような光の点がいくつか、部屋を横切っていった。蛍だろう、とぼくは思った。だけどもしかしたら《渡り火》の種子かもしれない。この部屋に《渡り火》があるなら、の話だが。やがてその光は部屋の片隅に辿り着くと、光を点滅させ始めた。やはり蛍のようだ。僕は話を続けた。
 「僕が目にしたのは、書庫のほんの一部に過ぎないし、それでこれだけ打ちのめされたような気分になるのだから、気が遠くなるよ。でも楽しみでもある。さっき話した司書のオルラさんも、それから館長のヴァレックさんも、『太陽について書かれた本ならかなりある』と請け負ってくれたから。でもまあ、ヴァレックさんは『大半は何の参考にもならないだろう』とは付け加えてもくれたけれどね。結局はホープスン、ということになるらしい。太陽についての記述の最初の部分で、ホープスンはこんな風に書いていたね。『かつて世界を《太陽》が照らし出していたという《神話》に関して、その真偽を問う必要を感じない。この《ミッドナイトランド》に現在存在する、物言わぬ様々な事物が、それを《真実》だと雄弁に語っているからだ。テスラ・グラインの《太陽》は、わたしがこれまでに読んだ中で最も《太陽》についての詳細な研究がまとめられた一冊だが、改めてそうした書を開くまでもなく、現在この《ミッドナイトランド》に存在する生物や無生物のあらゆる断片に、《太陽》の痕跡が認められる。これほど多様な生物が存在するためには、その創世において途方もないエネルギーが消費されたに違いないが、そうしたエネルギーの供給源として考えられるものとしては、《太陽の光》という莫大なエネルギー以上に便利な素材はないように思える。従って、かつてこの世界に多様な生物を生み出した《太陽》は、確実に存在したと考えるのが自然であろう。現在この世界に存在する生物の多くが光に依存し、さらに光を放つ性質を持つものが多いというのは、その名残に他ならないだろう。また、物言わぬ鉱物や遺構の中にも、その断片が伺えるものが多数存在する』ホープスンはこのあと、様々な文献にある《太陽》に関する記述を引用しながら、数十ページに渡って分析をしているんだけれど、結局のところ誰も見たことがないのだから、いくらページを割こうとも、漠然としたイメージにしかならないんだ。そして、様々な書物の中にある《太陽》像は、ほとんど全てこの中に列挙されている引用部分のヴァリエーションにしかすぎないんだ。ヴァレックさんが言いたかったのは、純粋に学問的な知識を得ることは出来ても、僕が望んでいるようなものを得ることは不可能だろうという意味なんだろうね。ヴァレックさんには、僕が本当は《太陽》のことを単に知りたいというのではなく、それを体で感じたいのだということが、分かっているんだろうね。完璧に失われたものを取り戻すことはできない。だからそれが不可能だということは、僕にも分かってはいるんだけれど、心の中のどこかで、それがもしかしたら可能なんじゃないかと思っている部分もあるんだ」

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 スタバンゲルからは、真っ直ぐにハンバーに向かった。
 ノルウェイの沿岸を後にして間もなく、次から次へと船に出遇うようになった。昼間には太陽が輝き夜には太陽が隠れるという通常のサイクルを持った海域に入る頃までには、信じがたいほどの数の船団の中を通り抜けたが、それは極めて広範囲に広がっていた。
 北極海の途方もない広さの中では、交易が最も盛んであった頃でさえ、船乗りたちが目にする船といえばせいぜい一艘か二艘といった程度だったろうが、今では常に少なくとも十や二十艘の船が望遠鏡の中に認められ、それが四十から四十五艘にも及ぶこともあった。
 船はとても静かに静寂の海に浮かび、まるで死者の唇のような鉛色をしていて、それ自体が死体のようだった。その余りにも平穏な様子は気味が悪かった。海は重く、大気には薬品が含まれているかのようだった。
 ぼくの船の進む速さが遅かったのは、最初はどの漂流船もきちんと調べるつもりだったからだが、余りにも遠すぎるものは詳細な調査のために近づくというのは諦めて、望遠鏡を使って調べるだけに留めることにした。船団は雑多な群れからなる奇妙な混合艦隊で、沢山のトロール漁船、あらゆる国籍の戦艦、それには使われた形跡があった、遊覧船のようなもの、小型帆船、フェラッカ船、定期船、蒸気船、巨大な四本マストの帆船、海峡連絡線、ラガー式小型帆船、ヴェネチアン・ボート、ヨット、フランスのタグ・ボート、練習船、浚渫船、曲がった鍵竿のついたダーハビア(訳注:ナイル川の屋形船)、マルセイユの漁師、マルタ島のスペロナーレ、アメリカの沖合漁船、ミシシッピの蒸気船、ソレントのラグ・スクーナー、ライン河のパント船、雑用艇、古いフリゲート艦と三層甲板船、ストロンボリのカイーク、ヤーマスのボロ舟、ジーベック(訳注:小型の三本マスト帆船)、ロッテルダムの平底船、浮舟、単なる厚板の筏など――あらゆる場所からあらゆる船が、人々を乗せてここにやって来ていた。そしてどの船も、やはり西か北、あるいはその中間を目指していた。そしてやはり人を満載していた。全ての船は、死者を乗せて虚ろに海を彷徨い続ける墓棺であった。
 我々を取り巻く世界は快晴だった。抜けるように爽やかな、澄み渡る秋の大気は穏やかで、桃のみずみずしい香りが漂っていた。だが、全く大気が動かないわけではなく、もし漂流船のすぐ近くの風下を通ったとしたなら、朝夕を問わず、墓所へと誘うには熟しすぎた、死を呼ぶ芳香の微かな香ばしい香りが漂ってきて、ぼくを取り巻いたに違いない。
 これはぼくには忌まわしく呪われたもので、そうした疫病や混乱や曖昧さは罪にも等しく思われたから、次第に船を捜すよりもどちらかというと遠ざけるようになり、同時に、遠い北方より遥々と連れてきた十二人の仲間たちを一人づつ海へと投げ入れていった。船は今では安定した温帯域に入っていたからだ。
 その毒が何であるにせよ、死体に対して防腐効果か消毒効果があるのだと確信していた。アーダハイムでもベルゲンでもスタバンゲルでも、ジャケットを着ないで済むほどだったし、単なる気配と溶解の過程の仄かな香りに悩まされただけだったからだ。
 
 *****

****************


From Stavanger I steered a straight course for the Humber.
I had no sooner left behind me the Norway coast than I began to meet the ships, the ships--ship after ship; and by the time I entered the zone of the ordinary alternation of sunny day and sunless night, I was moving through the midst of an incredible number of craft, a mighty and wide-spread fleet.
Over all that great expanse of the North Sea, where, in its most populous days of trade, the sailor might perhaps sight a sail or two, I had now at every moment at least ten or twelve within scope of the glass, oftentimes as many as forty, forty-five.
And very still they lay on a still sea, itself a dead thing, livid as the lips of death; and there was an intensity in the calm that was appalling: for the ocean seemed weighted, and the air drugged.
Extremely slow was my advance, for at first I would not leave any ship, however remotely small, without approaching sufficiently to investigate her, at least with the spy-glass: and a strange multitudinous mixture of species they were, trawlers in hosts, war-ships of every nation, used, it seemed, as passenger-boats, smacks, feluccas, liners, steam-barges, great four-masters with sails, Channel boats, luggers, a Venetian burchiello, colliers, yachts, remorqueurs, training ships, dredgers, two dahabeeahs with curving gaffs, Marseilles fishers, a Maltese speronare, American off-shore sail, Mississippi steam-boats, Sorrento lug-schooners, Rhine punts, yawls, old frigates and three-deckers, called to novel use, Stromboli caiques, Yarmouth tubs, xebecs, Rotterdam flat-bottoms, floats, mere gunwaled rafts--anything from anywhere that could bear a human freight on water had come, and was here: and all, I knew, had been making westward, or northward, or both; and all, I knew, were crowded; and all were tombs, listlessly wandering, my God, on the wandering sea with their dead.
And so fair was the world about them, too: the brightest suavest autumn weather; all the still air aromatic with that vernal perfume of peach: yet not so utterly still, but if I passed close to the lee of any floating thing, the spicy stirrings of morning or evening wafted me faint puffs of the odour of mortality over-ripe for the grave.
So abominable and accursed did this become to me, such a plague and a hissing, vague as was the offence, that I began to shun rather than seek the ships, and also I now dropped my twelve, whom I had kept to be my companions all the way from the Far North, one by one, into the sea: for now I had definitely passed into a zone of settled warmth.
I was convinced, however, that the poison, whatever it might be, had some embalming, or antiseptic, effect upon the bodies: at Aadheim, Bergen and Stavanger, for instance, where the temperature permitted me to go without a jacket, only the merest hints and whiffs of the processes of dissolution had troubled me.

* * * * *

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki








 途中の船の羅列、ちゃんと調べてないので、適当かもしれません。

 どうも風邪をひいてしまったようで、二三日前から頭が働かない。おまけに珍しく舌に三箇所口内炎が出来て、持病の頭痛までしている。地味に辛い三重苦。うーん。


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 ぼくは想った。もし今、《深海》から波がやってきて、この惑星の船を地球上から一掃し、そしてぼくがたった一人の生存者であるということになったとしたなら……神よ、ぼくはその時いったいどうすればいいのだろう?
 
 *****
 
 この小さな町には、ノルウェイの水辺のブヨを除けば、生きているものはいないと肌で感じた。まるでブンブンと唸る羽音と《永遠》の風味を一纏めに包み込み、防腐処置を施したみたいだった。
 大抵の家は木造で、中には半円形の中庭にまで通じているポート・カーシャ(訳注:建物を通り抜けて庭に通じる車の通用門)を持つとても大きな屋敷もあり、建物は冬の大雪に備え、屋根板が合掌造りに葺かれていた。地面に近い場所にある、開け放した開き窓の一つをちらりと覗き込むと、帽子を被った太った老女が一人、うつ伏せで大きな磁器ストーブの前に倒れていた。ぼくは足を止めることなく歩き続け、通りをいくつか行き来しては調べて回り、暗くなった時には、山の峡谷へと下って行く草原にいた。そして翌朝、ぼくは自分がこの峡谷に沿ってかなり進んだ場所で、座りこんでいることに気が付いた。どのようにしてなのか、そしてどんな恍惚の中にあってなのか、夜のことはぼくの意識の中からはすっぽりと抜け落ちてしまっていた。空に光が戻った時、ぼくは辺りを見渡したが、堂々としたモミの樹の生い茂る山々が両側に聳え、今にも頭を付き合わせんばかりで、深い影を苔むした峡谷に投げかけていた。ぼくは起き上がり、方向も気に留めず前へと進み、空腹さえ感じないまま、数時間歩きに歩き続けた。途中、夥しい数のとても小さなイチゴが自生していて、冬になればもっと大きくなるには違いなかったが、少し摘み取って食べた。峡谷には青いリンドウ、谷間のユリ、むせかえるような新緑、そしてせせらぎの音があった。時折、高い所に小さな滝があるのを目にしたが、白い天然の布切れのようにはためき、落下の半ばで立ち消え、風にあおられて霧散していた。刈り取られた干し草と大麦の束が六フィートの高さの支柱の上に置かれるという、変わった方法で吊るされているところがあって、ぼくは乾燥させているのだろうと想像した。そこには高床になった仮小屋がいくつもあって、見たところ近寄りがたい城郭か都市のようだったが、入ってゆくのを咎める者は誰もいなかった。峡谷で目にした死体といえば、赤ん坊を抱いた婦人と、二頭の小型の雄牛を連れた男性、その五つだけだった。
 午後三時頃、ぼくははっと我に返り、引き返すことにした。再びアードハイムの陰気な通りを歩き始めた時には、辺りは暗くなっていて、波止場へと向かいながら、初めて空腹と、のしかかるような疲労を感じた。どこかの家に入ろうという考えもなかったが、ある開かれたポート・カーシャの前を通りがかった時、引き込まれるようにさっとその中に入り込んでしまったのだが、それはまるで心が風に乗った綿毛のようになってしまったかのようで、自分の意思でそう働きかけたのではなく、外から作用した、ふとした戯れの行動だった。ぼくは中庭を横切り、木製の螺旋階段を上ったが、黄昏の残光のおかげで、五、六体ほど転がっていた闇に紛れた人影を避けることが出来た。閉鎖的な空間の中で、異様な不安がぼくを包み込んだ。ぼくは最初の踊り場に立ってドアに手を掛けたが、鍵がかかっていた。それで次の踊り場に向かった。ドアは開いており、ゾッとしながらも恐る恐る一歩中へ足を踏み入れたが、中は真黒の闇で、窓は閉じられていた。ぼくは躊躇った。とても暗かった。言葉を発しようとしたが、出てきたのは自分の耳にさえ聞こえない、蚊の鳴くような囁きだけだった。ぼくはもう一度口を開いたが、今度は少しはマシな声が出た。「誰かいますか?」そう言いながら、もう一歩足を前に踏み出すと、柔らかい腹部を踏みつけた。その触感の恐ろしさは、何とも背筋が寒くなる戦慄で、ぼくは完璧に震え上がり、まるでその暗闇から、いきなり地獄のような目玉に狂った眼差しでじっと見詰められたかのような気がして、ザッと音を立てて血の気の引くのを感じながら部屋を出て、慌てふためいて階下に駆け下り、死体を踏みつけながら中庭を横切ると、通りに飛び出して、両手を広げて全力で走り、胸を震わせて泣きじゃくったが、それはアーダハイムのあらゆるものががぼくを追いかけて来ているかのように思ったからだった。その恐怖は、ボレアル号に乗り込んで、フィヨルドを下ってゆくまで静まることはなかった。
 ぼくは再び海に出た。続く数日の間にベルゲンを訪れ、次いでスタバンゲルに立ち寄った。そしてベルゲンとスタバンゲルが共に死都となっていることを知った。
 八月十九日、ぼくは舳先を故国へと向けた。
 
 *****

****************


I thought to myself: If now a wave from the Deep has washed over this planetary ship of earth, and I, who alone happened to be in the extreme bows, am the sole survivor of that crew?... What then, my God, shall I do?

* * * * *

I felt, I felt, that in this townlet, save the water-gnats of Norway, was no living thing; that the hum and the savour of Eternity filled, and wrapped, and embalmed it.
The houses are mostly of wood, some of them fairly large, with a porte-cochère leading into a semi-circular yard, around which the building stands, very steep-roofed, and shingled, in view of the heavy snow-masses of winter. Glancing into one open casement near the ground, I saw an aged woman, stout and capped, lie on her face before a very large porcelain stove; but I paced on without stoppage, traversed several streets, and came out, as it became dark, upon a piece of grass-land leading downward to a mountain-gorge. It was some distance along this gorge that I found myself sitting the next morning: and how, and in what trance, I passed that whole blank night is obliterated from my consciousness. When I looked about with the return of light I saw majestic fir-grown mountains on either hand, almost meeting overhead at some points, deeply shading the mossy gorge. I rose, and careless of direction, went still onward, and walked and walked for hours, unconscious of hunger; there was a profusion of wild mountain-strawberries, very tiny, which must grow almost into winter, a few of which I ate; there were blue gentianellas, and lilies-of-the-valley, and luxuriance of verdure, and a noise of waters. Occasionally, I saw little cataracts on high, fluttering like white wild rags, for they broke in the mid-fall, and were caught away, and scattered; patches also of reaped hay and barley, hung up, in a singular way, on stakes six feet high, I suppose to dry; there were perched huts, and a seemingly inaccessible small castle or burg, but none of these did I enter: and five bodies only I saw in the gorge, a woman with a babe, and a man with two small oxen.
About three in the afternoon I was startled to find myself there, and turned back. It was dark when I again passed through those gloomy streets of Aadheim, making for the quay, and now I felt both my hunger and a dropping weariness. I had no thought of entering any house, but as I passed by one open porte-cochère, something, I know not what, made me turn sharply in, for my mind had become as fluff on the winds, not working of its own action, but the sport of impulses that seemed external. I went across the yard, and ascended a wooden spiral stair by a twilight which just enabled me to pick my way among five or six vague forms fallen there. In that confined place fantastic qualms beset me; I mounted to the first landing, and tried the door, but it was locked; I mounted to the second: the door was open, and with a chill reluctance I took a step inward where all was pitch darkness, the window-stores being drawn. I hesitated: it was very dark. I tried to utter that word of mine, but it came in a whisper inaudible to my ears: I tried again, and this time heard myself say: 'anyone?' At the same time I had made another step forward, and trodden upon a soft abdomen; and at that contact terrors the most cold and ghastly thrilled me through and through, for it was as though I saw in that darkness the sudden eyeballs of Hell and frenzy glare upon me, and with a low gurgle of affright I was gone, helter-skelter down the stairs, treading upon flesh, across the yard, and down the street, with pelting feet, and open arms, and sobbing bosom, for I thought that all Aadheim was after me; nor was my horrid haste appeased till I was on board the Boreal, and moving down the fjord.
Out to sea, then, I went again; and within the next few days I visited Bergen, and put in at Stavanger. And I saw that Bergen and Stavanger were dead.
It was then, on the 19th August, that I turned my bow toward my native land.

* * * * *

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Transrated by shigeyuki




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 僕は言葉を失った。太陽を作る?ふと口をついて出たものの、そんな発想はこれまで思い浮かんだことさえなかった。僕はじっと彼女の眼を見詰め、束の間想像を巡らそうとした。だが何一つ浮かんではこなかった。
 「まさか」と僕は言った。「本気で?でも、どうやって?想像もつかないよ」
 「白状すると、わたしにもまだ分からないの」カムリルは笑った。「でも、何となく、イメージはあるんだけどね。それで、あなたにも協力して欲しいのよ」
 「協力?それはいいけど、何を協力すればいいのかな?」
 「簡単よ。太陽のことを教えてくれればいいの。そしたら、わたしがそれを形にするわ。イメージを膨らませてね」
 「教えるって言っても、僕も見たこともないわけだし、本当にそんなものがあったのかということさえ、分からないんだし……」
 「何を言ってるのよ。あなた、そのために図書館に入ったんでしょう?わたしが太陽に惹かれるようになったのは、そもそもあなたの語ってくれた古えの太陽の話からなのよ。この世界で、あなた以上に太陽のことに詳しい人なんて、きっといないわけでしょう……」
 僕は言葉に詰まった。確かに僕は太陽に憑かれていた。子供の頃、太陽の夢を見たあの日からずっと、太陽の幻の光に灼かれ続けていた。太陽のことに関して言えば、この街の誰にも負けないほどの知識があるだろうという自負は、確かにあった。だが、僕にとって太陽の光は常に神話の彼方にあるもので、この世界に蘇らせるというようは発想は、抱いたことさえなかった。
 だけど、と僕は思った。太陽をこの世界に作る。不可能だとしても、とても面白い考えだ。カムリルならば――ぼくは部屋の中を見渡した――もしかしたら、ある意味においてなら、それが可能かもしれない。
 「まあ、もしかしたらそうかもしれないね」僕は言った。「太陽を本当にこの世界に作り出すことができるなら、僕も見てみたい。いや、感じてみたいと言うべきだろうね。そのためになら、協力できることは、何でも協力するよ」
 「良かった。完成したら、わたしとあなたの共同作品ね」カムリルは言った。

 「一度ちゃんと最初から整理しておく方がいいね」と僕は言った。ベッドの中から見上げると、ここが部屋の中だということを忘れてしまいそうになる。涼しげな虫の音も聞こえてくる。虫たちの発する光も、一部の植物には重要なエネルギーとなるのだ。「一般的に知られている太陽についての最古の記録は、十世紀ほど昔にホープスンによって編纂された『黄昏ゆく世界』だけど、ここに最も有名な太陽の記述がある。『黄昏ゆく世界』は、《ミッドナイトランド》の歴史書だから、そうした神話上の時代のことについてはほんの僅かしか触れられていないけれども、ともかくとても大きなインパクトがある部分だ。けれどもホープスンは、過去の様々な文献を引き合いに出しながら、太陽という存在が世界の上にあって凄まじい光を放っていたということを、あえて深く踏み込むことなく、ひとつの『伝説』として淡々と記述している。多分、普通に知られている『太陽』というもののイメージは、ここから来ているんだろうと思う。ホープスンは、自分の太陽に関する知識は過去の多くの書物に負っているとして、沢山の参考文献を挙げ、そこからの引用をしているけれど、七世紀前に起きた《大瓦解》の時、古い書物は散逸してしまったものが多く、特にこの中で引用されている文献に関しては、今では既に世界から一冊残らず失われてしまった書物とされているものが多いから、このホープスンの歴史全書がほとんど唯一の資料となってしまっているんだ。例えば『黄昏ゆく世界』の中で最も引用されている回数が多い本は、その書名もずばり『太陽』で、著者はグラインということだけれど、この本は見つかっていない。完全に失われてしまったのかもしれないし、どこかの図書館の地中深くに積み上げられた書物の中にひっそりと眠っているのかもしれない。いずれにせよ、今のところは、ホープスンの本の中からその概要を知る以外にはないんだ。他にも、例えばバラーダという名前の著者による「灼けた砂」という作品がある。ホープスンよりも遥かに古い時代の作家による小説作品だが、それだけに説得力があるとホープスンは述べている。でも、これも見つかっていない。今でも残っている資料もそれなりにはあるけれど、どれもホープスンの大著の前では霞んで見えるものばかりで、新味はない。つまり、今のところ太陽についての確かな資料は、ホープスンの著作を除いて、皆無といっていいんだ」
 「それで、あなたは新たな資料を探しているのよね」
 「そうだよ。この《瑪瑙市》の図書館の地下深くには、《大瓦解》を生き延びた数十世紀分の膨大な資料が眠っているんだ。《大瓦解》以来、きちんとした整理もされず、ほとんど手付かずのままで。その中には、失われたと思われている書物もあるかもしれないし、もしかしたらホープスンにさえ目が届かなかった資料もあるかもしれない」僕は言った。「いや、きっとあると思うんだ。それも、相当な数が」
 「いくら数が多いと言ったって、調べるのがそれほど大変なことなのかしら?」
 「大変だよ。そんなに簡単なことじゃない。古い本は、大半が表紙や背表紙に書かれている文字が読めなくなっている。だから開いて調べるしかないんだけれど、脆くなっているから簡単に扱えないものが多いし、それに完本じゃないものも多いんだ。一冊の本がばらばらになってあちらこちらにあるとかね。数が少なければそれでもそれほど大変ではないかもしれないけれど、何せほとんど天文学的な数だ。はっきり言って、普通なら手をつけようとさえ思わないだろうね」

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 今日は奥多摩の御岳山へ。
 ロープウェイで山頂へ上り、そこから御岳神社を経て、ロックガーデンへ向かう。
最初は七代の滝も見ようと思っていたのだが、途中で分かれる道が余りにも急なため、今回は諦めて、天狗岩を経由して、まっすぐにロックガーデンへと降りていった。
 ロックガーデンというのは、要するに渓流に沿った山道で、その名前の通り岩石がごろごろしている。涼しくて、気持ちのよい道。肺が洗われる感じがする。ウォーキングコースになっていて、山道は山道だが、歩きやすいように道が整備されているから、二時間もあれば、充分に一周できる。写真は途中にある綾広の滝。
 帰りは、山頂駅から下の駐車場まで歩いたが、ずっと急な舗装道路で、歩きやすいことは歩きやすいが、膝に結構負担がかかる。時間にすれば四十分ほどだが、あまりお勧めできる下り道ではないかもしれない。

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 ついに船はフィヨルドのやや広い水域にまで達したが、周囲は高く聳える山々の急斜面によって遮られ、水面には雲に煙った岩肌が映し出されていた。そしてその袋小路に、ぼくは何艘かの船と波止場、そしてひっそりとした素朴な田舎町を見つけた。
 音もなく、人の姿も見えなかった。あるのはただ、ボレアル号の物憂げに鳴り響くエンジンの音だけだった。ここは清明とした場所だったが、《沈黙の天使》が通り過ぎ、その大鎌を振るっていったのだろう。
 ぼくは港に入っていってエンジンを止め、錨は下ろさず、船の脇に停泊していた無人のボートに乗り移った。そして二十ヤード先にある小さな波止場に櫂を進めていった。進む先には、三つのジブ(船首三角帆)、ステイスル(支索帆)、スクウェア・セイル(横帆)、メーンスル(主帆)、フォースル(前檣帆)を備えたブリガンチン型帆船が停泊していたが、この平穏な場所で帆は物憂げに垂れ下がり、水に映った船の鏡影は、静かにその帆を水の中に浮かべていた。そこには三艘の木材運搬スクーナー船、四十トンの汽船、バーク型帆船、五艘のノルウェイの鰊漁船、そして十から十二の軽舟が停泊していた。どの小型船も、船首から船尾まで全ての帆を張っていたが、ぼくが側を通過する際、どの船の周囲にも甘く嫌悪すべきあの香りと死を司る神の存在を示唆する匂いの両方が立ち込めていて――アズラーイール(訳注:イスラム教の死の天使)の精神と役割である――ぼくには全ての想像がついた。とは言え、ぼくはちらりと目をやったが、やはり死者を満載していた。
 ぼくは海草だらけの桟橋を上り、その見知らぬ場所をぼんやりと眺めていたが、ふとあることに気付いた。例えるなら、新しい服を身に着けた時の軽快な感覚を感じたのだ。気候はとても温暖だったから、ぼくはそろそろ夏服に着替えなければと思っていはいたが、今のところはまだ普通の無染色のウールのシャツを袖を折り返して着ており、ズボン吊りにベルト、長い髪の上にはハンチング帽を被り、靴紐のない古い黄色の靴を履き、靴下は履いていないといういでたちだった。ぼくは波止場の水際にある、ごつごつとした岩の上に立ち、そこから一番近い、背の低い家までの間に横たわっている未舗装の地面を見渡した。
 ぼくが見たものは、単に悲惨であるというだけではなく、驚嘆すべき光景だった。こうして夥しい数の人間が死んで横たわっているのは、悲惨な光景だった。だが、これだけの数の人々が同時に「一ヶ所に集まった」という、そのことには驚嘆させられた。
 彼らはそこに希望を見て、共に考え、船で西に向かおうとしたのだ。
 そしてこの様子から、瞳を閉じて眠りに就いた死者たちの周りには、北でも南でも東洋でもない、どこか「別の場所」の空気が存在したということが伺えた。
 ぼくの立っている場所から二ヤードの所には、三人のグループが横たわっていた。一人はノルウェイ人の農民の娘で、オリーブグリーン色のスカートを履き、真紅の胸衣、刺繍のある胴衣に、銀の刺繍で装飾されたスコットランドの帽子を被っていた。二人目は半ズボンを履いたノルウェイの老人で、十八世紀の小さな服と赤い毛糸の帽子を身につけていた。三人目は、青白いポーランドの年老いたユダヤ人で、ゆったりとした作業着に、耳あての付いたスカルキャップを被っていた。
 波止場と広場の中心にある小さな石造りの噴水の間には、伐採後の切り株のように、人々が一面に横たわっていたが、ぼくはそこに近づき、この辺りの北方の民族に混ざって、おそらくはスペイン人かイタリア人の肌の黒い婦人が二人、高価なドレスを着て死んでいる姿や、マジャール人だと思われるモンゴリアンの死者、大きなズァーヴドレスを着た黒人、それに二十五歳くらいのフランス人、それから二人のフェズ帽を被ったモロッコ人、シェリーフの緑のターバン、それに白人の導師などを目にした。
 ぼくは自分にこう問いかけた。「どうしてこの外国人たちは、こんなに北にあるちっぽけな町にまで漂って来たのだろう?」
 ぼくの内なる声はこう答えた。「あらゆる部族の人間が、こぞって北へ西へと押し寄せたのだ。そしてこのぼく、アダム・ジェフソンがこの場所で見ているものは、その押し寄せた人々の巨大な奔流から遠く飛び散った、ほんの僅かな飛沫にすぎないのだ」
 
 *****
 
 ぼくは目の前の通りを、慎重に、とても慎重に進んだ。波止場の広場にあったのは完全な静寂などではなく、夥しい数の蚊の大群という恐怖であり、その奏でる音は、エルフランドのバイオリンの弓が奏でる夢のような音楽にも似ていた。通りは舗装されていたが、狭く急勾配で、暗かった。ぼくはじっと耐え忍びながら、その死に絶えた町を通り抜けたが、その時の気持ちは、地球の重さに耐えているという、神話上に名高いアトラスだけが推測できることであろう。
 
 *****

****************


The fjord opened finally in a somewhat wider basin, shut-in by quite steep, high-towering mountains, which reflected themselves in the water to their last cloudy crag: and, at the end of this I saw ships, a quay, and a modest, homely old town.
Not a sound, not one: only the languidly-working engines of the Boreal. Here, it was clear, the Angel of Silence had passed, and his scythe mown.
I ran and stopped the engines, and, without anchoring, got down into an empty boat that lay at the ship's side when she stopped; and I paddled twenty yards toward the little quay. There was a brigantine with all her courses set, three jibs, stay-sails, square-sails, main and fore-sails, and gaff-top-sail, looking hanging and listless in that calm place, and wedded to a still copy of herself, mast-downward, in the water; there were three lumber-schooners, a forty-ton steam-boat, a tiny barque, five Norway herring-fishers, and ten or twelve shallops: and the sailing-craft had all fore-and-aft sails set, and about each, as I passed among them, brooded an odour that was both sweet and abhorrent, an odour more suggestive of the very genius of mortality--the inner mind and meaning of Azrael--than aught that I could have conceived: for all, as I soon saw, were crowded with dead.
Well, I went up the old mossed steps, in that strange dazed state in which one notices frivolous things: I remember, for instance, feeling the lightness of my new clothes: for the weather was quite mild, and the day before I had changed to Summer things, having on now only a common undyed woollen shirt, the sleeves rolled up, and cord trousers, with a belt, and a cloth cap over my long hair, and an old pair of yellow shoes, without laces, and without socks. And I stood on the unhewn stones of the edge of the quay, and looked abroad over a largish piece of unpaved ground, which lay between the first house-row and the quay.
What I saw was not only most woeful, but wildly startling: woeful, because a great crowd of people had assembled, and lay dead, there; and wildly startling, because something in their tout ensemble told me in one minute why they were there in such number.
They were there in the hope, and with the thought, to fly westward by boat.
And the something which told me this was a certain foreign air about that field of the dead as the eye rested on it, something un-northern, southern, and Oriental.
Two yards from my feet, as I stepped to the top, lay a group of three: one a Norway peasant-girl in skirt of olive-green, scarlet stomacher, embroidered bodice, Scotch bonnet trimmed with silver lace, and big silver shoe-buckles; the second was an old Norway man in knee-breeches, and eighteenth-century small-clothes, and red worsted cap; and the third was, I decided, an old Jew of the Polish Pale, in gaberdine and skull-cap, with ear-locks.
I went nearer to where they lay thick as reaped stubble between the quay and a little stone fountain in the middle of the space, and I saw among those northern dead two dark-skinned women in costly dress, either Spanish or Italian, and the yellower mortality of a Mongolian, probably a Magyar, and a big negro in zouave dress, and some twenty-five obvious French, and two Morocco fezes, and the green turban of a shereef, and the white of an Ulema.
And I asked myself this question: 'How came these foreign stragglers here in this obscure northern town?'
And my wild heart answered: 'There has been an impassioned stampede, northward and westward, of all the tribes of Man. And this that I, Adam Jeffson, here see is but the far-tossed spray of that monstrous, infuriate flood.'

* * * * *

Well, I passed up a street before me, careful, careful where I trod. It was not utterly silent, nor was the quay-square, but haunted by a pretty dense cloud of mosquitoes, and dreamy twinges of music, like the drawing of the violin-bow in elf-land. The street was narrow, pavered, steep, and dark; and the sensations with which I, poor bent man, passed through that dead town, only Atlas, fabled to bear the burden of this Earth, could divine.

* * * * *

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Transrated by shigeyuki




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