「ムントゥリャサ通りで」 ミルチャ・エリアーデ著 直野敦訳
法政大学出版局刊
を読む。
おそらくは年内最後の読了作になると思いますが、最後の最後で、今年読んだ本の中でベストと言っていい一冊に出会いました。160ページほどの、さほど長くない長編なのですが、その中に広がる物語はあらゆる方向へと奥行きを持ち、一読しただけではまるで消化できたとは思えません。いったいこの小説は何なのでしょうか。千夜一夜物語やサラゴサ手稿のようでもあり、推理小説のようでもあり、スパイ小説のようでもある。非常に神秘的な幻想文学のようでもありながら、実はひたすらリアルな物語のようでもあるわけです。
物語は、ファルマという老人がかつて教え子であったというボルザ少佐を訪ねるところから始まり、ほとんどがそのファルマの思い出話によって進められてゆきます。ただ、この話というのが饒舌な上にぶっ飛んでいて、時間軸が行ったり来たりしながら物語がまた別の物語を生むといった有様なので、なかなか全貌をつかめません。もう一度最初に戻って、きちんと整理しながら読み直さなければ、とても少しでも分かったような気にはなれそうにありません。ですが、これだけ手応えを感じる幻想文学に出逢うのも、久々な気もします。
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というわけで、おそらくこれで今年最後の更新となります。なので、恒例となった、今年読んだ本のベスト10と、寸評を。順不同です。
●ジャック・ヴァンス「天界の眼:切れ者キューゲルの冒険」(国書刊行会)
天才的な能力を持つキューゲルという人間の物語なのかと思いましたが、別の意味での「切れ者」でした。最低男の行きあたりばったりの冒険譚。
●バリントン・J・ベイリー「ゴッド・ガン」(早川書房)
粒の揃った短編集だったのですが、何より、ともかく「ブレイン・レース」が好き。今年一番気に入った短編かも。
●デュ・モーリア「鳥」(東京創元社)
これも見事に粒の揃った短編集。ハズレは一つもなし。デュ・モーリアは天才的な書き手だなと思いました。
●レオ・ペレッツ「夜毎に石の橋の下で」(国書刊行会)
長編なのですが、短編集としても読めます。どちらかと言えば、連作短編集の妙を味わえた気がします。
●柞刈湯葉「横浜駅SF」(KADOKAWA / 富士見書房)
横浜駅が自己増殖して、日本を埋め尽くす話。ただ、設定はすごいのだけれど、物語性はやや物足りないところもありました。
●エドゥアルド メンドサ「グルブ消息不明」(東宣出版)
これは、ちょっとあまりないタイプの小説でした。適当に書いたのか、きちんと考えて書いたのか、よくわからないという。頭を空っぽにして楽しむとよさそうです。
●シャーリィ・ジャクスン「日時計」(国書刊行会)
とある屋敷の中で、先祖の霊が予言した「世界の終末」に備える人々の物語。ぼくはこれを幽霊屋敷ものであると読んだのですが、さまざまな解釈ができそうです。
●コニー・ウィリス「航路」(早川書房)
臨死体験について調べることで、その体験の正体をつきとめようと奮闘する女性学者の物語。圧倒的なボリュームですが、ぐいぐい読ませます。
●R・L・スティーヴンスン& L・オズボーン「引き潮」(国書刊行会)
文豪スティーブンスンが義理の息子オズボーンと合作した海洋冒険小説。登場人物たちの造形がすばらしかったです。
●ミルチャ・エリアーデ「ムントゥリャサ通りで」(法政大学出版局)
以上の10冊です。
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ところで今年は、もう12月に入ろうとする頃からだったと思いますが、突然、欅坂46にハマってしまいまして(正確に言えば、不動のセンターと言われる「てち」こと平手友梨奈にです)、ちょっと困っています。来年50歳なのにね。。。
アイドルが好きになったのなんて、もしかしたらピンクレディー以来かもしれません。まあ、生まれて初めて好きになったアイドルが山口百恵なので、「平成の山口百恵」とか言われている平手友梨奈に抗いがたく惹かれるのは、ある意味子供の頃から趣味が全く変わっていないということかもしれませんが、それにしても自分の娘よりずっと年下だからなあ。。。まあ、今のところ握手会だとかコンサートだとかには行くつもりはありませんが(さすがにちょっと恥ずかしいし、それに行ったところでそこに平手友梨奈がいるという保証がなさそう)、毎日のように動画サイトでちょっと動画を見てしまって、ただでさえ少ない読書の時間がどんどん奪われています。youtubeミックスリストだのおすすめだのに欅坂がずらりと並ぶので、youtube好きの妻は、PCを開く度にちょっと呆れているんじゃないでしょうか。
ですが、そもそもハマるきっかけをつくったのは、妻なんですよね。
あるとき、たまたま欅坂の「二人セゾン」のPVの動画を観て、これはぼくが高校生くらいだったら、きっと好きになっていただろうなと思い、そのことをちょっと妻に言ったんです。すると妻は、
「欅坂といったら、てちよね」
「てち?」
「不動のセンターと呼ばれてる、平手友梨奈」
そういう会話があって、改めて見ると、なるほど、途中でソロを踊っている少女がこのグループの魅力の中心になっていることがすぐに分かりました。妻は、あまりテレビを見ないぼくよりは芸能人に詳しいんですよね。ちなみに妻は、今は多部未華子がお気に入りらしいです。で、妻からいろいろと聞いて、「不協和音」を始めとするPVをいくつか見ているうちに、すっかり「てち」から目を離せなくなってしまいました。先日の、FNS音楽祭での平井堅とのコラボレーションも衝撃的でしたし。16歳にしてこの表現力と存在感は、ちょっとただごとではないし、逸材としか言いようがありません。有無を言わせぬ魅力があります。ファン歴一ヶ月ほどですが、その気になればいろいろと語ってしまえそうなところが、怖いです。
「不協和音」といえば、立憲民主党の枝野さんも、この曲を自分のテーマソングのようにしていると聞きました。彼女のファンになってごく浅いので、よく知っているわけでもありませんが、平手はこの曲をやると調子を崩すからあまりやらないようにしていると聞いたとき、もしかしたら本当は変な忖度であまりやらせてもらえなくなって、それが気に入らなくて最近はテレビでわざと元気のないような態度をとって見せているのではないかともちょっと思いましたが、今年の紅白では久々に「不協和音」をやるそうです。リアルタイムでの「不協和音」のパフォーマンスを見るのは初めてだし、ちょっと楽しみにしています。
それにしても、こんなんでいいのかな。なんだか、大森望さんみたいだなあ。
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エリアーデから欅坂46への話題の落差は、なかなかだったかもしれませんが、今年もいろいろとお世話になりました。個人的には、初めて読書会というものに参加させて頂いたりもして、なかなか楽しい一年でした。
それではみなさん、良い年をお迎えください。