「鬼談百景」 小野不由美著
幽Books メディアファクトリー刊
を読む。
雑誌に連載された、実話系怪談を99話収録した一冊。もちろん、フィクション(だと思う)。どの話もごく短く、それほどストーリー性があるわけでもないものが多い。
小野不由美の久々の新作だが、残念ながらこれは余り面白いものではなかった。これに収録されているいくつかの話とリンクした、ノンフィクション風長編物語「残穢」が同時発売されているが、それとあわせて百物語ということのようだ。「残穢」はまだ読んでいないが、おそらくはブレアウィッチ・プロジェクト風の、実際の話だか虚構だかがわかりにくいようなものだろうと思う。そちらのほうが、いくらか期待できるのかもしれない。
この本に収録されている話は、それほど怖くも面白くもないものが多いとはいえ、こういうスケッチ風の物語形式は実は好きだ。以前書いていた「汀の画帳」シリーズを、また書きたくなった。
ところで、東京では、石原元都知事がいきなり辞任して、国政に出ようと画策している。衰えない、常に極端に走ろうとする、その黒いエネルギーは本当に不気味だ。このような閉塞的な情勢では、支持を集めてしまいそうで怖い。政治がこんなにグダグダでなければ、石原氏のような「極」右の人物が入り込む余地はないだろうにと思わずにはいられない。威勢の良い声の大きさは、当然のことだが、正しさを意味するわけではない。物事を力づくで動かそうとすると、軋轢を産むものだし、その軋轢は不条理な犠牲を求めるものだ。そしてその犠牲とは、もしかしたら他の誰かではなく、その声を信じたあなたかもしれないのだ。