漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

紫の雲…90

2010年11月28日 | 紫の雲
 偉大なる朝が明けると、ぼくは早くから動き出した。やるべきことがたくさんあったからだ。
 翌日には海岸に向かうつもりだったから、そのために良いガソリン式の自動車を選んで、安全な場所に保管しておいた。また、別の貨車を用意して、その中にタイム・ヒューズ、本、服、それから細々としたものなどを積み込んだ。
 最初の行き先はウリッジで、そこでこの先必要になるかもしれない機器類をすべて手に入れた。それからナショナルギャラリーに向かい、そこで額から「聖ヘレナの夢」(訳注:ヴェネツィア・ルネッサンスの画家、パオロ・ヴェロネーゼの作品)、ムリーリョの「酒を呑む少年」と「円柱に縛りつけられたキリスト」を剥し取った。そして水浴するために大使館へと行くと、聖油を塗って、正装した。
 ぼくが予想し、期待していた通り、激しい春の嵐が北より吹いてきていた。
 ハンプステッドから出発したのは、午前九時頃だったが、ずっとぼくは、自分の用意した信管の中のいくつかは、決まった時刻をきちんと守ってくれているものだと推測していた。というのは、大気中の数カ所に三つの赤い靄が見えたし、断続的な爆発音を遠くに微かに聞いたからだ。午前十一時頃には、ロンドンの北東部の広い地域が炎に包まれているだろうということを確信していた。
 新郎の厳粛な感覚と婚姻の朝の――尻込みしたくなるようなとまどう気持ちとともに、けれどもスリリングな喜びに満たされる心とともに――ぼくはガルガンチュアの夜の饗宴の準備をするために出かけた。
 
 **********




The great morning dawned, and I was early a-stir: for I had much to do that day.
I intended to make for the sea-shore the next morning, and had therefore to choose a good petrol motor, store it, and have it in a place of safety; I had also to drag another vehicle after me, stored with trunks of time-fuses, books, clothes, and other little things.
My first journey was to Woolwich, whence I took all that I might ever require in the way of mechanism; thence to the National Gallery, where I cut from their frames the 'Vision of St. Helena,' Murillo's 'Boy Drinking,' and 'Christ at the Column'; and thence to the Embassy to bathe, anoint myself, and dress.
As I had anticipated, and hoped, a blustering spring gale was blowing from the north.
Even as I set out from Hampstead, about 9 A.M., I had been able to guess that some of my fuses had somehow anticipated the appointed hour: for I saw three red hazes at various points in the air, and heard the far vague booming of an occasional explosion; and by 11 A.M. I felt sure that a large region of north-eastern London must be in flames. With the solemn feelings of bridegrooms and marriage-mornings--with a flinching, a flinching heart, God knows, yet a heart up-buoyed on thrilling joys--I went about making preparations for the Gargantuan orgy of the night.

* * * * *


"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki


ドガ展

2010年11月26日 | W.H.ホジスンと異界としての海

 この前の日曜日、横浜で「ドガ展」を観た。
 ドガの絵をちゃんと観るのは、初めてだったかもしれない。
 人の入りは、まあほどほど。でも、メインの「舞台の踊り子」の前は、やはり人だかり。この絵を見たのも、初めてだったのだが、思ったよりも小さい。余りに有名なので、勝手にもっと大きなものだと思い込んでいた。それに、意外と荒い印象。浮世絵の影響があるというのは、背景からすぐにわかる。そこから踊り子が浮き出てくるような感じで、印象的ではあった。ただ、絵としていちばんよかったのは、身体をタライの中で洗っている後ろ姿の女性の絵かもしれない。

 この日は、赤レンガで何かコスプレの撮影会のようなものがあったようで、凄い数のコスプレの人がいた。写真は、ワンピースのルフィとエース。似たような格好に人が多い気がしたので、キャラクターにバラエティがあるのかどうかは、よくわからないけれど、なんかすごいのがいたなあ。かなり怖いのが。

 横浜に行ったのは、山下公園の近くにある新聞ライブラリーに寄るという大きな目的がひとつあって、家族と分かれて、一人でライブラリーに向かう。そこで一時間半ほど、読みにくいマイクロフィルムと格闘。藤元さんという、ヴェルヌ研究会会員でもある方に教えて頂いた、明治期の新聞に連載されていたホジスン作品の翻訳を確認していたのだ。一部破損していて、読めない部分もあったけれど、全てコピーしてライブラリーを後にした。その後、また家族と合流。横浜の散策に戻る。

 日差しはそれほどなかったけれど、暖かい一日で、嬉しかった。

レムリアの記憶・・・71

2010年11月23日 | レムリアの記憶
 我々は巨大な肉体の山を発見した。それは老アトランの前エルダー、ゼイトだった。彼は一つの市の区画と同じくらいに巨大な、ロダイトの同期装置の塊の中で鼾をかいていた。それは骨董的なものから現代の構造物まであったが、多くは明らかに古代の廃墟からの流用品であった。ゼイトは三百フィートあり、背が高いだけではなく、隠れ家の中での享楽的な生活のせいで、驚くほど太っていた。
 彼を生かしたまま地表まで連れてゆくのは一苦労になりそうだった。仮に兵士たちが彼をバラバラにして、それから後でまた組み立てるの必要があるということが判明したとしても、そんなに驚くことではなかっただろう。
 彼を地表にまで連れてゆくということは、僕には驚きだった。なぜなら、彼を発見したらすぐに跡形もなく吹き飛ばしてしまうという行動に出ないということが、僕には神のような感情のコントロールにも等しい、途方もないことのように思えたからだ。だがそう思うと同時に、その巨大な悪の頭脳は、価値のある秘密技術を持っているのかもしれないのだと思い至った。
 我々は彼を鋼のケーブルでグルグル巻きにして、一ダースものレヴィテーターで持ち上げ、地表に向かって移動を始めた。地表に到着するまでに、偶然ではなく、彼が何度となくかなりの苦痛を感じる方法であちらこちらにこすりつけられたであろうということはは、賭けてもいい!
 ゼイトの要塞で発見した他の人々の様子は――我々を心底ゾッとさせた。そこには何ダースものエルダーの捕虜たちがいた。僕は自分と同じくらいの大きさの男がボロ雑巾のようになっているのを見た。それから、まだ息をしている女神エルダーが一人、拷問を受けて無残な姿となり、涙を流しながら縮み上がり、うわごとのように慈悲を乞うていた。僕の胸の中では怒りが行き場所を失い、その怒りはまた、周りにいるノールの男たちの胸にも燃え上がっているのを感じた。
 多くの捕虜はまだ生きていた。そこにはあらゆる大きさの、多くの女性や少女たちがいたが――その大部分は、拷問のせいでふた目と見られないような姿に成り果て、他の者たちも、同じ拷問を待っていたことから、ほとんど狂ったようになっていた。僕は老ゼイトが自ら楽しむために、この場所で一世紀もの間隠れ住んでいた間に工夫した、ありとあらゆる種類の拷問のテーマを目にした――僕たちはそれを、捕虜のroの精神から思考レコードに記録した。

******

We found the vast mountain of flesh that was ex-Elder Zeit of old Atlan. He was snoring among a mass of synchronizing rodite apparatus as big as a city block. It was both antique and modern in construction, much of it evidently salvaged from ancient ruins. Zeit was a three-hundred-footer, and he was not only big, but amazingly fat from his soft life in his hideout.
It was going to be a real job to get him to the surface alive. It would not be surprising if the soldiers found it necessary to take him apart and reassemble him later on.
The realization that we were going to move him to the surface was a surprise to me, because not to blast him into nothingness the instant we found him had seemed to me to be infinitely more than godlike emotional control in itself. But that the huge and evil head might contain technical secrets of value I realized when I thought of it.
We bound him with endless turns of steel cable, lifted him with a dozen of our levitators, and started him floating along toward the surface. Before he arrived, I'll wager he scraped a few turns in a rather painful manner, and not by accident either!
Other things we found in old Zeit's fortress--things that horrified us. He had had a couple of dozen Elder captives. It is one thing to see a broken man of my size, but to see the living remains of a Goddess Elder broken by torture until she had become a whimpering, cringing, babbling thing to pity did not quiet the rage in my breast, rage that I could see and feel burning in the Nor-men around me.
There were many captives still living, of all sizes, many women and girls--but most of them were in horrible shape from their treatment, and the others nearly insane from waiting for the same torture. I saw the endless variations on the torture theme old Zeit had devised to amuse himself in the centuries he had spent hiding in this place--as we recorded it on the thought record from his ro's minds.

黒祠の島

2010年11月22日 | 読書録

「黒祠の島」 小野不由美著
新潮文庫 新潮社

を読む。

 これはかなり面白かった。続きが気になって、どんどん読んでしまう。最も重要なトリックは、だいたい最初から想像がついたものの、犯人らしき人物がことごとくかわされてゆくのは、気持ちがいいほど。そのまま映画化できそうだ。

レムリアの記憶・・・70

2010年11月18日 | レムリアの記憶
 彼女の声が、僕の心の中で黙り込んだ。僕はこの死が全て防げたのではないかと考えるのはやめることにした。そしてそんな考えを抱いたことを恥じた。代わりに、彼女がこれまでのキャリアの中でも最大の戦闘の最中に辛抱強く説明をしてくれたという好意に対して、深い感謝を感じた。かつてそのような名誉が、一介のroに対して与えられたことなどなかったに違いない。僕は戦いを熟視することに集中した。我々の催眠光線がゼイトのフォース・シールド(防護力壁)の中の開口部に、dis光線に続いて向かうのを見たが、思うような効果は現れないように思えた。老鬼は、デロが眠りに誘い込まれたのとほぼ同時に、急いで眠りから引き戻すための何らかの方法を手にしているに違いなかった。もしかしたら、何らかの刺激光線――stimの賢明な利用法によるものなのかもしれない、と僕は考えた。通常、それはエンターテイメントのためのものである。
 けれども最終的には、我々はdis光線と催眠光線の集中放射によって全体を眠りへと導き、岩で覆われた恐るべき山は静寂に包まれた。山からはまだ少しばかり光線が出てはいたが、それらは明らかに自動放射によるビームで、その背後に起きている人がいるようなものではなかった。
 我々の側のリフターが、ドアへと向かうロールアットの経路から邪魔なものを排除した。今こそ突入し、全てを一掃する時だった。前進しながら、僕はヴァヌーが絶えず警戒するようにと警告する声を聞いた。「悪魔の策略に気を付けなさい」。我々の光線を搭載したロールアットが壁の物陰へと移動し、ドアを吹き飛ばした。我々はまだ火の燃え盛る入り口を超えて、中へと転がり込んだ。アトランの吸血鬼たちはガタガタになった!
 その場所には三種類の死体があった。多くはアトランの戦士たちだった。ゼイトによって捕虜にされたのか、あるいは彼のロダイトの意思によるものなのか、裏切りなのか、僕にはいずれとも言うことはできなかった。彼らは白く熱いプロジェクターに倒れていた。その手は肉が焼けて黒焦げになっており、骨はまだ赤く熱い制御機器を握り締めていた。ゼイトがroを強制する力は、なんて強力なのだろう。

***********

Her voice ceased in my mind, and I no longer fostered the thought that all this death could have been prevented. I felt a deep shame for even harboring the thought, and a deep gratitude for the favor she had bestowed on me in explaining so patiently even while she was in the midst of the greatest battle of her whole career. Such honor had never before been bestowed on a simple ro, I was sure.
Now, as I returned to my contemplation of the battle, I saw that our sleeper beams were following our dis rays' openings in Zeit's force shields, but they seemed not to have the desired effect. The old ogre must have had some means to jerk his harried dero awake as fast as they dropped off. Possibly some type of stimulator ray--a clever use for stim, I thought; ordinarily they are for entertainment.
Finally, however, we swept the whole place with a concentration of dis rays and sleeper beams and the boulder-covered pile of horrors fell silent. A few beams still played from the heap, but they were evidently automatic watch beams with no one awake behind them.
Our own lifters now cleared a path for our rollats to the doors. At last it was time to enter and mop up. As we went forward, I heard Vanue's ever-cautious mind warning me to "Watch out for the devil's joker" as our rollat-mounted rays moved up to the wall's lee and started blasting away at the doors. We rolled over the blazing mass of their remains and were inside. Atlan's leech had been loosened!

重力ピエロ

2010年11月16日 | 読書録

「重力ピエロ」 伊坂幸太郎著
新潮文庫 新潮社刊

 を読む。

 初めから犯人は分かっているので、犯人探しのミステリーを期待して読むと肩透かしを食らうかもしれないが、語り口がうまいので、最後まで一気に読んでしまう。最後は自殺をするのかな、と思わせておいて、後味の悪くないエンディングを迎えるのは、以前に読んだ「ゴールデンスランバー」なんかも同じで、僕は結構好き。

紫の雲・・・89

2010年11月14日 | 紫の雲
 *****
 
 それからの九日間、ぼくはロンドンの地図を目の前にして、熱心に働いた。
 街の中にはさまざまな場所があった!――秘密の場所、巨大な場所、恐ろしい場所!ロンドン・ドックの巨大なワイン貯蔵庫には大樽があって、二万ガロンから三万ガロンほどのワインが眠っているに違いなかった。心を踊らせながら、ぼくはそこに列車を停めた。煙草倉庫は八エーカーもの広さがあるに違いない。ぼくはそこに信管を安置した。リージェント・パークの近くの家では、庭に佇みながら、高い壁で通りから見えないようになっている、あるものを見た……!そんなものが巨大な都市に隠されていたなんて、ぼくは初めて知った。
 
 *****
 
 ぼくは思い出せないくらい様々な方向に出かけていったが、それには四両から八両となった列車を使い、貨車は電気モーターで牽引したのだが、そのためにぼくは毎朝、大抵はセント・パンクラティウス駅のタービンから充電を行った。一度は、パレス・シアターのとても小さなエンジンと発電機を備えた蒸気の駅から行ったが、ここではちょっとした問題があり、さらには、一度、ストランド・ホテルの似たような小さな駅から行ったこともある。それとともにぼくが訪れたのは、ウェスト・ハム、キュー、フィンクレー、そしてクラッパム、ダルストン、それにメリルボーンなどだ。ぼくはロンドンには飽き飽きしてしまった。ぼくは大量の信管をギルドホール美術館、ホロウェー刑務所、支柱が新しくなったニューゲートのジャスティス・ホール、タワー、議員会館、セント・ジャイルズ救貧院、セント・ポール大聖堂のオルガンの下と地下室、サウス・ケンジントン・ミュージアム、イギリス農業協会、ホワイトリー地所、トリニティ・ハウス、リバプール・ストリート、労働局、大英博物館の秘宝室などに配置した。百の引火しやすい倉庫、五百の商店、千の個人宅にも。そして点火の時刻を、四月二十三日の午前零時に決めた。
 二十二日の午後五時頃に、ぼくはメイダ・ベールに荷車を残して、そこからは一人でハンスプテッド・ヒースの近くの高台にぽつりとある一軒家に向かったが、そこは予め仕事が首尾よく終わった時の為に選んでおいた場所だった。
 

* * * * *

During the next nine days I worked with a fever on me, and a map of London before me.

There were places in that city!--secrets, vastnesses, horrors! In the wine-vaults at London Docks was a vat which must certainly have contained between twenty and thirty thousand gallons: and with dancing heart I laid a train there; the tobacco-warehouse must have covered eighty acres: and there I laid a fuse. In a house near Regent's Park, standing in a garden, and shut from the street by a high wall, I saw a thing...! and what shapes a great city hid I now first know.

* * * * *

I left no quarter unremembered, taking a train, no longer of four, but of eight, vehicles, drawn by an electric motor which I re-charged every morning, mostly from the turbine station in St. Pancras, once from a steam-station with very small engine and dynamo, found in the Palace Theatre, which gave little trouble, and once from a similar little station in a Strand hotel. With these I visited West Ham and Kew, Finchley and Clapham, Dalston and Marylebone; I exhausted London; I deposited piles in the Guildhall, in Holloway Gaol, in the new pillared Justice-hall of Newgate, in the Tower, in the Parliament-house, in St. Giles' Workhouse, in the Crypt and under the organ of St. Paul's, in the South Kensington Museum, in the Royal Agricultural Society, in Whiteley's place, in the Trinity House, in Liverpool Street, in the Office of Works, in the secret recesses of the British Museum; in a hundred inflammable warehouses, in five hundred shops, in a thousand private dwellings. And I timed them all for ignition at midnight of the 23rd April.
By five in the afternoon of the 22nd, when I left my train in Maida Vale, and drove alone to the solitary house on high ground near Hampstead Heath which I had chosen, the work was well finished.

光ってみえるもの、あれは

2010年11月13日 | 読書録
 
「光ってみえるもの、あれは」 川上弘美著
中公文庫

を読む。

 高校生男子が主人公のリリカルな長編小説。複雑な人間関係が展開されているのだが、どこかリアリティがなく、透明な感じ。作者の持ち味なのだろう。
 いくつかの、完全に独立しているわけではないが、短編としての体を成している各章で構成されている長編だが、それぞれの短編の中に、ひとつづつ様々な小説や詩などの引用が誰かの口を借りて挿入される。それが、その短編の雰囲気を支配する。こうした小説を書きたくなる気持ちは、分かるような気がする。

未踏の時代

2010年11月12日 | 読書録

「未踏の時代 (日本SFを築いた男の回想録) 」 福島正実著
ハヤカワ文庫JA

を読む。

 SFマガジン初代編集長の福島正実による回想録だが、連載中に亡くなったため、未完の絶筆となった本。
 僕に関して言えば、福島正実という人は翻訳家のイメージのほうが強い。僕がSFを読み始めた頃には、もう亡くなっていたから、「夏への扉」などの翻訳家として頭の中にインプットされていたのだ。とはいっても、筒井康隆のエッセイをはじめ、いろんなところでこの人の話は目にしたから、かなり強烈な人なんだろうということは漠然と知っていた。今回この本を読んで、もちろん自伝だからどこまで間に受けていいのかはわからないものの、まさにブルドーザのような人だなと思った。良い意味でも悪い意味でも。つい最近、有名なSF同人誌「宇宙塵」の柴野拓実さんも亡くなったが、二人の間の確執についても触れられていた。
 随分と強烈な人だったようだが、出版の世界にいまよりもずっと夢を持てた時代の、ひとつの青春記のような本。

レムリアの記憶・・・69

2010年11月09日 | レムリアの記憶
 我々の側のリフター(重機類)は、ばかでかい塊を持ち上げることができるほど大きくはなく、その物体は我々の戦列の上に岩を落とし続け、保護用のフォース・ビーム・ジェネレーター(力光線発生器)を破壊し続けた。ジェネレーターをいくつか壊してしまうと、老悪魔は古い要塞のマスタービームを使って開口部を貫通させ、破壊の経路を燃え上がらせた。我々は危機にさらされた――壊滅、という言葉さえちらつくほどだった!
 僕にはヴァヌーの心の中の焦る気持ちが聞こえてきた。「どうする?何をすればいいのかしら?」そして彼女の混乱と心痛から、僕は自分たちの状況がどれほど切羽つまったものであるかを知った。老ゼイトがその超光線で我々の戦列に対して及ぼした破壊の様子をじっと見つめながら、かつてこれほどの大きな恐怖が僕の心を満たしたことはないと思った。
 その物体が我々のニードル・レイと同じくらい速いと分かると、新しいデロが参入し、それを動かして、命がけの戦いを続けた。しかし、コンダクター・レイ(導体光線)の集中は、基部を通り抜ける際に、最終的にはその巨大なパワーは我々のサイズにまでダウンした。そうなれば、我々にも対処することが可能だった!
 だが、我が方の被害は甚大だった。その虐殺の様子を見つめながら僕は、我々の優れた精神的な見通しによって、こうしたことは避けられたのではないかと思わずにはいられなかった。その瞬間、僕の頭の中に浮かぶノータンへの批判的な気持ちは、抑えることができなかったのだ。
 口には出さなかったが、僕の非難に応えて、ヴァヌーの思考が頭の中に強く語りかけてきた。
 「有害な力には、思考に対して奇妙な働きかけをする、オートマティックな電気的な仕掛けがあります。それを予測することは難しい、いいえ、不可能なのです。我々のような健全な精神の持ち主は、有害な力を中和しようとするため、そんなことを『考える』こともできないのです。加えて、これらの状態の中で、彼らのテルアグは我々の心を読み取ります。そして我々のイマジネーションが、自分たちに対して不利に働くのです。健全な人は、もともと余りにも楽観的で、完全な見通しをたてることができないものなのです。それに、それを考えに入れずとも、ここの古い要塞がこれほどまでに重装備をしていたなどということは、誰も知らなかったし、知ることも出来ませんでした。老ゼイトはまた、一世紀近くの間、糾弾されるということもありませんでした。彼はメックの秘密を、とても用心深く守り続けました。彼の要塞に入った者はいても、出てきたものはいません。この場所へと下ってくるトンネルはどれも余りにも細すぎて、本当の戦争のための装備を外部から持ち込むということもできません。私たちはムーの中心部の極めて近くにいるのです。そのうえ、私たちはデロのとても知性的とは言えない外見のせいで、少しばかり自信過剰になっていました。誰がこのような抵抗を受けると予想できたでしょうか?」

*****

I could hear Vanue's mind racing madly, "What to do? What to do?" And because of her confusion and anxiety, I knew how desperate our situation was indeed. Never had so great a fear filled my heart as I watched with staring eyes the havoc old Zeit was causing in our lines with his great super-ray.
As fast as our needle rays found the thing, new dero rushed in, moved it, went on with its deadly work. However, a concentration of conductor rays finally bored through to its base, shorted its vast power down to our size. Now we could handle it!
But our losses had mounted horribly. As I gazed upon the slaughter, I could not help but think that with our superior mental equipment all this should have been avoided. I am afraid there was criticism of our Nortan minds in my thoughts at this moment. . .
Vanue's thought came into strong being in my head, answering my unspoken denunciation.
"Detrimental force has an automatic electric play about it that strangely serves for thought. It is hard, no, impossible, to predict; as our healthy minds neutralize detrimental force, cannot therefore 'think' it. Too, in these conditions, their telaugs read our minds and our own imagination works against us. Healthy men are naturally too optimistic to foresee trouble fully. Then, beside that, no one knew or could know that the old fortress in here was so heavily equipped. Old Zeit nor any of his retainers have been out of the place for nearly a century. He kept the mech secret with very rigid care. People have gone into his fortress, but none have come out. The tunnels that lead down to this place are all too small to bring real war equipment down from the surface. We are really near the center of Mu. And on top of that, we have been a little over-confident, due to the unintelligent appearance of the dero. Who would expect such things to put up a fight?"

電子書籍

2010年11月07日 | 消え行くもの
 先日、村上龍氏と吉本ばなな氏が、電子書籍の出版社を設立するというニュースがあった。それと呼応するようにして、さまざまな電子出版への参入のニュースもあった。電子出版がいよいよ加速してきそうだ。
 作家が主体となって電子出版を行うというのは、つまり中抜きの出版を行うということで、これは最初から予想されていた流れだろうが、長い目でみて果たして成功するのかは、わからないというのが実情だろう。なんとなくだが、一部の作家を除いては、あまり成功するとは思えない。一冊の本が完成するまでには、様々な人が関わるわけだし、本屋でふと手にとって購入という機会そのものが失われてしまっては、名前が広がるのが今以上に困難になるように思える。そもそも日常的に本を読む人の数がそれほど多くはないし、そうした人々はかなりの割合で、本というものそのものを愛しているというところがあるように思えるからだ。それでもこうした流れは、これからは常に存在しつづけるのだろうし、しばらくは色々とややこしいことになりながら、然るべきところに落ち着いて、共存してゆくことになるだろう。アメリカ並に、代理人のようなものがつくのが普通になってゆくのかもしれない。
 僕は読書端末として、amazonのkindleを利用しているが、はっきり言って、とても使い勝手がいい。最近では本の代わりに常にkindleを持ち歩いているくらいだ。英語があまり得意というわけではないので、これまでは絶版になってしまった翻訳本を探して古書店やネットを覗いていたが、英辞郎が利用できるkindleがあるとなると、原文で読もうという気になる。著作権の切れているものにかんしては、かなりの数の本が無料で手に入ってしまうのだから、ありがたい。日本の本に関しても、著作権のきれたものに関しては、青空文庫のファイルからコンバートして取り込んでしまえばいいし、しかもとても読みやすい。一度これに慣れてしまうと、もう戻れない気がしてしまう。
 しばらくkindleを使ってきた感想としては、小説本に関して言えば、本より電子書籍の方がずっと読みやすいような気がする。特に、読み捨ててしまうような娯楽ものに関しては、読み終えたら削除してしまえばいいのだから、便利である。あとは、現在僕が主に利用しているような、著作権が切れている古典を読む場合にも、端末は優れた威力を発揮する。そうした本に関して言えば、読む前から読者はだいたいの内容について、何らかの予備情報を持って望むわけだし、ちょっとした資料のようなつもりで読むことも多い。だから電子書籍の形態でちょうどいいくらいなのだ。実際のところ、僕にはkindleが時々岩波文庫のような気がしてくるほどだ。
 電子化して、意外と使えないように思うのは、資料として利用したいと思うような本ではないかという気もする。特に、図版が載っているようなやつを何冊も一度に使いたいという場合、本がそのあたりに転がっていないと、僕は考えがまとまらない気がする。もしかしたらそれは僕だけかもしれないけれども。
 電子書籍は、確実に便利だとは思うけれども、そこはやはり電子書籍ならではのイラッとする感じもあって、たとえば本のようにページをあちこちとペラペラめくれないというのは、もどかしく感じることがある。それができるというのが、本のいいところなのだ。小説のストーリーよりも文章の香気を味わいたいという場合にも、端末では味気ないと感じることがある。これは、活字や行間や紙の質や装丁なども含めて味わいたいものだからだ。そんな時には、やはり本というものは装丁から組版までも含めた総合芸術作品なのかもしれないなと思ったりする。いずれにせよ、電子書籍で十分な本とそうでない本があるのは確かなわけで、「本でなければならない」本を作るということがこれまで以上に大切になってゆくのだろうという、当然のような結論にしかならない。

ホームページ

2010年11月05日 | 消え行くもの
 
 僕がウィリアム・ホープ・ホジスンのファンサイトとしてもう十年近く前に作ったホームページが、インフォシークのホームページのサービス終了とともに閉鎖となった。それで、今利用しているプロバイダーのホームページサービスに移転作業を行っているのだが、そもそも最初にホームページを開設した当時は、そのときのプロバイダーはDIONだったのだが、容量が本当に少なくて、仕方なく50Mの無料のホームページサービス(hoopsだった)を申し込み、二つのサービスに渡ってサイトを運営していたのだった。そのうち、hoopsがgooに、それからinfoseek、楽天へと引き継がれて変っていったのだが、とうとうそのまま置いておくわけには行かなくなってしまった。当時のままのツギハギ状態を放置していたため、移転するといっても、そう簡単にはゆかない。リンクがあっちこっちに散らかっていて、何がなんだかよく分からないことになってしまっている部分もある。そのせいで、移転するのにも時間がかかる。最近は放置していたし、いっそ閉鎖してしまおうかとも思ったが、ひとつのものに特化したホームページは不完全なものとはいっても残しておいたほうがいいだろうと思うので、面倒だと思いながら随分久々にタグやスタイルシートをいじりつつ、少しづつやり直している。一応「seaside junk foods」のトップページからはリンクを貼っているが、まだ工事中である。
 サービスの終了について、infoseek側は時代の流れだと説明しているが、たしかにそれは感じることで、今ではほとんどみんなホームページなど作らずにブログでサイトを運営しているし、最近ではそれがtwitterに移ってきている。べつにそれはそれでいいのだろうが、色々と調べるときに、ほんとうにわかり易いのはやはりホームページだとも思う。ブログは、自分でもこうして日常的に更新していて、扱いやすいのだが、「知りたいこと」があるときに検索してたどり着いたのがブログだと、独特の使いにくさを感じることが多いのは確かだからだ。まあ、作るのは本当に面倒なんだけれども。

レムリアの記憶・・・68

2010年11月03日 | レムリアの記憶
 そうして見詰めている時、戦いの中で常に恐れていたものがやってきた。突然全てをひっくり返してしまう、隠された要因。どこからか、デロはとんでもないレヴィテーター(揚力発生器)を発見していたのだ[*36]。我々の方は、重い物体を持ち上げることができるほどタフなものは持っていなかった。だがこれは、いったん土木作業に使われると、怪物のようだった。その物体は要塞に落下した岩の塊を持ち上げると、空中の高所から我々の戦列の上へと落とし始めた。

*****

原注

 36) レヴィテーター(levitator)とは、ポータブルなリフター・ビーム・ジェネレーター(揚力光線発生器)である。中には、片手の中に収まる、あるいはポケットに入れて持ち運ぶことができるほど、小さなものもある。それは《ムー》ではあらゆる用途に、普通に使用されているものだ。そしてシェーバー氏の驚くべき声明によると、これらのポータブル・レヴィテーターは、現代に発見されており、降霊術のトリックの一つである、物体の空中浮揚に使用され、「霊媒」の能力の信頼を高めるために、秘密裏に使用されているというのだ。おそらく、最も注目を集めた霊媒といえば、ダニエル・ダングラス・ホームという魔術師で、その降霊術はアメリカとヨーロッパにセンセーションを巻き起こした。その信じがたい話は、近年「マガジン・ダイジェスト」に取り上げられた。彼の空中浮遊の偉業は、疑う余地のないものとして、ポーリーン・メッテルニッヒ王女、オーストリア大使、ヨキアム・ミュラ王子、Jauvin d'Attainvilleなどといった人々によってお墨付きを与えられている。ホームはエディンバラの近くのカリーで、一八三三年三月二〇日に生まれた。彼の能力の中には、遠く離れた場所で起こったことを見る能力が含まれていた。「延長」という能力は、彼の身体が一フィートほども伸びる能力である。そして一度など、絹織物製造業の大物であるワード・チェネイを三度空中に持ち上げ、その間彼は「頭から足まで、恐怖と喜びの環状が入り交じって、ドキドキし、彼の言葉に息が詰まりそう」であったという。読者はここで、古代《ムー》の多くの機器との驚くべき類似に注目すべきだ――エモーショナル・スティム、レヴィテーター、テレ、等々)。その後、フランスの皇帝であるナポレオン三世、ロシアのアレクサンダー二世、それにエリザベス・バーネット・ブラウニング、といった人々と懇意になり、彼の「身体延長」の芸当を発展させた。さらには、まるで水の中にいるかのように自分の顔を燃えている石炭に突っ込むというセンセーショナルな行動を行った。一切の火傷も負わずに、である。ホームはもしかしたら、古代の洞窟の中で彼の能力を「発見した」のではないだろうか?――(編者)

******************

Then as I watched for it came the thing that is always feared in battle; the unseen factor that suddenly upsets all calculation. From somewhere the dero had unearthed a tremendous levitator. [*36] We ourselves had a few with us to get the heavy stuff over tough going; but this one was a monster, once used in construction. This thing began lifting the masses of rock that had fallen on the fort, lifting them and dropping them from high in the air upon our lines.

*****

# Footnotes #

^102:36 A levitator is a portable lifter beam generator. Some of them are very small, and can be carried in the palm of the hand, or in the pocket. They were in common use for all tasks in Mu, and from Mr. Shaver comes the amazing statement that some of these portable levitators have been found in modern times and their secret use has given rise to the belief in the ability of "mediums" to use levitation of objects as one of their tricks in their seances. Perhaps most noted of these mediums was Mr. Daniel Dunglas Home, wizard, whose seances were the sensation of the United States and of Europe, the incredible recount of which was recently presented in "Magazine Digest." His feats of levitation are indisputable, being vouched for by such persons as Princess Pauline Metternich; Austrian Ambassador, Prince Joachim Murat; Mme. Jauvin d'Attainville. Home was born in Currie. near Edinburgh, on March 20, 1833. Among his abilities was the power to see events happening a great distance away; the ability to "elongate" his body as much as a foot; and at one time he caused Ward Cheney, silk-manufacturing titan, to be lifted three times into the air while he "palpitated from head to foot with contending emotions of fear and joy that choked his utterances." (The reader should note the amazing similarity to many of the mechanisms of ancient Mu--the emotional stim; the levitator; the tele.) It was after he became the darling of such figures as Napoleon III, Eugenie of France, Alexander II of Russia, and Elizabeth Barrett Browning that he developed his "body elongation" trick and a still more sensational one wherein he placed his face among burning coals, bathing it as in water; without any sign of a burn. Is it possible that Home "discovered" his abilities in an ancient cave?--Ed.

幻影師アイゼンハイム

2010年11月01日 | 映画

 「幻影師アイゼンハイム」 ニール・バーガー監督

を観る。

 
 スティーヴン・ミルハウザー原作の同名作品の映画化。原作は、読みかけたことはあったと思うのだが、もう十数年も前のことなので、すっかり忘れていた。
 映像がなかなか綺麗だったし、楽しめた。最後の仕掛けは、ちょっと強引すぎて、色々と突っ込みどころ満載なのだが、それを言うのはそれこそ野暮というものだろう。

 先日は、娘の学校の合唱コンクールで、これが中学生最後の合唱コンクールとなるから、初めてでかけてみた。何だか懐かしくて、自分の合唱コンクールのことなどを思い出したりした。