「X電車で行こう」 山野浩一著
ハヤカワ文庫JA 早川書房刊
を読む。
山野浩一さんが亡くなったらしい。
山野さんといえば、日本におけるニューウェーブSFの伝導者としては、最初に名前が上がってくる人だという認識がある。雑誌「NW-SF」を発刊し、サンリオSF文庫の創刊にも深く関わった。競馬評論家としてもよく知られている。SF作家としても、この「X電車で行こう」や、「メシメリ街道」などが有名である。
とはいえ、山野浩一さんについてぼくが知っているのは、その程度である。何といっても、SFに深く関わっていたのは80年台の半ばくらいまでだったと思うので、時代が少しずれているのだ。従って、ぼくには半ば伝説的な人物になってしまっていた。
しかし、小学校の高学年の頃、徳間文庫から再刊されていた筒井康隆編集の「72年日本SFベスト集成」で初めて「メシメリ街道」を読んだときには、なんて変わった小説なんだろうと衝撃を受けたし、その後、自然とニューウェーブSFにシンパシーを感じるようになって、サンリオ文庫やバラードを読むようになって行ったし、NW-SFやサンリオ文庫から出た翻訳家も多いのだから、間接的に随分とお世話になっていたわけである。やや記憶が曖昧になっているので、もしかしたら間違っているかもしれないけれども、高校生の頃、確か、今は亡きコーベブックスで、NWーSFのバックナンバーが数冊置いてあるのを見つけ、その中からアンナ・カヴァンのアサイラム・ピースが掲載されていた号を買ったこともあった。その頃のNW-SFには、「遊」の松岡正剛さんが連載をしていて、まりの・るうにいさんがカットを描いていた。
この「X電車で行こう」も、当時元町の駅前にあった古書店で50円くらいで買ったのだが(これはすごく印象に残っている)、随分と長く積読されていたままだった。奥付を見ると、昭和48年刊行とある。その当時でさえ、相当古本感のある本だったから、買ったものの、今ひとつ読もうという気にならなかったのだろう。追悼の意味を込めて、「X電車で行こう」を、ついに読んでみた。
収録されているのは、全部で7編。
冒頭の「闇に星々」は、どことなく、SF版「ティファニーで朝食を」といった印象の作品。あるいは、バラードの「ヴァーミリオン・サンズ」連作などの初期作品に出てくる、男性を翻弄して去ってゆく女性を描いた作品に印象が近いというか。
「雪の降る時間」は、タイムスリップものだが、パラレルワールドと組み合わせることで、かなり変わった作品になっている。
「消えた街」は、団地というひとつの世界のような場所が、まるまる別の世界に入り込んでしまうという状況を書いた作品。
「恐竜」は、うーん、ちょっとよくわからない。
で、この作品集には、電車を題材にした作品が、3つ、収められている。山野さんは、随分と熱心な「鉄ちゃん」だったらしいのだ。
「赤い貨物列車」は、夜行列車に乗った主人公のいる車両に後から乗り込んできた数人の男たちが、車内を騒がした男を平然となぶり殺しにするのを見るという、サスペンス感あふれる物語。ラストが幻想SF的。「列車」は、三ページほどのごく短い作品で、これといったストーリーのあるものではない。コストに合わない列車が、事故によってその使命を終えたというだけの話である。
「X電車で行こう」は、作家山野浩一の代表作のひとつで、なんとアニメ化もしたことがある作品(ストーリーはかなり変わっているらしいが)。これは、本物の鉄道マニアだからこそ書けた、鉄ちゃんにはたまらない作品なのではないかと思う。ストーリーは、簡単に言ってしまうと、「X電車」と名付けられた、目に見えない幽霊列車が、同じ路線は通らずに、日本中の様々な鉄道路線をひたすら走るという物語。圧巻なのは、六ページほどにわたって、そのコースを記しているところ。多分、これを山野さんは載せたかったのだろう。鉄道怪談としても、なかなかの珍品。
というわけで、全7編、なかなか楽しんで読めた。
合掌。
ハヤカワ文庫JA 早川書房刊
を読む。
山野浩一さんが亡くなったらしい。
山野さんといえば、日本におけるニューウェーブSFの伝導者としては、最初に名前が上がってくる人だという認識がある。雑誌「NW-SF」を発刊し、サンリオSF文庫の創刊にも深く関わった。競馬評論家としてもよく知られている。SF作家としても、この「X電車で行こう」や、「メシメリ街道」などが有名である。
とはいえ、山野浩一さんについてぼくが知っているのは、その程度である。何といっても、SFに深く関わっていたのは80年台の半ばくらいまでだったと思うので、時代が少しずれているのだ。従って、ぼくには半ば伝説的な人物になってしまっていた。
しかし、小学校の高学年の頃、徳間文庫から再刊されていた筒井康隆編集の「72年日本SFベスト集成」で初めて「メシメリ街道」を読んだときには、なんて変わった小説なんだろうと衝撃を受けたし、その後、自然とニューウェーブSFにシンパシーを感じるようになって、サンリオ文庫やバラードを読むようになって行ったし、NW-SFやサンリオ文庫から出た翻訳家も多いのだから、間接的に随分とお世話になっていたわけである。やや記憶が曖昧になっているので、もしかしたら間違っているかもしれないけれども、高校生の頃、確か、今は亡きコーベブックスで、NWーSFのバックナンバーが数冊置いてあるのを見つけ、その中からアンナ・カヴァンのアサイラム・ピースが掲載されていた号を買ったこともあった。その頃のNW-SFには、「遊」の松岡正剛さんが連載をしていて、まりの・るうにいさんがカットを描いていた。
この「X電車で行こう」も、当時元町の駅前にあった古書店で50円くらいで買ったのだが(これはすごく印象に残っている)、随分と長く積読されていたままだった。奥付を見ると、昭和48年刊行とある。その当時でさえ、相当古本感のある本だったから、買ったものの、今ひとつ読もうという気にならなかったのだろう。追悼の意味を込めて、「X電車で行こう」を、ついに読んでみた。
収録されているのは、全部で7編。
冒頭の「闇に星々」は、どことなく、SF版「ティファニーで朝食を」といった印象の作品。あるいは、バラードの「ヴァーミリオン・サンズ」連作などの初期作品に出てくる、男性を翻弄して去ってゆく女性を描いた作品に印象が近いというか。
「雪の降る時間」は、タイムスリップものだが、パラレルワールドと組み合わせることで、かなり変わった作品になっている。
「消えた街」は、団地というひとつの世界のような場所が、まるまる別の世界に入り込んでしまうという状況を書いた作品。
「恐竜」は、うーん、ちょっとよくわからない。
で、この作品集には、電車を題材にした作品が、3つ、収められている。山野さんは、随分と熱心な「鉄ちゃん」だったらしいのだ。
「赤い貨物列車」は、夜行列車に乗った主人公のいる車両に後から乗り込んできた数人の男たちが、車内を騒がした男を平然となぶり殺しにするのを見るという、サスペンス感あふれる物語。ラストが幻想SF的。「列車」は、三ページほどのごく短い作品で、これといったストーリーのあるものではない。コストに合わない列車が、事故によってその使命を終えたというだけの話である。
「X電車で行こう」は、作家山野浩一の代表作のひとつで、なんとアニメ化もしたことがある作品(ストーリーはかなり変わっているらしいが)。これは、本物の鉄道マニアだからこそ書けた、鉄ちゃんにはたまらない作品なのではないかと思う。ストーリーは、簡単に言ってしまうと、「X電車」と名付けられた、目に見えない幽霊列車が、同じ路線は通らずに、日本中の様々な鉄道路線をひたすら走るという物語。圧巻なのは、六ページほどにわたって、そのコースを記しているところ。多分、これを山野さんは載せたかったのだろう。鉄道怪談としても、なかなかの珍品。
というわけで、全7編、なかなか楽しんで読めた。
合掌。