わたしたちは長い石畳の廊下を歩んでいった。その突き当たりには、ずっしりとした閂と鍵前の付いた大きな扉があって、まるで聖ペテロが立っていて開いてくれる門(訳注:聖ペテロの門は、天国への入り口を指す)のようだった。庭を横切って、わたしたちは家畜小屋へと入った。家畜小屋の中は四つに間仕切られていた。そのうちの二つにはクリ材の丸太が積まれ、木槌と楔が隅に転がっていた。3つ目の仕切りの中には、sawingcradle(訳注:のこぎり台?)と自転車があった。ミセス・オトゥワディは半分の高さの壁の上を飛び越え、身体をくねらせるようにして柵をすりぬけると、先回りをして四つ目の仕切りに入った。わたしたちがそこに足を踏み入れた時には、彼女はすでに横向きになって転がっており、三匹の汚らしい毛むくじゃらのチビ助たちのためにお腹を伸ばして、恍惚とした虚ろな瞳で上の方を見つめていた。
「オトゥワディには三匹、メリュジーヌ(訳注:フランスの水妖)には五匹、子供がいる……猫は二十八匹いると言うべきだったね」若者は言った。「だが、魚屋にはこいつらのことも計算に入れて注文は出してあるよ」
ミセス・オトゥワディのちっぽけなみすぼらしい顔、その威厳に満ちた自由奔放な態度の中には、言葉では言い表すことのできない充足感が浮んでおり、わたしたちはしばらくそこに佇んで、その母性に見惚れていた。やがて彼女は寝返りを打って、三匹の仔猫たちを抱え込むと、舌で舐め始めた。わたしたちが家畜小屋を後にしたとき、彼女は眠たそうな声で語っていた。
「むかしむかし、一本の骨を盗んだ犬がおりました……」
若者は振り返り、わたしに刺すような視線を送った。
「イソップかしら?」私は言った。
「そのことについては、お茶を飲みながら話をしよう」
だが彼はその約束を守らなかった。彼は突然黙りこんだ。お茶を用意すると、曇った鏡に伸び放題の芝生とその背後の木々が映しだされているリビングルームに運んだ。わたしはさらに数匹の猫たちを紹介された。人懐っこい金色の若いトラ猫と愛想のない銀色のトラ猫、耳の聞こえない、堂々とした白猫。その他のことに関しては、わたしたちは社交的な言葉を短く交わしただけだった。そうしながらわたしは窓の外を眺め、自分がこの熟しすぎた西洋梨のような家を柵越しに観察しようと自動車を止めてから、なんとまだ一時間も経っていないのに、いまではこうしてその家の中で、ピンクのティーカップを使って中国茶を飲んでいるのだ、と考えていた。窓の外を眺めていると、若者はわたしを見つめた。視線は、実際のところ、余りにも柔らかい言葉だった。彼は見つめていた。熱心に、しっかりと、探検家が地図をじっと見るように、あるいは鉱物学者が鉱石をじっと見つめるように、あるいは猫がネズミ穴をじっと伺うように。
お茶を飲み終え、話が途切れた時、彼は立ち上がり、言った。
「一緒に上に来てくれないか」
"The Cat's Cradle-Book"
Written by Sylvia Townsend Warner
(シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナー)
Translated by shigeyuki