老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

社会権の形成史2

2016-06-23 10:30:11 | 年金問題
チャップリン母子が救貧院に収容された時と同時代に、イギリスでは後に「貧困の発見」と言われる社会調査が進行していた。チャールズ・ブースとシーボーム・ラウントリーによる二つの社会調査である。

①ブースの貧困研究~ブースの研究は「社会階層」という概念により、一定の「職業と結びついた貧困層」の存在を証明した点に、最大の特徴がある。その職業に就いている労働者の大半が低水準の生活を送っているという職業が存在する、という仮説である。代表的なものとして「港湾労働者」などを「レーバリング・プアー」として見出している。
 
次に彼は「貧困原因」の究明に向かう。21世紀の現在問題になっているワーキング・プアーの存在と貧困原因を、当時においてブースは証明したのである。新救貧法のドグマである「個人の道徳的な堕落」によって貧困に陥っている世帯は、13%以下に過ぎないことが判明した。労働者の貧困の大半は「個人的原因」ではなく雇用問題という「社会的原因」に基づくことを、ブースは証明したのである。

ブースの雇用理論は後にベヴァリッジ、ケインズなどに継承されていく。

②ラウントリーの貧困研究~彼は、労働者が元気に働くためには、その肉体的能率の維持が不可欠であると考え、一人当たり日にエネルギー値3500カロリー、タンパク質125グラムが必要だと考えた。

そして、貧困層を等級別に分類してブースの研究と同じような結論を得た。貧困測定の基準として摂取した食品の内容を明らかにするという方法である。

こうして二つの社会調査の結果からは、新救貧法の言う貧困の原因が個人の道徳的な堕落によるものだという誤ったドグマに終止符を打ったのである。

③二人の社会調査の後にイギリス自由党は(まだ労働者階級が選挙で勝てる状況ではない)「セルフ・ヘルプ」(自助)から「ソーシャル・リフォーム」(社会改良)への政策転換へと舵を切る。この20世紀初頭の「社会改良政策」をもって、イギリスにおける福祉国家の始動と言われている。その特徴として、社会保険制度の創設による所得保障の実現に焦点が置かれた。
 
1911年の国民保険法において失業、疾病、老齢の「三大事故」の中の失業保険と健康保険は社会保険として実現された。残る年金は70歳以上の貧困高齢者を対象にした無拠出制の老齢年金という形で実現した。

④福祉国家の設計図「ベヴァリッジ報告」~第2次世界大戦中の1942年11月、「社会保険と関連サービス」と銘打たれた政府の報告書が発表された。無任所大臣のアーサー・グリーンウッドから勧告書の作成を依頼された委員会の長、ベヴァリッジによる、戦争終結後のイギリス社会を社会保障中心に再建することを提示した報告書である。
 
この報告書は、福祉国家の基本目標をすべての国民が「所得の維持によって窮乏からの自由を獲得すること」に置き、人生の過程で遭遇する失業・疾病・障害・老齢・死亡などのあらゆる社会的事故に対して、国民に「国民最低限」(ナショナル・ミニマム)を遺漏なく保障するべきことを主張したものであった。
 
ウィンストン・チャーチルは即刻反対を表明。しかし、ベヴァリッジ報告が発売されるや否や、ロンドンにある販売所には1・6キロに及ぶ購入希望者の列ができ、最終的な販売部数は63万5000部に達した。ベヴァリッジが全面的に勝利したのである。
 
ベヴァリッジは、社会保険制度で最低限の所得を補償する際に、革命的と言える大胆な原則を掲げた。「均一額の最低生活費の給付」と「均一額の保険料拠出」の原則である。この「フラットレート制」は、わが国では所得の垂直的再分配を考慮しない「高所得者に対する負担軽減・低所得者に対する負担増加」の制度として批判されてきた。
 
しかし、そこには国民最低限の保障に関する彼の確固たる思想が反映されている。なぜならば、彼にとって、保険料負担は受給権の獲得とリンクしていたからである。
 
現在の日本の社会保険の中の年金制度のように高い拠出は高い給付要求に繋がり、結果的に年金の高所得者と低所得者になってしまう。現在問題になっている「下流老人」の増加の問題である。国民年金だけでは40年も支払いをしても6万円強の年金しかもらえないという極端な差別構造である。
 
かくして、日本社会では未だに、戦時中に出された「ベヴァリッジ報告」が永遠に理想であり、社会福祉のバイブルとされる所以がここにある。

(参考文献;『脱貧困の社会保障』唐鎌直義著。上記の文章はこの文献に依拠しました。)

「護憲+コラム」より
名無しの探偵

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