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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「[新版] 悪魔の飽食―日本細菌戦部隊の恐怖の実像!」(著:森村 誠一)

2018-09-18 22:07:53 | 【書物】1点集中型
 夏の文庫フェアでよく見る本かと思う。実際それでずっと読みたかった。で、読み始めた途端、久々に勢いづかされて読み切った。想像はしていたが想像以上だ。人体実験や生体解剖が、実験材料にされてしまう1人の「マルタ(丸太)」に対し複数回行われることもあったという。「マルタ」とは「実験動物としての芝山羊(パイロットアニマル)」の意味があるらしいが、それが日本語の「丸太」と語呂が合ってしまう、このおぞましい偶然。

 またこの細菌戦部隊(七三一部隊/石井部隊)には、実験をする研究者だけがいたのではない。図面作製にでも携わるつもりで軍に入ったら、「マルタ」への人体実験で起こる症状の過程をスケッチするのが仕事になったという、友禅の下絵画工だった人もいる。
 加えて、生後半年も経たない乳児に対して冷凍実験を行われた実績も明らかになっている。しかも、その実験結果がのちに学術論文として日本国内の学会で発表され、何の倫理的問題も問わずに学会はその論文を受け容れていることも指摘されている(これは別書籍から文中に引用されている内容)。さらに、医学的に既に判明していることに関してまで人体実験を行うという、まさに面白半分のサディズムの産物としか思えない実験も横行していたというのだから畏れ入る。

「日本軍がかつての侵略国においてどのような貢献を為したとしても、侵略の罪業を少しも償わないのである」
 侵略軍による非道は自衛のためのものではあり得ないと著者は言う。まさにその通りである。
 話は日本軍の暴挙だけでは終わらない。戦勝国にしても、自分たちが手を汚さずに過酷な人体実験の資料が手に入るのだからと、最終的に石井部隊を戦犯として告発することをしなかった。勝者が敗者を裁くことの是非は別として、人間の救いがたい業が発露した話ではないかと思う。

「民主主義というものは、本質的に脆い。それは民主主義に反する主義思想をも体内に包含する。自分を破壊し、覆そうとする敵対思想をも認めなければ民主主義は存在し得ないところに、この体制の脆さと宿命がある」
 著者のその言葉は民主主義を否定するものではない。多様な思想を受け容れ、その中でより良いものを一人一人の意思で選び取ろうとすることこそが大事なのである。
 戦争だから、どんな事態も実際に起こり得る。それは歴史を見ても明らかである。ホロコースト然り、原爆攻撃然り。決める者も、従う者も、すべてが狂気に流されてしまう。自分がその状況に置かれたらNOと言えるかどうか。そんな自信がない人がほとんどだと思う。だからこそ、一人一人が踏み止まるために、犯された愚行を繰り返されないために記録され語り継がれねばならないのだろうと思う。