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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「歌おう、感電するほどの喜びを![新版]」(著:レイ・ブラッドベリ/訳:伊藤 典夫 他)

2017-05-23 22:54:04 | 【書物】1点集中型
 福島正実氏の回想録を読んでいたら、「華氏451度」以外のブラッドベリも読んでおかないとダメだろうと思い立ってしまった(笑)。
 ブラッドベリの作品は叙情的だと言われているけれども、あらためて読んでみると確かにその通りだなと。「華氏451度」を読んだとき、解説にあった「これはSFではない」という一言にも納得できたのと多分同様に。巻頭の「キリマンジャロ・マシーン」からしていきなり純文学かと思うくらいだ。ヘミングウェイをちゃんと読んだことがない私にはのっけからハードルが高かった(笑)。キリマンジャロの豹の話はたまたま他のもので見たことがあって覚えてたので救われたけど、知らなかったら読後の余韻を楽しめなかったところだった……。

 まあしかし何といっても表題作である。タイトルがまず素晴らしいし、物語はさらに素晴らしい。人間の世話をするアンドロイドなんていうと短絡的に若い女性を想像してしまいがちなところ(私だけ?)、そこに「電子おばあさん」という存在を持ってくること自体、まずもって温かみを感じさせる。そしてその人ならぬ存在である「おばあさん」を通して、人が人に対して抱く愛情のさまざまな形が鮮やかに描き出されている。アガサとおばあさんの心が通じあうシーンは、こうなるだろうとわかっていてもやっぱり感動する。
 あとは、衝撃的な「明日の子供」。いかにもSFっぽい題材と言っていいと思うが、発想が面白い。かつ、物語が描く家族の選択は限りなく切ない。「夜のコレクト・コール」や「ヘンリー九世」には、取り残された人間の荒廃とその隙間から噴き出すような激情がある。

 解説にもあるけど、確かに別離を描く物語が多い。さまざまな別れの場面、それに至るまでの背景とを、ブラッドベリはまさに叙情豊かにといった体で見せてくれている。このリリシズムがもたらす余韻を味わうためだけにでも、ブラッドベリを読む価値はあると思う。