life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

福井晴敏を読んでます

2005-02-08 19:20:08 | 【書物】1点集中型
 読書はけっこう好きである。が、基本的には小説ばっかりで、しかもけちくさいので文庫ばっかりで、本を買う手間を惜しんでしまう。おかげで、家にある数少ない本を何度も何度も繰り返して読むことが多い。なんにもすることがない時、あるいはしたくない時はとりあえず、読み飽きたはずの本に手を出してみたり。
 そうやって数年前から読み続けているのが、山岡壮八氏の「徳川家康」全26巻。多分、自分が生まれる前から我が家にあったらしい古い本で、サイズも新書版でもないA5変型みたいな感じ。これを最初は、果たして読破できるかと思いながら手に取ったものだったが、わけがわからなくなりながらも意地になって最後まで読んだ……ら、これが面白いの面白くないのって、けっこうハマってしまって。「よくもまあこれだけの登場人物をこれだけ書き分けられるものだ」というのが率直な感想である。

 この作品を読破したおかげで、面白ければどんなけ長い小説でも読むのはちっとも苦痛でないことに気づいたので(当たり前か)その後は同じく山岡氏の「春の坂道」全3巻(柳生宗矩を描いた作品)を読んでみたり、吉川英治氏の「宮本武蔵」全8巻を読んだりした。柳生宗矩は「徳川家康」に登場していた時からかなり好きな人物であったので、それもあって楽しめた。両作品がクロスオーバーするところがあって、「あ、大体あのへんだな」とか思うのがひそかな楽しみでもあったし(笑)。「宮本武蔵」では、吉川氏の描く佐々木小次郎が悪役一直線なので、別の武蔵もあったら読んでみたいなーとも思った。
 しかし、これらも古い本だったなあ。「宮本武蔵」は一応普通の文庫だったけど、「春の坂道」はやっぱりA5変型でブックカバーも古くて困った。
 
 こうやって読み始めてから日本の時代小説は結構好きになった。司馬遼太郎氏は「梟の城」が初めてだったのかなあ。探してみたら実は「国盗り物語」もあって、これは昨年やっと読んだ。でも個人的には前半の道三の勢いがあまりにも凄すぎて突っ込んで読んだので、逆に最後は信長も含めてちょっと尻すぼみで物足りなかったりもした。
 歴史小説は他に、中国史なども手を伸ばして読んでみたいんだけど、どれもこれも長編が非常に多いので何せ巻数がかさんで金が(笑)。古本屋にもなかなか行けなかったりで、どこにでもある本を定価で買ってる自分がバカだなーと思ったりもするのだが。

 そして秋から冬にかけてやっと久々に「何か新しいものを!」という読書欲がちょっとだけ出て、本屋をうろつくこと数ヶ月(大袈裟)、何度も同じ本を「どうしようかな~」と思いながら取っては戻し、取っては戻ししていた。横山秀夫とか乃南アサとか浅田次郎とか司馬遼太郎とか山崎豊子とかダニエル・キイスとか。
 それらの、少なくとも1作品は読んだことのある作家さんをだらだら迷ってるんだから世話ないのだが、ある日またまた懲りずに入った本屋で「亡国のイージス」というのが目に留まった。面出しされてたんだけど名前を見たことのない作家さんだったので試しに裏表紙のあらすじを読んでみたら、「自衛隊」の話であるらしい。自衛隊ものってあんまり聞いたことがない気がするなあと思いながらも(自分が知らないだけかもしれないけど)軍隊ものとか興味なくはなかったし、モノも上下巻だしけっこう長い時間使って読めそうだと思ってお買い上げ。
 この作品については昔のエントリでちょこっとだけ書いたんだが、私の中では久々のヒット。自衛隊という組織の持つ業を描き、そこに在る人間の曖昧な意識や自我や無関心を抉り、日本という国はどこへ向かいたいのかと問いかける。その物語が非常に精緻に描かれた個々の人物たちを介して築かれていくのでなお感情移入しまくれるのであり、感情移入するからこそ作品の突きつける問題、読んでいる自分の「考えのなさ」を鏡に映すかのように引きずり出してくれるのである。

 この作品で私が最も深く感銘を受けたのは「人間」の描写の細かさだった。序章において、中心となる3人の人物のバックボーンがしっかりと表現されている。そしてこの物語はその人物像がはっきり伝えられてこそ成り立つのだと私は勝手に感じている。
 が、映画のクレジットを見ると、人物が少々削られて劇中の組織構成も若干変わっており、どのエピソードが削られるかが大体想像がつく。そうなると、あのあたりとこのあたりを削ったとして、果たしてこれだけの大作の根幹をなす人間の感情の機微を2時間で描き切れるのだろうかといえば、どうもそれは無理なんじゃないかと思ってしまうのだ。というかそれ以前に、この3人の背景をちゃんと踏まえて話に入っていかないと、感動も半減しちゃうんじゃないかなあと思うのだが、映画の時間制約からするとそのへんは当然端折られそうな気がしたりで、そういう部分でも余計な心配をしてしまうのである。
 なので、映画化されると知った時には興味は湧いたが、実際にはそれほど期待はできないと思うし劇場で観ることはまずないと思う。
 あと配役がね。ちょっと微妙だったりね(笑)←これも昔のエントリにある

 と、まあさんざん言ってますけど(笑)裏を返せばそれほどにこの作品が、私の気に入ったってことなんだけどね。だから周りにもお勧めしてるんですけど(笑)。実際、「亡国のイージス」は読了とともに再読に突入し、それも終わったと見るや「川の深さは」と「Twelve Y. O.」という福井氏の他2作品もお買い上げしてしまった。
 書いてるのは一貫して「自衛隊」。しかし、大沢在昌氏の「Twelve Y. O.」解説によると、デビューする前から舞台の続く作品を書いていたので、乱歩賞の選考時に物議を醸したこともあったとか。でもこの両作品があって「亡国のイージス」があって、と考えると書きたいことがはっきりしてるんだなという感じは受ける。確かに、大沢氏の言う通り、「川の深さは」に比べたら「Twelve Y. O.」はちょっと足りない感じはしたけど(笑)

 その福井氏の長編「終戦のローレライ」が今春、映画「ローレライ」として公開されるのだが、さてどないなもんかなと。
 前述の通り、長編小説の映画化にはそれほど期待していないのだが(笑)役所広司に妻夫木聡に柳葉敏郎に、といういかにもCXだなぁというキャスティングに、製作が亀山千広氏とくればそりゃあ講談社も26誌連合企画も出ますわなという力の入りよう。なので逆に引いちゃったりして(笑)。←根性悪い
 この作品は単行本で発行された時は上下巻だったが、文庫化にあたっては4巻構成になったそうな。で、現在出ているのは1・2巻のみ。残りは今月15日発売だったかな。なので、本当は全部出てから買おうと思ってたんだけど、最近までまたまた暇つぶしに立て続けに読み直していた村薫氏「リヴィエラを撃て」「マークスの山」が予想外に早く終わってしまったので(まあ、何回読んでるんだって感じでもあるし)まあ2冊あれば残りの発売までは持つだろうと思い、ついに購入してしまいました。

 状況は、昨日? 一昨日? の夜から読み始めて、とりあえず今日で1巻終わるか終わらないかぐらい。ってーか、1巻だけ薄いんだよな。250Pないぐらい。残りの3冊がどうも同じ値段っぽいのでおそらくどれも470P前後かと思われる。
 なので、1巻は本当に序の口という感じだが、今回は第2次大戦を取り上げているという点がこれまでの自衛隊ものとは一線を画している。「あるべき終戦の形をもたらす兵器」を取り巻くストーリーが、広島・長崎の悲劇を経て訪れた「終戦の形」とどうリンクしていくのか、今後が興味深いところである。