田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

第十章 鬼沢組/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-27 07:09:59 | Weblog
第十章 鬼沢組

1

大森。
広域暴力団鬼沢組の事務所。
ここでも榊直人のパソコンが起動したことを察知した。
広報室長の中新井から渉外課の課長橋本に連絡が入った。

「そうか、榊直人の遺志を継ぐ者が現れたか。
顔までそつくりだというじゃないか」
「そいつでしょう。うちの襲撃班をつぶしたのは」

苦い顔で橋本がうなづく。
中山美智子を誘拐する作戦はすべりだしは、快調だったはずだ。
車もまばらな東北道で拉致する。
町中より目撃者はすくないはずだ。
それにみんな車でとばしている。
わざわざ車を止めるものは少ない。
警察に連絡するものも少ないはずだ。
それが予想外の邪魔がはいった。
まったく想定外だ。
ヘリで現場までかけつける機動性のあるガードがついていたとは。
予想もできなかった。
だいたい、美智子を誘拐する目的もまだ知らされていない。
そういったことが今度の仕事をやりにくくしているのだ。
どこから指令がでているのかも橋本にはわからない。

「こんどは慎重にやる。
まさか。あいつの跡を継ぐやつがいたとは……。
キィワードまで知っていたとは。なにものだ」
「いまのところは、なんとも。本人でないことは確かなのでしょうね」
「バカか。映画のボーンアイデンティじゃあるまいし。
死んだはずの男が急に動きだすのは、
映画だけでたのしんでいればいいことだ」

熱烈な映画フアンの渉外課長。
その実体は切り込み隊長の橋本が不機嫌な顔をする。
いくら会社組織にしも。
部署もそれらしい名称をつけても。
ヤクザの組織だ。
体質まではかわらない。

「あのとき、直人の死体は確認した。そうですよね」
「至急しらべてくれ」

こんどこそ、いらだった。
橋本はオドスように中新井にいった。
コンピーターオタクのボケガ。
橋本は中新井をののしった。

橋本はビルの地下の駐車場までエレベーターで降りた。
組の内部でも前のように渉外課が重きを置かれなくなった。
おもしろくない。

商業原理最優先型の組織。
に。
どこの組でもかわってしまった。
オトシマエはカネでつける。
そういう時代になってしまっている。
それが橋本にはおもしろくない。
気に食わない。
怒り狂った橋本を東都芸能の三品が待っていた。
背中を車にもたせかけていた。
ながいこと待ったのだろう。

「別人なのは確かです。隼人と呼びかけているのを聞いています」
「それだけわかればじゅうぶんだ。あとはこちらでしらべる」
橋本は携帯をひらいた。
「中新井か、さっきはわるかったな。
それより榊一族に隼人という男がいないか調べてくれ」

「これだな」
中新井が喜色をうかべた。
これでまた橋本に恩をうることができる。
デスプレー。
小学生の顔写真までのっている。
日光修験道「榊空手道場」

「フロリダ在住か。なにかあるな」
うれしそうな橋本の声。
これで、あまりコンピーターに文句はいわなくなるといいのだが。
中新井は隼人の顔に直人の顔をかさねてみた。
輪郭から目鼻立ちまで似ている。
隼人はこの写真の直人の歳くらいになっているはずだ。
だったらだれが見ても本人としか見えないだろう
それから、その横に直人を襲撃したふたりの組員の写真を張り付けた。
熊倉と天野。
熊倉には死亡を示す黒枠をつけた。
あの娘。
タレントの中山美智子。
小娘ひとりも、拉致できない腑抜けだ。
それでいて、かってに暴走した。
娘をレイプしかねる暴挙だったという。
それでも、ともかく――。
組のために死んだのだ。
これくらいのとは、してやっていいだろう。


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直人のパソコンの秘密(6)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-27 04:45:49 | Weblog
6

地面をのたくっている。

くねくねとうねる木の根が映っていた。

大蛇のうねりだった。

まるで生きているようだった。

いや。

まさに。

生きて、地表をはっている。

迫ってくる。
そして。
その――。
木の根が――。
直人の足に絡みつく。

ぐいとひく。
生きた鞭のようだ。

「直人」と絶叫する美智子の声が録音されていた。
ブラックアウト。

ただそれだけだった。
それだけ……。
というには、驚きの事実だった。
あまりにも……酷い、真実だった。
隼人は事故の実体を知った。
直人は殺されていた。
敵に襲われた。
抹殺された。

敵には、樹木を味方につけ、自由に操る技がある。
画面からは、血の臭いがしていた。
クラッシュした直人のイメージが浮かぶ。
PCかに読みとれた真実。
驚愕のあまり脳の血管がさけそうだった。
怒りのためアドレナリンがフルに分泌している。
隼人は美智子のように、絶叫したかった。
胸の鼓動を治めるために。
隼人は部屋を眺めた。
壁にはおびただしい数の写真が張ってあった。
壁いっぱいの写真。
美智子を写したものだった。
直人の美智子への想いが伝わってきた。

直人の美智子への愛の深さが壁の写真にはこめられていた。

携帯が音をたてている。
着メロは「オンリーユー」

「やあ、隼人君。
キリコの兄の黒髪秀行だ。
内閣府直属の特殊犯罪捜査室の麻薬捜査官だ。
榊捜査官のパソコンが起動したってことは。
いまきみが直人の部屋にいるってことだ。
きみがあらわれるのを3年まった。
敵はズバリ言う。
鬼神一族だ。
かれらの一部は山を降りて社会の中枢にくいこんでいる。
あいかわらずあくどいことをやっている。
人の生き血を吸うようなことをやっている。
それは昔とかわらん。
われらの敵だ。
そして麻薬がらみだ。
なぜ直人があれほど霧降の滝にこだわったのか探ってくれ。
お互いに協力し探索しよう。
そのあたりから捜査の網を広げてくれ。
霊体装甲はいつも身につけているように」


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直人のパソコンの秘密(5)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-26 15:02:08 | Weblog
5

「やあ隼人。
成人式おめでとう。
いまこの画面を隼人が見ているということは、
もう3年たったということだ。
なによりも美智子のことが気がかりだ。
彼女はおれとめぐりあったために苦難の道をいくことになった。
力になってやってくれ。
彼女を好きになってから知った。
中山は父方の姓だ。
美智子の母は鹿沼の麻耶。
遠い昔。
勝道上人に従って日光のオニガミを征伐したとき。
榊も、黒髪も麻耶もみんな共に戦った部族だ。
さて本題だ。アメリカのペンタゴンと。FBIで追っている。
フロリダの麻薬ルートだが。
日本経由のものが大量にでまわっている。
メキシコから越境して持ち込まれるのに。
日本産らしいなんて、おかしいよな。
だんじて、これは事実ではない、といいたいが!!
どうも、そうではないらしい。
なにかからくりがある。
黒髪族のひとたちが協力してくれるだろう。
かれらは、内閣府の特殊犯罪係として活躍している。
昔はおなじ一族だったことを聞いているかな。
われら下毛(しもつけ)の先住民。
われら榊、麻耶、黒髪の一族は。
勝道上人に協力して鬼神一族を追いつめたのだ。
上人はただの修験者ではない。
名前だけでもわかるよな。
勝道。
武人でもあった。
われらの一族は上人とこの日光の地を開いたのだ。
おれの遺志をついでくれてありがとう。
健闘をいのる。
それからおれの携帯をパソコンに接続して動画をみてくれ」

携帯に事故? の起きた現場が生々しく映っていた。
PCにつなぎ拡大した。

この動画があったから、直人は美智子に携帯を託したのだ。
美智子は「山のレストラン」で直人の携帯を衝動的に隼人に渡した。
隼人は事実を知らなかった。
平気でなにも知らないまま、直人の携帯を使いつづけていた。

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直人のパソコンの秘密(4)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-26 10:20:25 | Weblog
4

直人の住んでいたマンションは東品川にあった。
セブンイレブンの角を曲がった裏路地にあった。
目立たない。
6階建てのマンションだった。
周りには新築マンションやビルが乱立していた。
直人のマンションビルは周囲と比べて地味だった。
だが、堅牢なビルだった。
目立たないようにというポリシーで建てられたようなビルだった。
壁面にはなんの装飾もない。
ただコンクリーとの打ちっ放し。
灰色のビル。
窓も少ない。
フロントを入る。
まるで透明人間にでもなったようだ。
セキュリテイにはとがめられず、
ひっかからず、
直人の部屋の前に隼人は立っていた。

キーはぴったりとあった。
まちがいなくこの部屋のキーだ。
整頓された机にPCがあった。
うっすらとほこりがついている。
スイッチをいれる。
パスワードはずばりhayatoだった。
直人には子どものころよく遊んでもらった。
直人の考えは隼人の思考にインプリントされている。
自分のことのようにわかる。
カシヤカシャとキィボードを打ちこむ。


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直人のパソコンの秘密(3)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-25 12:26:19 | Weblog
3

外で車の出ていく音がした。
里佳子が母を迎えに鹿沼に向かったのだ。
里佳子のすばやい行動。
リアクション。
彼女もこの悪意の波動を感じているということだ。
わたしの妹だから。
わたしと同じ家系伝説の中で育ったのだから。
外からくる害意を敏感にとらえている。
母が心配になりとびだしていったのだ。
ドアでチャイムが鳴っている。

「なにか、忘れ物でもしたのかしら」
「わたしがでます」

深夜の来客は、隼人だった。
キリコからの連絡で駆け付けたのだ。
美智子を眩しそうに見ながら訊いた。
「美智子さん。
教えてくれないか。
大切なことだ。
直人さんからあずかっていたものはないのかな?」
「直人が残したものといっても……。
一眼レフと……取材ノートくらいかしら。
でも……かわったこと……書いてなかった」
「ノート見せてもらっていいかな」 
「いいわよ」

美智子は隠しごとをしている。
と咎められた子どものような。
身振りをした。
直人のノートにはセロテープでキーがはりつけてあった。
どうしてこんな重要なこと。
もっと早く見せてくれば。
話してくれれば……。
と。
美智子には直接いえなかった。
隼の表情に、美智子が気づいた。
不安そうにこちらを見ている美智子。
その態度が隼人の言葉を封じた。
じぶんのミスに気づいたらしい。
美智子はだまってしまった。



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直人のパソコンの秘密(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-25 07:31:46 | Weblog
2

麻耶は自由が丘の駅で降りた。
駅前には都内でもトップレベルの塾SAPIXがある。
先生たちが歩道まで出て塾生を見送っている。
塾の時間がおわったのだろう。
小学生が迎えにきた母親と駅ではしゃいでいた。
私立の中学受験生、成績優秀な生徒でも、子どもは子どもだ。
親に甘えている子どもたちをみながら街に踏みだした。
対面からサングラスをかけた、たくましい黒服の男たちが近寄ってくる。
背後をみた。
退路をたたれている。
おなじような黒服。
荒事になれている。
凶悪な気が体からにじみでている。
男が立ちはだかっている。

車の輻輳を無視して麻耶は車道に走り出ようとした。
麻耶は両脇をかかえこまれた。

「逆らうなよ。声をだすな」

麻耶は冷静に両脇の男たちを観察した。
とても力技ではかなわない。
争って勝てる相手ではない。
くやしい。
若い時であったら。
敵わぬまでも(いやこれくらいのレベルの男たちに負けるとはなかった)戦った。
それが体技にもちこむ、闘争への熱い決意を体が拒絶している。
屈辱感に冷や汗がふきだした。
背筋を冷たいものが伝う。
体が小刻みにふるえだした。
歩道際に駐車していたワンボックスカーに押し込められた。

「いやにすなをじゃないか」
「じじいだからや」

一緒に乗り込んだ男たちが会話をかわしている。
運転手は無言だ。
麻耶がおとなしくしたがったのにはほかにも理由があった。
予感がしていた。
駅を下りた時から予感がしていた。
ビジョンもあった。
誰もいない部屋で美智子のメールを読んでいる自分が見えていた。
逆らうこともあるまい。
成行きにまかせたほうがなにか、わかるだろう。
ワンボックスカーは自由が丘の街には入らなかった。

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第九章直人のパソコンの秘密/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-24 22:00:54 | Weblog
第九章 直人のパソコンの秘密

1

「もうクタクタよ」
美智子が自由が丘の母のもとに戻ったのは翌日午前2時になっていた。
「すぐ風呂に入って休むといいわ」
美智子が異物混入の水を飲んだことは知っていた。
そのあとは何事もないとキリコからこまめに連絡がはいっていた。
それでも……。
母親の里恵はおろおろしていた。
美智子がバスルームに入るのを見とどけた。

部屋で電話がなっている。

「いまごろだれかしら」

泊まり込みで警護に当たってくれることになったキリコと里佳子が部屋にいた。
里佳子が受話器を取り上げる姿が里恵の視線の先にあった。
里佳子の受話器を持った手が一瞬ガクッと震えた。

「どうしたの? なにかあったの?? 里佳子‼ 里佳子」

里恵は駆け寄った。
里佳子が黙って姉に受話器をわたした。 
母からだった。

「お父さんから連絡がないけど、そちらに、着いているでしょうね」

いつものやさしい母、智子の口調だった。
でも、訊かれた内容はおどろくべきものだった。
里恵は自分も一瞬妹の里佳子のように、いや体まで震えだした。
どうしてこのところ、悪意のあることばかり起きるのだろう。
父にかぎって、途中でどこかに寄るなどということはない。
ここに来るまでに、なんらかのトラブルにまきこまれたのだ。
連絡できないようなトラブルにまきこまれたのだ。

こんどは、受話器の向こうで母が固まっている。

その様子がありありと感じられた。

「おかあさん、おかあさんもこっちへ来て」
「里佳子を迎えにやるから、準備しててね」

いよいよだ。
また、わたしが小学校に通っていたころのように、害意ある事件が起きる。
これって父に聞かされていたわが家の家系に起因することなのかしら。
どこの家でも、その家の伝説みたいなものはある。
都市には都市伝説がある。
家には家系伝説がある。

あまりナーバスにならないほうがいしい。
キリコが連絡をとっている。

「美智子さんのおじいちゃんが行方不明なの」

連絡先はわからない。
あまり問いただすのも失礼と思い、里恵はソファにすわった。
落ち着かなければ。
美智子がタレントとして復帰したのだ。
ようやく3年の空白を埋めようと始動した。
そのためにこんな事件が起きているのだろうか。
そのためにこんな不吉なことがつづくのかしら。
それはいろいろ起きるだろうとは覚悟していた。
でもこんなことがたてつづけに起きるとは!!
想像もしていなかった。


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裏鹿沼(8)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-24 20:42:49 | Weblog
8

「あれっ!? 麻耶先生。ごぶさたしています」
春日部で乗りこんできたのだろう。
教え子の星公くんだった。
隣の指定席にすわった。
「こんなハプニングがあるんですね」
といまは人権派の弁護士となっている。
こわもての男がこの偶然の出会いに驚いていた。
翔太郎は驚かなかった。
近い将来また星弁護士には会うことになる。
能力が再覚醒したいまいろいろなものを引寄せているのだ。
わたしが磁場を形成している。
敵もくるが。
味方も集まってくる。

孫の美智子には幸せになってもらいたい。
ようやく女優業に復帰した。
その第一作で主演女優賞に輝いたのだ。
おもいっきり、好きな道を歩ませてやりたい。
そのためなら、どんなことでもしてやりたい。
そのためなら、どんな敵とも戦う覚悟だ。

ふいにイメージが麻耶の目前にうかぶ。
美智子が記者会見をひらいている。
グラスに手をのばす。「飲むな」麻耶には水は黒く見えた。
水を吐きだす。美智子。
こんなに鮮明に美智子のイメージが浮かんだことはない。
やはりオニガミの攻撃がはじまったのだ。
これはまだ脅しだ。
いまのうちに公の場で活動することを中止することを。
警告しているのだ。
いつでも、美智子の命はうばえるのだから。
という警鐘をならしているのだ。
オニガミが動きだしたのだ。
敵もまた、麻耶が目覚めたのを察知した。
いや、麻耶が目覚めるだろうことを、前もってしっていた。
手ごわい、あいてだ。
震えていた。
麻耶は震えていた。
武者震いだ。
なんとかして、心を落ちかせようとした。
震えはやまなかった。

暖房のきいた車中なのに。
麻耶は年甲斐もなく。
震えつづけていた。
「先生、どうかしましたか」
星が額に汗をふきだしている麻耶をいぶかった。
あいつらの攻撃が再開していたのだ。
おれははなんてバカだ。
もっと早くきづくべきだった。

「いや、だいじょうぶだ。暖房がききすぎている」

智子が万引き呼ばわりされた。
あの時、はっきりと気づかなければいけなかったのだ。
オニガミにのっとられた人格のひとがふえている。
どうしてわからなかったのだ。
もう、やつらの攻撃はないと安心していた。
油断していた。

なにがオニガミの関心をひきつけたのか。
なにがオニガミを怒らせてしまったのか。
麻耶にはわからなかった。

暖房が確かにききすぎている。
翔太郎は汗をかいた体で考えていた。
こんどは、星君が味方になってくれる。
彼とは近いうちに会うことになる。


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裏鹿沼(7)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-24 06:57:04 | Weblog
7

ジイチャン。
わたしすこし仕事休むことにしたからね。
べつに、病気じゃないから心配しないで。
直人とのことをゆっくりと考えたいの。
どうしてわたしたち出会ったのかしら。
こんな悲しい別れがまっていたのに。
あれは霧降の滝を観にいっての帰りだった。
たまたま立ち寄った「山のレストラン」。
ジャズのライブをやっていた。
木曜日の定休日を利用して。
地元のジャズメンに店の2階を公開しているのだという。
カメラをかまえて、演奏する群像を撮りまくっている若者がいた。 

それが直人だったの。

キュンと胸がなった。
どうしてだかわからなかった。
顔がほてって、動悸が高まって、ふらついたの。
どうしてそんなことが起きたのかわからなかった。

「中山さん? ですよね。気分でもわるいのですか」

直人のわたしへのはじめての言葉だった。
彼が手をさしのべてくれた。
……わたしはふらついて、倒れそうになっていた。
それほど、動揺していたの。
彼の手をにぎったときピリッとした。
感電したみたい。
わたしウブだから……オクテだから。初恋だった。

わたし中学から大学まで女子校だったから。
恋には……オクテな女子だった。
男の子に手を握られたのなんて――。
はじめてだった。

ひとめぼれ。
何万ボルトもの恋に感電したみたい。
あの出会い。
神さまに感謝していたのに。
感謝していたのに――。

あのとき。
直人を失った美智子のところに。
翔太郎がかけつけたとき。
美智子の瞳は風景を映していなかった。

直人の写真を元にして「霧降の滝」のミュチャ―を作ることを薦めた。
Sandplay Therapyのような効果を期待した。
美智子はその工事現場で庭師たちとどろんこになって働いた。

日光の森や滝の精霊と会話をかわしているようだった。

「ジイちゃん、直人が精霊の群れのなかからわたしに話しかけてくれるの」

うれしそうだった。

なにも見ていなかったつぶらな瞳に光がやどった。
工事が完成した。
美智子はうれしそうに人工の滝を――。
ミニチュアにしては大きすぎる滝を見ていた。
滝の流れ落ちる音に耳を傾けていた。
翔太郎は孫娘の悲しみが和らぐのを感じた。




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裏鹿沼(6)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-23 12:10:36 | Weblog
6

美智子からのメール。

ジイチャン。
直人が逝ってしまったよ。
残酷すぎる。
悲しいよ。
涙もかれて、もうでない。
塩っ辛くて目が痛い。
痛いよ。
でももう涙はでない。
こういうのって、血の涙をこぼす。
というのよね。
ジイチャンに聞いたことがある。
どんなに涙こぼそうとしても。
どんなに悲しくても。
涙は。
もうでない。
目がちりちり痛い。
直人がもういないなんて信じられない。
まだ出会ったばかりだったのに。
これからいっぱいたのしいことが待っていたのに。
これから――なんどもなんどもデートして。
愛を深めていくことができたのに。
……直人が、滑落事故で死ぬなんて。
予想もしなかった。
わたしはこれからどう生きればいいの。
ジイチャン、教えて。おねがい。

このメールを受け取ったときも。
麻耶は自由が丘の娘、里恵の家に駆けつけた。

あのときは孫娘、美智子を慰めるためだった。
こんどは危険な予感、孫にオニガミの影がおおいかぶさるような。
孫が命を狙われているような。
悪意が迫っているような。
予感がする。

それにしても、また覚醒した。
すっかり忘れていた感覚だ。
いまごろになって。
どうしてなのだろう。
麻耶は心を落ち着けるために、
さらに美智子のべつのメールを読みすすめた。



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