第十二章 愛の賛歌
1
翔太郎は美智子のメールを読んでいた。
翔太郎は駐車場の隣の? 部屋に閉じ込められていた。
コンクリートの打ちっぱなしだ。
建築中のビルなのだろう。
ときおり車の発着音がかすかに聞こえてくる。
あまりにイメージしたとおりの状況だ。
だから、拉致された場所がどこなのか、あまり気にならなかった。
彼らは翔太郎を部屋に置いて、なにも訊かなかった。
拉致するだけがいまのところ目的で、それから先の指令はうけてない。
そう推察した。逃亡の方法をあれこれかんがえることもあるまい。
じたばたしても、はじまらない。
この間に、懐かしいメールを読み返して置く。
翔太郎にはそんな余裕があった。
美智子のメール。
鹿沼をでるとき、妻の智子がプリントアウトしてくれたものだ。
翔太郎ジイチャン。
わたし悲しい。
直人とはずっとずっといっしょにいられると思っていた。
婚約した訳でもないのに。
世間的には恋人以上婚約者未満。
でもそれ以上の気もちだったのよ。
ジイチャンと智マミみたいに。
小さな田舎町でオバアチヤンになるまで。
いつもそばにいられると思っていたのに。
わたし結婚したら……。
いつも直人のそばにいられるように。
芸能界は引退するつもりだった。
直人といっしょにいられるなら。
すべてをすてても悔いはない。
そう思っていた。
直人のこと好きで、好きで、どうしょうもないほど好きだった。
直人と生活を共にして、赤ちゃん4人くらい産んで、育てて。
わたしって、ほら、不器用だからうまく育てられるかな?
ばかだね。
まだプロホーズもされてないのに、そんな心配していた……。
だってね、直人と話していると、ずっとずっとむかしからいっしょだった。
そんな気もちになってくるの。わたしってシーラカンスなのよね。
すごく古い女なんだ。古い、古い女なんだ。
……とわたし的にはいつも思っているの。
生きた化石みたいなのよ。
シーラカンスなの。わたしは……。
ジイチャンは幸せだね。
ずっと、いつも智マミといっしょなんだもの。
わたしはママみたいに一人で生きていく運命をせおっているんだね。
ママにはわたしがいる。
わたしには直人がいない。
子どももいない。
こんなのって、寂しすぎるよ。
あんなに直人のこと好きだったのに。
愛していたのに、それをまだいってなかったんだよ。
愛してる。
なんていわなくても、こころはかよいあっていたもの。
言葉ではいえないほど、言葉が必要ないほどはじめから愛しあっていた。
こんなのって、おかしいのかしら。
アイコンタクトの瞬間。
一目で愛の旋律が起きた。
もうぽおっとしてしまつたの。
うれしかった。
わたしの愛しい人がここにいる。
ここに現れたって感じがした。
あの時のジャズは「枯れ葉」だった。
シャンソンからアレンジしたのに。
ジャズで一番人気の曲。
すばらしい演奏だった。
地元、宇都宮のバンドだった。
ジイチャン。
いつかわたしのほうが先に死ぬようなことがあったら。
わたしの日記やメールをベースにして。
「直人と美智子の愛の物語」を書いてね。
このメールを受け取ったときだった。
美智子が自殺するのではなしいかと。
おそれて……自由が丘に駆けつけたのは。
人を愛し過ぎる。
恋人のために死んでもいいと思う。
そう思いつめられる。
わが家の家系なのだろう。
智子との愛をおもいながら……。
美智子のいる自由が丘にいそいだ。
翔太郎は鹿沼の「マヤ塾」が炎上したのを知らない。
智子が命に代えて――夫のCDを守ったのを知らない。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
皆さんの応援でがんばっています。
にほんブログ村
1
翔太郎は美智子のメールを読んでいた。
翔太郎は駐車場の隣の? 部屋に閉じ込められていた。
コンクリートの打ちっぱなしだ。
建築中のビルなのだろう。
ときおり車の発着音がかすかに聞こえてくる。
あまりにイメージしたとおりの状況だ。
だから、拉致された場所がどこなのか、あまり気にならなかった。
彼らは翔太郎を部屋に置いて、なにも訊かなかった。
拉致するだけがいまのところ目的で、それから先の指令はうけてない。
そう推察した。逃亡の方法をあれこれかんがえることもあるまい。
じたばたしても、はじまらない。
この間に、懐かしいメールを読み返して置く。
翔太郎にはそんな余裕があった。
美智子のメール。
鹿沼をでるとき、妻の智子がプリントアウトしてくれたものだ。
翔太郎ジイチャン。
わたし悲しい。
直人とはずっとずっといっしょにいられると思っていた。
婚約した訳でもないのに。
世間的には恋人以上婚約者未満。
でもそれ以上の気もちだったのよ。
ジイチャンと智マミみたいに。
小さな田舎町でオバアチヤンになるまで。
いつもそばにいられると思っていたのに。
わたし結婚したら……。
いつも直人のそばにいられるように。
芸能界は引退するつもりだった。
直人といっしょにいられるなら。
すべてをすてても悔いはない。
そう思っていた。
直人のこと好きで、好きで、どうしょうもないほど好きだった。
直人と生活を共にして、赤ちゃん4人くらい産んで、育てて。
わたしって、ほら、不器用だからうまく育てられるかな?
ばかだね。
まだプロホーズもされてないのに、そんな心配していた……。
だってね、直人と話していると、ずっとずっとむかしからいっしょだった。
そんな気もちになってくるの。わたしってシーラカンスなのよね。
すごく古い女なんだ。古い、古い女なんだ。
……とわたし的にはいつも思っているの。
生きた化石みたいなのよ。
シーラカンスなの。わたしは……。
ジイチャンは幸せだね。
ずっと、いつも智マミといっしょなんだもの。
わたしはママみたいに一人で生きていく運命をせおっているんだね。
ママにはわたしがいる。
わたしには直人がいない。
子どももいない。
こんなのって、寂しすぎるよ。
あんなに直人のこと好きだったのに。
愛していたのに、それをまだいってなかったんだよ。
愛してる。
なんていわなくても、こころはかよいあっていたもの。
言葉ではいえないほど、言葉が必要ないほどはじめから愛しあっていた。
こんなのって、おかしいのかしら。
アイコンタクトの瞬間。
一目で愛の旋律が起きた。
もうぽおっとしてしまつたの。
うれしかった。
わたしの愛しい人がここにいる。
ここに現れたって感じがした。
あの時のジャズは「枯れ葉」だった。
シャンソンからアレンジしたのに。
ジャズで一番人気の曲。
すばらしい演奏だった。
地元、宇都宮のバンドだった。
ジイチャン。
いつかわたしのほうが先に死ぬようなことがあったら。
わたしの日記やメールをベースにして。
「直人と美智子の愛の物語」を書いてね。
このメールを受け取ったときだった。
美智子が自殺するのではなしいかと。
おそれて……自由が丘に駆けつけたのは。
人を愛し過ぎる。
恋人のために死んでもいいと思う。
そう思いつめられる。
わが家の家系なのだろう。
智子との愛をおもいながら……。
美智子のいる自由が丘にいそいだ。
翔太郎は鹿沼の「マヤ塾」が炎上したのを知らない。
智子が命に代えて――夫のCDを守ったのを知らない。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
皆さんの応援でがんばっています。
![にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へ](http://novel.blogmura.com/novel_horror/img/novel_horror125_41_z_majo.gif)