田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

第六章 盗聴/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-09 00:13:17 | Weblog
第六章 盗聴
 
1
 
美智子が東北道で襲われた翌日。

自由が丘の駅前にある進学塾SAPIXの裏路地を行くと。
中山美智子の家がある。
街はまだ暗くうずくまったままだった。
だがようやく、黎明の気配をかぎとる。
背伸びをして目覚めかけた。
そしていま啓示的な光が高級住宅のたちならぶ街に射しこんできた。
キリコが歩いてくる。ジーンズに黒のブルゾンだ。

この街ではまだ紅葉がおわっていない。
ずっとサル彦ジィと危うい仕事ばかりこなしてきた。
孤独な人生をおくってきた。
それがこんどは――。
仲間や兄たちはいるが。
きゅうにアーバンライフをするはめになった。
オジイチャンとの生活がいまとなってはなつかしい。

中山邸は鹿沼石を八段も重ねた高い石塀に囲まれていた。
石塀のうえにはさらに金属のネットヘンスがある。
りツルバラが咲いていた。アイスバークだ。
住んでいるひとにふさわしく清楚な感じだ。
へたげに槍のような鋳鉄製の塀に上部をするより。
このほうが優雅であり。
それでいて容易には侵入できそうにない。
キリコがクノイチだからそう感じたのだろう。
ハコネウズキの枝にカラスウリが赤くたれさがっている。

キリコはインターホーンを押した。
早朝だった。だが声がした。
「どうぞ、門のわきのくぐり戸を開けますから」
美智子の母親だろう。澄んだ艶のある声がした。

このときキリコは不穏な動きを背後に感じた。
黒いセダンが通り過ぎていった。
悪意のある緊張感がその車から放射されていた。
空気がピリッとひきしまった。
「なにかしら」
キリコは背中に意識を集中した。
背中を目にした。容易にふりかえることはしない。
プロのこころがまえだ。
こちらがあなたに気づいていますよ。
と知られることは危険だ。
車は角を左折して駅の方角にきえていった。

カチっと音がした。解錠音だ。
キリコはくぐり戸に手をそえた。静かに開いた。
気のまわしすぎかしら。
ずって想定外のことばかり起きるのでナーバスになっているのだわ。 
すでに隼人は庭に出ていた。
霧降の滝のミニチャーを眺めていた。
滝口は人口の岩で造られていた。
滝の落差は5メトルはあるだろうか。
滝を縁どるように生えている草木はほんものだった。
霧降では落葉だった。
ここではまだモミジやナナカマドが紅葉していた。
霧降からでてきたキリコだ。
たぎり落ちる水と色づいた木々を。
なつかしいものをみるやさしい目で。
見あげていた。
滝の音は実況を録音したものがながれていた。
轟々とした飛瀑、霧降の滝のリアルな音だ。
キリコもその音を聞く。
「うれしいことしてくれていたのね。霧降にいるみたい。
すごくうれしい。サル彦ジイをおもいだしちゃった」
「おはよう」
さわやかな声が隼人からかえってきた。
「ゆうべはよく眠れたけ。なにもなかったぺな? ケタケタケタ」
日光の方言と擬音をわざとまじえてキリコが聞く。
U字工事の人気で有名になった栃木弁でもある。



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