田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

第九章直人のパソコンの秘密/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-24 22:00:54 | Weblog
第九章 直人のパソコンの秘密

1

「もうクタクタよ」
美智子が自由が丘の母のもとに戻ったのは翌日午前2時になっていた。
「すぐ風呂に入って休むといいわ」
美智子が異物混入の水を飲んだことは知っていた。
そのあとは何事もないとキリコからこまめに連絡がはいっていた。
それでも……。
母親の里恵はおろおろしていた。
美智子がバスルームに入るのを見とどけた。

部屋で電話がなっている。

「いまごろだれかしら」

泊まり込みで警護に当たってくれることになったキリコと里佳子が部屋にいた。
里佳子が受話器を取り上げる姿が里恵の視線の先にあった。
里佳子の受話器を持った手が一瞬ガクッと震えた。

「どうしたの? なにかあったの?? 里佳子‼ 里佳子」

里恵は駆け寄った。
里佳子が黙って姉に受話器をわたした。 
母からだった。

「お父さんから連絡がないけど、そちらに、着いているでしょうね」

いつものやさしい母、智子の口調だった。
でも、訊かれた内容はおどろくべきものだった。
里恵は自分も一瞬妹の里佳子のように、いや体まで震えだした。
どうしてこのところ、悪意のあることばかり起きるのだろう。
父にかぎって、途中でどこかに寄るなどということはない。
ここに来るまでに、なんらかのトラブルにまきこまれたのだ。
連絡できないようなトラブルにまきこまれたのだ。

こんどは、受話器の向こうで母が固まっている。

その様子がありありと感じられた。

「おかあさん、おかあさんもこっちへ来て」
「里佳子を迎えにやるから、準備しててね」

いよいよだ。
また、わたしが小学校に通っていたころのように、害意ある事件が起きる。
これって父に聞かされていたわが家の家系に起因することなのかしら。
どこの家でも、その家の伝説みたいなものはある。
都市には都市伝説がある。
家には家系伝説がある。

あまりナーバスにならないほうがいしい。
キリコが連絡をとっている。

「美智子さんのおじいちゃんが行方不明なの」

連絡先はわからない。
あまり問いただすのも失礼と思い、里恵はソファにすわった。
落ち着かなければ。
美智子がタレントとして復帰したのだ。
ようやく3年の空白を埋めようと始動した。
そのためにこんな事件が起きているのだろうか。
そのためにこんな不吉なことがつづくのかしら。
それはいろいろ起きるだろうとは覚悟していた。
でもこんなことがたてつづけに起きるとは!!
想像もしていなかった。


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裏鹿沼(8)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-24 20:42:49 | Weblog
8

「あれっ!? 麻耶先生。ごぶさたしています」
春日部で乗りこんできたのだろう。
教え子の星公くんだった。
隣の指定席にすわった。
「こんなハプニングがあるんですね」
といまは人権派の弁護士となっている。
こわもての男がこの偶然の出会いに驚いていた。
翔太郎は驚かなかった。
近い将来また星弁護士には会うことになる。
能力が再覚醒したいまいろいろなものを引寄せているのだ。
わたしが磁場を形成している。
敵もくるが。
味方も集まってくる。

孫の美智子には幸せになってもらいたい。
ようやく女優業に復帰した。
その第一作で主演女優賞に輝いたのだ。
おもいっきり、好きな道を歩ませてやりたい。
そのためなら、どんなことでもしてやりたい。
そのためなら、どんな敵とも戦う覚悟だ。

ふいにイメージが麻耶の目前にうかぶ。
美智子が記者会見をひらいている。
グラスに手をのばす。「飲むな」麻耶には水は黒く見えた。
水を吐きだす。美智子。
こんなに鮮明に美智子のイメージが浮かんだことはない。
やはりオニガミの攻撃がはじまったのだ。
これはまだ脅しだ。
いまのうちに公の場で活動することを中止することを。
警告しているのだ。
いつでも、美智子の命はうばえるのだから。
という警鐘をならしているのだ。
オニガミが動きだしたのだ。
敵もまた、麻耶が目覚めたのを察知した。
いや、麻耶が目覚めるだろうことを、前もってしっていた。
手ごわい、あいてだ。
震えていた。
麻耶は震えていた。
武者震いだ。
なんとかして、心を落ちかせようとした。
震えはやまなかった。

暖房のきいた車中なのに。
麻耶は年甲斐もなく。
震えつづけていた。
「先生、どうかしましたか」
星が額に汗をふきだしている麻耶をいぶかった。
あいつらの攻撃が再開していたのだ。
おれははなんてバカだ。
もっと早くきづくべきだった。

「いや、だいじょうぶだ。暖房がききすぎている」

智子が万引き呼ばわりされた。
あの時、はっきりと気づかなければいけなかったのだ。
オニガミにのっとられた人格のひとがふえている。
どうしてわからなかったのだ。
もう、やつらの攻撃はないと安心していた。
油断していた。

なにがオニガミの関心をひきつけたのか。
なにがオニガミを怒らせてしまったのか。
麻耶にはわからなかった。

暖房が確かにききすぎている。
翔太郎は汗をかいた体で考えていた。
こんどは、星君が味方になってくれる。
彼とは近いうちに会うことになる。


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裏鹿沼(7)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-24 06:57:04 | Weblog
7

ジイチャン。
わたしすこし仕事休むことにしたからね。
べつに、病気じゃないから心配しないで。
直人とのことをゆっくりと考えたいの。
どうしてわたしたち出会ったのかしら。
こんな悲しい別れがまっていたのに。
あれは霧降の滝を観にいっての帰りだった。
たまたま立ち寄った「山のレストラン」。
ジャズのライブをやっていた。
木曜日の定休日を利用して。
地元のジャズメンに店の2階を公開しているのだという。
カメラをかまえて、演奏する群像を撮りまくっている若者がいた。 

それが直人だったの。

キュンと胸がなった。
どうしてだかわからなかった。
顔がほてって、動悸が高まって、ふらついたの。
どうしてそんなことが起きたのかわからなかった。

「中山さん? ですよね。気分でもわるいのですか」

直人のわたしへのはじめての言葉だった。
彼が手をさしのべてくれた。
……わたしはふらついて、倒れそうになっていた。
それほど、動揺していたの。
彼の手をにぎったときピリッとした。
感電したみたい。
わたしウブだから……オクテだから。初恋だった。

わたし中学から大学まで女子校だったから。
恋には……オクテな女子だった。
男の子に手を握られたのなんて――。
はじめてだった。

ひとめぼれ。
何万ボルトもの恋に感電したみたい。
あの出会い。
神さまに感謝していたのに。
感謝していたのに――。

あのとき。
直人を失った美智子のところに。
翔太郎がかけつけたとき。
美智子の瞳は風景を映していなかった。

直人の写真を元にして「霧降の滝」のミュチャ―を作ることを薦めた。
Sandplay Therapyのような効果を期待した。
美智子はその工事現場で庭師たちとどろんこになって働いた。

日光の森や滝の精霊と会話をかわしているようだった。

「ジイちゃん、直人が精霊の群れのなかからわたしに話しかけてくれるの」

うれしそうだった。

なにも見ていなかったつぶらな瞳に光がやどった。
工事が完成した。
美智子はうれしそうに人工の滝を――。
ミニチュアにしては大きすぎる滝を見ていた。
滝の流れ落ちる音に耳を傾けていた。
翔太郎は孫娘の悲しみが和らぐのを感じた。




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