田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

裏鹿沼(7)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-24 06:57:04 | Weblog
7

ジイチャン。
わたしすこし仕事休むことにしたからね。
べつに、病気じゃないから心配しないで。
直人とのことをゆっくりと考えたいの。
どうしてわたしたち出会ったのかしら。
こんな悲しい別れがまっていたのに。
あれは霧降の滝を観にいっての帰りだった。
たまたま立ち寄った「山のレストラン」。
ジャズのライブをやっていた。
木曜日の定休日を利用して。
地元のジャズメンに店の2階を公開しているのだという。
カメラをかまえて、演奏する群像を撮りまくっている若者がいた。 

それが直人だったの。

キュンと胸がなった。
どうしてだかわからなかった。
顔がほてって、動悸が高まって、ふらついたの。
どうしてそんなことが起きたのかわからなかった。

「中山さん? ですよね。気分でもわるいのですか」

直人のわたしへのはじめての言葉だった。
彼が手をさしのべてくれた。
……わたしはふらついて、倒れそうになっていた。
それほど、動揺していたの。
彼の手をにぎったときピリッとした。
感電したみたい。
わたしウブだから……オクテだから。初恋だった。

わたし中学から大学まで女子校だったから。
恋には……オクテな女子だった。
男の子に手を握られたのなんて――。
はじめてだった。

ひとめぼれ。
何万ボルトもの恋に感電したみたい。
あの出会い。
神さまに感謝していたのに。
感謝していたのに――。

あのとき。
直人を失った美智子のところに。
翔太郎がかけつけたとき。
美智子の瞳は風景を映していなかった。

直人の写真を元にして「霧降の滝」のミュチャ―を作ることを薦めた。
Sandplay Therapyのような効果を期待した。
美智子はその工事現場で庭師たちとどろんこになって働いた。

日光の森や滝の精霊と会話をかわしているようだった。

「ジイちゃん、直人が精霊の群れのなかからわたしに話しかけてくれるの」

うれしそうだった。

なにも見ていなかったつぶらな瞳に光がやどった。
工事が完成した。
美智子はうれしそうに人工の滝を――。
ミニチュアにしては大きすぎる滝を見ていた。
滝の流れ落ちる音に耳を傾けていた。
翔太郎は孫娘の悲しみが和らぐのを感じた。




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