田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

直人のパソコンの秘密(3)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-25 12:26:19 | Weblog
3

外で車の出ていく音がした。
里佳子が母を迎えに鹿沼に向かったのだ。
里佳子のすばやい行動。
リアクション。
彼女もこの悪意の波動を感じているということだ。
わたしの妹だから。
わたしと同じ家系伝説の中で育ったのだから。
外からくる害意を敏感にとらえている。
母が心配になりとびだしていったのだ。
ドアでチャイムが鳴っている。

「なにか、忘れ物でもしたのかしら」
「わたしがでます」

深夜の来客は、隼人だった。
キリコからの連絡で駆け付けたのだ。
美智子を眩しそうに見ながら訊いた。
「美智子さん。
教えてくれないか。
大切なことだ。
直人さんからあずかっていたものはないのかな?」
「直人が残したものといっても……。
一眼レフと……取材ノートくらいかしら。
でも……かわったこと……書いてなかった」
「ノート見せてもらっていいかな」 
「いいわよ」

美智子は隠しごとをしている。
と咎められた子どものような。
身振りをした。
直人のノートにはセロテープでキーがはりつけてあった。
どうしてこんな重要なこと。
もっと早く見せてくれば。
話してくれれば……。
と。
美智子には直接いえなかった。
隼の表情に、美智子が気づいた。
不安そうにこちらを見ている美智子。
その態度が隼人の言葉を封じた。
じぶんのミスに気づいたらしい。
美智子はだまってしまった。



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直人のパソコンの秘密(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-25 07:31:46 | Weblog
2

麻耶は自由が丘の駅で降りた。
駅前には都内でもトップレベルの塾SAPIXがある。
先生たちが歩道まで出て塾生を見送っている。
塾の時間がおわったのだろう。
小学生が迎えにきた母親と駅ではしゃいでいた。
私立の中学受験生、成績優秀な生徒でも、子どもは子どもだ。
親に甘えている子どもたちをみながら街に踏みだした。
対面からサングラスをかけた、たくましい黒服の男たちが近寄ってくる。
背後をみた。
退路をたたれている。
おなじような黒服。
荒事になれている。
凶悪な気が体からにじみでている。
男が立ちはだかっている。

車の輻輳を無視して麻耶は車道に走り出ようとした。
麻耶は両脇をかかえこまれた。

「逆らうなよ。声をだすな」

麻耶は冷静に両脇の男たちを観察した。
とても力技ではかなわない。
争って勝てる相手ではない。
くやしい。
若い時であったら。
敵わぬまでも(いやこれくらいのレベルの男たちに負けるとはなかった)戦った。
それが体技にもちこむ、闘争への熱い決意を体が拒絶している。
屈辱感に冷や汗がふきだした。
背筋を冷たいものが伝う。
体が小刻みにふるえだした。
歩道際に駐車していたワンボックスカーに押し込められた。

「いやにすなをじゃないか」
「じじいだからや」

一緒に乗り込んだ男たちが会話をかわしている。
運転手は無言だ。
麻耶がおとなしくしたがったのにはほかにも理由があった。
予感がしていた。
駅を下りた時から予感がしていた。
ビジョンもあった。
誰もいない部屋で美智子のメールを読んでいる自分が見えていた。
逆らうこともあるまい。
成行きにまかせたほうがなにか、わかるだろう。
ワンボックスカーは自由が丘の街には入らなかった。

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