田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

鬼沢組(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-27 17:09:07 | Weblog
2

組員の動静すべてを掌握しているのは。
このコンピューターだけだ。
その操作をしながら、中新井は橋本にいま調べたことを。
知らせる。

「三品さんよ。わかったことがある。
こんどはこっちから情報をやる。
男は榊隼人。直人の従弟だ。フロリダ在住の空手マンだ」
「それが、どうして今頃日本にきたのでしょうね」
「これはマル秘なんだが、
直人のパソコンが3年ぶりに動きだした。
隼人の仕業だろう。
ということは、隼人は直人の仕事を引き継ぐ気だ」
橋本は中新井から知らされたことを三品に流した。

プレス関係の情報源として重宝な三品だ。
たまにはこちらから情報を流すのも付き合いというものだ。

居酒屋『庄屋』大森店。
そこで橋本を天野と。
カギ師のケンさんが。
が――まっていた。

「どじっちまってもうしわけありません」
「熊倉は残念だった。ベストの処置だと思う」
「ありがとうございます」
会話だけ聞いているとありふれたサラリーマンのものだ。
橋本たち渉外部の武闘派はすこぶる紳士的だ。
少しくらい聴き耳たてられてもあやしまれない。
極ありふれた日常会話としかとられない。
それが怖いのだ。
人を消すのも日常の仕事。
なんのためらいもない。
「邪魔したのは、榊隼人。直人の従弟だ。
それから熊倉の死体の処理が上手すぎる。
おそらく、ヘリに同乗していた女は黒髪につながるものだ」
「こんどは、注意してかかります」
「おれもいく」
 
排除が必要だ。
すこしでも、組の営業に不利益を将来もたらすヤツは早めに。

芽を摘む。
剪定する。
根こそぎ抜き取る。

橋本と天野とケンさんは、大森から京浜東北線で品川にでた。
3年も探して見つからなかった。
榊直人のマンションだ。
それが直人の部屋のパソコンが作動した。
それだけで中新井がすべてをキャッチした。
新しいタイプの筋ものと自負している橋本。
中新井が――。
おもしろくない。
でも一目置かないわけにはいかない。
コンピューターが仕事をする。
それがどうもまだ納得できないのだ。
アイツはおれよりも先をいっている。
おれよりも、新しい。
ピッカピッカの新ヤクザだ。
中山美智子を誘拐しろ。
その命令だって。
コンピューターの液晶画面に映ったボスから受けた。
どう考えてもやはり納得できない。
中新井が新しいシステムをつくりあげたからだ。
ボスの唾を浴びながら指令をだされていたころが。
なつかしい。

マンションへは裏の非常階段から潜入した。

「だれもいないのかな」



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第十章 鬼沢組/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-27 07:09:59 | Weblog
第十章 鬼沢組

1

大森。
広域暴力団鬼沢組の事務所。
ここでも榊直人のパソコンが起動したことを察知した。
広報室長の中新井から渉外課の課長橋本に連絡が入った。

「そうか、榊直人の遺志を継ぐ者が現れたか。
顔までそつくりだというじゃないか」
「そいつでしょう。うちの襲撃班をつぶしたのは」

苦い顔で橋本がうなづく。
中山美智子を誘拐する作戦はすべりだしは、快調だったはずだ。
車もまばらな東北道で拉致する。
町中より目撃者はすくないはずだ。
それにみんな車でとばしている。
わざわざ車を止めるものは少ない。
警察に連絡するものも少ないはずだ。
それが予想外の邪魔がはいった。
まったく想定外だ。
ヘリで現場までかけつける機動性のあるガードがついていたとは。
予想もできなかった。
だいたい、美智子を誘拐する目的もまだ知らされていない。
そういったことが今度の仕事をやりにくくしているのだ。
どこから指令がでているのかも橋本にはわからない。

「こんどは慎重にやる。
まさか。あいつの跡を継ぐやつがいたとは……。
キィワードまで知っていたとは。なにものだ」
「いまのところは、なんとも。本人でないことは確かなのでしょうね」
「バカか。映画のボーンアイデンティじゃあるまいし。
死んだはずの男が急に動きだすのは、
映画だけでたのしんでいればいいことだ」

熱烈な映画フアンの渉外課長。
その実体は切り込み隊長の橋本が不機嫌な顔をする。
いくら会社組織にしも。
部署もそれらしい名称をつけても。
ヤクザの組織だ。
体質まではかわらない。

「あのとき、直人の死体は確認した。そうですよね」
「至急しらべてくれ」

こんどこそ、いらだった。
橋本はオドスように中新井にいった。
コンピーターオタクのボケガ。
橋本は中新井をののしった。

橋本はビルの地下の駐車場までエレベーターで降りた。
組の内部でも前のように渉外課が重きを置かれなくなった。
おもしろくない。

商業原理最優先型の組織。
に。
どこの組でもかわってしまった。
オトシマエはカネでつける。
そういう時代になってしまっている。
それが橋本にはおもしろくない。
気に食わない。
怒り狂った橋本を東都芸能の三品が待っていた。
背中を車にもたせかけていた。
ながいこと待ったのだろう。

「別人なのは確かです。隼人と呼びかけているのを聞いています」
「それだけわかればじゅうぶんだ。あとはこちらでしらべる」
橋本は携帯をひらいた。
「中新井か、さっきはわるかったな。
それより榊一族に隼人という男がいないか調べてくれ」

「これだな」
中新井が喜色をうかべた。
これでまた橋本に恩をうることができる。
デスプレー。
小学生の顔写真までのっている。
日光修験道「榊空手道場」

「フロリダ在住か。なにかあるな」
うれしそうな橋本の声。
これで、あまりコンピーターに文句はいわなくなるといいのだが。
中新井は隼人の顔に直人の顔をかさねてみた。
輪郭から目鼻立ちまで似ている。
隼人はこの写真の直人の歳くらいになっているはずだ。
だったらだれが見ても本人としか見えないだろう
それから、その横に直人を襲撃したふたりの組員の写真を張り付けた。
熊倉と天野。
熊倉には死亡を示す黒枠をつけた。
あの娘。
タレントの中山美智子。
小娘ひとりも、拉致できない腑抜けだ。
それでいて、かってに暴走した。
娘をレイプしかねる暴挙だったという。
それでも、ともかく――。
組のために死んだのだ。
これくらいのとは、してやっていいだろう。


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直人のパソコンの秘密(6)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-27 04:45:49 | Weblog
6

地面をのたくっている。

くねくねとうねる木の根が映っていた。

大蛇のうねりだった。

まるで生きているようだった。

いや。

まさに。

生きて、地表をはっている。

迫ってくる。
そして。
その――。
木の根が――。
直人の足に絡みつく。

ぐいとひく。
生きた鞭のようだ。

「直人」と絶叫する美智子の声が録音されていた。
ブラックアウト。

ただそれだけだった。
それだけ……。
というには、驚きの事実だった。
あまりにも……酷い、真実だった。
隼人は事故の実体を知った。
直人は殺されていた。
敵に襲われた。
抹殺された。

敵には、樹木を味方につけ、自由に操る技がある。
画面からは、血の臭いがしていた。
クラッシュした直人のイメージが浮かぶ。
PCかに読みとれた真実。
驚愕のあまり脳の血管がさけそうだった。
怒りのためアドレナリンがフルに分泌している。
隼人は美智子のように、絶叫したかった。
胸の鼓動を治めるために。
隼人は部屋を眺めた。
壁にはおびただしい数の写真が張ってあった。
壁いっぱいの写真。
美智子を写したものだった。
直人の美智子への想いが伝わってきた。

直人の美智子への愛の深さが壁の写真にはこめられていた。

携帯が音をたてている。
着メロは「オンリーユー」

「やあ、隼人君。
キリコの兄の黒髪秀行だ。
内閣府直属の特殊犯罪捜査室の麻薬捜査官だ。
榊捜査官のパソコンが起動したってことは。
いまきみが直人の部屋にいるってことだ。
きみがあらわれるのを3年まった。
敵はズバリ言う。
鬼神一族だ。
かれらの一部は山を降りて社会の中枢にくいこんでいる。
あいかわらずあくどいことをやっている。
人の生き血を吸うようなことをやっている。
それは昔とかわらん。
われらの敵だ。
そして麻薬がらみだ。
なぜ直人があれほど霧降の滝にこだわったのか探ってくれ。
お互いに協力し探索しよう。
そのあたりから捜査の網を広げてくれ。
霊体装甲はいつも身につけているように」


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