音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■3度 、 6度 の重音が、数多く出現する 16番 Fuga は、横紙破りの前衛■

2014-06-29 00:24:19 | ■私のアナリーゼ講座■

■3度 、 6度 の重音が、数多く出現する 16番 Fuga は、横紙破りの前衛■
~平均律 第 2巻アナリーゼ講座 は、 16番 g-Moll  Prelude & Fuga ~
                2014.6.29     中村洋子

 

 

★25日の 名古屋「 Invention Analyse アナリーゼ講座 」には、

たくさんの方が、遠方から、わざわざお出掛け下さいました。

また、「 Duo for Violoncello & Guitar 」 の初稿を、Berlin に送り、

少し、ホッとしているところです。

これから、奏者と打ち合わせて、最後の推敲に入ります。

読みたい本が山積みになっており、横目で眺めるだけなのが、

残念です。


★名古屋では、 「 Inventio & Sinfonia Nr.14 B-Dur 」 について、

お話しました。

B-Dur は、7月 3日 KAWAI 表参道「 平均律 第 2巻アナリーゼ講座 」の

「 16番 g-Moll  Prelude & Fuga 」 と、平行調の関係にあり、

≪ 近親調の中の近親調 ≫ という関係です


Invention Nr.14 は、 全 20小節です。

その中で、14小節から 16小節前半までの 2小節半にわたり、

上声と下声は、 10度音程 ( 1オクターブ + 3度 ) の差で、

全く、同じ旋律を奏します


★その間は、二声ではなく、

10度の重音による 「 一声」 のみである、と見ることもできます。


★これは、 countepoint 対位法 の音楽では、極めて異例です

長大な曲の途中で、 2小節半が、このような部分があるのでしたら、

まだ、分かりますが、

20小節しかない大変短い曲の中で、 2小節半は、

かなりの部分を、占めているのです。


★何故、 countepoint 対位法 で 「 異例 」 なのか、と言いますと、

≪ point counter point 点対点 ≫  が、 countepoint 対位法 であるならば、

そもそも、 point と point とが、異なった動きをしませんと、

「 countepoint 対位法 」 とはいえず、

単なる単声 ( 一声音 ) の、旋律である、としかいえないからです。

 

 


B-Dur と極めて近い関係の  「16番 g-Moll 」 に、目を移しますと、

 Fuga において、 45 ~ 49小節 1拍目までの、

アルトとテノール声部で、まるで、3度の重音のように、

ピッタリと一致した Subject 主題 が、奏されます。


51 ~ 55小節1拍目までも、同様に、 ソプラノとアルト声部で、

Subject 主題が、あたかも 6度の重音のように、奏されます。

59 ~ 62小節 1拍目までも、  Counter subject 対主題が、

ソプラノ と アルト声部で、 3度の重音のように、配置され、

同時に、テノールとバスも 3度の重音のように、ピッタリ一致して、

書かれています。


★以上は、ほんの一例です。

16番 Fuga は、  countepoint 対位法 の曲としては、

前衛的、あるいは革命的であると、

言わざるをえません。

 

 

 


★しかし、この16番だけを見ていては、 Bach 先生の意図は、

見えてきません。


16番での、上記の重音は、

17番 As-Dur  Prelude の冒頭 1小節の上声 

「 as1 」  と 「 c2 」 の重音へと、つながっていくのです。
  
この 「 as1 」  と 「 c2 」 の重音の下に、

 「 es1 」  も配置されますので、

この 3音で、≪ 主和音 ≫ が形成されます。

3つの独立した  countepoint の声部とは、見えません。


17番  Prelude には、この  1小節目のような 「 上声 3和音 」 が、

他にも  3、17、19、36、50、54、58小節などで、

多数、出現しています。


★更に、17番に続く  「 18番 gis-Moll  Prelude 」 は、

冒頭 1小節目で、バス、テノール、アルトによって和音が形成され、

その上に、ソプラノの旋律が奏でられます。

その後、 2小節目では、上声ソプラノとアルトが、

3度の重音です。

 

 


countepoint 対位法 の枠から飛び出したような、

このような横紙破りの書き方は、言ってみれば、

“ 衝動 ” が、もたらしたものかもしれません。

そこまでの ≪ 高揚感 ≫ がある、ともいえます。


★ちなみに、平均律 第 1巻の 第 10番 e-Moll Fuga の、

第 19小節 と 第 38小節には、 unison ユニゾン

( オクターブ音階で、同じ旋律を奏する)   の部分があります。

平均律 第 1巻 と 第 2巻 を通じて、

ユニゾンは、ここだけです。


★この  第 10番 e-Moll Fuga は 二声です。

上声と下声が、 unison ユニゾンとなりますと、

むき出しの旋律が、聴こえるだけとなります。

勿論、ここの二か所が、この 10番 Fuga の Höhepunkt

頂点なのです。


16番には、 unison ユニゾン はないものの、

3度 や 6度 の重音が、数えきれないほど、出現します。

それは、高揚感、緊張感が非常に長く、持続している曲である、

ということでもあるのです。

また、高揚感と同時に、 orchestra 的効果も、考えていると、

思われます。


Bach は、16番から 17、18番と、大きな構想をもって、

作曲していたのは、間違いありません。

自筆譜を、詳しく読み解くことから、

その意図を、解きほぐし、解明し、

Röntgen 版や Bartók版から、どう演奏すべきか考えることは、

この上なく、楽しい作業であり、

同時に、大きな喜びなのです。

 

 

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 第 13回  Bach 平均律 第 2巻 アナリーゼ講座

     第 16番 g-Moll BWV885 Prelude & Fuga

~ Chopinの Piano Concerto No.2は、

                                         16番を学び尽して生まれた ~

日  時 :  2014年 7月3日(木) 午前 10時 ~ 12時 30分

会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

予    約  :    Tel.03-3409-1958

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■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

  2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

  07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

  08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
     CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

  08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

  09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版

          「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
           W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
           初演される。

  10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

  10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

  11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

  12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

  13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

           「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

        スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

   ★上記の 楽譜 & CDは「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/  

  「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で販売中

 

 

 

  ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

   全国の主要 CDショップや amazon でも、ご注文できます。

  ★ disk Union クラシック館で、第1 ~ 6番を購入できます。

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※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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