音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■私の作品「無伴奏チェロ組曲第3番、2番」の CD が完成■

2010-04-23 21:44:31 | ■私の作品について■

■私の作品「無伴奏チェロ組曲第3番、2番」の CD が完成■
                      2010.4.23   中村洋子


★昨秋、ヴォルフガング・ベッチャー先生に録音していただきました、

私の作品「無伴奏チェロ組曲第3番、2番」のCDが、ついに完成しました。

「 順番としては、3番を先にしたほうが、ヨーロッパでは好まれるでしょう」

という先生のご意見で、変則的ですが、3番、2番の順といたしました。


★先生の演奏もさることながら、音質も、特筆すべき名盤となっています。

録音とマスタリングをお願いいたしました杉本一家さんが、精魂込め、

最高の質に仕上げてくださいました。

数々の名盤を、お作りになってきた杉本さんですが、

そのなかでも、ご自身のマスターピースとなりそうです。


★一般のショップには出ませんので、

ご希望の方は、カワイ表参道 1F 楽譜売り場で、

お求めになれます。


★ CD ブックレットの一部です。

●無伴奏チェロ組曲第3番 
① 「前奏曲」        
② 「鶺 鴒(せきれい)」    
③ 「唐紅に水くくるとは」    
④ 「秋の森」          
⑤ 「木の実時雨」        
   「晩秋の朝霜」       
   「木の実時雨」         
⑥ 「錦 秋」          

●無伴奏チェロ組曲第2番
⑦  「悲しみの歌 と フーガ」  
⑧  「私は、そよ風になりたい」
⑨  「私は、突風になりたい」  
⑩  「霜の花」         
⑪  「冬の荒海」         
    「揺らめく蝋燭の炎」        
    「冬の荒海」        
⑫  「漂 白」

●「冬 の 庭」           
                  
●「夜色楼台図」 
             
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●無伴奏チェロ組曲第3番 

私は、チェロ組曲を書き続け、全6曲とする予定です。
それぞれの組曲は、季節を象徴し、それが回りめぐり、
循環するように作られます。
この第3番は、日本の「秋」を歌います。
第 1楽章「前奏曲」のテーマは、雅楽の有名な旋律を基に発展させました。
私が08年に発表しましたCD「龍笛とピアノのためのデュオ」のなかの
「胡国の春」という曲で、龍笛がこの旋律を奏でています。
このテーマは、音階の第1から第4音までが、C-D-E-Fisで、
西洋音楽の「リディア調」に一致します。
第5音から上は、G-A-B-Cで、「ミクソリディア調」に、一致します。
C-Fisから導きだされる増 4度音程が、特徴的な効果をもたらします。
雅楽の故里である西域「シルクロードの世界」がもつ生命力を、
日本の山の秋に、移し変えました。

第 2楽章の「鶺鴒(せきれい)」は、私が好きな詩人・三好達治の「鶺鴒」と
いう詩に、触発されました。
“小川の石が丸いのは、みんな私の尻尾で叩いたからよ”、
という微笑ましい内容の詩です。
ほとばしる清流。
白い水しぶきを浴びながら岩の端にへばりつき、一心に尾を振るう鶺鴒。
奥深い山での、人の知らない自然の営み、秋の一こまです。

第 3楽章「唐紅に水くくるとは」。
紅葉で錦織り成す山々。
赤、黄色ととりどりの紅葉が清流を伝い、舞い、回り、走ります。
どこか不気味で狂気を孕んだような風景。

第 4楽章「秋の森」は、静まり返った秋の深い森の中。
木の実の落ちる音が聞こえるような静寂さ。
「バルトーク・ピッチカート」
(弦が指板に当たり、跳ね返る音まで入る)が、森の空気を伝えます。

第 5楽章「木の実時雨」、「晩秋の朝霜」、「木の実時雨」と、
繰り返されます。

第 6楽章「錦秋」は、お能の「紅葉狩り」の物語を表現しました。
全山錦と化した紅葉の山に誘われ、迷い込んだ貴公子が、
絶世の美女にお酒を振舞われます。
眠り込んだ貴公子を、鬼の姿に戻った美女が、襲いかかる怖いお話です。
貴公子を秋、美女を万物が枯れる冬と、とらえることも出来るでしょう。

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●無伴奏チェロ組曲第2番 

日本の北海道などに居住する少数民族「アイヌ民族」には、
即興の「叙情歌」が残されています。
即興歌のメロディーは、完全 4度音程の逆付点リズム
(タ、ターン、タ、ターン)や、
シンコペーション(タ、タータ)を特徴とします。
風雪に耐え、力強いものがあります。

メロディーは、ほとんど同じ類型でできていますが、
アイヌの人々は、そのメロディーに、思い浮かぶさまざまな想念、
追憶、喜び、悲しみを乗せて歌ったそうです。
私は、その中の「Yaysamanena」と呼ばれる歌に、心惹かれました。
夫が川で水死した妻が、夫を偲んで歌います。
「私は、思い出すと、清い涙が流れて、どうしようもない。
私はそよ風になりたい。突風になりたい。
私は空に舞い上がり、飛びながら木立の幹や葉先をかすめる。
悪い川、ろくでなしの川、恋しい人よ、神になった夫よ、
見知らぬ村に行ってしまったのか・・・」と、続きます。
私は、この歌のメロディーに触発され、それを元に主題を作りました。
そして、この歌の内容を膨らませ、チェロ組曲の2番を作曲しました。

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●「冬の庭」            

2008年、ベッチャー先生へのお誕生プレゼントとして、
作曲しました小品です。
ソジェットカバートSoggetto cavatoで、
お祝いの言葉「 happy birthday boettcher 」が、
織り込まれています。
ソジェットカバートとは、音階の幹音をアルファベットに
置き換えて作曲する手法で、
ラヴェル作曲「Menuet sur le nom d'HAYDN 
ハイドンの名によるメヌエット」や、
ドビュッシーの「Hommage a Haydn ハイドンを讃えて」が、有名です。

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●「夜色楼台図」           

私は、与謝蕪村(1716~1783)の水墨画「夜色楼台図」に
触発されて、この曲を作りました。
晩年、60歳を過ぎてからの蕪村の傑作。
禅僧の句である「夜色楼台雪万家」を、自ら書にしてこの画に添えています。
漆黒の雪雲が、古都の夜に、重く覆いかぶさっています。
つぶ雪でしょうか、わた雪でしょうか、音も無く、大粒の雪を降らせています。
大きな館、小さな民家、家々の屋根は、等しく真っ白に染まっています。
古都を囲むように聳える山並みは、輝くばかりの純白。
深々と、冷え込んできました。
蕪村は、鳥となって、この古都の夜を見守っているようです。
世の中の雑音がすべて吸い取られる、無音の世界です。
しかし、目をよく凝らすと、家々の窓にはほんのりと灯りがともっています。
館では、楽しい宴の最中でしょうか。
小さな家から漏れてくるのは、家族みんなで囲炉裏を囲む明かりでしょうか。
赤ちゃんをあやしている、お母さんの子守唄も聞こえてきそうです。
暖かい団欒の様が、目に浮かぶようです。
蕪村の理想郷を、描いたのかもしれません。

                  ( CDブックレットなどの写真 )
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