■ベートーヴェンの自筆譜は、指摘されているように乱雑なのでしょうか?■
~第 4回 平均律アナリーゼ講座を明後日にひかえ~
2010・4・26 中村洋子
★ドイツの出版社から出版いたします「チェロ三重奏」の、
校正作業などで、慌ただしい毎日です。
Ries & Erler社からの「チェロ組曲第1番」の楽譜出版、
「チェロ組曲第2番、3番」の CD完成 と、
立て込んできました。
★明後日の 第 4回「 平均律クラヴィーア曲集 」アナリーゼ講座
の内容について、このブログで、たくさん書きたいことがありますが、
なかなか、手が回りませんでした。
講座で力を込めて、お伝えしたいと思います。
★今回の講座は、特に、ベートーヴェンの「月光ソナタ」と、
「 平均律 4番 前奏曲とフーガ 」との関係を、お話いたします。
ベートーヴェンの自筆譜は、「乱雑で、大変読みにくい」と、
どの本にも、判で押したように、書かれています。
今回、「月光ソナタ」自筆譜と、初版本楽譜を、詳細に検討してみました。
★ “ ベートーヴェンの自筆譜は、なんと音楽的で、
イマジネーションを、かきたてるものであるか ”
それが、私の感想であり、発見でした。
★確かに、彼独特の癖のようなものがあり、
読む場合、それに慣れる必要はあります。
例えば、月光ソナタ 1楽章。
4分の 4拍子ですが、付点 2分音符の表記の仕方が、独特です。
まず、2分音符のみを記し、付点は、3拍目の場所に、
小さな点が、書かれているだけです。
★当初は、「この点は何か?」と、訝しげに見ました。
2分音符の音を伸ばして、3拍目に到達したところで、
さらに、その付点により、“もう 1拍分延長したい”という、
演奏中に、湧きあがってくる気持ちと、
ぴったりと、一致した記譜法だったのです。
慣れてしまいますと、心地よいばかりか、
この「 月光ソナタ 1楽章 」の曲想とも、よく合っているのが分かります。
★ベートーヴェンの記譜法は、また、バッハの自筆譜や、
ショパンの自筆譜の特徴と、共通点をたくさんもっており、
実は、これが音楽上、非常に大切なことである、
ということにも、気付きました。
★初版本を見ますと、愚直なまでに、
ベートーヴェンの癖を再現している
実に、素晴らしい楽譜です。
ベートーヴェンの明らかな音のミスがありますが、
あえて、そのまま、記載しています。
これは、ピアニストが判断すればよいことである、
という校訂者の意図である、と思います。
★私が時々、書きますように、
余分なおせっかいで、校訂者が、
勝手に直してしまうことが、よくあります。
そういうことがない、この初版本は、
賢明な校訂であると、思います。
★フレージングを表現する「 スラー 」についても、
ベートーヴェンは、「 符頭から始める 」、あるいは、
「 符頭で終える 」ことを、
あえて、していない個所が、たくさんあります。
★例えば、スラーを始める位置を、
符頭から、すこし離れた場所としたり、
スラーが終わる場所を、本来の終わるべき音符より、
さらに、先のところまで、伸ばしている。
あるいは、スラー全体が、宙に浮いているように、
描いている、などです。
これらを “ 乱雑 ” と、とらえていたのでしょう。
しかし、ここにこそ、ベートーヴェンの音楽を解き明かす、
カギが、実は、潜んでいるのです。
この初版本は、かなり、それを忠実に再現しております。
★そのベートーヴェンの、スラーの付け方を見て、
「どこかで見たような覚えがある」と、感じました。
そうです、まさに、ショパンの自筆譜でした。
つまり、ショパンが、
このベートーヴェンの月光ソナタで見られる、
スラーの書き方を、使っていたのです。
★現在、入手できるベートーヴェンの「月光ソナタ」の実用譜は、
小奇麗に手直しされ、ベートーヴェンの自筆譜と初版本から、
読み取れる意図が、消え去っています。
★これだけ、科学が進歩した時代ですのに、
どうして、作曲家自身の意図を忠実に反映した楽譜を、
入手することが、できないのでしょうか。。
もし、そのような忠実な版で、日常的に勉強することができれば、
楽曲の解説書や、説明、論文など大半は、
不必要になってしまうかも、しれませんね。
★ベートーヴェンの「月光ソナタ」 1楽章の自筆譜は、
残念ながら、曲頭の10数小節が欠落しています。
初版本で、欠落部分を見ますと、
小節の途中で、次の段落に移っているところがあります。
自筆譜でもそのように、記譜されていたことでしょう。
★この考え方、記譜の方法は、どこかで見たことがございませんか?
そうです、「 バッハ 」です。
このブログで、何度も書きました「 バッハの記譜法 」です。
★ベートーヴェンの、「小節の後半から、新しい段落が始まる」という、
この記譜を、見ながら弾きますと、
実に、容易に、音楽的に、演奏することができます。
この点について、講座で詳しくお話いたします。
★ショパンは、バッハから学んだものを、
「 エチュード 」や「 前奏曲集 」に、結実させました。
「 月光ソナタ 」を、勉強していますと、
その中に、たくさんのショパンの曲のアイデア、断片が発見できます。
つまり、ショパンは、「バッハ」から直接、学んだだけでなく、
ベートーヴェンが、「 バッハ 」から学んだものを、
ベートーヴェンを通じて、さらに深く学んでいた、ということができます。
( 山吹の花 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
~第 4回 平均律アナリーゼ講座を明後日にひかえ~
2010・4・26 中村洋子
★ドイツの出版社から出版いたします「チェロ三重奏」の、
校正作業などで、慌ただしい毎日です。
Ries & Erler社からの「チェロ組曲第1番」の楽譜出版、
「チェロ組曲第2番、3番」の CD完成 と、
立て込んできました。
★明後日の 第 4回「 平均律クラヴィーア曲集 」アナリーゼ講座
の内容について、このブログで、たくさん書きたいことがありますが、
なかなか、手が回りませんでした。
講座で力を込めて、お伝えしたいと思います。
★今回の講座は、特に、ベートーヴェンの「月光ソナタ」と、
「 平均律 4番 前奏曲とフーガ 」との関係を、お話いたします。
ベートーヴェンの自筆譜は、「乱雑で、大変読みにくい」と、
どの本にも、判で押したように、書かれています。
今回、「月光ソナタ」自筆譜と、初版本楽譜を、詳細に検討してみました。
★ “ ベートーヴェンの自筆譜は、なんと音楽的で、
イマジネーションを、かきたてるものであるか ”
それが、私の感想であり、発見でした。
★確かに、彼独特の癖のようなものがあり、
読む場合、それに慣れる必要はあります。
例えば、月光ソナタ 1楽章。
4分の 4拍子ですが、付点 2分音符の表記の仕方が、独特です。
まず、2分音符のみを記し、付点は、3拍目の場所に、
小さな点が、書かれているだけです。
★当初は、「この点は何か?」と、訝しげに見ました。
2分音符の音を伸ばして、3拍目に到達したところで、
さらに、その付点により、“もう 1拍分延長したい”という、
演奏中に、湧きあがってくる気持ちと、
ぴったりと、一致した記譜法だったのです。
慣れてしまいますと、心地よいばかりか、
この「 月光ソナタ 1楽章 」の曲想とも、よく合っているのが分かります。
★ベートーヴェンの記譜法は、また、バッハの自筆譜や、
ショパンの自筆譜の特徴と、共通点をたくさんもっており、
実は、これが音楽上、非常に大切なことである、
ということにも、気付きました。
★初版本を見ますと、愚直なまでに、
ベートーヴェンの癖を再現している
実に、素晴らしい楽譜です。
ベートーヴェンの明らかな音のミスがありますが、
あえて、そのまま、記載しています。
これは、ピアニストが判断すればよいことである、
という校訂者の意図である、と思います。
★私が時々、書きますように、
余分なおせっかいで、校訂者が、
勝手に直してしまうことが、よくあります。
そういうことがない、この初版本は、
賢明な校訂であると、思います。
★フレージングを表現する「 スラー 」についても、
ベートーヴェンは、「 符頭から始める 」、あるいは、
「 符頭で終える 」ことを、
あえて、していない個所が、たくさんあります。
★例えば、スラーを始める位置を、
符頭から、すこし離れた場所としたり、
スラーが終わる場所を、本来の終わるべき音符より、
さらに、先のところまで、伸ばしている。
あるいは、スラー全体が、宙に浮いているように、
描いている、などです。
これらを “ 乱雑 ” と、とらえていたのでしょう。
しかし、ここにこそ、ベートーヴェンの音楽を解き明かす、
カギが、実は、潜んでいるのです。
この初版本は、かなり、それを忠実に再現しております。
★そのベートーヴェンの、スラーの付け方を見て、
「どこかで見たような覚えがある」と、感じました。
そうです、まさに、ショパンの自筆譜でした。
つまり、ショパンが、
このベートーヴェンの月光ソナタで見られる、
スラーの書き方を、使っていたのです。
★現在、入手できるベートーヴェンの「月光ソナタ」の実用譜は、
小奇麗に手直しされ、ベートーヴェンの自筆譜と初版本から、
読み取れる意図が、消え去っています。
★これだけ、科学が進歩した時代ですのに、
どうして、作曲家自身の意図を忠実に反映した楽譜を、
入手することが、できないのでしょうか。。
もし、そのような忠実な版で、日常的に勉強することができれば、
楽曲の解説書や、説明、論文など大半は、
不必要になってしまうかも、しれませんね。
★ベートーヴェンの「月光ソナタ」 1楽章の自筆譜は、
残念ながら、曲頭の10数小節が欠落しています。
初版本で、欠落部分を見ますと、
小節の途中で、次の段落に移っているところがあります。
自筆譜でもそのように、記譜されていたことでしょう。
★この考え方、記譜の方法は、どこかで見たことがございませんか?
そうです、「 バッハ 」です。
このブログで、何度も書きました「 バッハの記譜法 」です。
★ベートーヴェンの、「小節の後半から、新しい段落が始まる」という、
この記譜を、見ながら弾きますと、
実に、容易に、音楽的に、演奏することができます。
この点について、講座で詳しくお話いたします。
★ショパンは、バッハから学んだものを、
「 エチュード 」や「 前奏曲集 」に、結実させました。
「 月光ソナタ 」を、勉強していますと、
その中に、たくさんのショパンの曲のアイデア、断片が発見できます。
つまり、ショパンは、「バッハ」から直接、学んだだけでなく、
ベートーヴェンが、「 バッハ 」から学んだものを、
ベートーヴェンを通じて、さらに深く学んでいた、ということができます。
( 山吹の花 )
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