音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ショパン・バラード1番の演奏比較について ■

2008-09-22 17:42:21 | ■私のアナリーゼ講座■
■ショパン・バラード1番の演奏比較について ■
             08.9.22 中村洋子

★9月30日(火)は、カワイ表参道「コンサートサロン・パウゼ」で、

第3回「バッバ・インヴェンション アナリーゼ講座」を開きます。

インヴェンションとシンフォニアの各3番です。

翌10月1日(水)は、カワイ表参道地下1階で、月2回開催の

少人数アナリーゼ講座で、ショパンの幻想即興曲と、

ブラームスの交響曲第4番の2楽章を取り上げます。

今週は、この準備の勉強と、作曲で大忙しです。


★ショパンのバラード1番の演奏を、

3人のピアニストのCDで聴き比べました。

アシュケナージ、ポリーニ、ルービンシュタインです。

アシュケナージは、録音が1967年? 8分54秒と

1975~85年録音 9分43秒の2種類。

ポリーニは、1999年の録音、8分35秒。

ルービンシュタインは、1959年録音 9分22秒。


★ト短調のナポリの和音で始まるラルゴの序奏は、

若き日のアシュケナージは、3小節目第1拍のドに続く

連続倚音(いおん)のソ、シ♭、さらに、

和声音のラ♭を頂点とする幻想的な曲の始まりです。


★2回目の録音では、ショパンのpesante(ペザンテ~重々しく)の

表示を忠実に、一音一音を噛み締めるように弾き、

頂点は、4小節目の4拍目のラ・ナチュラル、ソまで遅らせています。

同じ演奏家でも、時を経て、表現が変わっていくよい例です。

どちらも、詩的な美しく暖かい演奏です。


★ポリーニは、よくぞ、ここまで曲をアナリーゼし、

研究し尽くしたという演奏です。

思いがけない内声が、浮き上がってくるところでは、

ショパンが、バッハの影響をいかに深く受けていたか、

それを、ポリーニが、読み込んだうえで演奏していることが

手にとるように分かります。


★ショパン演奏が“絶品”といわれたルービンシュタインですが、

なぜか、公式には72歳まで「バラードの全曲録音」が成されていません。

バラード1番に限っても、大変に有名で人気がある曲ですが、

形式一つとっても、ショパンが4年間かけて、

格闘し練り上げたものですので、

一筋縄ではいかないのです。


★種々の解説本によりますと、

バラード1番は「ソナタ形式の一種」と書かれていますが、

どれ一つ明確な説明を見たことがありません。

どうも、これはどこかから孫引きされたものが、検証なしに

延々と孫引きされ続けている結果のようです。

講座で、しっかり説明いたしましたように、これをソナタ形式ととると、

演奏上、手も足も出なくなるのです。


★ルービンシュタインは、おそらく、

ポリーニのような詳細な研究を経た後で、

彼にしか表現のできない、大きな「宇宙」のような、

バラード像を創り上げました。

この演奏が、“究極の演奏”かもしれません。


★是非、皆様もいろいろな演奏を聴き比べ、

皆様のショパン像をおつくり下さい。

ムードミュージックにしないために、

曲の構造を研究し理解しませんと、

聴き所も逃すことになります。


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