音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■穏やかで親しみやすい14番Invention、しかし、冒頭から緊迫のカノン■

2015-11-17 00:41:50 | ■私のアナリーゼ講座■

■穏やかで親しみやすい14番Invention、しかし、冒頭から緊迫のカノン■
~KAWAI 金沢「Inventionアナリーゼ講座」第14番B-Dur~
            2015.11.17   中村洋子

 


★2015年11月13日金曜の夜、パリで起きたテロ事件。

本当の真相は分かりませんが、なんとも悲しく、重い気持ちです。

そういう時にこそ、Bachの音楽が心の慰めとなります。


18日、KAWAI 金沢で開催しますBachの

「Inventionアナリーゼ講座」は、14番B-Dur変ロ長調。

この曲の清澄な世界に触れますと、心が洗われ救われるような

気持ちになります。


★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)は、

14番Inventionについて

「雲一つない晴れやかさが、この Idylle 牧歌に息づいている」と、

脚注しています。

Idylle はイエスの生誕を暗示しているのです。

 

 

★金沢「Inventionアナリーゼ講座」も14回と、

最後に近づきました。

勉強するにつれ、大団円に向けてこの曲集を束ねようとする

Bach の意欲がますます強く、感じられます。


★例えば、「14番 Invention」冒頭の上声に現れます

「b¹  c²  d²  c²  b¹  f²」の6音をよく見ますと、

 

 

 


それは、平均律第2巻の最終第24番 Preludeの

9小節目上声にあります、

「h¹  cis²  d²  cis²  h¹  fis²」の6音と、呼応しているのです。

 

 

 

 ★同様に、「14番Invention」冒頭の下声にあります

「B  d  f」の3音も、

平均律第2巻第24番 Preludeの1小節目下声にあります

「H  d  fis」と、対応しているのです。

 

 

 


Edwin Fischer は、

この14番Inventionの性格がIdylle 牧歌で、

「Ruhig und freundlich 静かで親しみやすい」と、しています。

しかし、その親しみやすさの中に、

Bachの秘術がすべて尽されている、とも言えるほど、

円熟し、均整のとれた曲である、とも言うことができるでしょう。


★「Inventionen und Sinfonien  インヴェンションとシンフォニア」を

読み解くには、Edwin Fischer 校訂版と、その源泉である、

Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855-1932)校訂版、

そして、Bach の 「Manuscript Autograph  自筆譜」 を、

勉強すれば、それに勝るものはないでしょう。

 

 


★14番Invention第1小節目の上声に対し、Fischerは、

次のように、 Fingering を記しています。

 

 

★煩雑にも思える Fingering をどうして付けたのでしょうか?

冒頭の「b¹  c²  d²」に対し、「2 3 4」とわざわざ付けたのは、

「よーく、注意しなさい」という合図です。

その答えは、

第1小節目の下声の「B d」と、≪canon カノン≫に、

なっている、と言うことなのです。


穏やかな曲想であるのですが、実は、曲頭から、

大変な緊迫感をもって、開始しているのです


★その後、譜例にありますように、1小節目上声の5番目「b¹」と、

7番目「d²」に、Fischerは各々「1」と記しています。

これも、その下声「B d」と≪canon カノン≫になっていることを、

Fingering で解釈しているのです。


★まるで≪strettoストレッタ≫であるかのような≪canon カノン≫が、

冒頭から、始まっています。

それは、「Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律クラヴィーア曲集 第2巻」

24番 Prelude の冒頭と寸分違わない発想です。

 

 

 


★このFischerの解釈は、Röntgenのアナリーゼを引き継いだものですが、

Röntgenは炯眼にも、さらに、

14番Invention第1小節目の下声「d」に「4」、

第2小節目下声「es」に「3」の指を付しています。

 

 


★これは、大変に重い意味をもっています。

4小節目下声2拍目の「es¹」、同4小節目「d¹」の、

≪反行形canon カノン≫となることが、

その Fingering により、一目瞭然に明らかとなるのです。


★その後、それらがどう発展していくかは、

講座で詳しく、ご説明いたします。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■KAWAI 金沢「Inventionアナリーゼ講座」第14番B-Dur

■日  時 : 2015年 11月18日(水) 午前 10時 ~ 12時 30分

■会  場 : カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
           ( 尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 )
■予  約 : Tel.076-262-8236 金沢ショップ

 

■講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

      東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
     日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

          2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

          07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

          08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

          08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

          09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」  から出版。
 
         10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                    全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

          10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
       Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

          11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
      チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

          13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
      ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
       ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

           SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
                            無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
     「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

            スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
      自作品が演奏される。

         ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」         https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
 https://www.academia-music.com/                           で販売中。

        ★私の作品の  SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ■Mozartの作曲はBach由来の厳... | トップ | ■インヴェンションは平均律1... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

■私のアナリーゼ講座■」カテゴリの最新記事