■イタリア協奏曲は「厳密な四声体」であることが、「初版譜」から分かる■
~「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」アナリーゼ講座のお知らせ~
2015.2.15 中村洋子
★2月17日 、KAWAI 表参道で、
「平均律第2巻 23番 H-Dur アナリーゼ講座」を、開催します。
23番 Prelude がいかに、
Bach の「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」と、
深い関係にあるか、そして、
それをどのように弾くべきか、について詳しくお話しいたします。
★平均律第2巻が、いよいよ最終曲第24番に近づき、
第1、2巻全48曲が、大団円へと向かいます。
Bachが1735年に出版した
「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」と、
その後、1730年代後半に完成した
「Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律クラヴィーア曲集 第2巻」
との連動を、考えますと、
最晩年の 「Die Kunst der Fugue フーガの技法」まで、
Bachの辿った道が、すーっと1本の道のように、
浮かび上がってくるような気がします。
★次回3月10日(火)の「平均律第2巻 24番 h-Moll」
アナリーゼ講座で、その点についても、
お話する予定です。
★2月25日(水)は、 KAWAI 名古屋で、
この「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」第1楽章について、
アナリーゼ講座を開催いたします。
★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886~1960) は、
冒頭1小節目上声の8分音符について、彼の「校訂版」脚注で、
≪ヴァイオリンのシンプルな弓使いを思い起こさせる≫と、
記しています。
つまり、ここでは「ヴァイオリン協奏曲」を念頭に置いて、
弾きなさい、と示唆しているのです。
★また、103小節目上声から始まる「主題の再現」は、
1小節目の主題を完全4度上げ、主調の「F-Dur」 から
下属調の 「B-Dur」 に転調したものです。
★ここで、Edwin Fischer は、
≪この独奏楽器による主題は、明るく澄んでいます≫と、
脚注しています。
ここで Fischer が書いています“独奏楽器”とは、
oboe オーボエのことです。
Fischer 校訂版楽譜の103小節目に、丸括弧でわざわざ、
(quasi Oboe ほとんどオーボエのように)と、書いています。
つまり、ここは、オーボエ協奏曲をイメージしてもいいと、
と示唆しているのです。
なんと、華やかな曲なのでしょう。
★たった1台の鍵盤楽器で、眩いばかりに絢爛豪華な
「Italienisches Konzert 」が、繰り広げられるのです。
しかし、その魅力は、このような表層にあるのではないことは、
言うまでもありません。
★Bach 存命中に出版された、この作品の≪初版譜≫については、
「 Invention & Sinfonia」や
「Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集」など、
「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」 が残っている曲集と
全く同じように、その≪初版譜≫から、
多くのことを、学び取ることができるのです。
★そのような視点から、この≪初版譜≫を見ますと、
この曲も、 Invention & Sinfonia や Wohltemperirte Clavier
と同様に、「厳密な四声体」で作曲されていることが、
分かってきます。
★そして、それをどう演奏すべきかについて、
Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーの示唆が、
掛け替えもなく、貴重であることが、
勉強すればするほど、
実感できるのです。
★例えば、10小節目左手内声(これは tenor でしょう)の、
≪ a - c1 - f1 ≫ に ≪ 4 - 2 - 1≫ と、
Fingering フィンガリング を、
Edwin Fischer は付けています。
★この部分は、≪ 3 - 2 - 1≫ で弾く方もいらっしゃるでしょう。
中指「3」よりも、器用ではない薬指「4」を使うようにと、
Edwin Fischer が、あえて指示したのは、
奏者の注意が、この「a」音へと向かう効果を、
期待してのことと、思います。
★それでは、この「a」音の正体は、一体何なのでしょう?
そうです、1、2小節目冒頭上声の
変形である、といえます。
★1、2小節目は、主題が「soprano」にあり、
≪quasi Tutti ほとんど総奏で(※Edwin Fischer 注)≫ですから、
≪ f (※Edwin Fischer 注)≫で高らかに奏されますが、
10小節目は、その主題の変形が、内声の「tenor」 に、
潜り込んできますので、
≪meno f 少し弱めて(※Edwin Fischer 注) ≫奏するよう、
指示しています。
★つまり、この ≪ 4 - 2 - 1≫ の Fingeringで、
≪これは「主題の変形」ですから、軽く扱ってはいけませんよ!
注意なさい≫という示唆を、鋭く伝えているのです。
見事な指示です。
この点について、講座で、さらに詳しくご説明いたします。
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■中村洋子 イタリア協奏曲・アナリーゼ講座 第1回 第1楽章■
~イタリア協奏曲の正体は、華麗で豪奢な管弦楽協奏曲~
■ 日 時 : 2015年 2月 25日(水) 10:00 ~ 12:30
■ 会 場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
■ 予 約 : Tel 052 - 962 - 3939
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★イタリア協奏曲 全 3楽章を 、2回にわたり、初版譜を基にして、
アナリーゼいたします。Bach ( 1685~1750 )の作品で、
生前出版された曲は あまり多くありませんが、その一つが
「 Italienisches Konzert イタリア協奏曲」です。
★「Zweiten Teil der Klavierübung クラヴィア練習曲第 2巻 」
全 27 pages の、前半 (1~13 page) が、イタリア協奏曲です。
後半は、「Overture nach Französischer Art フランス風序曲 」です。
★Bach の自筆譜は 失われていますが、Bach は生前 この出版譜を手元に置き
訂正も加えていますので、この初版譜は≪Bach公認≫と見ていいでしょう。
★「 平均律クラヴィーア曲集第 1巻 」(1722)、
「 Inventionen und Sinfonien インヴェンションとシンフォニア 」(1723) の
上声は、ともに 「 ソプラノ記号 」 で記譜されています。
しかし、このイタリア協奏曲の上声は、私たちに馴染み深い≪ ト音記号 ≫ で
一貫して、 記されています。
下声は、≪アルト記号≫ と ≪バス記号≫ が、交互に現れます。
その意味を読み解きますと、イタリア協奏曲の骨格が、明確に
浮かび上がってきます。
★一見、明快単純に見えます第 1楽章の和声は、実は大変に複雑で、
平均律 1巻ではあまり見られない、Bachの典型的な後期の和声です。
この和声を、正確に理解いたしませんと、 tutti( 総奏 )と 、
solo が交互にまじわる、単なる華やかな曲として演奏されてしまいます。
事実、そのような浅薄な演奏も、多く聴かれます。
★Bach の対位法と和声とが、固く手を結びあった究極の曲が、
このイタリア協奏曲なのです。
Bach が若き日に学び尽くしたAntonio Vivaldi (1678~1741)、
Alessandro Marcello (1669~1747) の 「 Concerto 」 や、
Bach 自身の 「 Brandenburg Concerto ブランデンブルグ協奏曲 」
についても、2回の講座で、触れていきたいと思います。
★Bach の広大無辺な世界は、狭い 「 古楽 」 の世界には入り切りません。
ピアノで、それをどう演奏していくかを、やさしく、ご説明いたします。
また、偉大な pianist Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー
( 1886 ~ 1960 ) の Fingering から、彼が何をこの曲から汲み取り、
構築していったか、についても詳しくお話します。
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■講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」
https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
https://www.academia-music.com/ で販売中。
★私の作品の SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/
※copyright © Yoko Nakamura
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