音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■平均律2巻23番 Fugaは柔和な曲、しかし Fuga の超絶技巧を多用■

2015-02-14 23:39:19 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律2巻23番 Fugaは柔和な暖かい曲、しかし Fuga の超絶技巧を多用■
  ~平均律第2巻アナリーゼ講座・第23番H-Dur  Prelude & Fuga~
                   2015.2.14   中村洋子

 

 

あの素晴らしい「22番 b-Moll」を書き終えた後、

Bach はどのように、平均律第2巻の舵を、

取っていったのでしょうか?

次の「23番H-Dur」 Preludeは、それまでの重圧から解放され、

喜びで、爆発するような曲になっています。


★この Preludeの 「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」 を、

見ますと、まるで、

Bach自身が、「アナリーゼ講座」を開いているかのように、

みえてきます。


巧妙かつ整然と配置された、各小節のレイアウトを、

一目見ただけで、「23番H-Dur」 がどのように構成されているか、

分かってしまうほどです


★現在の流通している「実用譜」を見ているだけでは、

決して気付かないことが、一瞬にして分かるように、

記譜されています。


★例えば、見開き2ページ(1ページ7段)の右ページ、

つまり、2ページ目の冒頭は、

23小節後半の「3拍目」からですが、

これは、2月11日 の 「 金沢 Invention・アナリーゼ講座」で、

勉強しました「 InventionNo.6」の自筆譜と、

全く、同じ発想で書かれています。


★「 Invention No.6」は、見開き2ページで、1ページが3段

(右ページのみ追加の1段あり)、というレイアウトです。

右ページ冒頭が、全体の中で占めている重要な役割を、

考えればいいのです。


この二曲を、比較して勉強することにより、

Bach がどう弾いて欲しかったか、

どう弾くべきかが、

一層よく分かると、思います。

 

 


今月は25日 (水) に、 KAWAI 名古屋で、

「 Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲 」の、

アナリーゼ講座を開きます。

「Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲」は、

Bach が、1735年に出版しています。

Bach が生前に出版した数少ない曲の一つですが、

見事に、「平均律第2巻23番」、「Invention 第6番」と、

酷似しています。


★この3曲のアナリーゼ講座を、2015年2月、

一挙に開催できるのも、

Bach先生の計らいではないか、とも思いたくもなります。

一ヶ所だけではなく、金沢、東京、名古屋へと、

遠路をものともせず、はるばる聴講にいらっしゃる、

熱心な方もいらっしゃいます。

より明確にそれを、実感していただけることでしょう。


★「23番 Prelude」は、Bach の若い頃や中期、後期の様式が、

すべて織り込まれている、いわば、Bach 芸術の集大成のような曲ですが、

それを感じさせず、軽やかで、心が躍るような楽しい曲です。

続く「23番 Fuga」 は、聴く人を、穏やかに包み込み、

心に、暖かい灯がともるような曲です。

 

 


★しかし、詳細に見てますと、

一見柔和に見えるこの曲で、

Bach は、 Fuga 技法の“ウルトラテクニック”を、

多発しています。


1小節目から提示される Subject 主題は、

6つの二分音符と、続く四分音符から構成されます。

その6つの二分音符は、≪ H-dis-gis-e-cis-ais ≫です。

なんと! H-Dur 音階の fis音 を除く6つの音なのです。

 


★それでは、たった一つ使われなかった音 ≪ fis ≫ は、

どこにあるのか?

そうです!5小節目から始まる Answer 応答の、

冒頭音として、待ち望まれた後に、出現します。

 



H-Dur Fuga の Subject 主題は、

跳躍進行で形成されていますが、実は、H-Dur の≪全音階≫ 

(全音階は順次進行、つまり、隣り合った2度音程で進行する)を、

志向していることが分かります。

「平均律第1巻24番 b-Moll Fuga」 が、≪半音階≫を、

志向していたことと、好対照です。

 

 


★「平均律第2巻23番Fuga」が、

どれだけ凄いウルトラテクニックで、作曲されているかは、

講座で、詳しくお話しますが、驚くべきことに、

そのテクニックの凄さを、全く感じさせないばかりか、

23番の  Prelude と Fuga を弾いていますと、

何か、一抹の寂しさすら、感じるのです。


★人類史上最大の仕事を成し遂げたBach の「安堵」。

そして、それを達成し得たことからくる、

一種の 「melancholy  メランコリー」かもしれません。


★私も  Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生と、

私の 6 Suiten für Violoncello solo 「無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」を、

録音し終えた時に感じた達成感、終わったことの寂しさ、

その両方を感じたことを、思い出しました。


★講座では、そのBach の肉声のような、ホッとした

ため息のような部分についても、

お話しする予定です。

 

 

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■中村洋子 バッハ 平均律クラヴィーア曲集 第 2 巻・アナリーゼ講座
第 20 回 第 23 番 H-Dur BWV892 Prelude & Fuga

~ 23 番 Prelude は、平均律 1 巻、2 巻を統合し、
          23 番 Fuga は大団円へと向かう ~
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■日 時 : 2015 年 2 月 17 日(火) 午前 10 時 ~ 12 時 30 分
■会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
■予 約 : Tell..03-3409-1958 

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★平均律第2巻23番 H-Dur は、晴れやかな開放感に満ちた曲です。
その前の22番 b-Moll が、悲嘆の海ような沈鬱な曲であったのと、好対照です。

23番は、「h」を開始音とする16分音符の H-Dur 上行全音階で幕を開けます。
抜ける青空のような、歓喜に満ちた Preludeは、
実は、イタリアの協奏曲でもあるのです。

★16番 Fuga の b2、17番 Fuga の b2、21番 Preludeの b2、
22番 Preludeの b2 と、各 b2で始まる下行全音階が連鎖が、
ここで打ち切られるのです。

★この2巻23番の上行音階は、実は、第1巻23番、24番の上行音階と、
強く関連付けられています。
1巻、2巻を総合しようとするBach の強い意志の表れです。

★23番 Fuga の Subject 主題は、6つの二分音符とそれに続く四分音符の
合計7つの音から成り立っています。
H-Dur の音階構成音が、たった一つ欠けただけで、あとはすべて揃っています。

★3度、4度そして6度音程の跳躍進行で、気が付けば H-Dur の音階を
構成しているという、深謀遠慮です。
こうして平均律第2巻は、大団円へと向かっていきます。

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■講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

  東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

      2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

      07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

      08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

      08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

      09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」  から出版。
  
   10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

      10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

      11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

      12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
   チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

      13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

   14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
     ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

       SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
                            無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
    「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

            スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

     ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」 
        https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
 https://www.academia-music.com/
                          販売中。

    ★私の作品の  SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 



※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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