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■西洋音楽の「調性」を規定する「プレリュード」様式■
2010.6.2 中村洋子
★ギタリスト・斎藤明子さんが6日、「さいたま市民会館うらわ」で、
私の「無伴奏チェロ組曲第3番」を、10弦ギターで、
日本初演されますが、本日は、そのリハーサルでした。
★斎藤さんは、作曲しました私が予期しなかった、
別の魅力を曲から引き出すことに成功し、それは見事な演奏でした。
どういうところが素晴らしかったのか、すこし、分析いたします。
★今回、斎藤さんは、チェロ組曲の原曲を一音も変えることなく、
原譜のまま、10弦ギターで演奏することができました。
10弦ギターは、通常の6弦の下に、レ、ド、シ、ラと、
2度ずつ下げた弦が、4本張ってあります。
ギターという楽器は、記音 ( 音符に示された音 )より、
実際は1オクターブ低い音が、鳴ります。
その結果、8弦目の「ド」は、チェロの最低音の「ド」と、
全く、同じ音になります。
★それゆえ、斎藤さんの10弦ギターは、
チェロの楽譜をそのまま、演奏することができるのです。
4月に、斎藤さんが、バッハの「無伴奏チェロ組曲1,2,3番」を、
演奏された際も、チェロの原譜通りに、演奏しました。
(6弦ギターでは、移調しなければ演奏が不可能です。)
★斎藤さんのリハーサルで、感動しましたのは、
私の「チェロ組曲3番」のプレリュードの冒頭16小節で、
低弦の「ド」を、消すことなく響かせ、
まるで、オルゲルプンクト ( 保続音 )が流れるように、
音楽を形作っていた、ということです。
★それは、「プレリュード様式」と呼ぶべき世界を、
引き出していた、ということでもあるのです。
ベッチャー先生が、チェロで示された「グランディオーソ」、つまり、
堂々とした、コンチェルトのような大きな世界とは、また別な世界です。
★「プレリュード」という語の訳として、日本語では、
「前奏曲」が当てられます。
しかし、「プレリュード」という語には、文字通りプレリュードのほかに、
ハルぺジオ、タスタードなどの概念が、含まれています。
プレリュード=Praeludium の原義は、
「リュートを弾く前に調弦する」、という意味です。
ハルペジオ= Harpeggio は、「ハープのように」という意味で、
タスターダ=Tastadaは、「鍵盤楽器のように」が、直訳でしょう。
★バッハが、「平均律クラヴィーア曲集」で、
「プレリュード」と表現した曲には、
以上のような、たくさんの要素が込められているのです。
日本語の「前奏」という言葉の意味に、引きずられると、
曲の解釈を、誤る恐れが大きいのです。
★また、「プレリュード」の役割は、例えば、ある曲が「ハ長調」ですと、
聴く人に、「ハ長調」であることを、強く印象付けることです。
そのための手段として、主音である「ド」の保続音を、
多用することがあります。
そのよい例が、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」
第2巻1番の、「プレリュード」です。
冒頭に、バス「ド」の保続音が、流れます。
★20世紀の作曲家・ヒンデミットの「中心音システム」は、
不協和な音をたくさん使っても、中心音である、例えば「ド」の
使用頻度が多ければ、人間の耳は、「ド」を中心とする調、
つまり「ハ長調」や「ハ短調」をイメージしてしまい、
調性から完全に逃れることはできない、という認識を、
元にしているようです。
★完全に「調」から逃れるためには、
シェーンベルクの「12音技法」による以外は、ありません。
「ある音」を使った後、オクターブの中の12の音のうちの、
残りの11個の音を、すべて使い切るまでは、
「その音」を使わない、という規則で、作曲する技法です。
ここまで、厳格にしないと、「調性」という強力な「くびき」からは、
逃れようがない、ということです。
★シェーンベルクは、その技法で、豊かな音楽を作りましたが、
彼以後の「現代音楽」は、荒涼として、殺伐とした、
暖かみに欠ける作品が、多いようです。
西洋音楽の構造そのものは、「調性」をもとに、構築し、
発展させていったものです。
私は、調性の魅力を、自分の曲に、
取り込んでいきたいと、思っております。
★斎藤さんの演奏は、チェロ組曲の「プレリュード」で、
オルゲルプンクトを、見事に表現し、その曲の性格と、
「プレリュード」様式を、際立たせることに成功していました。
----------------------------------------------------------------
■「さいたま ギターコンサートを聴く会」
■2010年6月6日 ( 日 ) 午後2時
■さいたま市民会館うらわ 8F コンサート室
JR浦和駅 西口から徒歩7分
■自由席:1900円
■連絡先 TEL・FAX 048-286-0365 ( 上原 )
メール: yjugumus@tcat.ne.jp
http://tcat.easymyweb.jp/member/guitarkikukai/
( 野の花 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
2010.6.2 中村洋子
★ギタリスト・斎藤明子さんが6日、「さいたま市民会館うらわ」で、
私の「無伴奏チェロ組曲第3番」を、10弦ギターで、
日本初演されますが、本日は、そのリハーサルでした。
★斎藤さんは、作曲しました私が予期しなかった、
別の魅力を曲から引き出すことに成功し、それは見事な演奏でした。
どういうところが素晴らしかったのか、すこし、分析いたします。
★今回、斎藤さんは、チェロ組曲の原曲を一音も変えることなく、
原譜のまま、10弦ギターで演奏することができました。
10弦ギターは、通常の6弦の下に、レ、ド、シ、ラと、
2度ずつ下げた弦が、4本張ってあります。
ギターという楽器は、記音 ( 音符に示された音 )より、
実際は1オクターブ低い音が、鳴ります。
その結果、8弦目の「ド」は、チェロの最低音の「ド」と、
全く、同じ音になります。
★それゆえ、斎藤さんの10弦ギターは、
チェロの楽譜をそのまま、演奏することができるのです。
4月に、斎藤さんが、バッハの「無伴奏チェロ組曲1,2,3番」を、
演奏された際も、チェロの原譜通りに、演奏しました。
(6弦ギターでは、移調しなければ演奏が不可能です。)
★斎藤さんのリハーサルで、感動しましたのは、
私の「チェロ組曲3番」のプレリュードの冒頭16小節で、
低弦の「ド」を、消すことなく響かせ、
まるで、オルゲルプンクト ( 保続音 )が流れるように、
音楽を形作っていた、ということです。
★それは、「プレリュード様式」と呼ぶべき世界を、
引き出していた、ということでもあるのです。
ベッチャー先生が、チェロで示された「グランディオーソ」、つまり、
堂々とした、コンチェルトのような大きな世界とは、また別な世界です。
★「プレリュード」という語の訳として、日本語では、
「前奏曲」が当てられます。
しかし、「プレリュード」という語には、文字通りプレリュードのほかに、
ハルぺジオ、タスタードなどの概念が、含まれています。
プレリュード=Praeludium の原義は、
「リュートを弾く前に調弦する」、という意味です。
ハルペジオ= Harpeggio は、「ハープのように」という意味で、
タスターダ=Tastadaは、「鍵盤楽器のように」が、直訳でしょう。
★バッハが、「平均律クラヴィーア曲集」で、
「プレリュード」と表現した曲には、
以上のような、たくさんの要素が込められているのです。
日本語の「前奏」という言葉の意味に、引きずられると、
曲の解釈を、誤る恐れが大きいのです。
★また、「プレリュード」の役割は、例えば、ある曲が「ハ長調」ですと、
聴く人に、「ハ長調」であることを、強く印象付けることです。
そのための手段として、主音である「ド」の保続音を、
多用することがあります。
そのよい例が、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」
第2巻1番の、「プレリュード」です。
冒頭に、バス「ド」の保続音が、流れます。
★20世紀の作曲家・ヒンデミットの「中心音システム」は、
不協和な音をたくさん使っても、中心音である、例えば「ド」の
使用頻度が多ければ、人間の耳は、「ド」を中心とする調、
つまり「ハ長調」や「ハ短調」をイメージしてしまい、
調性から完全に逃れることはできない、という認識を、
元にしているようです。
★完全に「調」から逃れるためには、
シェーンベルクの「12音技法」による以外は、ありません。
「ある音」を使った後、オクターブの中の12の音のうちの、
残りの11個の音を、すべて使い切るまでは、
「その音」を使わない、という規則で、作曲する技法です。
ここまで、厳格にしないと、「調性」という強力な「くびき」からは、
逃れようがない、ということです。
★シェーンベルクは、その技法で、豊かな音楽を作りましたが、
彼以後の「現代音楽」は、荒涼として、殺伐とした、
暖かみに欠ける作品が、多いようです。
西洋音楽の構造そのものは、「調性」をもとに、構築し、
発展させていったものです。
私は、調性の魅力を、自分の曲に、
取り込んでいきたいと、思っております。
★斎藤さんの演奏は、チェロ組曲の「プレリュード」で、
オルゲルプンクトを、見事に表現し、その曲の性格と、
「プレリュード」様式を、際立たせることに成功していました。
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■「さいたま ギターコンサートを聴く会」
■2010年6月6日 ( 日 ) 午後2時
■さいたま市民会館うらわ 8F コンサート室
JR浦和駅 西口から徒歩7分
■自由席:1900円
■連絡先 TEL・FAX 048-286-0365 ( 上原 )
メール: yjugumus@tcat.ne.jp
http://tcat.easymyweb.jp/member/guitarkikukai/
( 野の花 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲