音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「禁則」&「ぎこちない」和声こそが、ゴルトベルク変奏曲の「要の役割」■

2016-05-13 01:05:12 | ■私のアナリーゼ講座■

■「禁則」&「ぎこちない」和声こそが、ゴルトベルク変奏曲の「要の役割」■

    ~金沢アナリーゼ講座は6月1日、イタリア協奏曲を「初版譜」を基に~

                   2016.5.13    中村洋子

 

 


5月14日の第2回「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」を前に、

第4、5、6変奏を勉強していますが、

本当に短い曲でありながら、分析すればするほど、

まるでダイアモンドのように、美しく光り輝いてきます。

驚きと喜びの毎日です。

唯一の心配は、二時間半の講座時間ですべてを

お伝えできないのではないか、ということです。

それだけ、豊かな内容なのです。


★前回のブログで、第4変奏での横紙破りの禁則和声について、

述べましたが、もう少し、その続きです


和声学の世界では奨励されない和音の配置や、

禁則とまではいかないまでも、“ぎこちない”と、

とられかねないような和声進行を、Bachは何故、数多くの場所で、

意図的に、散りばめているのでしょうか?


★しかし、その和声配置こそが、全30変奏から成る「ゴルトベルク変奏曲」を、

一つのまとまりある曲として、連関させていくために要の「役割」を

果たしていると言えるのです。

講座では、それについて、詳しくお話いたします。

 

 


★その具体的な一例として、第4変奏の8小節目2拍目の、

ソプラノとバスの音の部分について、見てみましょう。

7小節目は属七の和音、そして、8小節目2拍目で主和音に、

解決しますが、その時、ソプラノは主和音の第3音「h¹」です。

バスも主和音の第3音「H」で、このソプラノとバスは、

2オクターブ離れていますが、同じ「シ」の音です。

 

 


★そして、8小節目バス1拍目は、8分休符ですので、

この2拍目で現れるバスの「H」と、ソプラノの「h¹」は、

非常に目立った、際立った音に聴こえます。

同じ音であるために際立つのですが、もう一つの理由は、

三和音の第3音は「性格音」と言われ、その和音の性格を、

決定づけるものだからです。

 
G-Durの主和音「g¹ h¹ d²」で、「g¹」を根音、「d²」を第5音といいます。

もし、根音と第5音だけですと、その主和音が長三和音(G-Dur)か、

短三和音(g-Moll)かは、分かりません。

この「h¹」によって、G-Durが決定され、

もし第3音が「b」ならば、g-Mollとなります

 

 


このように8小節目2拍目のソプラノとバスに、

「第3音」が置かれているということは、非常に“目立つ”のです。

和声学上では“ぎこちない響き”と、なります。

 

 


同じことが、26小節目2拍目にもいえます

 

 

これは、明らかにBachが意図的に書いたものです。

その意図を読み取るには、ゴルトベルク変奏曲の第3、4、7変奏を、

すべて見る必要があり、そうしますと、

明確にその理由が、浮かび上がってきます。

それにつきましても、講座でお話いたします。


「ゴルトベルク変奏曲」は、実は、「Clavier Übungクラヴィーアユーブンク」

第4巻の別名なのですが、

有名な「Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲」 は、

「Clavier Übungクラヴィーアユーブンク」第2巻の前半です


暫くお休みしておりました「金沢アナリーゼ講座」を、

6月1日(水)に再開いたします。

「Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲」 を、

じっくりと丁寧に、回数を定めず、「初版譜」を基に、

ゆっくり勉強していきたいと、思います。

 

 

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■中村洋子 Bach《イタリア協奏曲》アナリーゼ講座
~第1回: 第1楽章の“正体”は、華麗で豪奢な管弦楽協奏曲~

日  時 :  6月1日(水) 午前10時~12時30分
会  場 :  カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
        (尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 有料駐車場をご利用下さい)
予 約 :   Tel.076-262-8236 金沢ショップ

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★初版譜を基にして、「イタリア協奏曲全3楽章」を、これから何回かに分け、
 アナリーゼいたします。バッハ (1685-1750)の作品で、生前出版された曲は、
 あまり多くありませんが、その一つが
「Italienisches Konzert ( Concerto nach Italienischen Gusto
 イタリア趣味に基づくコンチェルト )イタリア協奏曲」です。
 「Zweiten Teil der Klavierübung クラヴィア練習曲第 2巻」全27ページの、
 前半(1~13ページ)が、「イタリア協奏曲」で、
 後半は「Overture nach Französischer Art フランス風序曲」です。

★ Bachの自筆譜は失われていますが、Bachは生前この出版譜を手元に置き、
 訂正も加えていますので、この初版譜は≪ Bach公認 ≫と見ていいでしょう。
「平均律クラヴィーア曲集第 1巻 」 ( 1722 )、
「インヴェンションとシンフォニア 」( 1723 ) の上声はともに 「 ソプラノ記号 」で
 記譜されています。
 しかし、このイタリア協奏曲の上声は、私たちに馴染み深い≪ト音記号≫ で
 一貫して記されており、下声は≪アルト記号≫と≪バス記号≫が、交互に現れます。
 その意味を読み解きますと、イタリア協奏曲の骨格が、明確に浮かび上がってきます。

★一見、明快単純に見えます第 1楽章の和声は、実は大変に複雑で、
 平均律 1巻ではあまり見られない、Bachの典型的な後期の和声です。
 この和声を、正確に理解いたしませんと、tutti(総奏)とsoloが交互にまじわる、
 単なる華やかな曲として演奏されてしまいます。
 事 実、そのような浅薄な演奏も多く聴かれます。

★ Bachの対位法と和声とが、固く手を結びあった究極の曲が、
 この「イタリア協奏曲」なのです。
 Bachが若き日に学び尽くしたAntonio Vivaldi(1678-1741)、
 Alessandro Marcello(1669-1747)の「Concerto」や、
 Bach自身の「Brandenburg Concerto ブランデンブルグ協奏曲」についても、
 じっくりと触れていきたいと思います。

★Bachの広大無辺な世界は、狭い「古楽」の世界には入り切りません。
  ピアノで、それをどう演奏していくかを、やさしくご説明いたします。
 また、偉大なEdwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)の
  Fingeringから、
彼が何をこの曲から汲み取り、
  構築していったかについても詳しくお話します。

 

 

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■講師: 作曲家  中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。
・2008~09年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。

・2010~15年、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
    自作品「Suite Nr.1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
  「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
   ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler  Berlin) より出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」の
   SACDを、Wolfgang Boettcherヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
                                                    (disk UNION : GDRL 1001/1002)。
・2016年 ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
    ≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫
    ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも分かる~
                                                                        (DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
    バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
   「訳者による注釈」を担当。

 

 

 


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