音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「Goldberg-Variationen」Var.4、「2度音程」の追及と美しい「禁則破り」■

2016-05-06 17:21:32 | ■私のアナリーゼ講座■

■「Goldberg-Variationen」Var.4、「2度音程」の追及と美しい「禁則破り」■
    ~第2回ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座~

             2016.5.6   中村洋子

 

 

 

★ゴールデンウイークは、5月14日に開催いたします

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」 analyze

アナリーゼ講座勉強を、じっくりとしていました。


★そんな中、ベルリンのWolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生から、お手紙が参りました。

先日発表しましたギターのCD「夏日星」の感想もありました。

「Thank you for the lovely guitar-CD
 I listened with my wife the whole CD and we enjoyed your music
and
the sensitive guitarplayers. I especially like the duets
and the Mogami river.Suite nr.5・・・
very well played on the guitar.
Thank you again and best wishes,Wolfgang

繊細ないい演奏である、と楽しんでいただけました。


第二回目の「ゴルトベルク変奏曲」のアナリーゼ講座は、

Var.(Variatio)4、5、6の三曲です。

一見、とてもシンプルな楽譜に見えます。


★しかし、主題である「Aria」と、どのような関係を保っているか、

この4、5、6番がお互いにどのような関係にあるか、

さらに、Bach がそこでどのような「変奏」の意図をもっていたか・・・

それらを読み取ることが、中心的課題となります。


★「Inventionen und Sinfonien  インヴェンションとシンフォニア」は、

 Inventio1番を主題とする29曲の変奏曲と言えますが、

ゴルトベルク変奏曲は、この Inventionenの変奏原理を、

さらに、展開したものです。


★「Inventionen und Sinfonien 」をどれほど深く分析し、

理解しているかが、

「Goldberg-Variationen」のアナリーゼで、問われます。

 

 


★結論から言いますと、「Goldberg-Variationen」Var.4、5、6は、

「2度音程」をどう変奏していくかという、命題の下に、

作曲されています。


第4変奏Var.4は、譬えて言いますと、

ヨーロッパの古い街、澄み切った大気の中で、

響きわたる鐘の音を、思い起こさせます。

どうして“鐘の音”のように聴こえるか、

それをずっと、考えていましたが、ようやく納得のいく

答えが得られました。


★日本の梵鐘のように、ヨーロッパの鐘は一つだけでなく、

それぞれが音高をもったたくさんの鐘が吊るされ、鳴らされます。

それらの鐘が響き続け、こだましていますと、

たとえ個々の鐘が調律された音であり、

一種の旋律として、整然と鳴らされたとしても、

音は持続して鳴り、かぶさり合い、混じってきます。

そうしますと、そこに「不協和音」が、現出してきます。

 

 


第4変奏で見てみますと、14小節目第1拍がそのいい例です。

 

 

13小節目1、2拍目は、D-Dur 主和音の第一展開形、

13小節目3拍目は、その和音に「c²」が加わることにより、

D-Durの「Ⅳ」に進行するための「Ⅴ₇ 属七」と、なります。

 

 

(この「Ⅳ」に進行するための「Ⅴ₇」につきましては、著書
≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の
Chapter4、126ページで詳しく説明しています)


★この流れで行きますと、14小節目第1拍目は、

D-Durの「Ⅳ」の和音構成になるはずです。

 

 

しかし、ソプラノの「c²」、テノールの「a」は、

一体何なのでしょうか?

 

 

ソプラノの「c²」は、「h¹」に解決する掛留音(suspention)、

テノールの「a」は、「g」に解決する掛留音(suspention)

なのです。

 

 


★もし、このソプラノの「c²」、テノールの「a」が、

掛留音(suspention)でなければ、14小節目1拍目は

このようになっているはずです。

 

 


★この場合、掛留音(suspention)は、タイにより、

和声音より2度上方の音が、その前の音と連結されます。

その後、2度下方の和声音で、解決します。

 

 


★しかしながら、掛留音(suspention)を使う際には、

重要な≪禁則≫が存在します。

それは、≪2度下方で解決する場合、解決すべき音を、

2度真下には置かない≫という規則です。

 

 

この≪禁則≫を犯しますと、掛留音(suspention)と

和声音の両方が、「2度音程」で同時に奏され、

「2度音程」、即ち不協和音の音程が出現します。

聴く側にとって、音の輪郭がぼやけ、

にじんで聴こえてきます。

 

 

 ★私が、Var.4 第4変奏の印象として、

「澄んだ大気の下での鐘の音」と、書きましたのは、

まさに、この≪禁則≫の音だったのです。

重なり合った鐘の音は、≪禁則≫の音色に似ています。


澄み切った空のように、シンプルに見える「Var.4」が、

豊かな色彩をもって迫ってくるのは、

この Bachの≪偉大な禁則破り≫の効果でしょう。


★しかし、その禁則破りが効果をもつためには舞台、

つまり、「澄み切った空」が必要です。

そのためのBachによる、さらなる仕掛けがありました。

「Var.4」の和声を、主題「Aria」より、

さらに≪単純化≫していたのです。

それにより、「透明感ある大気」という舞台が生まれます。


★もし、複雑な和声の下で禁則破りをしますと、

装飾過多の厚塗りの、一種の不快さを与えてしまいます。

美しくないのです。

この一点だけでも、Bachの構想の底知れない奥深さに、

触れることができると、思います。


★このVar.4には、もう一ヶ所、このような美しい禁則破りが

隠れています。

是非、ご自分で探し出してください。


★講座では、上記のような分析を詳しく、

分かりやすくお話いたします。

 

 

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■日時:2016年5月14日  14:00~16:30
■会場: 文京シビックホール
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