■「Goldberg-Variationen」Var.4、「2度音程」の追及と美しい「禁則破り」■
~第2回ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座~
2016.5.6 中村洋子
★ゴールデンウイークは、5月14日に開催いたします
「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」 analyze
アナリーゼ講座の勉強を、じっくりとしていました。
★そんな中、ベルリンのWolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー先生から、お手紙が参りました。
先日発表しましたギターのCD「夏日星」の感想もありました。
「Thank you for the lovely guitar-CD
I listened with my wife the whole CD and we enjoyed your music
and the sensitive guitarplayers. I especially like the duets
and the Mogami river.Suite nr.5・・・
very well played on the guitar.
Thank you again and best wishes,Wolfgang」
繊細ないい演奏である、と楽しんでいただけました。
★第二回目の「ゴルトベルク変奏曲」のアナリーゼ講座は、
Var.(Variatio)4、5、6の三曲です。
一見、とてもシンプルな楽譜に見えます。
★しかし、主題である「Aria」と、どのような関係を保っているか、
この4、5、6番がお互いにどのような関係にあるか、
さらに、Bach がそこでどのような「変奏」の意図をもっていたか・・・
それらを読み取ることが、中心的課題となります。
★「Inventionen und Sinfonien インヴェンションとシンフォニア」は、
Inventio1番を主題とする29曲の変奏曲と言えますが、
ゴルトベルク変奏曲は、この Inventionenの変奏原理を、
さらに、展開したものです。
★「Inventionen und Sinfonien 」をどれほど深く分析し、
理解しているかが、
「Goldberg-Variationen」のアナリーゼで、問われます。
★結論から言いますと、「Goldberg-Variationen」Var.4、5、6は、
「2度音程」をどう変奏していくかという、命題の下に、
作曲されています。
★第4変奏Var.4は、譬えて言いますと、
ヨーロッパの古い街、澄み切った大気の中で、
響きわたる鐘の音を、思い起こさせます。
どうして“鐘の音”のように聴こえるか、
それをずっと、考えていましたが、ようやく納得のいく
答えが得られました。
★日本の梵鐘のように、ヨーロッパの鐘は一つだけでなく、
それぞれが音高をもったたくさんの鐘が吊るされ、鳴らされます。
それらの鐘が響き続け、こだましていますと、
たとえ個々の鐘が調律された音であり、
一種の旋律として、整然と鳴らされたとしても、
音は持続して鳴り、かぶさり合い、混じってきます。
そうしますと、そこに「不協和音」が、現出してきます。
★第4変奏で見てみますと、14小節目第1拍がそのいい例です。
13小節目1、2拍目は、D-Dur 主和音の第一展開形、
13小節目3拍目は、その和音に「c²」が加わることにより、
D-Durの「Ⅳ」に進行するための「Ⅴ₇ 属七」と、なります。
(この「Ⅳ」に進行するための「Ⅴ₇」につきましては、著書
≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の
Chapter4、126ページで詳しく説明しています)
★この流れで行きますと、14小節目第1拍目は、
D-Durの「Ⅳ」の和音構成になるはずです。
しかし、ソプラノの「c²」、テノールの「a」は、
一体何なのでしょうか?
ソプラノの「c²」は、「h¹」に解決する掛留音(suspention)、
テノールの「a」は、「g」に解決する掛留音(suspention)
なのです。
★もし、このソプラノの「c²」、テノールの「a」が、
掛留音(suspention)でなければ、14小節目1拍目は
このようになっているはずです。
★この場合、掛留音(suspention)は、タイにより、
和声音より2度上方の音が、その前の音と連結されます。
その後、2度下方の和声音で、解決します。
★しかしながら、掛留音(suspention)を使う際には、
重要な≪禁則≫が存在します。
それは、≪2度下方で解決する場合、解決すべき音を、
2度真下には置かない≫という規則です。
★この≪禁則≫を犯しますと、掛留音(suspention)と
和声音の両方が、「2度音程」で同時に奏され、
「2度音程」、即ち不協和音の音程が出現します。
聴く側にとって、音の輪郭がぼやけ、
にじんで聴こえてきます。
★私が、Var.4 第4変奏の印象として、
「澄んだ大気の下での鐘の音」と、書きましたのは、
まさに、この≪禁則≫の音だったのです。
重なり合った鐘の音は、≪禁則≫の音色に似ています。
★澄み切った空のように、シンプルに見える「Var.4」が、
豊かな色彩をもって迫ってくるのは、
この Bachの≪偉大な禁則破り≫の効果でしょう。
★しかし、その禁則破りが効果をもつためには舞台、
つまり、「澄み切った空」が必要です。
そのためのBachによる、さらなる仕掛けがありました。
「Var.4」の和声を、主題「Aria」より、
さらに≪単純化≫していたのです。
それにより、「透明感ある大気」という舞台が生まれます。
★もし、複雑な和声の下で禁則破りをしますと、
装飾過多の厚塗りの、一種の不快さを与えてしまいます。
美しくないのです。
この一点だけでも、Bachの構想の底知れない奥深さに、
触れることができると、思います。
★このVar.4には、もう一ヶ所、このような美しい禁則破りが
隠れています。
是非、ご自分で探し出してください。
★講座では、上記のような分析を詳しく、
分かりやすくお話いたします。
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■日時:2016年5月14日 14:00~16:30
■会場: 文京シビックホール
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