音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■インヴェンションの、心に刻み込む 「 暗譜 」 方法■

2013-10-27 22:35:14 | ■私のアナリーゼ講座■

■インヴェンションの、心に刻み込む 「 暗譜 」 方法■
KAWAI 名古屋 「 中村洋子・第12回 インヴェンション・アナリーゼ講座」
                    
             2013.10.27   中村洋子

 


★憂愁の霧に閉ざされたような 「 11番 g-Moll 」。

それに続く
「 12番 Invention  A-Dur 」 は、

Invention も sinfonia も、
真夏の太陽のように明るく、

力の漲った曲です。

sinfonia 12番 の 9 ~ 12 小節目や、

20 ~ 23 小節目のバスは、あたかも、

次の時代の様式を先取りしたような、音型です。


★類似した音型の曲は、Telemann テーレマン (1681~1767) の

「 Leichte Fugen mit kleinen Stücken 簡単なフーガと小品 」

にも、見られます。

これを、インヴェンションと併用しますと、

Bachを、より深く理解することができます。

比較することで、Bach の素晴らしさが、

客観的に、一層良く分かるのです。


 

 

★この 12番を基に、もう一度、「 暗譜の方法 」 を、

おさらいいたします。

漫然と、反復練習して ≪ 曖昧に指先で覚える ≫ のではなく、

≪ 心と頭に、インヴェンションをゆるぎなく定着させる暗譜 ≫ が、

必要です。


★私が考案し、実践してきました方法を、

具体的に、詳しくお教えいたします。

その際に重要なことは、≪ Fingering ≫ の役割です。

「 頭に焼き付ける 」 ため、

≪ Fingering ≫ に、どのような機能をもたせるか、

≪ Fingering ≫ を、どのように活用するか、

ということです


★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)の、

Bach  平均律クラヴィーア曲集 1巻、2巻の全曲録音は、

Europeでは、

Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) の、

Bach 無伴奏チェロ組曲全6曲の録音と同様、

「 聖書 」 と、されています。

その Edwin Fischer 校訂版の ≪ Fingering ≫ を学べば、

曲の構造がすべて、解き明かされるのです。

決して 「 easy to play 」 を示すものでは、ありません。






≪ Fingering ≫ には、

1)  構造を示すもの、

2)「 easy to play 」

3) 実際に、演奏するときに使う fingering

が、あります。

この三種を、暗譜にどう組み合わせるか、ということです。


★すなわち、暗譜の方法は、

曲を真に理解し、演奏する方法と、

完全に、重なるのです。

決して、「 暗記 」 の方法ではありません。


★日本で最近、出版された 「 Invention」 の楽譜を見ましたが、

 fingering や発想記号、ディナミークなどが、たくさんの書き込まれ、

 一見、とても親切そうな楽譜です。

 しかし、驚愕しました。

 冒頭から途中までが、Edwin Fischer 校訂版の、

 丸写しだったのです。

 Edwin Fischer 校訂版が、現在、入手がかなり困難であることから、

 気がつく方は、少ないかもしれません。

 




★しかし、さらに驚くべきことに、

 それに続く部分は、チェンバロ演奏の発想による fingering を用いた、

 他のエディションの、模倣でした。

 すなわち、ピアノ演奏を想定した Edwin Fischer の fingering と、

 根本的に、齟齬があるのです。

 一曲のなかで、二つの発想を同居させることは、

ありえません。

これでは、まともな演奏は不可能です。
 


これは、Edwin Fischer の Bach を理解していないがため、

 このような “ 竹に木を継いだ ” ような、

 不可思議な、乱暴な、辻褄の合わない 「 校訂 」 ができるのです。

 

★こうした 「 校訂版 」 に、惑わされないようにするのが大切です。

 そのためには、皆さまご自身で、Bach を理解する力を、

 養わなければなりません。

 アナリーゼする力を養うことで、良い 「 校訂版 」 を、

 自分で、選ぶことができ、

 完璧な暗譜も、できるようになるのです。

 

★そのような ≪ 暗譜 ≫ ができますと、「 本物 」 の音楽と、

そうではない音楽とを、判断する能力が、自然に身に付きます。


 


★ Bach の最高の演奏家であった Albert Schweitzer 

アルベルト・シュヴァイツァーは、著書で、

次のように書いています。

≪ 平均的な音楽家が、もし、本物の芸術と偽物を、

厳しく見分ける能力をもっているとすると、それは、

まさに Bach のインヴェンションのお陰である、といえる。

インヴェンションを、練習したことのある子供は、

ピアノ習得のための、機械的な練習だったとしても、

多声部の作曲法を、既に見につけたといえる。

 

★それは生涯、消えない。

それを習得した子供は、どんな音楽に接しても、

本能的に、その音楽の中で、インヴェンションと同じように、

多声部が、巧みに見事に、織り込まれているかどうか、

探究するようになる。

多声部が紡がれていない部分は、貧困な音楽であると、

感じるのである ≫


インヴェンションを、生涯にわたって忘れないためにも、

「 本当の暗譜 」 が必要なのです。




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■日時: 2013年10月30日 10:00~12:30

■会場: KAWAI 名古屋 2F コンサートサロン 「 ブーレ 」

■予約: 052-962-3939

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■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

 東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
        Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
     CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

08年:CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
    CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

        「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
           W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
           初演される。

10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

     「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

   スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

★上記の楽譜とCDは、
「 カワイ・表参道 」  http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 
https://www.academia-music.com/ で、販売中。







※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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