音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■KV331の「究極の対位法」を、ケンプは変幻自在に表現し尽す■

2015-09-08 01:00:58 | ■私のアナリーゼ講座■

■KV331の「究極の対位法」を、ケンプは変幻自在に表現し尽す■
   ~9月16日アナリーゼ講座は「一生忘れない暗譜法」~
                     2014.9.8     中村洋子

 

 


★「もう一度、インヴェンションの暗記に挑戦しています!!!」。

私のアナリーゼ講座に参加されていますピアニストがおっしゃいました。

彼女は、私の考案した「暗譜の方法」で、「Inventionen und Sinfonien 

インヴェンションとシンフォニア」の暗譜を再度、お始めになられたそうです

大変に素晴らしいことです。


★「インヴェンションの楽譜を見ずに弾く」ことは、

勿論、お出来になっていたそうです。

しかし、そのうえ、さらに完璧な暗譜を目指されています。

毎日少しずつ、インヴェンションを着実に暗譜していく、という勉強は、

とりもなおさず、Bach を心と頭と身体のすみずみにまで、

行き渡らせることとなります。


★その結果は、バッハのみならず、他の作曲家の作品を弾く際にも、

それが真に傑作であればあるほど、さらに深い理解に到達する、

という結果を生み出します。

その傑作には背後に、厳然とバッハが聳え立っているからです。

 

 

 


★ピアノの先生方のレッスンで、「そこはもっと歌いなさい」

という指導法をよく耳にしますが、

「歌う」ということを本当に理解して、ご指導されているのかどうか?


★日本人が日本語で歌謡曲を歌うのでしたら、可能でしょう。

しかし、レッスンを受けている生徒さんが、

母語(日本語)でない言語をもつ作曲家の作品を、どう「歌う」のか?

闇雲に体をくねくね、大袈裟にねじったり、

上体をそらし、視線を上に向けて恍惚とした表情で、

西欧の大家のジェスチャーを真似をする?


★「歌う」とは、「旋律」を声を出して歌うことなのですが、

クラシック音楽では、その「旋律」には、

必ず「和声」と「対位法」の裏付けが、あります。


それゆえ、クラシック音楽の源流である「インヴェンション」を、

「暗譜」によって完璧に身に付け、「旋律」を本当に理解する

必要があるのです。

 

 


★私の暗譜方法=「一生忘れない暗譜」の実践方法を、

9月16日、カワイ金沢「第12回 インヴェンション・アナリーゼ講座」

(Invention & Sinfonia 第12番 A-Dur イ長調)で、

詳しく、お話いたします。


★前回、8月のインヴェンション・アナリーゼ講座終了後、

公開レッスンしました Wolfgang Amadeus Mozart ヴォルフガング・アマデウス・

モーツァルト(1756~1791)のKV331ピアノソナタを、

Wilhelm Kempff  ヴィルヘルム・ケンプ  1895~1991)の名演CDで、

楽しんでおります。


一見単純に見えるこのソナタに、蜘蛛の糸のように張り巡らされた、

「究極の対位法」を、ケンプは変幻自在、

余すところなく、表現し尽しています。

その“さりげない難解さ”を、愛しむかのようにして、

弾いています。

この凄さは、相当勉強をいたしませんと、

気付くことができないでしょう。

 

 


★例えば、全18小節ある主題の後半、11、12、小節目に、

3回現れる「sf(sforzando)」の、3回目にあたる12小節冒頭「sf」の

前後では、テンポを緩めて「ritardando」しています。


★Var.1の28、29、30小節の30小節目での「ritardando」も、

同様です。


Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーは、この28~30小節について、

「ここでのsfは、テーマのsfと同様に、柔らかなアクセント

(ほとんど引き伸ばすように)として、表現すべきでしょう」と、

述べています。


★これは、どういう意味かといいますと、

sf(sforzand)」という記号に対し、現代のピアニストは、

急に大きな音で弾くように、ピアノを打鍵しがちになりますが、

そうではなく、Zarte Ausdrucksbetonungen 「柔らかい、わずかなアクセント」で、

fast Dehnungen「ほとんど引き伸ばすように」弾くべき、ということです。


★Dehnungは、「母音の長音化」という意味もあります。

「デヌング」でなく「デーヌング」のDehの母音を長くするのと、

相通じるようにも思います。


★モーツァルトの時代と現代のピアノは、ハンマー一つとっても、

大きく異なっており、

発想記号の意味をどう解釈するかは、

演奏の根幹にも関わってきます。

 

 


★ケンプの演奏を、フィッシャー校訂版を見ながら聴いていますと、

さながら、二人のマエストロから、噛んで含めるように、

レッスンしてもらっている、というような錯覚すら覚えます。


主題を含めて第5変奏までは、8分の6拍子です。

8分の6拍子をどう捉え、どう演奏するかのモデルになる、

と言っても過言ではありません。

 

 


フィッシャーのフィンガリングは、冒頭1、2小節の6拍目に「5指」、

2、3小節の1拍目は「2指」です。

これだけ見ましても、ここで「e² h¹」、「d² a¹」の

二つの4度モティーフが、生まれたことが分かります。

 

 

★楽典の教科書のように、≪8分の6拍子とは、1~6拍を、

「1、2、3拍(強 弱 弱)」「4、5、6拍(中強 弱 弱)」というふうに、

8分の3拍子が二個組み合わされた、二拍子系である」という説明は、

早くも崩れ去れます。


★そして、この二つの4度モティーフの、それぞれ最初の音である、

1小節目の6拍目「e²」と、2小節目6拍目の「d²」が、

4小節目3拍目「e² d²」に凝縮して、「カノン」となるのです。

 

 


この4小節目「e² d²」に達するために、

3小節目の上行音階があるのですが、

フィッシャーのフィンガリングで、そこを見ますと、これも、

「3小節目3拍目と同4拍目」「3小節目6拍目と4小節目1拍目」の、

モティーフになります。

 

 


このような曲の構成は、まさにバッハの世界なのです。

「モーツァルトは、旅の途中でわざわざ日程を変更して、

バッハの自筆譜を見に行っていた」という、 Wolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生のお話を思い出しました。

天才モーツァルトも、バッハを学びぬいていたということです。

 

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中村洋子 第12回 KAWAI金沢「Bach インヴェンション講座」(全15回)

「Invention & Sinfonia 第12番 A-Dur イ長調」
             ~ 一生忘れない Inventionの≪ 暗譜方法 ≫ ~

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■日  時 : 2015年 9月16日(水) 午前 10時 ~ 12時 30分
■会  場 : カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
           ( 尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 )
■予  約 : Tel.076-262-8236 金沢ショップ

 

 


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