■KV331の「究極の対位法」を、ケンプは変幻自在に表現し尽す■
~9月16日アナリーゼ講座は「一生忘れない暗譜法」~
2014.9.8 中村洋子
★「もう一度、インヴェンションの暗記に挑戦しています!!!」。
私のアナリーゼ講座に参加されていますピアニストがおっしゃいました。
彼女は、私の考案した「暗譜の方法」で、「Inventionen und Sinfonien
インヴェンションとシンフォニア」の暗譜を再度、お始めになられたそうです。
大変に素晴らしいことです。
★「インヴェンションの楽譜を見ずに弾く」ことは、
勿論、お出来になっていたそうです。
しかし、そのうえ、さらに完璧な暗譜を目指されています。
毎日少しずつ、インヴェンションを着実に暗譜していく、という勉強は、
とりもなおさず、Bach を心と頭と身体のすみずみにまで、
行き渡らせることとなります。
★その結果は、バッハのみならず、他の作曲家の作品を弾く際にも、
それが真に傑作であればあるほど、さらに深い理解に到達する、
という結果を生み出します。
その傑作には背後に、厳然とバッハが聳え立っているからです。
★ピアノの先生方のレッスンで、「そこはもっと歌いなさい」
という指導法をよく耳にしますが、
「歌う」ということを本当に理解して、ご指導されているのかどうか?
★日本人が日本語で歌謡曲を歌うのでしたら、可能でしょう。
しかし、レッスンを受けている生徒さんが、
母語(日本語)でない言語をもつ作曲家の作品を、どう「歌う」のか?
闇雲に体をくねくね、大袈裟にねじったり、
上体をそらし、視線を上に向けて恍惚とした表情で、
西欧の大家のジェスチャーを真似をする?
★「歌う」とは、「旋律」を声を出して歌うことなのですが、
クラシック音楽では、その「旋律」には、
必ず「和声」と「対位法」の裏付けが、あります。
★それゆえ、クラシック音楽の源流である「インヴェンション」を、
「暗譜」によって完璧に身に付け、「旋律」を本当に理解する
必要があるのです。
★私の暗譜方法=「一生忘れない暗譜」の実践方法を、
9月16日、カワイ金沢「第12回 インヴェンション・アナリーゼ講座」
(Invention & Sinfonia 第12番 A-Dur イ長調)で、
詳しく、お話いたします。
★前回、8月のインヴェンション・アナリーゼ講座終了後、
公開レッスンしました Wolfgang Amadeus Mozart ヴォルフガング・アマデウス・
モーツァルト(1756~1791)のKV331ピアノソナタを、
Wilhelm Kempff ヴィルヘルム・ケンプ 1895~1991)の名演CDで、
楽しんでおります。
★一見単純に見えるこのソナタに、蜘蛛の糸のように張り巡らされた、
「究極の対位法」を、ケンプは変幻自在、
余すところなく、表現し尽しています。
その“さりげない難解さ”を、愛しむかのようにして、
弾いています。
この凄さは、相当勉強をいたしませんと、
気付くことができないでしょう。
★例えば、全18小節ある主題の後半、11、12、小節目に、
3回現れる「sf(sforzando)」の、3回目にあたる12小節冒頭「sf」の
前後では、テンポを緩めて「ritardando」しています。
★Var.1の28、29、30小節の30小節目での「ritardando」も、
同様です。
★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーは、この28~30小節について、
「ここでのsfは、テーマのsfと同様に、柔らかなアクセント
(ほとんど引き伸ばすように)として、表現すべきでしょう」と、
述べています。
★これは、どういう意味かといいますと、
「sf(sforzand)」という記号に対し、現代のピアニストは、
急に大きな音で弾くように、ピアノを打鍵しがちになりますが、
そうではなく、Zarte Ausdrucksbetonungen 「柔らかい、わずかなアクセント」で、
fast Dehnungen「ほとんど引き伸ばすように」弾くべき、ということです。
★Dehnungは、「母音の長音化」という意味もあります。
「デヌング」でなく「デーヌング」のDehの母音を長くするのと、
相通じるようにも思います。
★モーツァルトの時代と現代のピアノは、ハンマー一つとっても、
大きく異なっており、
発想記号の意味をどう解釈するかは、
演奏の根幹にも関わってきます。
★ケンプの演奏を、フィッシャー校訂版を見ながら聴いていますと、
さながら、二人のマエストロから、噛んで含めるように、
レッスンしてもらっている、というような錯覚すら覚えます。
★主題を含めて第5変奏までは、8分の6拍子です。
8分の6拍子をどう捉え、どう演奏するかのモデルになる、
と言っても過言ではありません。
★フィッシャーのフィンガリングは、冒頭1、2小節の6拍目に「5指」、
2、3小節の1拍目は「2指」です。
これだけ見ましても、ここで「e² h¹」、「d² a¹」の
二つの4度モティーフが、生まれたことが分かります。
★楽典の教科書のように、≪8分の6拍子とは、1~6拍を、
「1、2、3拍(強 弱 弱)」「4、5、6拍(中強 弱 弱)」というふうに、
8分の3拍子が二個組み合わされた、二拍子系である」という説明は、
早くも崩れ去れます。
★そして、この二つの4度モティーフの、それぞれ最初の音である、
1小節目の6拍目「e²」と、2小節目6拍目の「d²」が、
4小節目3拍目「e² d²」に凝縮して、「カノン」となるのです。
★この4小節目「e² d²」に達するために、
3小節目の上行音階があるのですが、
フィッシャーのフィンガリングで、そこを見ますと、これも、
「3小節目3拍目と同4拍目」「3小節目6拍目と4小節目1拍目」の、
モティーフになります。
★このような曲の構成は、まさにバッハの世界なのです。
「モーツァルトは、旅の途中でわざわざ日程を変更して、
バッハの自筆譜を見に行っていた」という、 Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー先生のお話を思い出しました。
天才モーツァルトも、バッハを学びぬいていたということです。
---------------------------------------------------------------------------------
■中村洋子 第12回 KAWAI金沢「Bach インヴェンション講座」(全15回)
「Invention & Sinfonia 第12番 A-Dur イ長調」
~ 一生忘れない Inventionの≪ 暗譜方法 ≫ ~
-----------------------------------------------------
■日 時 : 2015年 9月16日(水) 午前 10時 ~ 12時 30分
■会 場 : カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9
( 尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 )
■予 約 : Tel.076-262-8236 金沢ショップ
※copyright © Yoko Nakamura
All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲