■平均律1巻3番の調性が「Cis-Dur」であるのは、必然性あってのこと■
~3番と24番との緊密な連携から、その必然性が解明できる~
~平均律1巻3番アナリーゼ講座~
2018.5.20 中村洋子
★≪大空も見えず若葉の奥深し≫ 北枝
冬枯れの広葉樹には葉一枚もなく、大空は限りなく無限の広さを
感じさせられます。
春は梅桜桃の薄紅色が若葉の緑と一体となり、
色彩の交響を奏でます。
そしていま、日に日に濃くなる緑の若葉、
まるで大空をも両手で隠しそうな勢い。
★立花北枝(?-1718)、蕉門十哲の一人です。
芭蕉が「奥の細道」の途上、山中温泉に逗留した際、
北枝に語った、俳諧論を北枝がまとめたものが
「山中問答」です。
★蕉門十哲には、入っていませんが、
同じく芭蕉門下の、八十村路通(1649-1738)
≪そら豆の月は奈良より出でしかも≫
前書き「やまとの国におもひいづる人ありて」
お月さまを「そら豆の豆」のようだと、譬えるところなど
洒脱です。
若葉の緑、そら豆の緑、清々しい五月です。
★5月26日の「平均律1巻第3番」アナリーゼ講座の勉強中です。
https://www.academia-music.com/new/2018-03-27-105139.html
平均律曲集は、「聖書」に譬えられますが、
いままで当たり前のように、この譬えを受け入れていました。
しかし、今回Bachが平均律1巻に自ら書きました≪序文≫
の解釈を手掛かりにして、もう一度、この3番を新しい目で勉強しますと、
全く新しい展望が開けてきました。
これまでの平均律の世界が一回転するほどの驚きでした。
(https://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/)
★クリスチャンは、「the Bible 聖書」を繰り返し読みます。
音楽を学ぶ私たちは、Bach「平均律」を繰り返し学ぶべきでしょう。
「聖書」を読むことと、平均律を読むとは、
ほどんど同じ営為なのでしょう。
★Bach「序文」を基に、「3番 Prelude Cis-Dur」 を解釈しますと、
この偉大な作品が、「8小節単位でできている」という、
単調で機械的な解釈から、完全に逃れることができます。
一にも二にも「序文」を読みこなし、まずは3番を1、2番および4番との
関係から解釈していきますと、
目にも鮮やかな色彩の世界が現出します。
★Bach「自筆譜」の≪レイアウト≫を、詳細に見てみましょう。
Bachは、プレリュード全104小節について、
左ページは、53小節目まで書き、
右ページは、54小節目から始めています。
下の譜例は、自筆譜のをそのまま写したものです。
上声はソプラノ記号での記譜です。
54、55小節目の上声は、初稿に近い「a2稿」の上に、
最終稿「A4稿」を、重ねて書いています。
「A4稿」は、濃い黒のインクです。
「a2稿」を、ト音記号の記譜で写譜しますと、
以下のようになります。
「A4稿」を、ト音記号の記譜で写譜しますと、
発展していった最終段階が「A4稿」なのですが、
赤字の部分が「A4稿」で書き加えられたところです。
★この54小節目を左ページの最後、つまり、6段目右端に書き込めば、
右ページは、55小節目から始まります。
55~62小節目は、1~8小節目に対応していますので、
もし、55小節目が右ページの冒頭に来ていますと、
楽譜はすっきり、こぎれいに整います。
★1~7小節目と54~61小節目は、全く同一の譜で、
8小節目と62小節目は、異なっています。
★この54、55小節が、3番プレリュードの「要」です。
Bachが何故、54小節目を見開き右ページの冒頭に配置したか?
この疑問を解いていきますと、何と、この「3番 Prelude Cis-Dur」 は、
平均律1巻の最後「24番 h-Moll Prelude」 と、
がっちりと、手を繋ぎ合っていることが、
分かってきます。
★大きく隔たったこの二曲が、深い深い関係を有する、
これこそ、後年の「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の
構造に他ならないのです。
★そして、この3番 Prelude & Fugaが、
≪ Cis-Dur ≫であって、何故≪Des-Dur≫でないのか?
という疑問が、氷解するのです。
≪Des-Dur≫で記譜しますと、読譜は、大変容易になります。
★Bachは音楽史上初の≪ Cis-Dur 嬰ハ長調 ≫の曲を、
作曲するという"功名心"から、この調をそこに設定したのでは、
全くないのです。
★平均律1巻全24曲を構成するための、
必然から、生まれた調性だったのです。
講座で、分かりやすくご説明いたします。
★そこを更に深く探求するためには、
「Klavierbüchlein für Wilhelm Friedemann Bach
ヴィルヘルム フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集」
にある、3番 Preludeの初期稿が示しているヒントが、欠かせません。
★≪Bärenreiterベーレンライター版「平均律第1巻」楽譜≫に添付の
「翻訳、解説と分析」10ページを、お読みください。
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/
Bach「平均律第1巻」が発展していく途中の「a2稿」について、
説明しています。
★Bachは、言わずもがなのことですが、
即興演奏の大天才でもありました。
当時のどの作曲家も追随を許さない、一瞬にうちに、
卓越した作品を演奏しながら、創造できた人です。
★その即興演奏の大天才Bachが、少なく見積もっても、
20数年間も、熟考に熟考を重ね、推敲に推敲を重ね、
手直しを、延々と続けて完成させたのが、
この「平均律第1巻」です。
★5月26日の「平均律1巻・第3番」アナリーゼ講座では、
3番の壮大なる調性設計を、学び尽したことによって、
Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)、
Frederic Chopin ショパン(1810-1849)が、
どんな傑作を、果実として結実させたかについても、
お話いたします。
★私の著作「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!」
の25~29ページ「ベートーヴェンの自筆譜は、指摘されているように、
乱雑なのでしょうか?」を、是非お読みください。
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