音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■F・ディースカウの危惧が現実に ~悪花繚乱の時代?~■

2009-03-21 00:15:43 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■
■F・ディースカウの危惧が現実に ~悪花繚乱の時代?~■
               09.3.21  中村洋子


★資料を片付けていましたら、また、面白いものが出てきました。

1997年に、NHK教育テレビで放映された、

フィッシャー・ディースカウによる「シューベルトを歌う」

(NHK趣味百科)の、テキストです。


★F・ディースカウが講師を務めて、若い声楽家にシューベルトの

リートをレッスンした、なかなかの興味深いテキストです。

その中で、彼がインタビューで話していることが、

12年後の現在、不幸にも、的中しているようです。


★そのお話を掲載いたしますと・・・

(インタビューアー):若い歌手への忠告をいただけますか。

(ディースカウ):若い人は、芸術をビジネスの対象と

考える前に、良い芸術家になろうという意思、

目標への確信といったものを、もつべきです。

このことが、今日ではいささか危うくなってきています。

音楽を、ビジネスとして見る傾向が増えてきて、

経済的収入のことを優先して、芸術面をないがしろにする

傾向がありますが、これは、いささか危険だと思われます。


★巻末の「レコードで聴くシューベルトの歌曲」では、

ロッテ・レーマン(1888~1976)や、

ゲルハルト・ヒュッシュ(1901~1984)、

ハンス・ホッター(1909~2003)、

エリーザベト・シュヴァルツコップフ(1915~2006)

ヘルマン・プライ(1929~1998)など、

偉大な芸術家を、紹介していました。


★彼らが録音した演奏は、時を経ても、価値が褪せない、

それどころか、いよいよ輝きを増すものです。

ところが、それらのCDの入手は、

最近、かなり困難になりつつあります。


★これらの巨匠を凌駕する、さらに、

もっと素晴らしい演奏が、出てきたから、

なのでしょうか?

答えは、否です。


★大型店に、歌曲のCDを買いに行きますと、

コンサートビジネスと、タイアップして制作された、

華やかな、しかし、はかない寿命のCDが、

めじろ押しに、並んでいます。

あたかも音楽が、流行のファッションのようです。


★これらを購入しましても、私にとって、

勉強にならないばかりか、音楽を聴く楽しみを、

味わうことも、ほとんど、できません。


★仕方なく、中古CD店で、上記の巨匠たちのCDを、

探し求めます。


★以前、書きましたように、「冬の旅」ひとつをとりましても、

シューベルトは、楽譜にすべてを、書き尽くしています。

なにも、付け加えることはないのですが、

劇的効果を狙って、譜面に書かれていない、

テンポルバートや、恣意的などぎつい強弱、速度を、

あたかも、オペラのように、加えている演奏が多いのです。

そういう演奏を、賞賛する商業ジャーナリズムや、

“ブラボー”を叫ぶ、聴衆の方にも、

非があることは、事実でしょう。


★ディースカウが12年前に、危惧していたことが、

いま、現実のものになってしまったのかも、しれません。

当時既に、こうした商業主義が、芽生えていたのですね。

古い資料を、読むと、こんな収穫もあるのです。


(写真の花は、連翹です)

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