僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

 「船場吉兆」 と鉢合わせ

2008年01月22日 | 日常のいろいろなこと


 ~ タクシードライバー デ・ニーロ君の運転日誌 ~


僕のごく親しい知人で、去年からタクシーの運転手をしている男性がいる。
名前は、デ・ニーロ君、ということにしておく(もちろん、日本人です)。
タクシーの運転手は24時間勤務の不規則な生活だけど、彼は以前から車の運転が好きだったから、案外この仕事が性に合っているようだ。

デ・ニーロ君から、乗せたお客さんに関するいろいろな話を聞いていると、まことに興味深いものがある。しかしまあ、次々と見知らぬ人を車に乗せるという仕事は、人疲れする僕にはストレスや不安が強すぎて、とうてい出来そうにないが(それ以前の問題として、僕はぺ-パードライバーだ)、それが苦にならなければ、タクシー運転手というのは、平凡なデスクワークよりもはるかにスリリングで、興味の尽きない仕事だとも言える。

タクシーの後部座席の小空間は、まさに人生劇場そのものだ。…と、僕は、デ・ニーロ君の話を聞きながら、いつも思うのだ。

デ・ニーロ君に「いろんな人を乗せて走っていると、イヤな思いもするだろ?」
と水を向けると、そんなに表情を変えることもなく、
「まぁね。いちいち気にしていられないし、お客さんあっての仕事だしね」
そう言いながらも、ちょっと困るお客さんはいるよ、と教えてくれる。
その最たるものは、若い女性の、次のようなタイプらしい。

携帯電話をしながら車に乗り込んできて、ひとこと行く先だけ告げてまた携帯電話で話し始める。ずっと大声で話している。こちらは言われた場所に車を走らせているが、しばらくすると、その女性は突如電話を中断して、
「ちょっと、あんた。道が違うわよ。わざと遠回りしているのんと違う?」

と運転手に抗議するのだそうである。

目的地へのルートが何通りかあれば、運転手は、お客さんに希望のルートを尋ねるのだが、行く先を告げただけですぐに携帯で話し続けるお客に「どの道を行きますか?」と聞くタイミングはなかなかつかめない。だから最も効率的なルートを自分で考えて走ると、突然、後ろから「遠回りしてるのんと違う?」と文句を言う…そんな若い女性がいる、という。
ふ~む。聞いているだけでなんだか不愉快になってくるけれど…。
僕なんか、すぐお客さんと口論してしまいそうである。

…とまあ、いろんなお客さんを経験をするタクシードライバーなのだ。

先週18日(金)の昼ごろ、そのデ・ニーロ君からメールが入った。

「今夜のテレビニュースを見てください。僕が映っているはずだから」
そう書いてある。

テレビに映る? デ・ニーロ君が…?

何事かと思えば、その続きのメールによると、こういうことだった。

淀屋橋で手を上げる人があったので、デ・ニーロ君が車を停めると、ドドド~っと大勢の人たちがこちらへ向かって走って来た。報道陣らしい人たちが、ワイワイと2人の人物を取り囲み、何台ものテレビカメラがそれを追いかけ、あたりは大混乱している。報道陣に取り囲まれながら、デ・ニーロ君のタクシーに乗り込もうとしていたのは…
あの、「船場吉兆」の社長母子であった。

何台ものテレビカメラは、たがいに押し合いへし合いしながら、タクシーのドアのところまで接近し、2人を撮っていた…。
その様子が、テレビニュースで放映されるだろう、というメールだった。
運転手のデ・ニーロ君は、自分の顔も、テレビで映っているはずだから…。

そこで僕はその日の夕方、あちらこちらのニュースをチェックした。

相次ぐ擬装表示問題の中でも、まさかと思われた「船場吉兆」の偽装は、ことのほか大きく報じられてきた。いつかの記者会見で、隣にいる息子である社長に「頭が…真っ白になった…と言いなさい」とささやく女将の声がマイクに入り、「ささやき女将」などと揶揄されたのは記憶に新しいことだ。

民事再生法の適用を申請した船場吉兆は、この18日の午前に淀屋橋で債権者説明会を開き、そこへ報道陣が殺到したというわけだ。そして、その場から逃げるように立ち去ろうとした元女将の社長と息子が、道路へ出て急いで拾ったタクシーが、偶然にも、デ・ニーロ君が運転するタクシーだったわけだ。

そして夕方、テレビを見ていると、そのニュースが始まった。

説明会が終了したあとの映像が流れる。
社長の元女将とその息子の元社長らの記者会見があり、それが終わると母と息子の2人は、報道陣にもみくちゃにされながら外に出て、デ・ニーロ君のタクシーに乗り込もうと、もがいている。一歩ずつタクシーのドアに近づき、なんとか報道陣を振り切って乗ることができた。その前部座席、つまり運転席に、デ・ニーロ君がいる。目を凝らして見ていると、チラッとだが、見覚えのある顔が映っていた。ほんの一瞬だった。

テレビは、デ・ニーロ君のタクシーがその場から遠ざかっていくところを背後から映したあと、画面が切り替わって別のニュースになった。

わずか1秒あるかないかの「テレビ出演」だったデ・ニーロ君。
車はかなりの時間映っていたけれど、運転手の姿はチラっとだけ。

翌日、デ・ニーロ君に会ったとき、
「横顔と後姿が、チラッと一瞬だけしか映ってなかったよ」
と言うと、デ・ニーロ君は、
「そう…? いっぱい友達にメールしたのになあ…」
そう言って、笑っていた。

 

 

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