僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

大島渚監督「少年」の思い出 

2013年01月19日 | 映画の話やTVの話など

映画監督の大島渚さんの訃報に接して、真っ先に浮かんだ映画は「戦場のメリークリスマス」でも「愛のコリーダ」でもなく、「少年」という映画だった。

この映画は僕の人生に深く関わっている…といえば、何を大げさな、と笑われるかもしれないが、もう40年以上も昔に見た映画なのに、今も鮮明に思い出すのである。それほど強く心に刻み込まれた一作だった。

僕はこの映画を、20歳の時、大阪~北海道往復の自転車旅行をしている途中、東京の、たぶん新宿だったと思うけれど、「アート・シアタ・ーギルド」という小さなホールで見た。

自転車旅行をしたのは1969年(昭和44年)である。
6月中旬に大阪を出て、石川、富山、新潟、山形、秋田など日本海側の道路を北へ北へと走り、青森からフェリーで北海道に渡り、さらに北に向かってペダルを踏み続け、日本最北端の宗谷岬へ行き着いた。

そこからオホーツク海と太平洋側を走って本州に戻り、東北の東側を走った後、東京に入ったのが8月の中旬だった。大阪を出てから2ヵ月が経っていた。

その東京で何日か滞在していた折に、この映画とめぐり会った。

大島渚監督の作品は、少し前に「新宿泥棒日記」という映画を見ていた。前衛的というか、僕にはちょっと変わった映画だったので、この監督の作品は自分の感性には合わない…と思っていたけれど、「少年」はそれまでの大島作品とは異なる色合いを持った、日本列島縦断ロケを敢行したロードムービーである…ということで、僕もこの時、ロードライフ(←そんな言葉、あるんか?)を送っている身だったので、そこに惹かれるまま、映画館に入ったのだった。

映画のストーリーは、子供連れの中年夫婦が、子供にわざと車に当たらせて運転手から賠償金をむしり取るという、いわゆる「当たり屋」の話で、実話に基づいたものとされている。

最初の頃は、当然ながら車に当たることを拒否していた少年だが、事情を理解し始め、当たったらおこづかいをもらえることにも動かされ、やがて母(小山明子)に、自分から「やろうか? 仕事…」と言うようになる。

そして車に飛び込む少年。実にうまく、車に触れただけで大げさに転倒する。母が半狂乱になって駆けつけ、少年を抱き上げる。父は物陰に隠れている。運転手が出てきて「お金だったらいくらでも払います。どうか示談で!」と顔を真っ青にして懇願する。

一ヵ所で仕事を続けると足がつくという理由で、一家は住む家も持たず、当たり屋で生計を立てながら、転々と場所を変え、旅をする。

スクリーンから滲み出てくる少年の孤独感が、2ヵ月間一人で旅を続けてきた僕自身の寂しさと重なり合い、見ていて切ない気持になった。

さらに、何よりも驚き、息を呑んだのは、一家が転々とする場所というのが、富山、新潟、秋田など、僕が自転車でたどって来たのとそっくりそのままの行路だったことである。映画の中の各地のシーンには、この旅で僕が目にしたばかりの風景が、いくつもあった。

そして一家は北海道に渡り、当たり屋稼業を繰り返しながら、とうとう最北端の宗谷岬まで来てしまうのだ。親子3人が、宗谷岬の「日本最北端の碑」の前で茫然と立ち尽くすシーンでは、思わず身を乗り出し、胸が熱くなった。

つい1ヶ月前に、僕もこの最北端の碑の前に立っていた。自転車旅行のきっかけは、日本最北端まで行きたい、という衝動だった。そして北へ北へとペダルを踏んで、夢にまで見た最北端にたどり着き、北の大地も、そして日本の国も、ここで果てるのか…と感無量の思いで彼方の水平線を眺めたのだった。

映画では、少年が、最北端の碑の前で、これ以上遠くへ旅を続けられないことを悟り、ポツンとこんなことを言う。

「もっと、日本が広ければいいのにね」…と。

この言葉が、今でも僕の脳裏に焼きついている。

1969年の「少年」は、大島渚監督がまだ30代後半という若い頃に作られた映画だった。その後、さまざまな「問題作」を世に送り、何かと論議を引き起こすという、きわめて異彩を放ってきた人であるが、僕にとっては、「少年」という、哀切に満ちた、思い出深い一作を贈ってくれた監督として、これからも記憶の中に残り続けるだろうと思うのである。

 

  


    

 

 

  ↑ 1969年7月。日本最北端の碑。


  ↓ そこで他の観光客の人に撮ってもらった1枚。
    真夏だというのに、寒さが身に沁みました。

  

 

 

 

 

 

 

 

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