サッカーのW杯を6月に控えたこの時期に、日本代表のハリルホジッチ監督が解任されました。選手とのコミュニケーションがうまくいかなかった、というようなことで、これはひと言で言えば監督と選手たちの仲が悪くなったということなのでしょうね。会社での上司と部下の関係もそうですが、仲が悪くなったら、組織としていい仕事はできませんよね。
ハリルホジッチ監督が求めていたものは、サッカーはデュエル(決闘)であり、1対1であっても、それ以外であっても、「強さ」が大事で、とにかく相手の球を奪い、力づくで押さえ、前に前に出る、というサッカーを推し進めようとしたいたわけなんですが、それがどうも選手たちと合わなかったようですね。
今回の監督解任劇を知って思い出したのは、作家の奥田英朗さんの「どちらとも言えません」という、楽しいエッセイ集に載っていた文章でした。
その本の中に、「日本人サッカー不向き論」という一章があり、それを読んだ僕は、な~るほど、日本人はやっぱりサッカーで世界の一流になるのは難しいんだなぁ、とその当時思ったものです。そしてそれが、今回のハリルホジッチ監督の解任劇にもつながったのかなぁ、という気もします。
奥田英朗さんのエッセイによると、日本人はとにかくおとなしいし、規律を重んじる人種である。具体的に言うと、つまりこういうことです。
外国人と日本人の根本的な違い、ということですけど。
たとえば、僕もニューヨークの街を歩いていた時に目撃しましたが、男の人が口笛をヒューっと鳴らしてタクシーを止めます。すると、近くにいた婆さんがさっとそのタクシーに乗り込む。男の人は「オレがタクシーを止めたんだぞ」と言うのだが、「知るか!」みたいな態度で婆さんはそのまま乗ってしまう、という光景でした。こういうのがザラにあるのです。
著者の奥田英朗さんもそんな光景を外国で何度か見たと言い、「ああ、日本に生まれてよかった」と胸をなでおろした、と書いていました。
そこから奥田英朗さんの「日本人サッカー不向き論」が展開されていきます。
待ってるだけだとタクシーに乗れない。「奪う」ということが世界の常識なのだ。だけど日本人は行儀よく待つ。ゆえに日本人はボールの奪い合いをする競技がとにかく苦手。サッカーに限らず、ラグビーもバスケもホッケーも。もちろん体格の差もあろうが、それ以前に妨害行為にことのほか弱く、メンタル面で負けちゃっているのである。
日本が野球を得意とするのは、ボールを持つ攻守が完全に分かれていること。打順とポジションがちゃんと決まっているから。相手を妨害するようなルールはない。観客も、日本人は自分の指定席しか座らないが、外国人は関係なくいい場所に座り、そこへ指定席の客が来れば別のいい場所へ移る。つまりルールは必要な時に適用すればいいのであって、あとはフレキシブルに対応すればいいじゃないかというのが外国人の考え。しかし日本人はポジションを堅持するということが何よりも基本。他人様に迷惑はかけないというのが、日本人の考え方です。
というような話が展開されていきます。
だから、日本人はボールを奪い合うサッカー等には不向きだというのです。
これを思うと、今回の解任劇は何となくわかる気がします。つまりハリルホジッチ監督は日本人の苦手な「ボールを奪う。相手を妨害する」ということを最大の戦略として進めてきたわけですが、結局それが最近の国際試合で勝てなかったことと絡んで、こういう結果になったということなのかなぁ、という感じです。
新しく就任した西野監督は、わが大阪の「ガンバ」の監督でもあったことから、僕たちにはとても親しみのある監督です。取材を受けた同監督は、個々に力強さを求めたハリルホジッチ前監督の戦略から、「日本が積み上げてきたもので勝負する」というふうに転換する考えを明らかにしました。つまり、改めて日本人が得意とする技術、規律、組織力を生かした戦術を探って行くという宣言で、「日本人らしい戦いに戻す」ということなんだと思います。
とにかく、本番のW杯まであと約2ヵ月。1勝するのも難しいかも知れませんが、悔いの残らない戦い方をしてほしいと思います。