御神楽少女探偵団その32
--------------------------------
仏像盗難事件は未解決のまま東京に戻ると、時人が軍に拘束されてしまった所からである。
■さ・よ・な・ら 後編 捜査編1 続き
高柳医院に行き、高柳医師に話しを聞いた。
彼は畑中の略式検死も行っており、それによると死因は頭部への銃弾で、死亡時刻は深夜1時から2時だったらしい。
また自殺の恐浮ゥら逃れる為か、畑中は死亡直前にモルヒネを打っていたという。
地位の立派な軍人であった畑中が、自殺の恐浮ゥら逃れる為モルヒネを打っていた、という事実に巴と千鶴は違和感を感じる。
高柳医院で高柳に畑中の検死について聞いてみると、因は頭部への銃弾、死亡推定時刻は深夜の一時から二時ということだった。
ただ不思議なのは、畑中は死の前にモルヒネを打っていたということである。
畑中は佐官であり、その高級将校が死の恐浮ゥら逃れる為にモルヒネを打つ、ということには、どうしても違和感を感じるのである。
横浜港に行き、畑中の自殺現場を調べるために、梶田上等兵に乗船許可を頼んだが、「民間人は立ち入り禁止です」と乗船を拒否される。
しかしどこからか声が聞こえると、梶田は一瞬怒りの表情を浮かべた後、二人の乗船を許可した。
これは、軍の内部でも、今回の事件への対応が統一されていないためなのだろうか。
客室前通路で志田中尉と話して、1号室に入れて貰った。
中央左にあるクローゼットには、一個所だけわずかな凹みがある。
畑中の頭部を貫通した弾丸が着けた弾痕らしいが、位置的に矛盾はない。。
机の上にある書類を見ると、上段に「防共協定に関する初動試案」と書かれた見出しが見えた。
二等客室通路で利根川と出会ったが、利根川も畑中が自殺前にモルヒネを使っていたことには違和感を覚えると言うのだ。
しかし一等客室は全て自動鍵だし、深夜一時から二時の間なら、誰も畑中中佐の部屋に入った者はいない筈だとも言う
その時間帯には、隣の2号室で、志田と利根川、蔵人の三人が、釈迦像供与などについて相談していたそうだ。
その時は嵐とはいえ船内は静かだったし、1号室のドアが開く音は、必ず2号室まで届いた筈だと言うのである。
下船して帝国ホテルに向かった。
ここには遠峰が宿泊しているのだ。
遠峰は美和から既に話は聞いていると言う。
そして時人拘束は、軍の面子を保つための言いがかりに過ぎないし、釈放に向け協力すると約束してくれた。
畑中の自殺についても、モルヒネの使用など畑中はしないだろうと同意した。
そして遠峰は、他言は絶対無用という条件付きではあるが、「防共協定に関する初動試案」と、仏像との関連を話してくれた。
帝政崩壊後、ロシアでは共産主義過激派の活動が活発になっており、ウラルの日本人居留区襲撃計画があることが最近判明した。
この計画への対策として、直接の派兵と同時に検討されているのが、奉天軍閥との防共協定締結である。
奉天軍閥の最高権力者、張作霖は古い美術品に目が無い為、張が以前から欲しがっていた阿弥陀像を手土産に、交渉の下準備をする計画だった、というのである。
■さ・よ・な・ら 後編 捜査編2
浦安家では、釈迦像引渡しパーティーの準備中だった。
浦安蔵人によると、今夜のパーティーには、遠峰以外の苧ム会関係者は全員浦安家に集まっているそうだ。
2階に上がろうとすると、美和に呼び止められた。
蔵人から便箋と切手を買ってくるよう頼まれていたので、主人室に行くのならついでに届けて欲しいとのことだ。
便箋と切手を届けて、パーティーの行われる広間に行くと、メイド服姿の蘭子が忙しそうに立ち働いている。
蘭子の話では、浦安蒔彌と兵藤克己はつき合っているらしい。
裏庭では、軍がサーチライトを設置していて、それを利根川が指揮している。
今晩のパーティーのため、屋敷を警護するためだそうだ。
客室1を訪れると、黒潮丸で殺された筈の高来龍一が出てきた。
アッと驚く三人組、巴は遙か彼方まで逃げ去ってしまった。
そこへ兵藤茂徳が出て来て、この男は高来龍一の双子の弟、高来龍二だと教えてくれた。
高来龍二が言うには、両親にも間違われるとのことで、違いは龍一が右利きで、弟の龍二は左利きという点だけだそうだ。
巴は訝る。
特別船倉にあった龍一の死体は、左手に短刀を握っていたのである。
一旦浦安家を去り、帝国ホテルの遠峰に話を聞いてみた。
帝国ホテル前では、丁度遠峰が車から降りてきたところだった。
巴は大声で「と お み ね さぁ~~~っん!!」と叫ぶ。
回りの人々は何事が起きたのかと振り返るが、とうの巴は一向にへこたれない。
滋乃「申しわけございません。<(_ _)> もうガサツなだけが取り柄の子ですので、お許しくださいませ。<(_ _)>
後でよく言い聞かせておきますので・・・」
遠峰は畑中の通夜から帰ってきたところで、通夜には軍関係者はほとんどいなかった、薄情だ、と憤慨していた。
そしてそれは、木越の件が皆、引っ鰍ゥっているからだろうというのである。
木越中将は数年前に陸軍大臣を務めており、「現役武官専任制」廃止に向け努力した人物である。
「現役武官専任制」とは、「軍部大臣現役武官制」が正式名で、陸海軍大臣には現役の大将・中将しか就任できないと定めた制度である。
しかし、軍の気に入らない内閣ができそうになると、現役大中将が就任拒否を行うことで内閣を成立させないという、軍にとってまことに都合のいい制度だった。
この制度は木越によって一旦廃止されたが、後に復活した。
そして、昭和になっても存在し、戦争に反対する内閣は成立できず、英米との戦争の道を進んだのである。
その軍にありがたい制度を廃止しようとした木越を、裏切り者扱いするものも軍内部には多数存在し、木越に師事して彼の方針に賛同した畑中中佐を敵視するものも、数多くいたそうである。
兵藤家で兵藤克己に、蒔彌のことを聞いてみると、「いやぁ、僕はあの屋敷は鬼門でね。出来ればあまり近づきたくないんだ。」 とのことだ。
そして、兵藤茂徳と浦安蔵人は性格の不一致からか仲が悪いので、二人の交際は親には内緒にしておいて欲しい、と頼まれた。
御神楽少女探偵団その33へ続く
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます