電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『帰省~未刊行エッセイ集』を読む

2013年07月30日 06時03分30秒 | -藤沢周平
文藝春秋社の単行本で、藤沢周平著『帰省~未刊行エッセイ集』を読みました。2008年の夏に刊行された初版初刷を購入したものの、ずっと積ん読し、この冬から寝床のわきの書棚に移して少しずつ読み進め、このほどようやく読了したという、当方には珍しいスローペースです。氏の小説作品であれば、それこそ一気呵成に読み終えてしまうところですが、なにせ洒脱な見かけにかかわらずひじょうに誠実で思慮深い文章ばかりですので、読み飛ばすばけにはいきません。

未刊行のエッセイを集めて一冊の本とするからには、今まで封印されていたものを垣間見ることもできようという期待もありました。文藝春秋社という会社の社風と作家への配慮から、藤沢周平の政治的な立場(*1)などという話のように、編集者が全集に載せることを躊躇したケースもあったかもしれません。作家の没後であるからこそ再び日の目を見た例もありそうで、阿部達二氏による解題も興味深いものです。

ところで、「歳末身辺~落葉と風邪とデパートと」などという文章を読むと、思わず微笑ましく思ってしまいます。この中に、風邪から復活した氏が、娘さんと奥さんとデパートに行き、初ボーナスをもらった娘さんに万年筆を買ってもらう話が出てきます。ああ、これが愛用のパーカーの万年筆の由来かと想像したり、娘さんのデート相手の青年のことがチラリと登場すれば、ハハァ、これが夫君の遠藤氏かと想像したりするなど、同年代を経た娘の父親として共感するところ大です。

今はすでに文庫化されて容易に入手できるようで、『周平独言』『小説の周辺』『ふるさとへ廻る六部は』など、味わい深いものが多い藤沢周平の随筆集に、さらに興味深い一冊が加わったと言えそうです。

(*1):「雪のある風景」、「大衆と政治」、「村の論理」など。


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