土曜の夜、山形テルサホールで菅野順子ソプラノ・リサイタル(*)が開かれ、聞きに行ってきました。
菅野順子さんは、山形在住の声楽家・指導者で、「フィガロの結婚」の伯爵夫人など、県内の各種オペラ公演では欠かせない存在です。私は、今はなき祖父に「他人様の容姿容貌などを話題にするのは上品ではない」としつけられたため、自分から話題にすることは滅多にありませんが、伯爵夫人にぴったりの女性です。いや、ちょっとおちゃめなところもかいま見えるかな?
それはさておき、当日のプログラムは、第1部がイタリア歌曲を中心にした内容。カッチーニの「愛の神よ、何を待っているのですか」に始まり、パイジェッロの「もはや私の心には感じない」、ヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」、カルダーラの「心の魂」、スカルラッティの「すみれ」、そしてモーツァルトの「楽しい安らぎが」と続きます。どちらかといえばリリックな声質から考えると、長く歌い続けることができる、一番適したジャンルかもしれません。
第2部では、日本歌曲がプログラムされていました。前半はゲストとして登場したバリトンの福島明也さんによる、山田耕筰歌曲集から。「荒城の月」では若い滝廉太郎の曲を山田耕筰が編曲したもので、春高楼の花の宴~の「え」の音が、オリジナルより半音下がり、近代的に響きますが、同時に悲劇的・絶望的にも聞こえてきます。
「鐘が鳴ります」における岡野貴子さんのピアノ伴奏では、山田耕筰の工夫した斬新な和声が印象的でした。
北原白秋の詩による「待ちぼうけ」ではコミカルな中にペーソスを感じさせ、懐かしさを覚える「この道」では、最前列を除きほぼ満席となったホール全体から、盛んな拍手を受けていました。
第2部の後半、菅野順子さんが再登場。三木露風の「野薔薇」、「中国地方の子守歌」、「母のこえ」。福島さんの男性的な歌声とは対照的な優しい歌声で、おなじみの日本歌曲を堪能しました。
休憩をはさんで第3部、オペラアリア。
最初のプッチーニの「ラ・ボエーム」より「私の名はミミ」。ピンクのドレスに着替えた菅野さんのリリックな声にあった、可憐なミミです。ついで福島さんによるヴェルディの「マクベス」から「あわれみも、誉れも、愛も」。まだ見たことがないヴェルディ作品ですが、「マクベス」ぜひ見たい!と思いました。
3曲目は菅野さん。プッチーニの「トスカ」より、「歌に生き、恋に生き」。恋人の画家カヴァラドッシの命を助けるため、悪役スカルピアの言いなりになることを約束した嘆きのアリアです。歌の中で、後に「これがトスカのキスよ!」とスカルピアを刺す激しい気性を示唆するなど、ドラマティックな要素も含んだ音楽。ピアノ伴奏が本当に頑張っていました。
4曲目は福島さんで、ヴェルディの「椿姫」第2幕より、アルフレードの父ジェルモンが切々と歌う「プロヴァンスの海と陸」。いつ聞いてもこのアリアではじんと来ますが、ヴェルディはなんという素晴らしい音楽を書いたのでしょう。若いバリバリの歌い手では、この味は出せませんね。
第5曲、同じく「椿姫」第2幕より、ヴィオレッタとジェルモンの劇的で長大な二重唱「天使のように清らかな娘が」。本日のハイライトでした。ヴィオレッタの犠牲を理解しながら、娘のためにそれを強いる父ジェルモンの強さと苦悩を、福島さんの迫力ある歌唱がよく表現していましたし、菅野さんのヴィオレッタも、激しいピアノ伴奏に押されぎみながら、プライドと気品で応じていたのが、次第に哀願し、嘆きに転じる様子がよく歌われていました。
会場の雰囲気はたいへん親密なもので、よく響くホールの音響も寄与しているのでしょうか、素晴らしいリサイタルでした。終演後、ハンドルを握りながら「乾杯の歌」を歌いつつ、満足して帰りました。
(*):山形声楽研究会 演奏会情報
菅野順子さんは、山形在住の声楽家・指導者で、「フィガロの結婚」の伯爵夫人など、県内の各種オペラ公演では欠かせない存在です。私は、今はなき祖父に「他人様の容姿容貌などを話題にするのは上品ではない」としつけられたため、自分から話題にすることは滅多にありませんが、伯爵夫人にぴったりの女性です。いや、ちょっとおちゃめなところもかいま見えるかな?
それはさておき、当日のプログラムは、第1部がイタリア歌曲を中心にした内容。カッチーニの「愛の神よ、何を待っているのですか」に始まり、パイジェッロの「もはや私の心には感じない」、ヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」、カルダーラの「心の魂」、スカルラッティの「すみれ」、そしてモーツァルトの「楽しい安らぎが」と続きます。どちらかといえばリリックな声質から考えると、長く歌い続けることができる、一番適したジャンルかもしれません。
第2部では、日本歌曲がプログラムされていました。前半はゲストとして登場したバリトンの福島明也さんによる、山田耕筰歌曲集から。「荒城の月」では若い滝廉太郎の曲を山田耕筰が編曲したもので、春高楼の花の宴~の「え」の音が、オリジナルより半音下がり、近代的に響きますが、同時に悲劇的・絶望的にも聞こえてきます。
「鐘が鳴ります」における岡野貴子さんのピアノ伴奏では、山田耕筰の工夫した斬新な和声が印象的でした。
北原白秋の詩による「待ちぼうけ」ではコミカルな中にペーソスを感じさせ、懐かしさを覚える「この道」では、最前列を除きほぼ満席となったホール全体から、盛んな拍手を受けていました。
第2部の後半、菅野順子さんが再登場。三木露風の「野薔薇」、「中国地方の子守歌」、「母のこえ」。福島さんの男性的な歌声とは対照的な優しい歌声で、おなじみの日本歌曲を堪能しました。
休憩をはさんで第3部、オペラアリア。
最初のプッチーニの「ラ・ボエーム」より「私の名はミミ」。ピンクのドレスに着替えた菅野さんのリリックな声にあった、可憐なミミです。ついで福島さんによるヴェルディの「マクベス」から「あわれみも、誉れも、愛も」。まだ見たことがないヴェルディ作品ですが、「マクベス」ぜひ見たい!と思いました。
3曲目は菅野さん。プッチーニの「トスカ」より、「歌に生き、恋に生き」。恋人の画家カヴァラドッシの命を助けるため、悪役スカルピアの言いなりになることを約束した嘆きのアリアです。歌の中で、後に「これがトスカのキスよ!」とスカルピアを刺す激しい気性を示唆するなど、ドラマティックな要素も含んだ音楽。ピアノ伴奏が本当に頑張っていました。
4曲目は福島さんで、ヴェルディの「椿姫」第2幕より、アルフレードの父ジェルモンが切々と歌う「プロヴァンスの海と陸」。いつ聞いてもこのアリアではじんと来ますが、ヴェルディはなんという素晴らしい音楽を書いたのでしょう。若いバリバリの歌い手では、この味は出せませんね。
第5曲、同じく「椿姫」第2幕より、ヴィオレッタとジェルモンの劇的で長大な二重唱「天使のように清らかな娘が」。本日のハイライトでした。ヴィオレッタの犠牲を理解しながら、娘のためにそれを強いる父ジェルモンの強さと苦悩を、福島さんの迫力ある歌唱がよく表現していましたし、菅野さんのヴィオレッタも、激しいピアノ伴奏に押されぎみながら、プライドと気品で応じていたのが、次第に哀願し、嘆きに転じる様子がよく歌われていました。
会場の雰囲気はたいへん親密なもので、よく響くホールの音響も寄与しているのでしょうか、素晴らしいリサイタルでした。終演後、ハンドルを握りながら「乾杯の歌」を歌いつつ、満足して帰りました。
(*):山形声楽研究会 演奏会情報
ソプラノ・リサイタルなどには中々行く機会がないのですが、いつか機会を作って生で歌を聴きに行きたいと思いました。