電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

香月美夜『本好きの下剋上・短編集I』を読む

2019年10月30日 06時03分33秒 | -香月美夜
香月美夜著『本好きの下剋上』シリーズの最新刊「短編集I」を読みました。WEB上ではすでに完結している本編が、基本的に主人公マイン(ローゼマイン)の視点で語られるのに対して、周辺の人の視点で語られる閑話やサイドストーリー(SS)には新鮮な発見があって面白いものです。

例えば冒頭の「変になった妹」では、マインの姉トゥーリの視点で、病弱な妹が高熱から回復した後に、お湯で毎日体を拭こうとしたり木の棒でかんざしを作って髪を束ねたり、植物の実から油を採って髪を洗うことでツルツルにしたりと、不思議な行動を取り始める様子が描かれます。妹マインの視点からは、転生した周囲が汚く不潔な生活を忌避しているのですが、姉トゥーリの方から見ると妹の行動のほうがヘンなのです。そんなズレが新鮮な発見につながっていく、というわけです。



中にはWEB上にあるサイドストーリー集(*)に掲載されているものもあれば、単行本の中に特典として挟み込まれた書き下ろしの短編を再録したものもあります。後者は、TOブックスという出版社が、取次店を経由して書店に届くという商慣行の中で抵抗(?)するために、直販と「応援書店」での販売分にはこうした書き下ろし短編をリーフレットとして挿入することにしたものでしょう。その事情を理解はできますが、田舎の一読者としてみた場合、なんだか居住地によって疎外されている感を禁じえません。この短編集は、そうした書き下ろし短編SSをもちゃんと収録しており、出版業としてはそれが本筋であろうと思います。

ヴィルマ視点の「前の主と今の主」、ヒルシュール視点の「特別措置の申請」、フィリーネ視点の「わたしの騎士様」などは、本編のストーリーを補強する好編と感じます。「短編集I」ということは、「II」の計画もあるということでしょう。特典SSなどという読者を居住地で区別してしまうやり方でなく、中身の面白さを訴えて商売をしてほしいものです。と、物語中でローゼマインも言っております(^o^)/

(*):本好きの下剋上 SS置き場

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