電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』を読む

2013年10月01日 06時01分50秒 | 読書
新潮文庫で、伊坂幸太郎著『フィッシュストーリー』を読みました。fish story とは、釣り師の手柄話から来るものだそうで、「ほら話」という意味とのことです。なんともはや、釣り師の方々には不名誉なことですが、辞書にそうあるのですから、仕方がありません。中身のほうは、次の四編があつめられています。

1. 動物園のエンジン
2. サクリファイス
3. フィッシュストーリー
4. ポテチ

最初の「動物園のエンジン」というのは、ちょいと不思議な感覚の小編。次の「サクリファイス」は、たぶん宮城県の七ヶ宿町あたりから山形県の上山市方面に抜ける、羽州街道金山峠ルートあたりを舞台にした話でしょうか。これはミステリー風でおもしろい。辺鄙なローカル性をどう活かすか、という課題に、「人を隠す」という解を提出した話。でも、昔から平家の落人伝説とか、ナントカ上皇の隠棲伝説とか、山奥に隠れる話はたくさんありますので、新規性は薄いのですが(^o^;)>poripori

三編めの表題作「フィッシュストーリー」は、初読時は構造というか、時間的な関係がよく理解できませんでした。少し整理すると、
(1) 二十数年前……独身の大学助手が、友人の小学校教諭と、あるロックバンドの最後の録音を話題にします。実家から野菜をもらって帰る時にその曲を流していたら、間奏の途中で長い無音の状態がある。たまたまそこで女性の悲鳴が聞こえ、車を停めて林間を探すと、女性を暴行しようとしている現場に遭遇します。途中で拾った木の枝が、どうやら決め手だったようです。
(2) 現在……どうやら、その女性と助けた男性が結婚して、生まれたのが瀬川氏らしい。正義の味方になるには、職業や肩書きではなくて、強い肉体と動じない心を身に付ける準備こそが必要だ、と父親に教えられた息子は、体を鍛え、護身術や格闘技をマスターします。それが、ハイジャックの鎮圧の準備になったとは。
(3) 三十数年前……発端となった曲の事情が明かされます。ロックに日本語の歌詞をかぶせるのに、歌詞と旋律を韻を踏むように同調させるのではなく、話すようにそのまま歌うというやり方の実験的なロックバンド。たしかにありましたね、そういう時代が。
(4) 十年後……ハイジャックを鎮圧した瀬川さんの隣に座っていた橘さんが、どうやらネットワークのセキュリティ上の問題を発見し警告したために、いわば「世界を救った」のだそうです。

ふーむ、風が吹いて桶屋が儲かったレベルではなく、アマゾンで一羽の蝶が羽ばたいたらアメリカ南部でハリケーンが発生するレベルでしょうか。いやいや、ロックバンドの最後の録音で生じた無音部が女性への暴行を防ぎ、ハイジャック犯を鎮圧し、ネットワークと世界を救う話です。たしかに壮大な「フィッシュストーリー」です(^o^)/

四編めの「ポテチ」は、なんとものどかな空巣の話。こういう味も、悪くありません。

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