電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

上田誠也『地球・海と大陸のダイナミズム』を読む

2013年03月20日 06時04分55秒 | -ノンフィクション
1998年に初刷が刊行されたNHKライブラリー中の1冊で、上田誠也著『地球・海と大陸のダイナミズム』を読みました。実は私が購入したものではなく、娘が学生時代に読んだものらしいのですが、東日本大震災を経て、正規には習ったことのないプレートテクトニクスに基づく考え方を、一度整理してみたいと思ったためです。
本書は、次のような構成になっています。
第1章:地球の身上書
第2章:大陸移動説~革命の発火点
第3章:ウェゲナーと大陸移動説の死
第4章:大陸移動説よみがえる
第5章:地磁気の逆転
第6章:熱残留磁気の反転~私の初めての研究
第7章:地球の熱をはかる
第8章:海洋底拡大説~海洋底の生成と消滅
第9章:プレートテクトニクスとは何か
第10章:日本列島のプレートテクトニクス
第11章:地震は予知できる
第12章:もっと新しい地球観~プリュームテクトニクス

第1章では、地球の大きさを測るエラトステネスの方法から、地球の内部構造や地球誕生の歴史などを概括します。そして第2章では、ウェゲナーの大陸移動説の提唱、第3章ではその反響と学説の死を、第4章では古地磁気の逆転を説明できるとして大陸移動説が復活するまでを描きます。第5章と第6章は、残留磁気が自己反転する可能性を検証します。
第7章では、地殻熱流量の研究に転じた著者が、第8章で海洋底拡大説を通じて、第9章ではプレートテクトニクスが受け入れられていく経緯などを概括します。第10章の日本列島のプレートテクトニクスが、本書の中心的な内容でしょう。「日本列島周辺の地殻熱流量の分布は西高東低」であり、東側の沈み込むところは低温で、西側には火山帯があり温度が高く柔らかくなっているからこそ、東側のプレートが下方に沈み込んでいき、それが中央海嶺の裂け目を生じさせる一つの要因になっている、ということでしょうか。
第11章の地震の予知の話は、「予知」という言葉をめぐって、私たちのような素人と専門家とが同床異夢の状況にあると感じられる面もあり、議論がかみ合っているとは言えないようです。第12章は、地球深部を探る近年の知見を紹介し、不連続な地学現象の発現を、プリュムがたまって落ちるモデルでとらえる可能性を示しています。

うーむ、私が高校時代に習った自然地理や地学は、いったい何だったのかと思ってしまうような内容です。はじめて疑問が氷解した思いがします。
(1) はじめは平らな大地を水や氷が侵食して谷ができると教わったが、そうではないようだ。大地の割れ目にそって水が流れ、川ができる。だから、川の下には割れ目(断層)があるとみてよい。
(2) 日本列島の造山運動は、隆起と沈降の垂直運動だと教わったが、実はプレートが移動し沈み込むときに、プレートに乗っかって動いてきて付加された陸地の集まりだということ。四国の縞模様も東北地方の折れ曲がりも、水平移動だったのだな、と納得。
(3) 1971年の岩波新書『新しい地球観』は、実はこの科学革命における歴史的な意味を持つ著作だったのだな、と再認識しました。

東日本大震災を経た現在、部分的には従来の常識の限界であったと思われる箇所も散見されます。例えば、

真の巨大地震とわれわれがよんでいるマグニチュード8.5あるいは9以上という大きさの地震は、ペルー、チリのようなところ、さらにはアラスカあたりにしか起きない。われわれが典型的だとしてきた西太平洋のマリアナ型沈み込み帯でも、沈み込みにともなう地震はもちろん起きているが、それほどの巨大地震は起きない。せいぜいマグニチュード8程度どまりである。」(p.202)

というあたりは、訂正が必要でしょう。この点、むしろ従来の知見から言いきってしまうことのこわさを感じさせます。

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