さて、どこから話を始めようかと考えて、
お茶とは少し離れたところから書いてみることにします。
ご存知の通り、北京には古いものと新しいものが混在しています。
故宮を取り巻く胡同、その向こう建ち並ぶビル群。
ここ数年は市内の操業停止した工場の建物をクリエイターが集まる産業基地として再生する動きが活発です。
中国美術館のほど近くにレンガ造りの印刷工場をリノベーションした「77文創園」があります。
この一角にある「北京無用生活空間」を訪れました。
「
無用」は中国の有名ファッションデザイナー・馬可の展開するブランド。
馬可といえば、習近平国家主席夫人、彭麗媛の公務服デザイナーとしても話題になりました。
「無用生活空間」は入り口を入るとまずパブリックスペースのギャラリー「展廳」があります。
中国の手仕事に関係する展示がされており、今回は紙にまつわる展示でした。
こちらは営業時間内は随時参観自由です。
そしてその奥にプライベートスペースの「家園」があります。
こちらも参観は無料ですが、基本的に予約が必要です。
馬可が8年をかけて中国の伝統的な暮らしをヒントに構想し造り上げた生活空間には
すべて手仕事による家具、生活雑貨、衣服などが展示され、
スタッフの説明を聞きながらIKEAの順路のように参観できるのです。
撮影禁止ですので残念ながら写真はありませんが、
「無用」の微博にはいくつかの写真がありますので、興味ある方は探してみてください→「
無用WUYONG」
中国の伝統的な民間工芸を基礎に置く馬可の作品には懐かしいぬくもりがあり、
古いようでいて斬新、そして代々受け継がれるように耐久性にも優れています。
ベッドリネンをひとつ取ってみても、デザインはシンプルながら丈夫で機能性も考えられていました。
服は少数民族の職人たちが、糸を紡ぎ、天然染料を使って染めあげ、
伝統織り機で織った布を手縫いし、刺繍を施します。
大量生産や使い捨てではない、流行もない、
素朴でありながら高貴な風合いは着る人の本質を引き出すようです。
「家園」にある、ほとんどの作品は購入可能ですが、
石鹸さえも簡単には買えないお値段でした。
ちょっと情けない話ですが、唯一気軽に買えるものは茶籽粉のみでした。
茶の実の油を搾った後の残りかすを挽いたもので、食器洗いや洗髪、浴用石鹸として使います。
「無用生活空間」のコンセプトにはとても心を動かされたので、記念に一袋購入しました。
茶器を洗う時に使おうと思っています。
北京の中心街に位置する「無用生活空間」。
このような住居が北京のマンションや胡同の片隅に存在したとしたら、
それはまさしく茶の湯で言うところの「市中の山居」でしょう。
馬可のめざすところが「贅沢な清貧」なのであるとすれば、
それは茶の道にも通じるような気がしました。