日本のコアな中国茶ファンを勝手に分析すると
かなり独善的な分け方ではあるが、
台湾茶派と武夷岩茶派の二大勢力があるように思う。
台湾茶派は清らかさや華やかな香りに魅了され、
岩茶派はそのコクと成熟した味わいをよしとする。
さらに乱暴な分析であるが、
産地、そして茶文化圏としての台湾がフレンドリーかつ懐の深さによって多くのファンをひきつけるとすれば、
武夷山は世界遺産の威光とあいまって、産地としての少々排他的で間口の狭い面が逆に探究心を煽るようなところもある。
たとえば台北の場合、お茶屋さんに足しげく通えば、美味しいお茶が手に入る確率はグンと高くなるだろう。
しかし、武夷山では、知り合いもおらず、コネもなければいい岩茶に出会える手立てを見つけるのは難しい。
その上、正岩茶だの、半岩茶だの、洲茶だの分類があって、
「あなたの飲んでいる岩茶はホンモノの正岩茶ではない」と言われたりする。
それがかえって、「じゃあ、本当に美味しい岩茶を」とファン心理を刺激するのかもしれない。
正岩茶は武夷山の保護区の中にある茶畑で作られたものだけを指し、
当然のことながら生産量は限りがある。
中には正岩茶以外の茶区で採れた茶葉をブレンドして正岩茶として売っている場合も多く、
自分が飲んでいる岩茶が正岩茶100%であるかどうかは、実のところとてもわかりにくいのである。
前置きが長くなったが、先日、銀座に日本事務所を構える
天英茶業さんを訪問し、
サロンで何種類かのお茶を試飲させていただきながら、いろいろなお話を伺う機会があった。
天英茶業さんは武夷山の正岩茶区に茶畑を保有し、自社工場でプレミアムな100%正岩茶を生産している。
昨年12月の「地球にやさしい中国茶交流会」でもブースを出していらしたので
一度飲ませていただきたいと思っていたのだが、
その時は時間が取れなかったので、今回が初めての試飲となる。
天英茶業さんに対するそれまでの印象は、
正直なところ、岩茶ブーム以降に正岩茶区の茶畑をオークションで購入した広東省の企業・・と聞いていたし
お茶に対しては新規参入なのでは?技術的なところはどうなのだろう?という疑問もあった。
HPでも最高級品はびっくりするようなお値段だし、ちょっと敷居が高い気もしていた。
結論から言ってしまおう。
百聞は一見に如かず、とても美味しいお茶ばかりで、聞きかじりの先入観は払拭された。
企業としても、真摯に岩茶の生産と普及に取り組んでいらっしゃることが
日本事務所代表の張さんの熱いお話でよく理解できた。
何より、武夷山にある嘉叶茶工場の工場長、朱茶師のこだわりがお茶によく表れていた。
天英茶業さんの主力商品は大紅袍、肉桂、水仙の三種であり、
それぞれが貢品、極品、正岩茶の三等級に分けられる。
今回はそのうち極品レベルの老[木叢]水仙と肉桂を飲ませていただいた。
そのほか、黄丹と鉄観音の交配種で黄観音とも呼ばれる105、
台湾の青心烏龍種の元となったと言われる短脚烏龍茶をいただいた。
老[木叢]水仙は丁寧にゆっくりと施した焙煎がいい具合に効いていて、
飲んでいると顔が紅潮してきて、体がふわっとしてくる。
素晴らしいのはその喉越しで、張さんはすべりがいいと表現されていたが、
このすべりの良さは他の岩茶にも共通していることで、朱茶師が特にこだわっている点なのだそうだ。
肉桂は水仙よりも若干浅い焙煎で香り高い仕上がり。
日本のお客さんに人気があるとのこと。
現在、極品クラスはセール中(6月30日まで)で、35%オフとなっているので
上記二種はかなりお得感があると思う。
105は生産量が少ないそうだが、華やかな香りと優しい味わいがとても女性に人気が出そうな感じ。
短脚烏龍茶は初めていただいた品種だが、爽やかな飲み口で、これもとても喉越しがよかった。
そのほか、おまけで入れていただいた雲南紅茶や雲南ジャスミンもとても美味しかった。
すっかり長居をしてしまったが、
これだけ飲んでも口の中はさっぱりとしていて、胃にも全く負担がなかったのはびっくりした。
ご一緒した友人のOさんは私から見ると筋金入りの岩茶派だが、とても高評価だった。
岩茶に興味ある方は、一度銀座のサロンに行ってみることをお勧めする。
とにかく飲んで、話を聞いてみて、自分の舌で確かめてみてほしい。
そういう私も基本的には台湾茶派であるが、
ますます武夷山に行きたくなってしまったのであった。