さて、昨日は山先生の指摘として、社会環境を転換する5つの条件に
①空間克服の更なる進展
②産業構造の高度化
③人口構造の変化
④世界経済の構造変化
⑤エネルギー利用の変化 ということを挙げました。
今日はこれらに対する考え方について引き続き講演からのレポートです。
①の空間克服の更なる進展はこれからも進む。人・モノ・情報の動かし方をさらに効率化して、様々なボトルネックの解消が進む。ネットの技術もさらに進化し新しいビジネスを生み出すだろうが、それでもフェイス・トゥ・フェイスの情報伝達ニーズが失われることはない。
それにも関連するが、②の産業構造の高度化としては先進国は1次産業が減り、二次産業が減り、三次(サービス)産業だけが増えるという形で変化する。人間の欲望を満たす新しいサービスが次々に生まれては消えて行くが、それを雇用として支えるのはやはり人間の数という都市の力にほかならない。
新しいサービスを享受しようと思えば都市に住むしかないのだ。
例えば歯医者、内科、コンビニが成立する最低集落の限界は人口3千人と言われているそうで、地方都市は人口が減っていく中でそれでも集積を維持するか高めることで各種サービス業態が残れるようなガンバリが必要だ。
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しかしそうは言っても日本の人口はちょっと手を打つのが遅れたこともあって、これからどんどん減少する。その動きには逆らえなくて、地方の集落を今のまま維持するのは難しくなることはやむをえない。
それを、より大きな都市が周辺の小規模自治体と連携して支え合うシステムとして総務省は『定住自立圏構想』を制度化し、国土交通省は『国土のグランドデザイン2050』としてこれからの社会の進むべき方向を示している。
人口が減ったところでは空き家や土地余りが生じるが、それを効率的に土地利用転換を図り暮らしやすい地域にできればよし。できなければ劣化した地域になる。そのやり方は一言で片付くような妙案はない。
しかしたとえば空き家を更地にすれば固定資産税が高くなるために地主・家主は空き家のまま放置する方を選ぶというようなことがネックになっているのなら、それを国として解消するような動きを加速させた方が良いだろう。そういう地域が変わろうとする自助努力を妨げるハードルがあるならそれを取り除くのは国の責任だ。
④、⑤の世界経済の中で日本を見ると、BRICSを始め世界が経済発展する中で相対的な日本の地位は下がる。かつて世界に覇を唱えつつも今は小さな国になったオランダになぞらえて、「日本は大きなオランダになれるのか」というテーマが語られている。
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さて、いよいよ地方活性化の戦略だ。
東京が世界四大都市の一つとして君臨しているのは良いとして、世界の国々の首都クラスの二級世界都市、そしてその下を三級世界都市としてみれば福岡や札幌などの政令指定都市はもっと国際的に打って出るような戦略があってよいのではないか。
そういう都市では"市民のための施策"と"国際的にステータスを得るための施策"をちゃんと分けて考えるべきだ。そうしないと、"市民のためには無駄な政策"というレッテルを貼られてしまって大きな打ち出しができない。
福岡のシーサイドももちなどは港湾局による開発だが、庶民には手が届かない高級住宅地開発などはよくやったと思う。
地方自治体の行政ができないことをNPOが支えるようになった。NPOなど市民意識が高まったとも考えられるが別な視点から見ると行政がサービスを放棄しつつある。最高の行政サービスを住民に安価に提供するためには、さまざまな批判を乗り越えて社会実験的な試みを数多く繰り出す事が必要だ。
佐賀県の武雄市が図書館をツタヤに管理委託して成功を収めているが、従来の図書館管理の概念からはかけ離れた取り組みだ。中央官僚出身の市長が頑張って実践したが、当初は賛否あって世間は注目していた。このようなブレイクスルーを支持するような機運があるべきだ。
大企業の取り組みも侮れなくて、うまくその力と地方自治体のマッチングが成立すればもっといろいろなことができるだろう。北海道では浜中町のタカナシ牛乳を世界企業のハーゲンダッツもスターバックスも使っている。値段が上がってもそこにここの牛乳を使う価値を企業は見いだしている。
最近の企業の社会貢献はかつてCSR(コーポレート・ソ-シャル・レスポンシビリティ=企業の社会的責任)というお金を拠出して企業活動と別にその儲けの一部を差し出すという形から、企業のビジネス活動そのもので社会的価値を創造するCSV(クリエイティング・シェアド・バリュー)という新しい概念が生まれつつある。
企業がやりたいことと地域の望みがうまくマッチングできれば、企業の力が地域を守り育て支援するという動きが活発になるのに、と思う。
一次産業と二次産業をサービスの三次産業と組み合わせた「六次産業化」という言葉があるが、これは一次産業からスタートするのではなく、六次産業から始めてそれが一次産業に繋がるという「逆六次産業」というアプローチの方が良いと思う。
地域に旨い産物があるからそれを宣伝して売るという戦略をとりがちだが、しばしば日本の産物がそのまま外国人の口には合わないという事例は多い。
今日本から病院(というシステム)を東南アジアに輸出しようという動きがある。そういうシステムがうまく着生すればそこで使う漢方薬や食品は日本のモノが使われる、という流れだ。
(なるほどいろいろな食材も、それを食べる文化やアニメなどと一緒に輸出することはあるでしょうね。ドラえもんが食べるどら焼きが海外で人気なんてこともあるかもしれません)
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最後に北海道の話題。
函館まで新幹線が通るインパクトをもっと生かしたい。東京都と函館・札幌の間に新幹線による高速交通が増えると言うことは、もしかしたら羽田~新千歳間の飛行機の便を減らしても良くなるのかも知れない。するとそれは羽田の発着枠をより効率的に他に振り返ることができる意味で、羽田を助けることにも繋がる可能性があると私は言っているけれど、反応は鈍い(笑)。
青函トンネルも貨物列車が一緒に走るのでこの区間は時速140kmしか出せないというハンデがある。この際、もう一本掘ってスピードがアップすれば羽田空港をなお一層救うことができるので、国家プロジェクトとしての意義は深い…と北海道の人は思った方が良いのではないか。
夢のような話だが、新千歳空港の自衛隊に別なところに移転してもらえれば、新千歳空港はを平行滑走路4本という大空港になる。そうなったら新幹線も札幌を越えて執着が新千歳空港という夢もあるのではないか。
実はリニアモーターカーも、首都圏をどう走るかにいろいろな構想がある。その中の一つに、羽田空港の地下をとおり、成田、茨城空港を結んだら面白いという事も出ている。
あとは言い尽くされた感もあるが、都市のコンパクト化と経済圏の広域化、出生率の向上、地域や都市のグローバル化対応、巨大災害へのバックアップなど、やれることをとにかくやるしかない。
【以下私の感想です】
…と、夢のような話から、リアルに起きていることをどう考えるか、大企業とのマッチング、六次産業から始めよう、など刺激的な話題が満載でした。
私の感想としては、やはり日本の人口が減る中で、地域ポテンシャルを理解している地方自治体が単体あるいは周辺と連携し力を合わせて企業と組むようなことを橋渡しする地域人材やコーディネーターの力が必要だと感じました。地方自治体にも企業のCSRやCSVを引っ張り出せるような人材や能力が必要です。
そしてそこでスマッシュヒットを打てれば、内外の注目を浴びて生き残れる地域になり得るし、そういう(残念ながら)地域ポテンシャルもセンスも行動力もなければただ枯れていくしかない未来が待っているということなのかと。
自分も自治体にいた経験で言うと、どうしても対市民や対県庁(道庁)のような目先の事ばかりが気になってしまいがちです。思い切り外にいる人から地域がどう見えて、どういうことをすると良いというようなアドバイスを受けて、それを実行に移せるなら理想ですが、財政に余裕がない中ではどうしても世間を相手に打って出るような政策は打ちにくいのが現状です。
安倍政権がまち・ひと・しごと創生本部を作って地方を支援しようというのなら、今の市民の暮らしを救済するための交付金ではなく、今までやったことがない新しい試みにしか使えないような交付金というのはどうでしょう。
もちろん費用対効果を勘案した上で配布しますが、それは絶対確実な固いものではなく、少しやんちゃでリスクがあっても良く、例え結果的に失敗しても、それはとがめない。その失敗が後に繋がるようなレポートがあれば良い、というような制度はどうでしょう。
自治体が自ら行うのであれば、今の地方財政の中からの捻出はできない挑戦に予算や人材を配分できるような制度を幅広く認めるようなユルいものであって欲しいと思います。
また逆に失敗しても首長の責任にならないような制度で、発想そのものもちょっと外からの視点と言うことであれば、地元の要望を受けた都道府県の上級自治体が実施するとか、国交省などの政府機関が自治体をフィールドにして実施すると言うこともあるかもしれません。
北海道には下川町のように飛び跳ねて独特な政策を打ち続ける面白い自治体もあります。他で行われた先進事例をよく勉強して、自分たちのマチのポテンシャルに照らし、情熱をアイディアに変えアイディアを実行に移す一つ一つの積み重ねが必要です。
"我はただ実践あるのみ"とは二宮尊徳先生の言葉です。