中央大学の山崎朗教授による「地域創生のデザイン」というお題の講演会を聴きました。
山崎先生は経済学がご専門で産業活性化や地域振興などに関して多くの発言や著作を続けられ、中央省庁や地方自治体などの各種委員会の委員長を歴任されている地域活性化の世界での重鎮です。
年齢は私とさほど変わらないのですが、日本各地を調査され斬新な視点のレポートを多数書かれています。今回は北海道についてもいろいろなご提案があるというのでとても楽しみにしていました。
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山崎先生の講演は、日本各地はもちろん世界で今起こっている具体的な現象を捉え、そこからどのような社会の変化が起きているのか、そしてその背景は何か、という寒天で様々な話題を提供してくれます。
例えば、「ANAが那覇空港を国際貨物便のハブ空港にしています。これは日本の荷物を成田・羽田・関空から那覇経由でアジアの各空港(ソウル、台北、上海、香港、バンコク)へ送り、またその逆に海外から沖縄経由で国内空港へと仕分けしながらさばく事業を行うものです。航空機による高速物流の可能性を追求していて、経営がどうかなと思いましたがまだ頑張って継続しています」という、高速物流の可能性の話題。
【ANA のホームページより】
曰く、「五島列島の宇久島(佐世保市)に、島の約四分の一の面積(630ヘクタール)に営農型太陽光発電施設を設置するプロジェクトが合意された。営農型というのは、背の高い架台を使って太陽光発電パネルを設置するが、その下の空間を利用して牧草を生い茂らせこれを酪農と共存させようという試みです。この管理を島の畜産業の方に兼業でやってもらうことで発電ビジネスと地域振興を両立させる狙いがあります」という話題。
最近は自然エネルギー買い取り制度の根幹が揺らいでいるのでどうなるかと思いますが、メガバンクや大企業も参画しての地域活性化プロジェクトが注目されています。
【ネットIBニュースより】
曰く、「東京は出生率が低いと言われていますが、千代田区では出生率が上昇しました。これは千代田区にある大企業であれば最近は自社ビルの中に託児所を併設する動きがあって、子育てに便利な地域になりつつある育児環境の改善の動きです」という話題。
山先生も国交省などが提供する人口のメッシュデータは見ていたそうですが、増田元総務大臣による『地方消滅』が受けたのは、地方自治体ごとの将来像が明らかになったことで世間の注目を浴びたのでしょう、とのこと。
曰く、「長崎ちゃんぽんで知られるリンガーハットは数年前から商品が50円値上げすることを覚悟したうえで、使用する野菜を全部国産に切り替えました。中国からの冷凍野菜にはないシャキシャキ感を大事にすることと輸入野菜への不安払拭の意図があるのでしょう。ところが国内産に切り替えると今度は定番野菜の一つであるオランダサヤエンドウという野菜の供給が圧倒的に不足することがわかりました。急な需要に応えてくれる農家が見当たらず、全国をかけずり回ってやっとのことで20カ所ほどと契約してなんとか対応したそうです」とのこと。
農家は農作物が売れないと嘆きますが、農家が直接大企業と連携することで引く手あまたの農産物として売ることができるという話題でした。
曰く、「ツムラや龍角散が北海道で漢方生薬栽培を行っています。漢方製剤を使うお医者さんが増えている中で機械化による大規模栽培が可能な安定供給先として北海道が選ばれたと言うこと」
これもまた、大企業と組むことで北海道の農産物生産地としてのポテンシャルは高いということでしょう。
曰く、「パナソニックが茨木工場を売却し、グリコは東京工場を売却。YKKとYKKAPは本社機能を富山県黒部市に移転しました。このような企業が東京を離れて地方へ移転する話が結構出始めています。東京周辺の工場が移転をするとその跡地は物流拠点など新たな経済ニーズを受け入れる土地利用がなされるのでそれはそれで大いに利用価値があります。また今北陸がエリアとして注目されているのですが、それは電力料金が安いということも要素の一つになっています」
今後電力料金が上がる北海道はつらいところで、しっかりとした安い電力供給システムを確立させないと産業は来ないし、逃げて行くかも知れません。
さて、まだまだ事例は多いのですが、こうした動きをつぶさに見ていると、これらの動きの背景となっているのは様々な社会環境の変化だということがわかります。
山崎先生は、社会環境を転換する5つの条件を挙げられました。それは
①空間克服の更なる進展
②産業構造の高度化
③人口構造の変化
④世界経済の構造変化
⑤エネルギー利用の変化 ということ。
そして「もちろん社会の変化には逆らえません」としたうえで、ではこれらをどのように捉え、どういう考え方で立ち向かうべきかについて先生の説明が始まりました。
社会の変化をネガティブにとらえてただ嘆いているばかりではなく、新しい考え方や大企業とのマッチングで環境変化を乗り切ろうという様々な取り組みが動いていることが分かりますね。
そして先生の説明は…、おっと、今日はちょっと長くなったので続きは次回に回しましょう。後編に乞うご期待。