【辻井先生(右)の来訪です】
湿地研究の第一人者で、釧路国際ウェットランドセンター技術委員長の辻井達一先生が市役所を訪ねてくださいました。
辻井先生は、今年7月6日から13日にルーマニア・ブカレストで開催されるラムサール会議において、ラムサール湿地保全賞の科学部門賞(Ramsar Wetland Conservation Award for Science)を受賞されるということでご報告に来てくださったのです。
先生は、「今回受賞できたのは、長年釧路湿原にかかわらせていただいたおかげですよ」とにこやかに笑われます。
今年のラムサール会議のテーマは、「湿地、ツーリズムとレクリエーション」なのだそうで、初めて湿地のツーリズムを真正面から取り上げて湿地におけるツーリズムを考えるきっかけになるそうです。
辻井先生はかねてより、湿地は単なる保全ではなく賢く使う「ワイズユース」が良いのだ、ということを主張されてきた方なので、今回のツーリズムをテーマにしたということは、先生の主張に合致していると喜んでおられます。
「そこでですねえ、いろいろと考えるところがあるんですよ」
先生はいろいろとアイディアをお持ちのようです。
「例えばJR花咲線。釧路から根室へ向かう汽車ですが、しょっちゅうシカやクマにぶつかって遅れますよね。JRの皆さんは汽車が遅れることを謝ってばかりいますが、これを海外から訪れてくる友人たちに見せると、車窓から野生のシカやタンチョウが見えることに大喜びするわけです」
「へえ、そうなんですか」
「エゾシカなんて我々には見慣れた風景ですが、考えてみれば、東京から飛行機に乗って二時間半程度のところで、汽車の窓から野生の動物が当たり前に見えるなどというのはとっても魅力的な出来事なのです」
「なるほど、そうかもしれませんね」
「特急列車などは一定時間以上遅れると遅延証明を出しますね。スーパーおおぞらなどはシカやクマにぶつかって遅れることがあるのですが、そんなときは薄っぺらな遅延証明書ではなく、『あなたの乗った汽車は熊にぶつかったことで遅延したことを証明します』と書かれた立派な遅延証明書を出してあげるというのはどうでしょう。良い旅の思い出になりませんか、これもまたツーリズムではありませんか」
「ははあ、面白いですね。バードウォッチャーは自分の目で実際に見たライフリストを増やすのが生き甲斐と言われますからね」
野生動物はそのまま立派な地域資源であるのですね。
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「それ以外にも、植物だって立派な資源ですよ。湿原では初夏のころにエゾカンゾウというユリ科の植物が花を咲かせますが、このつぼみは実は中華食材として珍重されていて、一部では中国からわざわざ輸入されてもいるんです。湿原にいくらでもあるのに、です」
「湿原の花にツルコケモモというのがありますが、これは海外ではクランベリーと言われて赤くて酸っぱい実がつきます。これは煮詰めてソースにすると、欧米ではサンクス・ギビング・デイの七面鳥には欠かせないクランベリーソースとなります。国立公園の湿地に生えたものから採取するのは難しいとしても、それ以外の湿地でなら栽培ができるかもしれません。これもまた湿地からの
贈り物ですよ」
いろいろな資源を贈り物と捕えて、湿地を楽しむことができればそれもまたワイズユースと言えるでしょう。
湿地を楽しむツーリズム、どんなアイディアと現実性があるでしょうか。