宝塚バウホール、2023年1月17日15時。
悪夢にうなされるのが日常になっていた“僕”(鷹翔千空)は、いつものように夢を見ていつもと同じ終わりを迎えようとしたとき、突然声を聞く。“彼”(亜音有星)は「明るい夢の世界へ行こう」と強引に“僕”を暗い場所から連れ出してしまい…
作・演出/生駒怜子、作曲・編曲/手島恭子。作家のデビュー作、こってぃの初主演作となるバウ・ドリーミング。全2幕。
初日が開いてすぐに関係者のコロナ陽性が発表されて中止になってしまい、どうなることかと思っていましたが、出演者ではなかったのかなんとか再開。中止期間をスライドするように公演期間が延長され、私も一度は持っていたチケットが飛びましたが、なんとかご縁をいただいて観劇してきました。千秋楽後にすぐ次の本公演の集合日が来ることになるのでしょうから生徒には負担でしょうが、自前劇場の強みも見せてくれて頼もしいです。これでご卒業の(ああもったいない、何故…)の朝木陽彩ちゃんも卒業の日を延長してくれました、ありがたや。
演目発表時のあらすじや主な配役発表時の役名の「僕」「彼女」「彼」などに湧いたり、SFチックというかちょっとサイバーパンク調というのか…な先行画像やポスターに湧いたりした、なかなか話題の一作でした。前日に配信もありましたが平日で観た人が多くなかったのか、はたまたそれでもネタバレをしない良心的なファンに恵まれたのか、私もネタバレのないままにフラットな気持ちで観劇できました。
というかいただけたのが4列目センターブロックというお席で、ほぼノーオペラでしたありがとうございました…なので視界は問題なかったのですが、音響は後方席の方が響きがいいのかも? スピーカーの死角(とは言わないのかな?)になる席なのか、ずいぶんと音量が小さく感じられました。ただしこれはまだまだ声ができあがっていない下級生が多い座組デマだマイクに上手く声が乗せられていないから、だったのかもしれません。なっつと大路くんの会話の場面とかは問題なかったもんなあ。あとはBGがほぼなくて、楽曲の伴奏もかなり薄かったせいもあるかも。このあたりは好みもあるし、あまりうるさいのもこの作品にはそぐわなかったかもしれませんが、音楽って生徒の演技の支えになるから…こってぃは歌が上手い人という印象がありましたが、今回それほどでもない印象を与えてしまったのはそのあたりのせいもあるかと思います。まあこういう歌唱を味で聴かせるのはまだまだ技が要るよ、それこそこっちゃんクラスでないと…とは思ったかな。なのでもう少し演出として手をかけてあげればよかったのに、と思いました。
そう、なんか全体に淡泊というかライトというか、こういうネタにしてはあっさりしてんなー、と感じたのは私がオタクで過剰で理屈っぽくてしつこくて饒舌な人間だからでしょうか…もの足りないとも思ったし、でもコレが今どきなのかなとも思ったし、まあデビュー作は作家性や個性が出るものだからこれがそうだというならそれでいいんじゃないの、とも思いました。そして若い座組も十分健闘していたと感じました。もちろんやっぱりダレて見えてもったいないなと思う場面もありましたけどね、それは特に花屋場面。いやココ、ここが現実の場面だから重要だし、いいホンだしいい芝居してるんですよみんな、でもやっぱり埋められていないの。それで観客も何を見せられているのかわからなくて迷子になって、誰かの着替えのための時間を捻出しているのかな休憩場面なのかな、とか慣れた舞台脳が判断しちゃうんですよね。でも本当はいいことやっているしけっこう重要な場面なので、もうちょっと演出がなんとかしてあげられるとよかったんじゃないかな、とか思いました。でもラスト近くの病院の場面とかは音楽なんかなくてもちゃんと密に作れてましたよね、まだムラがあるのかな…
ちなみにちょっと話がズレますが、お花屋さん店員のフランク(大路りせ)がエマ(山吹ひばり)を好きなのはいいとして、モニカ(朝木陽彩)がフランクを好きとか店長(秋奈るい)がモニカを好きとかがないのが今どきだなと思いましたし、その塩梅がホントちょうどよかったです。私ならついそう盛り込んじゃったと思うんですよね(笑)。このあたりの関係性とか、花屋の客の母娘に対するエマの仕事の顛末とかは、けっこう主人公の動向に関わってくるエピソードだと思うんですよ。でもことさらには取り上げられないので、ボーッと観てると余計に「ところでコレなんの場面…?」ってなっちゃうんじゃないかなあ…全体に、このお話はどうなるの?って興味でちゃんと引っ張れている作品ではあるんだけれど、まだまだ緩急が作れていないので、観客の集中力が途切れる瞬間をなるだけ作らないようもっと工夫してほしい、とは思いました。まあそのあたりは作家の場数かな? ちなみに場面転換はそつがないなと感じました。
まあそうした部分ももろもろ含めて、やっていること、やろうとしていることは悪くないな、とは思いましたかね。毎度偉そうな物言いですみません。以下、ネタバレで語ります。
まず冒頭、私は録音モノローグが大嫌いですが、ここは一発「僕は毎夜同じ夢を見る。暗い、重い夢を…」みたいなのを入れてもいいのではないかと思いました。観客のみんながみんなプログラムを買ってあらすじに目を通すなんてことはないし、公式サイトや「歌劇」などの記事で作品の設定や内容を把握して来場するなんてことはまずありえません。「これは主人公の夢の中の場面なんですよ」という説明がなるべく早く、きちんとないと、自分が何を見せられているのか理解できなくて不安になる、なんなら飽きて投げ出す観客は意外と多いと思う。それくらい最初の場面は長い。現実の場面になるまでが長すぎ、立ち位置が不確定で観ていてちょっとしんどい、と私は感じました。
ところで“僕”がこの暗い夢を見ているのはこの十年、つまり父親の死に目に間に合わなかったときからずっと、なのかなあ? それとも“彼女”から傘を借りて、一目惚れして、でも返しにも行けずましてやなんのアクションも起こせてないこの一か月、のことなのかなあ? なんにせよ、今まで聞こえてこなかった“彼”の声が急に聞こえて、“彼”の明るい夢に連れていってもらったのは何故なんでしょうね? このあたり、理屈が欲しい気がしたのですが、あとになっても特に「ああ、そういうことか」となる説明がないんですよね…理屈じゃないんだよこういうことは、ということなのかもしれませんが、うーむむむ。
現実の“彼”は脳死状態というわけではなくて、たまたま昏睡しているだけ、意識が戻らないだけなんでしょうか? 私はその差についても全然くわしくないけれど、脳波にときどきは変化があるとか覚醒の気配があるとかがあって、でも“彼”は現実復帰を怖がって拒否して、白い羊たちも“彼”の真意にシンクロしている…ということなのかな? それがあの羊が怖がる音とか開かない扉とか、パルス電子音とかなになっているのかな? そしてその現実への浮上の気配がたまたま“僕”の夢の世界とリンクして…とかかなとか思ったのですが、なんせそういう理屈っぽい説明がまったくないんですよね。まああまりやるとくどくどしくなるんだけれど、それでももうちょっとあった方がいいんじゃないの?とは思いました。なーんにもないんじゃ、それこそなんで?なので。いや生駒先生は(れーこたん、とかいうほどキャラを知らない…何かの担当新公は観ていると思うのですけれど)世の中ってそういうものだ、因果関係がなくても関わり合うものだ、ってお考えなのかもしれませんけど…
私は“僕”の名前がアベルだというからには、カインという兄弟がいるのか? それが“彼”なのか? 幼いころに死んでいてその幽霊とか? いや幼いころに病気で倒れてそのまま昏睡していて、だから“彼”は夢の中で身体は青年になっていても心は子供のままで無邪気なのか?とか、アベルは兄が病に倒れたことがショックで兄の存在そのものを忘れているから“彼”に気づかない、とかなのか? とかいろいろグルグル考えたんですけれど、そういうのは全然なくて、単に“僕”の父親が死んだときの病院に入院している患者、ってだけなんですね…? うーん…
アベルの父親も亡くなるような歳じゃないので、交通事故とか、その相手が“彼”だったとか…とかも考えたのですが、そういうことでもなく…うーん。そしてこの父親も、長患いでもしていたんでしょうか? これもほぼ説明がありませんでしたね。母親の反応は愛が重いのかややヒステリックでしたが、なので以後逆に息子にはかまわなくなり、彼は孤独な青年になってしまった、ということなのでしょうか…このあたりも説明がない。“彼女”の家族が仲睦まじいので、それに重ねて何か台詞や語りがあってもよかったのに、どうにもあっさりというかライトというか、設定の説明がないんだよなあ…
これは、“僕”が“彼”の夢の世界で“彼女”への告白の練習をして、現実の世界でも勇気を振り絞って一歩踏み出してみて、練習とは違ったけれどなんとか上手くいきだして、トラウマのように避けていた病院にも行けて、そうしたらそこに入院している“彼”を見つけて、今度は“僕”が“彼”に手を差し伸べ、背中を押し、現実に招き入れる…というようなお話ですよね、要するに。「未来を諦めたくない」「現実をひたむきに生きようともがく」と、プログラムのコメントにもあります。悩みすぎず、逃げずに、踏み出してみること、向き合ってみること…の尊さ、がテーマなんだと思うのだけれど、それぞれの素材がちょっとパラパラとしているようにも思えたので、なんでもかんでもつなげると暑苦しくなりすぎる、というのはわかるけれどもうちょっと、理由付けとか理屈の台詞、説明があってもいいのかな、とは感じました。特にくだくだしい説明がない、淡くほややんとした、無垢の優しさだけが満ちる世界を構築したかったのだとしても、それだとやはりちょっとインパクトが弱く感動が薄れるんでないかい?と、旧世代の濃いコテコテのオタクは感じたのでした。あと、なんか理屈が通ってなくてスッキリしない(笑)。
でもまあ、一幕はぶっきーがヒロインだけど二幕はキョロちゃんがヒロインなんだな!?とか、やっぱなっつが上手くて任せて安心とか、ここさくも可愛いけどやっぱ栞菜ひまりちゃんめっかわだね!?とか、ナルセンドウもマジいいが奈央麗斗くんなんかキラキラしてますね怖い沼み…とか、ちょっとフィナーレたっぷりで男役群舞みんなギラギラやる気あるじゃないのもっと順にゆっくり見せてくれよとか、みんなに台詞も歌も一節ずつあったと思うのでそういうのいいねやっぱバウはそうじゃないとね、とか考えていたら終わったので、満足です。でも配信なら寝てたかも…なので生で観られてよかったです。
お衣装(衣装/澤井香菜)もセット(装置/川崎真奈)もなかなか印象的でした。てかモフモフソングの素敵アレンジでカッコつけてフィナーレ踊るのスゴいねこってぃ、よく笑わないね…(笑)加わるキョロちゃんもバーンとしていて良きでした。みんなにいい経験になっていそうですよね。
娘役ちゃんもみんな可愛くて、複数回観られればもっと識別できるのに~!と歯噛みしました。夢の住人女スタイル、みんな違って、でも白とベージュの統一感が素敵でした。あとおかゆな! フィナーレのウインク、バッチリ目撃しましたよ!!
この演出助手は西川日向子先生、またまた知らないお名前です。大変でしょうががんばって、どんどん出てきてほしいなあ。若い力に期待しています。
こってぃ、改めてバウ初主演、おめでとうございました。性格的に私が私が、というタイプじゃないんだろうし、万博アンバサダーからも外れてこのままハシゴ外されちゃうのかなーと案じていたところに主演の報があって、よかったです。ちょっとしどころのないようなお役でもあるし、でも決してただの素ではなく、優しくもの慣れない純粋な青年をきちんと演じていて、好感を持ちました。フィナーレはもっともっとバリッとやっていい気もするけど、まだ気恥ずかしさが見える気もしました。でもこの経験をバネに、さらに飛躍していただきたいです。
ぶっきーもひと頃はエキセントリックさがもっと目立っていた気がしましたが、今回はいいヒロインっぷりで安心しました。変な声も好きだ!(すみません)ちょっと細すぎるんだけど、これもいずれ変わってくるでしょう。単に若くて痩せてている女の綺麗さと娘役の綺麗さって違うので、やや丸いタイプが絞っていく方が楽かもしれないんだけど、ひっとんも夢白ちゃんも初期の病的な感じの細さじゃなくなっていったので、多分きっと大丈夫。期待しています。ただ、プログラムといいスカステニュースの扱いといいヒロインカウントされなさそうなので、次期トップ娘役に仕立てる気はまだない、ということなんでしょうねえ…てか発表いつ??
キョロちゃんも、素みたいな役を当てられている気がしますがちゃんと芝居しているんだとと思います、よくわからんけど(笑)。やはり華があっていいですね。どんどん増えていくチューブが痛々しくて、ときどき見せる暗い顔の芝居がちゃんと物語に「実はなんかあるんだな」という奥行きを与えていて、良きでした。さらに励めよー!
花組大劇場公演の再開も決まってよかったです。休演者の多さは心配だけれど、興行としてはもうやらざるをえない、ということなのでしょう。私はもうあとは東京待ちだけれど、まずは星組東京公演も残りは順調に上演されますように。引き続きいろいろと綱渡りですが、なんとか乗り切っていただきたいです。
そういえば最近私は睡眠が充実し、楽しい夢をたくさん見ている気がします。在宅勤務の何がいいって通勤時間が浮くことで、その分たくさん寝られている気がします。すると朝方、目覚まし時計が鳴る前、睡眠は足りて部屋も遮光カーテン越しに明るくなり脳はやや覚醒しつつ、でもまだ寝られる、という時間帯に楽しい夢をたくさん見る気がして、まあ起きたら端から忘れるんですけど、とにかくその時が至福なのでした。つまりそれくらい私は健康に過ごせているということだと思います、ありがたや。引き続きよく食べよく寝て、仕事は一応ちゃんとして、しっかり遊んでいきたいです!
悪夢にうなされるのが日常になっていた“僕”(鷹翔千空)は、いつものように夢を見ていつもと同じ終わりを迎えようとしたとき、突然声を聞く。“彼”(亜音有星)は「明るい夢の世界へ行こう」と強引に“僕”を暗い場所から連れ出してしまい…
作・演出/生駒怜子、作曲・編曲/手島恭子。作家のデビュー作、こってぃの初主演作となるバウ・ドリーミング。全2幕。
初日が開いてすぐに関係者のコロナ陽性が発表されて中止になってしまい、どうなることかと思っていましたが、出演者ではなかったのかなんとか再開。中止期間をスライドするように公演期間が延長され、私も一度は持っていたチケットが飛びましたが、なんとかご縁をいただいて観劇してきました。千秋楽後にすぐ次の本公演の集合日が来ることになるのでしょうから生徒には負担でしょうが、自前劇場の強みも見せてくれて頼もしいです。これでご卒業の(ああもったいない、何故…)の朝木陽彩ちゃんも卒業の日を延長してくれました、ありがたや。
演目発表時のあらすじや主な配役発表時の役名の「僕」「彼女」「彼」などに湧いたり、SFチックというかちょっとサイバーパンク調というのか…な先行画像やポスターに湧いたりした、なかなか話題の一作でした。前日に配信もありましたが平日で観た人が多くなかったのか、はたまたそれでもネタバレをしない良心的なファンに恵まれたのか、私もネタバレのないままにフラットな気持ちで観劇できました。
というかいただけたのが4列目センターブロックというお席で、ほぼノーオペラでしたありがとうございました…なので視界は問題なかったのですが、音響は後方席の方が響きがいいのかも? スピーカーの死角(とは言わないのかな?)になる席なのか、ずいぶんと音量が小さく感じられました。ただしこれはまだまだ声ができあがっていない下級生が多い座組デマだマイクに上手く声が乗せられていないから、だったのかもしれません。なっつと大路くんの会話の場面とかは問題なかったもんなあ。あとはBGがほぼなくて、楽曲の伴奏もかなり薄かったせいもあるかも。このあたりは好みもあるし、あまりうるさいのもこの作品にはそぐわなかったかもしれませんが、音楽って生徒の演技の支えになるから…こってぃは歌が上手い人という印象がありましたが、今回それほどでもない印象を与えてしまったのはそのあたりのせいもあるかと思います。まあこういう歌唱を味で聴かせるのはまだまだ技が要るよ、それこそこっちゃんクラスでないと…とは思ったかな。なのでもう少し演出として手をかけてあげればよかったのに、と思いました。
そう、なんか全体に淡泊というかライトというか、こういうネタにしてはあっさりしてんなー、と感じたのは私がオタクで過剰で理屈っぽくてしつこくて饒舌な人間だからでしょうか…もの足りないとも思ったし、でもコレが今どきなのかなとも思ったし、まあデビュー作は作家性や個性が出るものだからこれがそうだというならそれでいいんじゃないの、とも思いました。そして若い座組も十分健闘していたと感じました。もちろんやっぱりダレて見えてもったいないなと思う場面もありましたけどね、それは特に花屋場面。いやココ、ここが現実の場面だから重要だし、いいホンだしいい芝居してるんですよみんな、でもやっぱり埋められていないの。それで観客も何を見せられているのかわからなくて迷子になって、誰かの着替えのための時間を捻出しているのかな休憩場面なのかな、とか慣れた舞台脳が判断しちゃうんですよね。でも本当はいいことやっているしけっこう重要な場面なので、もうちょっと演出がなんとかしてあげられるとよかったんじゃないかな、とか思いました。でもラスト近くの病院の場面とかは音楽なんかなくてもちゃんと密に作れてましたよね、まだムラがあるのかな…
ちなみにちょっと話がズレますが、お花屋さん店員のフランク(大路りせ)がエマ(山吹ひばり)を好きなのはいいとして、モニカ(朝木陽彩)がフランクを好きとか店長(秋奈るい)がモニカを好きとかがないのが今どきだなと思いましたし、その塩梅がホントちょうどよかったです。私ならついそう盛り込んじゃったと思うんですよね(笑)。このあたりの関係性とか、花屋の客の母娘に対するエマの仕事の顛末とかは、けっこう主人公の動向に関わってくるエピソードだと思うんですよ。でもことさらには取り上げられないので、ボーッと観てると余計に「ところでコレなんの場面…?」ってなっちゃうんじゃないかなあ…全体に、このお話はどうなるの?って興味でちゃんと引っ張れている作品ではあるんだけれど、まだまだ緩急が作れていないので、観客の集中力が途切れる瞬間をなるだけ作らないようもっと工夫してほしい、とは思いました。まあそのあたりは作家の場数かな? ちなみに場面転換はそつがないなと感じました。
まあそうした部分ももろもろ含めて、やっていること、やろうとしていることは悪くないな、とは思いましたかね。毎度偉そうな物言いですみません。以下、ネタバレで語ります。
まず冒頭、私は録音モノローグが大嫌いですが、ここは一発「僕は毎夜同じ夢を見る。暗い、重い夢を…」みたいなのを入れてもいいのではないかと思いました。観客のみんながみんなプログラムを買ってあらすじに目を通すなんてことはないし、公式サイトや「歌劇」などの記事で作品の設定や内容を把握して来場するなんてことはまずありえません。「これは主人公の夢の中の場面なんですよ」という説明がなるべく早く、きちんとないと、自分が何を見せられているのか理解できなくて不安になる、なんなら飽きて投げ出す観客は意外と多いと思う。それくらい最初の場面は長い。現実の場面になるまでが長すぎ、立ち位置が不確定で観ていてちょっとしんどい、と私は感じました。
ところで“僕”がこの暗い夢を見ているのはこの十年、つまり父親の死に目に間に合わなかったときからずっと、なのかなあ? それとも“彼女”から傘を借りて、一目惚れして、でも返しにも行けずましてやなんのアクションも起こせてないこの一か月、のことなのかなあ? なんにせよ、今まで聞こえてこなかった“彼”の声が急に聞こえて、“彼”の明るい夢に連れていってもらったのは何故なんでしょうね? このあたり、理屈が欲しい気がしたのですが、あとになっても特に「ああ、そういうことか」となる説明がないんですよね…理屈じゃないんだよこういうことは、ということなのかもしれませんが、うーむむむ。
現実の“彼”は脳死状態というわけではなくて、たまたま昏睡しているだけ、意識が戻らないだけなんでしょうか? 私はその差についても全然くわしくないけれど、脳波にときどきは変化があるとか覚醒の気配があるとかがあって、でも“彼”は現実復帰を怖がって拒否して、白い羊たちも“彼”の真意にシンクロしている…ということなのかな? それがあの羊が怖がる音とか開かない扉とか、パルス電子音とかなになっているのかな? そしてその現実への浮上の気配がたまたま“僕”の夢の世界とリンクして…とかかなとか思ったのですが、なんせそういう理屈っぽい説明がまったくないんですよね。まああまりやるとくどくどしくなるんだけれど、それでももうちょっとあった方がいいんじゃないの?とは思いました。なーんにもないんじゃ、それこそなんで?なので。いや生駒先生は(れーこたん、とかいうほどキャラを知らない…何かの担当新公は観ていると思うのですけれど)世の中ってそういうものだ、因果関係がなくても関わり合うものだ、ってお考えなのかもしれませんけど…
私は“僕”の名前がアベルだというからには、カインという兄弟がいるのか? それが“彼”なのか? 幼いころに死んでいてその幽霊とか? いや幼いころに病気で倒れてそのまま昏睡していて、だから“彼”は夢の中で身体は青年になっていても心は子供のままで無邪気なのか?とか、アベルは兄が病に倒れたことがショックで兄の存在そのものを忘れているから“彼”に気づかない、とかなのか? とかいろいろグルグル考えたんですけれど、そういうのは全然なくて、単に“僕”の父親が死んだときの病院に入院している患者、ってだけなんですね…? うーん…
アベルの父親も亡くなるような歳じゃないので、交通事故とか、その相手が“彼”だったとか…とかも考えたのですが、そういうことでもなく…うーん。そしてこの父親も、長患いでもしていたんでしょうか? これもほぼ説明がありませんでしたね。母親の反応は愛が重いのかややヒステリックでしたが、なので以後逆に息子にはかまわなくなり、彼は孤独な青年になってしまった、ということなのでしょうか…このあたりも説明がない。“彼女”の家族が仲睦まじいので、それに重ねて何か台詞や語りがあってもよかったのに、どうにもあっさりというかライトというか、設定の説明がないんだよなあ…
これは、“僕”が“彼”の夢の世界で“彼女”への告白の練習をして、現実の世界でも勇気を振り絞って一歩踏み出してみて、練習とは違ったけれどなんとか上手くいきだして、トラウマのように避けていた病院にも行けて、そうしたらそこに入院している“彼”を見つけて、今度は“僕”が“彼”に手を差し伸べ、背中を押し、現実に招き入れる…というようなお話ですよね、要するに。「未来を諦めたくない」「現実をひたむきに生きようともがく」と、プログラムのコメントにもあります。悩みすぎず、逃げずに、踏み出してみること、向き合ってみること…の尊さ、がテーマなんだと思うのだけれど、それぞれの素材がちょっとパラパラとしているようにも思えたので、なんでもかんでもつなげると暑苦しくなりすぎる、というのはわかるけれどもうちょっと、理由付けとか理屈の台詞、説明があってもいいのかな、とは感じました。特にくだくだしい説明がない、淡くほややんとした、無垢の優しさだけが満ちる世界を構築したかったのだとしても、それだとやはりちょっとインパクトが弱く感動が薄れるんでないかい?と、旧世代の濃いコテコテのオタクは感じたのでした。あと、なんか理屈が通ってなくてスッキリしない(笑)。
でもまあ、一幕はぶっきーがヒロインだけど二幕はキョロちゃんがヒロインなんだな!?とか、やっぱなっつが上手くて任せて安心とか、ここさくも可愛いけどやっぱ栞菜ひまりちゃんめっかわだね!?とか、ナルセンドウもマジいいが奈央麗斗くんなんかキラキラしてますね怖い沼み…とか、ちょっとフィナーレたっぷりで男役群舞みんなギラギラやる気あるじゃないのもっと順にゆっくり見せてくれよとか、みんなに台詞も歌も一節ずつあったと思うのでそういうのいいねやっぱバウはそうじゃないとね、とか考えていたら終わったので、満足です。でも配信なら寝てたかも…なので生で観られてよかったです。
お衣装(衣装/澤井香菜)もセット(装置/川崎真奈)もなかなか印象的でした。てかモフモフソングの素敵アレンジでカッコつけてフィナーレ踊るのスゴいねこってぃ、よく笑わないね…(笑)加わるキョロちゃんもバーンとしていて良きでした。みんなにいい経験になっていそうですよね。
娘役ちゃんもみんな可愛くて、複数回観られればもっと識別できるのに~!と歯噛みしました。夢の住人女スタイル、みんな違って、でも白とベージュの統一感が素敵でした。あとおかゆな! フィナーレのウインク、バッチリ目撃しましたよ!!
この演出助手は西川日向子先生、またまた知らないお名前です。大変でしょうががんばって、どんどん出てきてほしいなあ。若い力に期待しています。
こってぃ、改めてバウ初主演、おめでとうございました。性格的に私が私が、というタイプじゃないんだろうし、万博アンバサダーからも外れてこのままハシゴ外されちゃうのかなーと案じていたところに主演の報があって、よかったです。ちょっとしどころのないようなお役でもあるし、でも決してただの素ではなく、優しくもの慣れない純粋な青年をきちんと演じていて、好感を持ちました。フィナーレはもっともっとバリッとやっていい気もするけど、まだ気恥ずかしさが見える気もしました。でもこの経験をバネに、さらに飛躍していただきたいです。
ぶっきーもひと頃はエキセントリックさがもっと目立っていた気がしましたが、今回はいいヒロインっぷりで安心しました。変な声も好きだ!(すみません)ちょっと細すぎるんだけど、これもいずれ変わってくるでしょう。単に若くて痩せてている女の綺麗さと娘役の綺麗さって違うので、やや丸いタイプが絞っていく方が楽かもしれないんだけど、ひっとんも夢白ちゃんも初期の病的な感じの細さじゃなくなっていったので、多分きっと大丈夫。期待しています。ただ、プログラムといいスカステニュースの扱いといいヒロインカウントされなさそうなので、次期トップ娘役に仕立てる気はまだない、ということなんでしょうねえ…てか発表いつ??
キョロちゃんも、素みたいな役を当てられている気がしますがちゃんと芝居しているんだとと思います、よくわからんけど(笑)。やはり華があっていいですね。どんどん増えていくチューブが痛々しくて、ときどき見せる暗い顔の芝居がちゃんと物語に「実はなんかあるんだな」という奥行きを与えていて、良きでした。さらに励めよー!
花組大劇場公演の再開も決まってよかったです。休演者の多さは心配だけれど、興行としてはもうやらざるをえない、ということなのでしょう。私はもうあとは東京待ちだけれど、まずは星組東京公演も残りは順調に上演されますように。引き続きいろいろと綱渡りですが、なんとか乗り切っていただきたいです。
そういえば最近私は睡眠が充実し、楽しい夢をたくさん見ている気がします。在宅勤務の何がいいって通勤時間が浮くことで、その分たくさん寝られている気がします。すると朝方、目覚まし時計が鳴る前、睡眠は足りて部屋も遮光カーテン越しに明るくなり脳はやや覚醒しつつ、でもまだ寝られる、という時間帯に楽しい夢をたくさん見る気がして、まあ起きたら端から忘れるんですけど、とにかくその時が至福なのでした。つまりそれくらい私は健康に過ごせているということだと思います、ありがたや。引き続きよく食べよく寝て、仕事は一応ちゃんとして、しっかり遊んでいきたいです!